15話 デカいパワーにはデカすぎる責任が必要
■巨大構造体コントロール・ルーム
「繋がりました、聞こえますかオルファリウス議員。現状の対処はさておいてもご連絡しておきたい事案が起きています」
「わかっておる。先に連絡は受けているため既に救援の艦隊を出した。今回は特措法を理由に出せるだけだしているが統制はとれん、可能ならそちらで指揮を執って欲しい」
「到着予定時刻は……間に合うか、間に合わないかですか」
「出せるものから既に出したのでこれが最速となる。アークⅠとアークⅢの準備を進めたのが良しと出たが」
「ご支援感謝します。我々は最善を尽くし再生者をそちらに送りますもので後は頼みます」
「承知した。そなたらにもザ・マスターの加護があらんことを」
宇宙怪獣の大群が出現する予兆を受けてこの場にいる有志連合の艦長2人に責任者は直ぐに銀河連邦の首都惑星フィナメスへと連絡した。アンジェラの考えていた最悪のケース、宇宙怪獣の再度の襲撃。ただの遭遇ではないとした前提での再来。それはあまりに早く、そして膨大であった。そのような前例のない緊急事態を受けて現状で対処が難しいとされたがために連絡が取られた。
要請を送ってから返事を送る前にオルファリウス議員らは援護の艦隊を呼べるだけ呼び送り出したと頼もしい返事をいただけた。宇宙怪獣が出てくるという情報、あちらも緊急事態とすぐに判断されたのか現状出来る限りの戦力を送ってくれると報告をもらえた。ただし彼らの言葉には心配するなというこちらを安心させるような空気が一切ないのが不穏だ。援軍は間に合わないと思った方がいい、という状況と見れる。
「宇宙怪獣到着までまだ時間がある。総員アークⅣで脱出準備、施設の搬入は必須じゃない。確保するものはしたとすれば脱出の用意を、よろしいですねイリーナ艦長」
「了解したアンジェラ。アークⅣ艦長からアークⅡ艦長カタリナへ。正式にアークⅣの指揮権を移譲します」
「アークⅡ艦長カタリナよりイリーナ艦長へ、承諾しました。アークⅡの権限もそちらに……救援の艦隊が到着するまでを頼みます」
「彼と艦を頼みます。こちらには遺産とアンジェラがいますから、どうとでもなるでしょう」
「そうね、こうなったら再生者を確保しただけでよしとしましょう。さぁ急いで!」
私の返事などはない。もうすでに決まったことを進めていく彼女らの判断に口を挟める瞬間がなかった。私が状況を理解するより早く事態を決めて進んでいくのだ。大きな事態の中心にいるが、実態は蚊帳の外で腹ただしいというような感情ではない。今置いていかれてしまったら、このままずっと置いていかれるような焦燥感と不安。そこから湧いてくる言葉、待ってくれと声を挟める空気ではないのだが……だからこそ聞かねばならない。先のアンジェラの話と地続きで今の状況判断がされているならば、彼女らは私を逃がすために構造体ごと囮になってここで足止めしょうとしているのだ。あれの大群相手にだ。
「アンジェラ、本気なのか。あれを止めるなんて無理だ!せめてここで最後まで機能を模索するか、一緒に行こう!」
「そんなことをあなたが言わないで。前者の徹底抗戦はまだしも、後者の逃げる選択肢はない。追いつかれては終わり。誰かがどこかで足止めをする必要がある……救援の艦隊もいるならなんとかなるはずよ」
「どうしてさ、そこまでする必要はない。せめて一度外で援軍と合流してからでも遅くはない、むざむざ死ぬような状況に持ち込むなんて!」
「21世紀の人間であるあなたが、それを言わないで!」
今までにない怒声がコントロール・ルームに響いた。アンジェラから聞いたことのない、強い声が。ここを司令部として使っていた艦長らや上級士官でさえ手を止めてこちらを見た。私も驚きで身をすくめてしまったが、アンジェラは何をしたか気づいて周囲の人らに話に戻るように手を揺さぶる形で振った。彼女は飲料のパウチを啜るとテーブルに軽く投げ捨ててため息を吐いた。
「怒鳴って悪かったわ。だけど宇宙怪獣に地球を滅ぼされた21世紀の人間であるあなたが口にしていい言葉ではないことはわかって」
「そ、それでも……私はアンジェラや皆には……」
「34世紀の地球人類として、あなたに21世紀に滅びた地球人の影と重ねているは認める。感傷的になっているのも。それでもそれを差し引きしても地球や他の惑星のために今一番確実な手を打たないといけないの」
