エピローグ 守護天使は羽を折りたたむ
■惑星アレクサンドリア臨時領事館
「潰されて胃の中のもの全部噴き出すかと思った……」
「あの狭い車内で吐かなかったことは褒めてあげるわ」
「しかしなぜあんな車両を?もっと品のある車両はなかったのですか」
「わかりやすいのは如何にも狙ってくださいっていってるようなもんでしょ。大体他の連中の監視もあって大っぴらに出せるものなんてそうありゃしないのよ今」
「そういう動きでこちらの動向を把握しようとしている連中は確かにいるから仕方がないわ。見てるだけで気に入らないからと捕まえるわけにはいかなしい」
惑星アレクサンドリア、我々が独立惑星国家の本部とした人類文化保管機構を主とした政治機構惑星。その臨時領事館の会議室でようやく狭苦しさから解放された私達はお茶を淹れてひと時の休息に落ち着いていた。生活班長のトモエが淹れてくれた地球原種の茶はなかなかに刺激的で渋く苦いがこれがよいらしい。物珍しいから飲んでいるが二度は飲まないだろう。彼も変な顔をしつつ飲んでいるし。
結果的に言えば、我々が今こうして渋い薬草茶を飲めているのは彼の選択の結果だろうと言っていい。それに私含めてあの時のメンバーが皆感謝しているのは当然のことだ。地球帝国では人として権利も何も認められていない生体兵器に分類される我々が、だ。
21世紀ではどうかはしらないが、生体サイボーグとは説明したが単純に人の形をした兵器のコントロール・パーツでしかない。暴力装置である存在は兵器とイコールであり管理される存在であっても権利を与えられるものではない。帰還時に聞こえたローデンシア家の提督のように家名があるような存在以外は似たり寄ったりの消耗品。帝国からすれば今回の力の行使は兵器惜しさに大量破壊兵器を使った狂人の破壊者に見えているだろうか。
そんな我々は彼のためにこの命を使おうとしていたわけではあるが、それを拒まれ助けられた。生の意義について軍人として作られた我々は誰もが悩んでいるわけだが、そうであってもあの恐怖の前に助けられれば考え方が少し変わる。彼にとって自分達は守るに値すべきものであるのだと。誰もが礼を言いたいところではあろうが……彼に説明したようにこれは銀河連邦の政治事情的に考えても褒められたことではない。
よって私を筆頭に誰も彼もが口を噤むことを決めた。これは望んでいないことであると暗に示さなければならなかった。不義理を働く一抹の心苦しさはあったが、彼も私の説明をこの数日で理解したようで特に何も言われることはなかったもので理解が早い事に助けられたかもしれない。こういう時に立場も生まれも違うから素直に感情をぶつけられるソニアがうらやましくはある。
さておいても使命と他者の生命の天秤をこれからもかけ続けることになるだろう再生者様。先程からこの後のことを説明されるだろうに、車内の窮屈さと狭さから車酔いとなりぐったりしてしまっている。お茶を飲んで回復をとしているが中々に遅いのもまぁ……仕方がないのだろう。34世紀の人間からしてもまだ病人としか言えない体型なのだから。艦船用鋼材よりも頼りないその体系はソニアによって支えられながらお茶の時間を取っている。
「あなたが聞ける状態か怪しいから適当に話すけど、色々銀河連邦で決議を取るほどのものではないとか取れないトラブルはかなり多いのよ。それを有志連合から移動してくる戦力等を使って解決してもらおうってわけ」
「薬茶でも気付けできていないようですね……ナンブ様のご意向があればそれを反映したトラブルを見つけたいのですが」
「どれにせよ楽なものはないでしょ。海賊ギルドが活発化しているぐらいだから……旧地球帝国領の陳情解決あたりが楽ではありそうだけれど」
「内戦している産業同盟の惑星のこと?あれに干渉するなら帝国筋からになるけどカタリナ艦長から回してもらうの?」
