16話 デカい首都惑星でデカい反省
■銀河連邦首都フィナメス とある惑星国家の領事館
「調印式でお疲れでしょう、この程度のことは後日でもよろしかったのでは」
「いえ、そうもいかないでしょう。それは……よくわかりました」
「気負い過ぎですよナンブ様。皆が皆あなたを恐ろしい存在とは思っていません」
銀河連邦の首都フィナメスに迎えられた私はその日のうちから数日の間彼らと共にひたすら慌ただしい時間を過ごすことになった。彼ら有志連合を組織した銀河連邦議会の議長一派、とされる議員や銀河教導院の導師と呼ばれる聖職の人々だ。その代表のオルファリウス議員とマファー導師、そして隣にいるのが騎士のソニアだ。アンジェラ達の姿はこの数日見ない。軍人と政治家であるため別の場所にいるのは当然なのだろう。ソニアは軍人か、と尋ねれば騎士なのでと返されてしまったので深くは追及しない。その服装もマファー導師と同じく聖職のようなローブとマントだ。
「元より想定済みのことです。我々にとって重要なのはその辺りではありませんので」
「銀河連邦も一枚岩ではありません。ですので皆の認識を合わせるために調印式が必要だったのです」
「恒星や惑星を再生する創世者の御業なのです、最初から警戒されるべきものですよ。もちろん私は畏れはしても恐れなどしませんが」
「混乱を招く物言いはやめなさいソニア。ともかくお目覚めになってから遅かれ早かれ直面すること、厳しいものとなるためそれを補佐する我々がいるのです」
アンジェラやネロの言う通り。宇宙怪獣の艦隊をザ・マスターの力……恒星と惑星再生の力を利用して消滅させた私を待っていたのは歓迎と恐れ。有志連合を組織した議長やオルファリウス議員らからは歓迎を受けるものの、一方で他派閥からは距離を取られるような空気をひしひしと向けられていたのだ。彼らからの恐れ、恐怖は真っ当な疑問から出てくるものだ。
宇宙を再生できるなら宇宙を破滅させることも容易なものではないかとい至極真っ当うなものであり……彼女らが指摘していたようなもの。
ザ・マスターの力を大量破壊兵器として使用した結果なのだ。
オルファリウス議員やマファー導師はそもそも銀河連邦という集まりといえど一枚岩ではないので遅かれ早かれ反発する声が出るものと慰めてはくれたのだが、それでも心にしこりは残る。政治的な軋轢でいずれ浮かぶものではなく、自分の選んだ結果で生まれた者でもあるのだ。確かにアンジェラがいうように、これはこれからずっと付きまとうものとしては厳しいものかもしれない。私自身が生み出した結果によるものなので受け止めなければならないのだが……
「私はナンブ様の判断を尊重しますし、彼女らを無謀な戦いに残さないとしたことについて賛成しています。彼女らの反応のほうが厳しいと思ってください」
「それでもやはり、使うべきではなかったんじゃないかと思ってしまうよ」
「地球帝国が宇宙の全てではありません。銀河連邦に加盟している1つの惑星国家の考え方、彼らにも彼らの事情や考え方があるとお考え下されば」
地球帝国が宇宙の全てではない、地球が全てだった21世紀の人間からすればすごいデカい言葉だ。
だがオルファリウス議員やマファー導師の姿を見れば無理やりにでも理解させられてしまう。ここに集まっている異星の方々は地球人類には見えない。それでもこの宇宙に住む人々は概ねある1つの存在、ザ・マスターという宇宙超常存在への信仰の下にあるというのはソニアが同伴してくれていることから感じられる。ソニアも地球帝国側というより銀河連邦……教導院の側なのだろうことも。
そうした姿形と同じく考え方も様々、それは大勢で物事を決めるのであろう銀河連邦議会も同じ。私の確保のために有志連合を組んた彼らもいれば別の派閥もいる。信仰の都合か、それとも国家の政治的事情かはわからない。そんな彼らを1つずつ説き伏せていくかといえばそれもなかなか難しい。