先に説明されていた話を繰り返すようにアンジェラは語る。天文学的にあるような宇宙の中にある滅びの結果である惑星の復活や、地球の復興というのは地球人類だけの問題ではない。銀河連邦も願っているような途方もないことだ。それが始まると言う時に鍵である私の身の安全は何よりも第一とされるわけだと。
だからこそ不確実な対処は許されない。そもそも不確定要素が多すぎる中で、一番に私の身の安全となる手段を取らねばならない。それが自分達を使って足止めにするものでもあっても、それに見合う価値がある存在なのだからと。決して宇宙怪獣から私を守って散るような英雄的行動に酔っているわけではないのだと。
だからこそ一番確実な手段を取る。
アークⅡのリアクターを爆弾化させ、目くらましに使った後にタイタンや残る機能で物理的に足止めをする。その間にアークⅣを出航させ救援の艦隊に合流させるか……あるいはそのままフィナメスに向かわせるか。ワープできるこの時代といえど航路上やルートの問題から短縮できる時間というのは限られてくる。到着は早く見積もって1時間後。
一方で宇宙怪獣が出現する予想時間は30分前後。その後から30分後に到着する。その間に宇宙怪獣がここまで到着するかしないかというのは同じ速度を体験したアンジェラならわかりきったこと。そしてあの量の大群で物理的にこちらに来られたら……バリアー解析もまた相手が上回るかもしれない。そうではないかもしれない。どちらにせよ私が脱出する機会がなくなる。
「そもそも増援が来ても対処できるかという問題もある。壊滅する可能性はあるともないともいえないの」
「本当にそれ以外ないのか……構造体にある機能で対処できないの、プリム」
「宇宙怪獣の集合体、艦隊を排除する力はあり解決は出来ますがオススメできません」
「あるのか!だったらそれを使おう!時間がかかるの?」
「やめて」
「なぜ?アンジェラ……知っていたんだな?解決できる方法を!それならみんな助かるんじゃないのか!?」
「……わかった、わかったから説明してあげてプリム。それと脱出準備を進めて」
「はい。このアウターである宙域にかつてあった恒星系を復活させます。予想地点を計測しましたが、その位置でならば熱量と衝撃で難なく排除できるかと」
「すごいじゃないか!それにしよう、そうすれば助かる。みんな、なぁ!」
だが誰も賛同の声を上げなかった。誰も彼もが離脱の準備を一時止めてこちらの騒動を見ていたものの、作業の手を戻していた。この巨大構造体に迫りくる宇宙怪獣から離れさせるに。私を逃がすために準備の手を止めないようにしているのだ。自分達の身を盾や囮にするのは決まりきったことであるからと。
「特措法がいくらあるとはいえど、ザ・マスターの力を宇宙怪獣退治だけに使う行為。大量破壊兵器として力を使う場合として銀河中に知らしめること。それは大きな政治的リスクを生み出す……神聖という存在に邪という裏を作る行為」
「それでもやるの?恒星規模の大量破壊兵器となる力を抱えて、復興と再生を世界に通し続けること。作ってしまったコインの表裏を永遠に回し続ける呪いの始まり。あなたには厳しさしかないわよ」
■巨大構造体が存在するアウター宙域 30分後 救援艦隊司令部巡洋艦アークⅠ艦橋
「跳躍空間を出ました。次いでタイタン編隊の発進準備完了」
「航空隊発艦準備完了。巨大構造体へデータリンク要請申請……自動承認です、完了」
「宇宙怪獣出現地点と軌道予測受信完了。及び退避報告を受けています、これは」
「艦長、目標宙域まで100万キロの宙域に到達。戦闘態勢に移行します」
「よろしい。アークⅢへ通達、以降戦闘指揮はアークⅠで行う。データリンクの確立を」
銀河連邦で観測されている外銀河の中でも辺境の辺境。アウターにある巨大構造体からの一報を受けて銀河連邦の一部は湧いたものの第二報は戦慄が走った。宇宙と地球を復興させる再生者、その彼が宇宙怪獣も狙っているという予想。艦隊とタイタン保有数の制限のため、一応改装途中とされていたアークⅠとアークⅢを出迎えのためにと乗員を集めていた矢先。秘密裏に進めていたことではあったが、内的に承諾されていたオルファリウス議員からの言葉を受けてすぐさま飛び出したのが先刻。
跳躍空間をも伝って送られてくる情報にめまいがしてくるが、弱音は吐いていられない。地球帝国としても地球の復活と再生は悲願であったはずだ。その鍵たる再生者が狙われているのであれば全力で迎えに行くべきなのだ。例え前例のない宇宙怪獣の大艦隊と艦砲を交えるとしてもだ。帝国海軍の提督であるローデンシア家の者であるならば、その義務として希望である存在を守らなければならない。
