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宇宙時代といえどデカ女に囲まれたら不自由だ  作者: 草間
巨大棺構造体”メガコフィン・ストラクチャー”
2/19

1話 目覚めるとデカい女性に持ち上げられた

「ぶえっっくしょぉい!あぁ~」


 くしゃみをしたら間延びした声が出る。れっきとした()()()()()()ともいえるだろう。というかだいぶ冷えてしまったようだ。寝ている間にここまで冷えるのは最近の異常気象の連続でもだいぶ厳しく感じるものがある。その冷えの影響か倦怠感もあるし、視界もおぼろげだ。これは風邪を引いてしまったかな、と思ってずるずると体を……いや、それも厳しいので手を動かす。


 とかく勤務先等への連絡を入れないと、とも思うがそうだ。今日は()()()だったはずだ。だが連絡を入れずとも寝てていいわけではないだろう。せめて時刻を確認したいもので手探りでスマホかスマートウォッチを探すが……どうも見つからない。先程から空振りばかりでなんともむなしいもので、もう探すのはよして寝るか、とため息を吐いたところで腕が止まった。


 いや、手首をが掴まれたような感触がある。


「なッ!うぉッ!何ッ!誰ッ!」


 なんぞと思って逆手の左手で顔を庇う。よく目を凝らすと視界がはっきりしてくるが……どうも周囲が薄暗い中で私の目の前が異常に明るい。もしかして、強盗かもしれない。光量のあるLEDライトで私の視線を塞ぎつつ……目撃者を封じにかかっているのではないか!


 そんな恐怖感から体を強張らせると、まばゆい光源が横にズレていく。白く塗りつぶされていた視界がうっすらと開けて明瞭になってくると、私の手首を掴んでいる人間が誰か明らかになってきた。女性だ。


 いや、フルフェイスのヘルメットのようなものを被っていて女性とわかる顔なのかはわからない。ただその……ボディラインが明らかに女性とわかる体つきなのだ。全裸ではない、決して。だがそれに近いボディラインがわかるような……そう、ピッチリしたボディスーツ。俗にいうピチスーみたいなものをつけた女性が私の腕を掴んでいる。コスプレ強盗とは初耳だ。


「あなたは一体!?誰なんですか!?なんの用があって私を……お金ならありません!」


 その彼女、が何やら喋っているがまったく聞き取れない言葉で語り掛けているのでより恐怖心が染み出してきて言葉が続かない。外の国からやってきた強盗なのだろうか、しかもコスプレ強盗。異様だがこれなら事情聴取の際に被害者から聞き出される印象を誤魔化せる。ニューヨークでそんな事件とか映画があったなと思い出していると彼女は私から視線を外し……また何やら話し始めている。


 その視線の先には浮いている箱があった。いや正確にいうと光っている、浮いている箱だ。何と表現すればいいかと迷っていたが……確かSNSで見た覚えがある。無重力空間で運用される浮遊ロボット。サッカーボール大で()()()()と浮いているような物体が浮いていた。それもまた何事か話しているようだったが、言葉が止むとその浮遊体の中から何かをはみ出させ……浮かせて差し出してきた。


 私のスマートウォッチだ。


 なぜ私のスマートウォッチがこれに収納されているのか。その疑問を聞こうとしたところ、ピッチリスーツの強盗らしき彼女は私の手を離し自身の左手をアピールする動作を私に見せている。装着しろということなのだろうか。金目当てに奪うか認証させるには意味がわからないものだから、促されるままに聞き手である右手で自分のスマートウォッチを取る。そして彼女の反応を確認しながら、左手首に巻く。ラバーの感触がいやにひやっこいのか()()()とした感覚が手首に起きた。


「銀河連邦標準語へのコンバートが出来たようね。起きて早々悪いけれど、そこから降りて。移動するわ」


「そこって……ここは自宅……」


 じゃない。自宅のベットに寝ていたと思っていた場所は何やら病院のベットというより検査機材のようだ。あのガンガンなるやつ、MRIだったよな。今更ながら寝かされていたそれが自分のものではない、というかこの場所が広いくはあっても、何もない空間であることに気づく。


