12話 デカいから怪獣、デカいから機械の巨人。
■巡洋艦アークⅣ後部エリア格納庫タイタン・ハンガー前
「このままメディカル・ルームに連れて行くから!いいわね!?こちらネロ、管制はアークⅣで行う!艦橋までの道を開けて!」
「いや、いや、いや!大丈夫!そこじゃなくて……戦うところを、一番よく見えるところで見せてほしい!」
「アンタそんな顔色で艦橋に上がるつもりなの!?私は面倒見ないわよ!」
「本人がいいっていってるなら連れていって。どうせなら力を見せたほうがいい、証明になる」
「お願いします。体の不調ではないんです、だから一番見えるところへ」
「……気が進まないのは承知して!繰り返すけど面倒みないからね!それとアンジェラ、言ったからにはきっちり宇宙怪獣を排除してよね!」
ネロに掴まれ立たされた後、引きずられるようにタイタンのハンガー・エリアを退出させられた。そのままエリア前に止められていた車両に乗せられて艦橋までの道を運ばれていく。航空機のハンガー・エリアを通れば航空隊の隊員がこちらをみて管制官であるネロの姿を見つけたのだろう。音声でのやりとりが増えた。専門用語なので何が何やらだが、出撃する時間とタイミングをネロが指定するのでまだ待機ということらしい。
「やることは同じ!アンジェラを中心にして叩くだけ!航空隊は警戒機を中心の編隊に!」
「了解、ワイバーン中隊!いつでも出れるように!どこで戦うかは関係ないからな!」
「こちらヴァルキリー中隊、予定航路の計算結果が出たので検証にかける」
「光源がないのが厳しいわね。クラウディア、まだコントロール・ルームにいるでしょ?受動観測が出来るかプリムに聞いて、なければ構築をお願い」
「増幅は出来るようですけど、専用に作り出す時間はなかったようです。情報処理のメインにした方が一番でしょう。それより次元震動の振れ幅が異常です。何が出てくるか検討が付きませんよ」
「意識をしっかりもって、シートに伏せて!艦橋まで飛ばすわよ!」
シートベルトに拘束されてはいたが、荒いアクセル操作のせいか神経を舐め回されていたせいか。車酔いに襲われかけてしまった。そのままげんなりして吐き出しかけるが、急ブレーキに体を引っ張られることで押し留まった。車移動が終わったのだろう、ネロは私を手荷物程度の扱いで小脇に抱え、廊下を走りエレベーターに乗り込んでいた。
■巨大構造体停留中の巡洋艦アークⅣ艦橋
「体調がまだ戻らないようだけどご希望の艦橋、一等席で見てなさい。臨時要員用の補助シートだけどないよりマシだし立ってると倒れたら怪我するから」
「ネロ管制官!?なんで再生者様が!?」
「理由は後、聞いての通りアンジェラのタイタンを出す!総員準備は?」
「出来ています。クラウディア管制官より情報処理システムの切り替え完了の報告!」
「よし!クラウディアと繋いで!アークⅡの方は補助に、あっちの航空隊と艦載兵器は現状戦力に数えないことを伝えて。無理して出ないように!」
宇宙戦艦の艦橋、簡易的に展開された座席に文字通り手荷物の如く置かれた私ではあったが、他の女性のクルーの返事が返ってきたところで余裕を取り戻すための余裕が出てきた。ここがどんな場所であるか、それを探るために周囲を見渡すとなんとも慌ただしい雰囲気が満ちている。場所は大して広くない……いや、十分に広い。比較対象が21世紀の軍艦のイメージだからだろうか。それでも高度に技術が進んだ34世紀のものとしては広いのではないか、と思える広さ。どちらかと言えば20世紀の航空かスペースシャトル発射に関するの管制室のようだった。
巨大なスクリーンモニターが前方に広がるが、あくまでもそれは艦船の前方を写すためのもの。船の航路確認のためだろうか。そのためネロ達がメインに注視しているのは中央部、宇宙という上下左右が必要な三次元的な場所で用いるためのものの方。投影されているように浮かびあがっている平面と立体が組み合わされたもの。海図を囲うように管制からの指示や方々からの報告を受ける要因、オペレーターと呼べる女性らが座っていた。なぜそのような目的かわかるかと言えば、彼女らから上がる声がそうだろうなと直感的にわかるような内容ばかりだったからだ。
「空間震源からの震動増幅中。現状では予想座標軸の測定が難しいと思われます」
「航空隊から発艦の準備が整ったと出ています。大気中のバーミリオンとパープルからも出撃が可能だと」
「こちらアークⅣ管制、巨大遺跡構造体コントロール・ルームへ。艦長、戦術行動目的が変わりました。指揮権を対策指揮管制へ移譲の許可を。クラウディア、システムのバックアップとレーダーシステムの方は?」