でなければ先んじてあった報告、アークⅡを犠牲にし戦い残る者達にどう報いろというのか。あの全ての宇宙怪獣との戦いに生き残る守護天使であるアンジェラすらも身を投げうって託した希望。必ずや守り抜きフィナメスに送り届ける。そして宇宙を救わねば、誰が彼女らの魂を報いることが出来ると言うのか。地球帝国は既に外の人民への心が離れて久しく、見向きもしないだろう。今回の犠牲も当然のものとして処理されてしまう。それをただ受け入れるなどできない。だがまずはあの宇宙怪獣の艦隊を対処しなければならないのだが、先程から管制の話がおかしい。
「管制、何かあったのであれば報告を」
「艦長、退避勧告が出ていますが迎撃に失敗したとの報告は上がっていません」
「データリンクの接続と情報の受信は出来ましたがこちらの通信要請に返答がありません」
「敗北したにしては様子がおかしい、ということですわね」
「退避勧告と攻撃影響エリアが提示されていますが誘導の可能性もあります」
地球帝国でも宇宙海軍の提督を代々務めているローデンシア家の者があたる任務としては前例のないものだ。目的意識を持った宇宙怪獣に狙われている拠点というのも聞いたことがない。そこから救援があり、救援の報が出た時点で出航させたため持ちこたえていると思いたいがそれより先に敗北したか。であればこの巨大構造体とのネットワークの接続も何かの罠かもしれない。送られてくる宇宙怪獣の予想出現地点や機動も怪しくなってくる。
目的を持った、思考をもった敵を相手にするというのはそういうことなのだ。疑心暗鬼などとは言うまい、艦隊司令というのはそういう思考が求められる。
しかしそのどちらであっても、既に戦わねばならない状況に陥っているのが事態の選択に対する判断を揺らがせる。罠であるのかそうでないのか。通信要請が返ってこないもので敗北し、罠となっている可能性もある。しかし守護天使であるアンジェラがまだ存命であるのならば話は根本から変わってくる。彼女ならばまだ戦い始めるところなのかもしれず、我々は完全に間に合ったのかもしれない。ならばこのまま指定のコースを行くのが最善ではないか。
「艦長!異常震源確認、方向は……3億キロ先!?」
「落ち着いて報告を、どこです」
「離れています。宇宙怪獣出現地点よりずっと、しかしこれは……これの震動力は一体!?」
「総員対ショック、用意!艦の航路は退避航路に進めます」
「か、艦長……ローデンシア提督!エレナ・ローデンシア提督!あれを……!」
「落ち着きなさい管制……な、なん……なの、これは……」
先程から異常事態が始まっては連続していく。なんなのか、と管制に問えば立体投影海図とリンクさせた巨大スクリーンに望遠映像が映る。リアルタイムで映し出されるそれには巨大な閃光が広がり、そして収縮してきながら渦を巻いて2つの球体を形作っていく様子が見えていた。何がどうなっているのかわからないという空気の中でも皆頭によぎっているはずだ。ここにザ・マスターの後継者である再生者がいるという事実から導き出される奇跡を。
今この時に恒星が、太陽が生まれている。いやこれは……再生しているのではないか。
2つの恒星が再生している光景。長い銀河の歴史を紐解いても惑星や恒星が滅びる瞬間を見たものがいたとして、再生する所を見る者はいないのではないだろうか。恒星が復活したことに続いて周辺にも震源が出現していけば、かつてこの恒星系の惑星だったのだろう。惑星が次々と再生されていく。凄まじい光景に、艦橋の誰もが心を奪われ……また涙を流すものもいた。
奇跡を見ている。新たな宇宙の時代が、我々にとって希望の時代がやってくる奇跡が今この場で起きていた。
地球帝国の軍人として信じるかもわからない宇宙超常存在、この宇宙の創世者の後継者。その人物がこの光景を見せているのは今ここにいる誰から見ても明らかだ。我々にこの奇跡を見せて、宇宙を輝かせ照らしているのだ。誰もが言葉無く歓喜しているところでようやく通信の要請が届いたようだ。繋がったことを管制が知らせてくる。
「こちら救援艦隊の指揮を執っているアークⅠ艦長エレナ・ローデンシアです。全てこちらからも観測できています。宇宙の再生という奇跡を……」
宇宙の救世主である再生者による宇宙の再生。その奇跡の瞬間に立ち会えた瞬間の感動を言葉で伝えることなど出来なかった。