 周囲を見渡せば無機質ながらも冷たい、底冷えするコンクリート打ちっぱなしとはいわないがそんなイメージの場所。非常灯とモニターのような機材から放たれる明りがついているぐらいの明るさしかない。


「混乱しているようだから立たせるわ。怯えないで、攻撃の意図はない」


 すると彼女は私の脇の下に手を入れて、すいっと持ち上げた。軽々と。私は成人男性……すくなくとも中年。とてもではないが女性が持てるわけはない。かつての日本で一人前といえば一俵すなわち60kg程度……女性ぐらいの重さを持ち上げるのが男性とされていたがまさかのまさか。今はその逆、女性に持ち上げられる体験をこの身に受けている。


 何がなんだか、と思って目線を動かすと自分の中年体型が細身になっているのも驚くし、何より目の前の女性が……大きい。いやオムネやオシリが大きい、という下品な意味ではない。単純に私より背が高い。恵まれた……体格!2mぐらいあるのではないだろうか。


 そんな体格の女性が日本にいるのだろうか、と私が呆気に取られて彼女を見下ろしていると少し、揺れた。何ぞやと思い見渡す私と対照的に、その衝撃が何かを知っているのか。彼女は私の脇に手を入れたまま、舌打ちし周囲の様子を探っているようだった。


「あの……今一体何でここはどこなのでしょうか」


「海賊ギルドの兵隊がだいぶ暴れているわね。コントロール・ルームを狙ってにしては派手にやっている」


「隔壁の破壊を試みているのでしょう。サブ・コントロールであるこちらがあなたの着陸地点から近いもので内部構造を動かしこちらまで運びましたが、コントロール・ルームと離れてしまったのが裏目に出たようです」


「迎撃行動が遅れてだいぶ好き放題させる結果になったと。ならこのまま中枢まで戻りましょう。この遺跡を奪われるわけにはいかないわ」


「まず装備を整えましょう。携行してきた装備はすべて使い切ってますね?それにナンブ様は今着の身着のままです」


 そうですナンブ……南部。南部健吾。つまり私は着の身着のまま。よく見ると病院の検査着そのまんまな服装であるし、腹を触ると骨が浮いている。本当に病人みたいなのだ。というかこの浮遊体が何故私の名前をご存じかはわからないが、南部は只今絶賛入院中みたいな姿。忌引きで休んでそのまま入院した覚えはないのだが。浮遊体とデカい女性のやり取りを見ていると、急に床からブロックが2つ迫り出し(せりだし)てくる。


 そのブロックは長方形の……いや、もっとわかりやすい表現がある。クローゼットのようである。1つはプラモデルのランナーのように重火器のようなデザインのものが並んでいる。もう1つはすごいわかりやすものを収納していた。宇宙飛行士が宇宙で活動する際に着用する船外活動服、宇宙服だ。あれが完成品モデルのようにそこに収められていた。


「防護能力と認識適応を考慮しこのデザインになりました。ナンブ様が着用するにあたっては、如何でしょう?」


「そちらの人のピッチリしたものでなくてよかったよ、浮遊ロボットさん。それとこれは一人で着れるものなの……?」


「フレームがサポートします。そして私はこの場所とあなたの管理代行者、プリムとお呼びください」


 はぁ、と気のない返事ではあったがそれを了解と取ったのか浮遊体……プリム。声からして女性なのだろうか。彼女が()()()()()()と唱えるとプラモデルのランナーのように宇宙服を支えていたフレームが稼働し分割。私を持ち上げて下から順にヘルメットまで装着させていく。私は突っ立ったままそれを受け入れれば、すぐに宇宙飛行士が完成したようだ。最後にヘルメットのバイザーが下ろされることで立派なアストロノーツ。