政治活動のため彼に解決して欲しい、という問題を中々選ぶのが難しい。一応の宇宙市民である私からしても様々な宙域や惑星国家のトラブルをすぐにでも片付けてもらいたいところではあるが、彼自身が相手を見てショックを受けては相手にとってもよくない。姿が様々にある銀河連邦だからこそ、21世紀の慣れていない相手にはよい第一印象を与えるか段々慣れてもらうしかないのである。
そのため手近な地球人類の文化圏で彼の力が必要な案件を回してもらおうと思っていたのだが、これはこれで別の問題が纏わりついてくる。該当惑星から要請があっても、管轄は地球帝国なので地球帝国を無視して何かをするわけにはいかないのだ。無論その要請がある惑星に中にも構造体を抱えているところはあるので、無理を押して介入する口実として使えなくはないのだが最初からそれを都合するのは後々に悪い影響を与えること、太陽を見るより明らかだ。押し通した結果、その問題が昇り続ける太陽になる可能性が高い。
「アタリがつかないわね……希望っていうのもなんだけど、どれがいいとかってない?」
「先程のお話なのですがナンブ様は宇宙海賊に興味があると」
「海賊ギルドのこと?確かに襲って来た連中だけどあれが関わるとなると今の手勢じゃ……」
「いえ宇宙のアウトローのことだと申しておりました。なんでも義賊の方がいないのかと」
「宇宙のアウトロー、義賊……?あ~うん、まぁ近いものはいたけど。待ってたしか……あぁあった」
ちょっと、と私が止めるまでもなくネロがデータ・ボードを開いて彼に見せ始めた。いくらなんでも相手がよくない。義賊には近いがそれでも……もしかしたら、海賊ギルドにある兵隊部門の連中より凶悪かもしれない存在の話になるのだ。地球帝国宇宙海兵隊崩れの、凶悪な組織。
「海賊軍の調査と対応、これがあるわね。敵本部は構造体に連立しているのだからちょうどいいかも」
実質的に海賊軍の本部に乗り込んで調べてこいとは、とんでもない要請があったものだ。ネロが提案するのであれば難題であろうと解決できる策があると見ていい。しかし無事に済むとは思えない。海賊軍の本拠地、宇宙監獄要塞への潜入調査であるのだから。
私はアンジェラ、かつて帝国海軍所属の生体サイボーグ兵士。守護天使と呼ばれるもの。
この時代まず最初に再生者を見つけたもの。今隣にいる男がこれまでの困難や危機、苦しみを乗り越えた先にあった先に存在するものであってほしいと願ったものだ。その願いや祈りの先にあった彼はふさわしい人間かという問いには、頷きたい。彼の判断は我々の境遇を知らずとも出たもの、精魂は聖であるはずと思えた。
「海賊軍!海賊の軍隊!?その本部が構造体に隣接しててそこに潜入調査!?すごい話が出てきたが出来るのかな!?」
「えぇプリムとも相談してたけどあの宇宙服はかなりの性能。単独か少数でたどり着いて調査するなんて楽よ。興味があるなら調査がてら見学しに行ったらどう?」
私はアンジェラ、内容をよく理解せずに子供のように喜び要請を受ける再生者を見てもう少し考えて欲しいと願う者。対面にいる笑顔のネロは、もう扱い方を理解しているようで……この扱いやすさを見てしまえば今後の事を考えるだけで頭が痛かった。
第一章 巨大遺跡構造体終わり 第二章に続く
第一章はこの辺りで終わりです。
大体本編8万~10万字で纏まったかなと。
ノクターンで書いていたものをコンテスト用に構成し直し書き始めたのが今回。
中々に大変でしたが自分の思うなりに1つの纏まりとして構築し直すとどうなるか、いい勉強になりました。
二章は二章で考えてはいますが(潜入!海賊軍本部要塞)、またきちんと構築してストックが出来たらとなりますので
ある程度時間が出来てからになるかと思います。
これまでお読みいただきありがとうございました。
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デカヒロイン作品が増えることを願って続けていく……その原動力になりますがゆえ…