そんなもので議長やオルファリウス議員は先んじて宣誓の書式を整えていたのだ。宇宙の平和のために力を使うことを。もちろんある程度ファジーに余裕を取れるようにも思える文面であったが、宇宙怪獣はさておいて惑星国家間で紛争解決のために使うようなことはしないというものであり私はまずもってそれら誓約書にサインをすることでひとまず受け入れてもらうこととなったのだ。調印式とはこれのことである。
「実際ナンブ殿がそのような手段として用いないことは感じております。どうか我々という味方がいるを覚えていただければ」
「わかる……ものなんですか、そういうのが」
「わかりますとも、わかるのが教導院の導師と騎士です。ナンブ様の人というもの、お力を見るまでもなく」
「ソニア、もしかして首筋から何かを探った?」
「お力を見るまでもなくありません。お優しく弱き者を救う再生者様であらせられる」
そんな人を見ただけではわからないだろう、というものでソニアに首筋から何か探って覗いたのかと聞いた答えは返らず。というか返答はなかったので正しいとも判断は取れないが、答えをはぐらかされているのは丸わかりなのでこれ以上は聞かないでおこう。とにかく味方は十分にいる、という彼らの言葉はただの慰めだけではないことと受け取りたい。
こうして数日彼らと彼らに近い派閥の議員らに会った印象とすればそう悪い感触ではなかったのだから。
「今はまだ不可解なこと、無理解から来るもありましょう。しかし今後構造体を巡り継承を続けていけば、恐れの気運も落ち着いていくもののはず」
「なぜ後継者になったか、私なのか導師の方々には心当たりはありませんか」
「ザ・マスターの御心を推し量ることなど。ですのでそれはナンブ様が見つけていただく他ありません」
一方的に与えられたとしか思えない継承した力の使い道。本来のものではないと思うが、これでよかったのか。その判断する基準すらもわからないまま。せめてなぜ私なのかが分かれば自分で良し悪しを下せたのだろうが。ザ・マスターを信奉する彼らでもわからないとなれば、今後遺跡である構造体を巡って継承し探っていくしかない。
「ではこの後は有志連合に参加していた独立惑星系国家の者達への引継ぎとなりますが……そろそろ迎えが来る頃ですな」
「居を構える場所の相談もありましょう。なるべくこちらから離れていただきたくはないのですが、難しいでしょう」
「警備の都合ですな。我々教導院が出来ることもこの都市では限りがありますもので」
■領事館エントランスホール
「再生者様と言えど連日の政治会はお疲れのようね」
「アンジェラが意地の悪いことを言うからですよ、それが助けられた者の言葉ですか?」
「当然想定されうる話をしたまでよ、そうでなくて?」
「いいんだよソニア、アンジェラの言う通りだった。だいぶ厳しいものがあったのは事実だし」
フィナメスに送り届けられてから別れていた礼服姿のアンジェラと会えば、一言目はそれ見たことかというお言葉。ここ数日で痛いほどしみ込んでいた見え隠れする恐怖の視線とお気持ちは、確かに後悔するようなものではあった。それでもやるべきだったと思っていても、ソニアの言うように助けた相手に言われるとつらいものはある。これは私の一方的なもので彼女らが望んでのものではなかったのだから、それを押してまで私が行ったことの結果は私が受け止めなければならない。
あれから毎晩悩んだがアンジェラ達からすれば己の身を犠牲にしてでも為すべきことを為そうとしただけに過ぎなかったのかもしれない。そしてそこに少し、今後私が受けるこの冷たさを先送りにしてやわらげようという思いやりがあったのかもしれない。どうであれ私は彼女らの命らを受けるほどの覚悟などなく、実力行使にでたわけなのだからこの突き放すような対応であっても受け入れるしかない。
これは言う事を聞かなかったもので転んで叱られる子供のような有様ではあるわけだ。