 一方で女性兵士のほうはウェポン・クローゼットとも呼べるものから取り外した巨大な武器を構えて調子を見ているようだった。北欧企業が作った兵器のような筒状の大砲のようなシルエット。しかしそれを彼女は軽々と肩に担いで構えると、電気を流して回すような音が静かに鳴り響く。


「ゲート方面に敵性存在を確認しています、ナンブ様の装着も完了しましたし行使しますか」


「そうするわ。弾薬が完全に切れていたから助かる。以後はあなたに要請すればいいの?」


「いえ、現時点をもってナンブ様に管理権限が上位に移行されています。現在サブ・コントロール権限で掌握出来ている施設内設備補給に関してはこの方にお頼みください」


「そう、それはさておいてゲートを開放して、そこまではいい?」


「了解、開放します」


 その言葉と共に、扉が開かれる。開かれたと思ったら()()()()()が複数見えた。そちらに大砲を向けて、引き金を引いて……それらを()()()()()。音がすごかったはずなのだが、ヘルメットの装着が終わっていたため、私の鼓膜は助かったのだろう。ただし衝撃はビリビリと伝わってきた。とんでもないヒトだ。


「対艦艇用にも使えそうね、いいレールガンだわ。これがあれば邪魔者の掃除が楽になりそう」


「アンジェラ、今後はナンブ様への影響を考慮しない行動は控えてください。驚いていますよ」


「そうね、そうしたいけどこっちも余裕はないわ」


 アンジェラと呼ばれた女性兵士は一応聞いています、という体の返事の後にそのレールガンとやらを持っていない腕で私を持ち上げ抱えて歩き始めた。宇宙服を着ているからか先程も思い出していたのように俵そのものになった見た目ではないか。いやそれもそうなんだが、私は宇宙服を着ているものでろくに歩けない。抵抗もできないのでお米様抱っこだ。それにやめてほしくとも私を抱えられる女性兵士に抵抗したところで何とかなる見込みはない。なすがまま。



「いたぞ!地球人の兵士だ!アタリだぁ!呼べるやつは全員呼べ!」


「待て、抱えているのが見えないのか!あれは目標だ!撃つな!頭の話を忘れたのか!」


「腕や脚がちぎれようと額は変わらねぇって話だ!デリガットの旦那は再生装置がある!何が何でも捕えろ!」



 私がいたのはこの構造体だか施設の隠し部屋だったのだろうか。アンジェラが私を担いで外に出ると大きな橋のような場所が積み重なる大きな広間だった。なるほどこれは彼女らが構造体と呼ぶものの内部だ。


 そしてその広間に轟音を響かせたせいか、眼下の橋の1つから何やら声が聞こえてくる。捻ったドングリとか潰れたカエルのような……どうみても人類ではない頭部の連中が騒いでこちらに武器らしき筒や光る板切れを構えて叫んでいるが、内容がとても物騒!


 物騒なのだがアンジェラさんが抱えている私の反対側、対艦艇用だかと言っていたレールガンが火を噴くと彼らがいた場所に穴が開いてしまい静寂が一時訪れる。これは人の形をした相手に撃っていいものなんですか?


 そのすぐ後に方々から悲鳴が上がり、光線がこちらに向かい走って来る。しかしアンジェラさんはその直前には私を抱えて飛び降りていた。降りた先の階段らしき物体のすぐ真横に。光線から遮るような位置に場所を取りたかったのだろう。


「エネルギー・シールドごとぶち抜ける火力。こういうのが欲しかったわ。全部これだけで解決したいぐらい」


「いきなり発砲をして状況を混乱させないでください。この構造体の主の許可を得ましたか?緊急時と言えど不敬ですよ。周辺構造物への配慮が無さすぎます」


「緊急時なのだから許して頂戴。それにどうせこの程度じゃ壊れやしないでしょ。海賊ギルドの連中を排除してこのまま進むわ、直進よ直進」


 ただし降りた場所は先程まで海賊ギルドの連中とやらがいた場所。グロテスクな燃えカスや染みが残る場所!彼女は兵士なのだからこの一方的な暴力行為に何とも思わないのだろう。レールガンの熱量によるものか……血肉の色ではないススけた床の染みとなった彼らに手を合わせ成仏を祈る。ヘルメットのお陰で臭いがわからないのが幸いとしか言いようがない。


