11話 デカい機械の体はデカい巨人
■巡洋艦アークⅣ後部格納庫 タイタン専用格納エリア1番ケージ前
「21世紀、昔とは違う。今は地球人類に宇宙怪獣と戦う手段があるの。だから心配する必要はないわ」
「心配って……そのあたりはしていないよ。34世紀ならどうにかなるってことだよね?」
「まだ宇宙怪獣を見ていないからそう言えるの。だから遭遇する前にこれがあるなら大丈夫だと覚えておいて」
「まぁアンジェラ、いいじゃないか。ここまでの航海で遭遇することもなかった。戦闘班長のアンタが万全の準備をしているってのは私達がよく知ってるよ」
明りが付いた区画は思っていたよりも広大だった。先程通過した航空機の格納庫よりも広く感じるのは中心に55mある鈍色の巨人だけがでんと収容されているからだろうか。よく見るとアンジェラのスーツと配色がに偏っている。銀か灰色に赤いアクセントの巨人。彼女がそのまま大きくなったような色合いだ。
その巨大なアンジェラがすぐに手に取れるようにか、方々に武装らしきものが置かれている。しかし55mが使うものなのか、どれもとにかくデカい。柱のようだ。本体もデカければ武器もデカい。こんな大きいので対処しなければならない相手が地球で暴れていた、ということが恐ろしい。彼女らの中では既に歴史上の事実でしかないので互いに持つ恐ろしさは伝わりにくいが。
「その宇宙怪獣というのはどういった頻度で現れるので?今回も現れる兆候があったんでしょうか」
「いやないよ、まぁ準備はしたけど空間振動の異常も観測されてないんだろ?ならしばらくでないよ」
「素人相手なんだから具体的に生態がわかっていないことを断定するものではないわ。生態と言ってるけど実態は何もわかってないの。出現するときの兆候はあるのだけれど何故出てくるかはわからない。それでも出てくるときは出る」
「まぁこのアウターにいたとしても観測するもんがなかったし、見るものもないから気づかなかったと言われても否定できやしないだろうけどさ」
「そうでなくとも我々からすると突発的なの。整備班にいつでも出せるようにしてもらっているのはご理解の上だと思っているけど」
「なんだい今日は嫌に突っかかってくるね。そりゃ万全だけどさ、あぁまぁ再生者様にえぇ格好をしたいのはわかるよ」
そうではないのだけれど、とアンジェラが白いため息を吐く。どうも彼女自身の意図が整備班の人に伝わっていないようで見解の一致を諦めたようだ。おまけに私もいまいち宇宙怪獣についての状況がわかっていないもので呑気な様子に見えているのかもしれない。しかし有事に私を動揺させないためといっても、そこまで急いで伝えるようなことなのだろうか。大体34世紀にすごい軍艦とかもだがこの遺跡の技術もあるというのに恐れる必要があるとは思えない。
「私からすれば……いえ戦闘班長からの意見、よく聞いて。食事はどうにかなるかもしれないけどこればかりはどうしようもないことなの」
「そりゃまぁそうだけど……今日のアンタはちょっとらしくないわね。何だってそんな急に」
「宇宙超常存在の後継者、この宇宙の……特異な存在がよみがえった。それに何かしら吸い寄せられて出現するかもしれない」
「事例がないといえばそうだけどね、まぁそこまで言うならもう少し詰めて整備しておくよ。いつでも出せるようにね」
「助かるわ班長。それと車両にワインが積んであるから整備班と航空隊隊で飲んで。お許しは出ているわ」
はいよと手を振って整備班長だった女性がなにかの制御装置、コンソールに向かって何かを操作していくとドロイドなのだろう。四足歩行であったり浮遊する機械らが展開して作業を始めていくようだ。といっても何か大きく物を動かすわけではない。いつでも動かせるように、と言っていたように最終的なチェックを繰り返していくだけなのだろう。
「34世紀になっても宇宙怪獣相手ではどうしようもないこともある、あなたには理解してもらわないと遭遇したときの士気に関わるのは勿論、私達との認識のズレが致命的になりかねないの」