さておいてもその辺りはもう受け止めるしかない。自分に向けた言い訳ではあるが、21世紀から寝てて目覚めた人間に他人の命を犠牲にして何かをという覚悟など決めれるわけもなく。安易な手段に手を出してこの扱いを受けているのだということを。どうすればよかったか、など今わかるものでもないわけであるし。
「それで私の扱いってどうなるか決まっているのかな。いや住まい的な意味……所属なんだけれど」
「地球帝国では受け取れないのは知っての通り。旧帝国領の独立惑星系に来ることになる。我々の本拠地ね。しばらくそこを拠点に色々やってもらうつもり。計画はネロが全て立ててるわ」
「それって私に出来ることなの?とでもじゃないがここで生きていくだけでギリギリなんだけど」
「愚かしい事に銀河連邦では大なり小なり様々な問題がありますから、出来るところから手を付けていただくことになるのではないでしょうか」
「プリムの言い草は如何なものだけど……まぁ草の根で政治活動を始めると思ってくれればいいわ」
「どこもナンブ様を受け入れるにふさわしい惑星がなかった、気概もないというのが問題なのです」
私と別れている間に物事はつつがなく進んでいるのだなぁと感心しているとぬるっと背後にいるソニアの横から出てきたプリムが補足してくれた。真正面から私の今ついている名札を出せば普通の政治体制である惑星国家で受け入れるのは難しいのだと。宇宙創世者の後継者を受け入れたことで外からのトラブルならまだしも内側からのトラブルの原因になりかねないのはごめんだということらしい。
特に地球帝国は同じ地球人類ではあるが既に1000年以上をもって彼らの体制が出来上がっているところ。余計な内紛の火種は迎えたくはないが、それでも地球再生のアテは欲しかったと。なもので彼ら地球帝国から独立した惑星国家等が有志連合を組む際に一枚噛む形で一部の派閥が支援をしていたとのこと。これ以上の政治的な支援はしない代わりに、干渉はしないでくれというもの。軍事関係は取り決めがあるのでしていくとか。
そうなったので独立惑星国家の1つ、アンジェラらの本拠地に半ば宙ぶらりんのまま置くことになった。しかしただ置いておくだけではなく、浮いている立場を用いて銀河連邦がすぐに対応できない諸問題を解決させようとしているらしいのだ。お膳立ては彼女らがやり、解決したという実績を集めて政治的な影響力を上げて議会に進出しようともの。その中には構造体の継承も当然含まれている。
「これを続けて世論や議会に影響力が出れば独立惑星国家も正式に権利を保有する惑星国家群として承認されるでしょう。私からすれば下らない政争よりナンブ様を救出した功績で今すぐにでも権利ぐらい認めろと思いますが」
「そうもいかないのが民主主義よ。正式な手続きを取らないとただの強権を持つ独裁者、今プリムが付き従うナンブ様にには強力な力があると明らかにされているのだから、武力で統治の乗っ取りが始まると受け取られても否定できないわ」
「それは、まぁそうですね。地道にやっていくしかないんだよなぁこういうのは」
「そうね。それが一番遠回りではあるけど近道ではある」
「遺産である構造体の継承と宇宙のトラブル解決を進めていけば、向うから受け入れてくれますよ」
慰めではあろうが、まぁ妥当な方向性であるので頷くしかない。そう地道にやっていくしかない。よくよく考えれば強大な力があるとしたところで、それだけ抱えて宇宙でやっていくわけにはいかない。そんな輩がどこからともなくポップアップしてくるのであれば、それはもうあの時に見た宇宙怪獣と変わらないのではないか。
ここでようやく彼女らの考えていることが染み渡ってくるもので、自分の幼稚さが情けなくなる。彼女らは1から10以上に物事を考えて、こちらも考えた上で話してくれている。宇宙怪獣の大艦隊に向けた時も、今後の生活プランも。