「ナビゲートの通りであれば直進すれば中枢に到着します。しかし敵の数が多い」


「他に装備はないの?戦力は?それなりのものがあると聞いてきたのだけど、出し惜しみしている状況に見えるのなら……」


「あなたの強行軍に付き合わせたくはありませんので少々迂回します。そして先程も申したように戦力の行使にはナンブ様のご許可が必要です」


「許可、許可、許可、許可?」


 はい、と浮遊体のプリムがこちらに近寄って来る。彼女の瞳……瞳?がチカと光ると私の左腕、スマートウォッチがあるあたりから宇宙服を通して投影型ディスプレイが飛び出してくる。それらにはこの構造体と呼ばれる施設の立体見取り図や細かい数字があるのだが……いまいちよくわからない。というよりこの場所がこんな形になっていたのかと初めて知った。虚空に浮かんでいるジャングルジムのようだ。あと方々に赤い点がるのは敵、海賊ギルドとかいう物騒な連中だろうか。視覚的にわかりやすくされているのではないか。


「お眠りの間に製造していましたガード・ユニットを起動させます。ご許可を」


「えぇと、はい。許可します、許可」


「出来るならそれ使ってそのまま直進すればいいじゃない」


 すると何かが落下する音がこの吹き抜けフロアにいくつか響いた。音の方はわからないが、投影型ディスプレイにはいくつかの巨体を持つ機械が海賊ギルドの兵隊相手を相手している。その姿は大型ゴリラという具合で彼ら海賊ギルドの兵隊を殴ったり近接的な暴力で叩きのめしている。


「自動防衛システムが生き返ったのか!聞いていないぞ!」


「デリガッドのヤツ、話と違う!人間相手だけって話じゃないのか!」


「なんだこいつはパルス・ピックが効かねぇ!アーマーが硬い!」


「目が光ったぞ!逃げろ!シールドが、割られる!逃げろ!助けて!」


 かと思えば目から光線を出して焼いている。このフロアにいる海賊兵らはそうこうしているうちに見るも無残に掃除され、残った遺体は橋の上から放り投げれれて処分されているのだが……


「……これでも直進できない理由があれば聞かせてほしいのだけど」


「ナンブ様のバイタルデータを共有しお見せしますが、血圧に脈拍、及び血糖の値が低いのです。目覚めたばかりの体にこの状況は厳しいと判断します、一時休息を挟んでくさい。これは命令ではありませんが強い要請です。正常な判断が出来ないままコントロール・ルームへ向かわせることは推奨できません」


「わかった。隣のブロックに空いているスペースがあるようだからそこで補給と休憩をしましょう」


 確かに言われてみるとあまり体調がよくない。というか先程からほぼ頭が回っていない。目が霞んでいるわけではないので、ヘルメットに映し出されている数字を見るとそれぞれあまりいい具合の数字には見えない低さだ。そのせいか先程から()()()()()()に反応を返しているような気がする。頭が全く働かない時によくある症状だ。


 喉も乾く。返事が出来ないままであると、またアンジェラさんが私を抱えて歩き始めたのだが、レールガンと私を両方持つと走れないのだろうか。レールガンの方をゴリラ型ガード・ユニットに渡して走り始めた。


「あの、ところで今は何であなたは一体なんなんでしょうか、先程も聞いていたと思うのですが」


「今は西暦3378年の34世紀。貴方が生きていた時代より1000年以上先の時代。地球は滅びていて銀河も方々が荒廃している。人類再生も宇宙再生もあなたにかかっているから助けに来たのよ」

tips


携行式レールガン:巨大遺跡構造体でプリムが防衛湯に作ったもの。対装甲携行火器。仕組みで言えばコイルガンなのでは?というところは言うまでもない。

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