「こちらイリーナ、指揮権の移譲を認めます。現在出せる戦力はすべて出してください」
「管制のクラウディア、時間はまだ掛かりそうです。提案の通りに航空隊の警戒観測の結果との照合はこちらで行います」
「アークⅣ周囲の構造体開放を確認。ワイバーン中隊から出撃、指定座標方向に飛んで、深追いはしないように」
恐怖の宇宙怪獣といえどいきなり出てくるわけではないらしい。それがワープなのか、無からいきなり湧いてくるはわからない。だが銀河連邦の人類が空間を跳躍するときに用いる技術に近いもので観測が出来るらしい。そのためこれから出てくるぞ、というところから発生する座標を探って見つけ出してから対処にあたるのだという。通常の艦船の航法や法律上では抑えられている危険な出方が宇宙怪獣にとっては常だと。
その見つけ出すために航空隊、宇宙の飛行機を飛ばして探しに行く。アタリをつけにいくわけだ。私はそれを指定席で見守りながら、投影モニターに映し出される軌道の線から何をしているかを読み解いていく。飛んでいくコール・サインの文字が差し込まれた三角形のアイコンから次々に何かが離れていく。相対速度からか、撃ちだされていくと見ていいだろう。それが探りを入れていくように予想出現地点を囲って洗い出すように進んでいくが……いけない。彼女らは少しズレている気がする。何故だかそう思ってしまった
「いや、そこよりもう少し下だ。下、その先だ!」
「アンタ作戦中に何を」
「震源収縮反応確認、出現します!」
指さした先。私の背中を何かが舐め回すように探る気配。見えない舌の長さからその口元があるだろうところを指で指させば、それはこの宇宙を壊す獣が出現するだろうとされた予測地点より少し下方であった。そうか、私がどこにいるかを探っていたのかこの宇宙怪獣は。私を見つけて、どうしようというのかはわからない。だがこうして探り当てて出てこないとならない理由や目的があるようだ。
「出すわよ、ネロ。ハッチ開いて!」
「正気!?出現の衝撃波がどこに来るかもわからないのに、巻き込まれるわよ!」
「下といったらその辺りなんでしょう。この位置なら大丈夫。ネロ、彼の視界を追って、誘導と導線を」
「わかったわよ!もう、これでいい!?航空隊は光源放射ユニットをその地点付近に射出、以後は離れて」
その直後。またも震動が船体を揺らす。宇宙で響く揺れとは。構造体の内部にいるはずなのに伝わる衝撃と震動とは……その答えを得る前にネロや他のペレーターの声が艦橋に響く。宇宙怪獣出現と、しかし今現在真っ暗闇で光源のない宇宙のどこに出現したものかはわからない。それだからだろうか、投影されているマップ、情報を集積や解析された立体図にはいるという証があるものの前方のモニター・スクリーンの方には写っていない。視覚的にはとらえられていないということなのだろうか。
そこへ航空隊から放たれたであろう光源が瞬く。どの程度の時間照射してくれるのかはわからないが、この吸い込まれそうな暗闇の宇宙で明りになるようなものなのだろう。前方モニター・スクリーンにぽつぽつとついた光源は、大きくなり巨大物を照らそうと広がっていく。だが映し出されるのは艦船や惑星、衛星でもない。
「あれが……宇宙怪獣……あれがこっちに……来る!」
「落ち着いて!そんなわけないでしょう、怖いのはわかるけどこっちに任せてどんと構えていて!」
「そんなわけかもしれないわ。出たからには後は個体障壁解析と兵装選択。ネロ、前例はないと考えたほうが良さそうね」
「くっ……わかったわよ!わかった、こちらも全力でサポートするから、無茶はしないで!」
「無茶するためにいるのよ、開けて!」
投機された照明装置により映し出されたのは白銀色の楕円形の物体、敢えて例えるなら巨大な花のツボミなのだろうか。裂け目とネジレが見える。宇宙ヒグマというより宇宙植物のように見えた。ゆったりと明りに照らされて映し出されていくもので分かりにくかったが、まぶしい光によって目覚めようとしているのか瞳のようなものがいくつか開き始めた。視線がその光源を追ってか……いや、アレが撫でていた相手を見つけたのだろう。こちらを捉えたのか。裂け目から赤い光源を漏らしながらこちらへ進んでくるのがなんとなくだが感じられた。恐怖感と共に。
「後部右舷タイタン・ハッチ開放!繰り返す!ハッチ開放!アンジェラ、守護天使タイタン発進許可!」
■有志連合巡洋艦アークⅣ後部右舷タイタン専用格納ハンガー
「案の定パニックになってたようだね。無理もないか、21世紀の人間にとっちゃ仇敵だろうし」