私はそれをあの時に袖にしたのだから。だがそれはやはり……どうしても受け入れられないものであったのであるからやむ負えない。そうだ、彼女らを見捨てたほうが今奇異や脅威として見られていくよりもずっとつらい。それに比べたら今の扱いなんてなんでもないではないか。
今後もそういう受け入れるか受け入れないかは何度も起こるのだろう。それでも間違っていない、これでよかったと自分だけでも受け入れるのは中々に厳しいが、何を受け入れて何を拒むか。ハッキリしていればいくら苦しい状況に招かれても耐えられるはずだ。
例え眠らされて目覚めた先の出来事であっても、何が何故とわからずとも自分の判断基準で下した結果と言えるならばだ。
「自由冒険者の時代はまだまだ遠いな……」
「よく知らないのだけれど21世紀にそんな職業あったの?」
「21世紀の記録ではそのような職業は残されていません。そもそも21世紀では既に海洋も陸地も開拓され尽くされていたとあります」
「冒険するところがないから憧れていたの?宇宙が最後の機会だと思っていたなら残念だけどそこまでフリーでは……」
「いや、違うんだよこれは言葉が違って。宇宙で自由をやる……こう、名前だけはそれのアウトローというか」
「まぁまぁナンブ様、あなたからすれば継承した宇宙は全てあなたのものなのですから」
「そ、そこまで求めているわけではなくて!こう……宇宙海賊のキャプテンとかなんですよ。強きを挫き弱きを守る……」
「よくわからないけれど、それこれからやることと何が違うのかしら……ほらネロが来たから場所を移しましょ」
今後のことはオルファリウス議員の領事館で話すことでもないらしい。場所を移すためにもとネロが護衛の車両を用意してくれていたらしく、迎えに来てくれたようだった。エントランスから出て護衛の車両に乗り込んで場所を移してからの話になるようだ。軍人の礼服であるサービス・ドレスを着用した彼女が軽く手を上げてこちらに歩いてきた。
「変な盛り上がり方をしているようだけれど、何の話?」
「これからの話。再生者様のやりたいことは今も尚以前から変わらないんですって」
「そう?なら話は早いのだけれど……以前って何?」
「さぁ……とにかく地下の駐停車エリアに出ましょ」
怪訝な顔をするネロに対して違うのだ、と弁明しようとしたところアンジェラに肩を叩かれて下に降りるように促されてしまった。その回数は3度、以前ヘルメットを叩かれた時と同じ。これが肯定の意味ならば私個人の望みとしてはよかったのだろうか。であればあの時の判断も……いや、態々言わないのならばそれ以上聞いてはいけないのだろう。ともかくまぁ、方向性は違えどやることは変わらないのはわかった。
宇宙のトラブルの解決だ。
ただそれが自分からやるか、彼女らに圧されてやるかの違いではある。自発的にやるのと違うところと言えば、やらないという選択肢がほぼないというところ。そして彼女らの求める期待というのは大きいもの。問題も大きい。相手も大きい……のだろう。
せっかくならもっと自由に、フリーに選んで宇宙を旅して巡りたかったと思いながら半ば諦めて護衛の車両に乗り込むのだった。いつかどこかでそういうチャンスが巡ってくれればと淡い期待を潰されないように。
「なんだか車内狭くないですか?」
「用意できる車がこれしかなかったの、すぐにつくから辛抱して」
「軍用車両の方がもう少し広かったような……ソニアちょっと近い!」
「護衛のためですから、お気になさらず。アンジェラこそもう少し詰めてください」
「装甲の都合もあるのよ、防弾仕様じゃないでしょうこれ」
「わかってるから!アレクサンドリアの領事館まで少しだから静かにしてて!」
「つ、潰される……!前は、前の座席に誰かを……」
「護衛班がいるからダメよ!頭低くして体も小さくして!」
期待どころか今自分の身さえも潰されかねない圧迫感に耐えながら願う。
早く自由になりたいと!