「そういう怯え方ではなかったわ。やっぱり特殊なものだと考えた方が良さそう」
「考えすぎと言えなくなったね、アンジェラ。コンディションは?」
「問題ないわ。いつもの通り」
整備班長との短い会話ともいえない状況確認。とりとめのない話に見えるかもしれないが、私にとっては直感から得た重要な情報だ。気を回し過ぎ、過保護だとネロ達は眉を顰めるのはわかる。希少であり政治的にも重要な存在になる再生者を大事にしたいところだが、ただ囲うだけの子供にしたいわけではない心情は皆にある。我々をまとめ上げるような人物なら、それなりの人物であってほしいという身勝手なものだが。
それはさておいても宇宙の戦士としての経験から今の状況、未曾有の存在が未曽有の状況を呼んでいると断言できる。何が起きてもおかしくはない。いや……もしかしたら宇宙怪獣と宇宙超常存在であるザ・マスターは同じ次元の存在であり、その範疇の下に我々がいるのかもしれない。それらについて我々は何1つわかっていないが、後継者であるナンブは何かを察知しているようだ。なら尚更のこと、この脅威を宇宙でどうにかするために守らなければならない。
私は整備班長に出ることを伝えるとすぐさま最終確認が行われた。次いで私の体であるタイタンを拘束しているケージの解放が順次行われていく。班長は既に退避済みであるのは目で追っていた。今回は喧噪物から発進するため、カタパルトを使ったり推進剤でというようなことはできない。既に巨大構造体に接弦している状態であるので態々衝撃を巻き起こしてまで出ていく必要性がない。なので後部右舷ハッチが解放されたらそのまま出ていくだけ。私は横にスライドしてせり出すハンガーに乗せられて外へ出ていく。
「コントロール・ルーム、クラウディア聞こえる?プリムでもいいわ。アークⅣから出る、構造体のバリアーの一部をあけて」
「ではそのまま直進してください。航空隊及びコントロール・ルームとのリンクは確立しています。お気をつけて」
「了解。障壁を出た辺りで加速する。震源までの距離は50万キロ程度か……」
そのままにハンガーフレームから解放された私は暗黒の宇宙に乗り出していく。構造体を蹴るだけでは勢いは出ないが、バリアーがあるあたりまでには順当に到達できるはずだ。観測データからすれば、敵宇宙怪獣の全長は頻度の高い遭遇例より少し大きいようだがこの巨人の体で十分対処可能だ。55mの体になった私は一度、アークⅣを見返してから宇宙を泳ぐように進む。兵士として生体サイボーグである強みはこれだ、タイタンとの一体になれる融合接続。これがあるからパワーとサイズさえ負けなければ、如何様にでも戦える。
今回は異常事態と言えど航空隊が出ている上に、十分なサポートが期待できる。背後にザ・マスターの遺産もある。ネロやクラウディアがプリムと協力して何かしらの攻撃手段も構築していると楽になるのだが、そういう不確定なものをアテにしていいはずはない。それに現段階では今背部に懸架されている武器でも十分戦える自負がある。もちろんデータリンクの補助があってこそではあるが。巨大構造体を包むバリアー障壁を抜けた辺りであってもその自信は揺るがない。
「敵予想進路は巨大構造体、まっすぐ来る。こちらは敵上方から背部に来るように捻りこむ軌道に入る」
「守護天使、軌道予測を受信している。周囲に観測装置を放出後こちらは援護の軌道に入るが……」
「散開をお勧めする。アレに目標があること事態が前例のないこと、攻撃はギリギリまで控えたほうがいいわね」
航空隊の位置を確認しつつ、光源に少々迂回しながら旋回軌道をとるように推進器へと力を入れる。背中から羽のように放射される推進力で描く軌道は予想図の通りに正確だ。しかし宇宙怪獣がこちらの予測の通りに進んでい来るかはわからない。遭遇戦ならまだしも、明らかに目標を狙っている軌道。さてどう相手は動くか。
その時、宇宙空間を揺るがすような震動波が放たれたのを感じた。物理衝撃のように放射される力、自身の肌が何百とも合わせた特殊装甲越しに伝わってくる異質艦に泡立つようだ。探査音か、それとも威嚇か。この距離でここまで届くのは経験がない……やはり、活発だ。活発化している。明らかに意志を持った存在がこの宇宙に向かって現れて来ている。
「敵高濃度熱量反応確認!圧縮速度……早い!アンジェラ!避けて!」
ならばあの宇宙怪獣がどの程度の思考パターンか意志をもっているのか。それはこちらが相手できるものか探らねばならないのだが。そう戦術対処の組み立てを考えながら進んでいると、眼下の宇宙怪獣が光った。たった一度、その光を見たところで一度視界がブレたところで意識が飛んだ。