「いや、考えが足りなかったのは認めます。でもそこまで脅威なんですか?55mぐらいっていうとこの戦艦より小さいじゃないですか」
「1体で惑星の核まではいかずとも環境を破壊できる存在、航空機や艦船では対応しきれないの」
何か言葉を選んでいるがうまいことばが見当たらない、という様子であった。アンジェラは腕を組んでしばらく考えた後に白い息を一等深く吐いてからこちらに向いて言葉をつづけた。
「あなた、21世紀のヒグマには殴り勝てる?この時代のヒグマではなくて」
「無理ですね……といかこの時代にヒグマいるんですか」
「いるいないはさておいて、だからなのよ。勝つにはヒグマになるかヒグマ以上になるしかない」
■
「艦船では対応できない強力な存在、そして人間では対応できない大きさ。人間は対応させるために同じスケールの体を作り上げたの」
「ヒグマになったと。しかもどこかしこから湧いてくるからわからない宇宙ヒグマは惑星環境を破壊するし、巡洋艦で対処できない」
「巡洋艦で対応するには難しいわね。あくまで艦船や軍事行動のベースになるのが艦船。対応するのが人間や航空機、宇宙ヒグマ退治がタイタンと思えばいい。ヒグマと同じサイズのロボットでパワーが負けてない上に銃も使えるなら勝てると思わない?」
「まぁ、そうですね。対処できるように作ったのなら対処できるから安心してもいいと。ところで34世紀のヒグマって宇宙ヒグマなんですか……?」
「ヒグマの事は忘れて。それ以外はそういうこと。人と同じ形態で対応能力にも敵性があるからこういう形式になったの。他は法令関係ね。これは地球人類に許された優秀な兵器ではあるけど制限も多い。怪獣が惑星に降り立たない限り惑星内での使用は許可されていない。破ったらアルテミス艦隊がすっ飛んでくるわ」
対宇宙怪獣用の特措法。宇宙怪獣相手にはどうやってもいい、という法律であるらしい。その中で許可がないと使用できない兵器であるため、平時に余程のことがあっても55m……宇宙怪獣のようなサイズの兵器を惑星に降ろすなと厳しい法令制限がかかっているとか。その法令の管理や、執行は地球人類が現在は主導して行っているらしいのだが……地球人類は34世紀の銀河連邦内部でどういった地位にあるのだろうか。
「地位があるから許されている、任されているとは言い難いわね。ある程度特権は与えられているとはいえ、私は押し付けられていると表現している」
「まぁ軍事関係は地球人が独占していると言えば特権の限りだと思うけど、押し付けられているといえばそうなんだから仕方ないわ」
「ネロさん。酒盛りしていたのでは」
「ネロでいいわ。あんなの飲んだには入らないわよ。まぁ軽くアルコール抜くための散歩のついでよ、ついで。専門分野なら説明変わるわ」
お願い、とアンジェラが伝えたのか適当な機材に腰掛けてネロが法令関係だろうか。説明をし始めようとこれまた何かどう切り出すかと考えた後に。アンジェラと同じく白い大きな息を吐いて順を追って話し始めた。
「地球人類はね、1000年前ザ・マスターさまのお言葉で助けられたの。で、その宇宙創世者を全体的にうっすら信奉している銀河連邦はある程度特権を与えたの。宇宙進出もしていない辺鄙な惑星国家に対しての救済措置ね」
プリムやソニアの言い方と違ってネロの言い方……トーンやニュアンスには含みがあった。小ばかにしているわけではないが対象を尊敬しているわけではないことがわかる。地球人類を作ったのは違うから、という理由なのだろうか。とかくそれを隠さないのはどうかと思うが、隠さないという素直さか真摯さは好感が持てた。
宣誓の時も一応嘘はいってないし、現実的に考えればとなるのだから信頼できそうな人物だと感じられる。顔色を伺って隠されるより、ある程度省くことはあるが専門家の意見としてこちらに遠慮なく伝えてくれるのは混乱の元とはならないはずだ。
「そんな選ばれた種族様ではあるけど、地球人類からしたら突然の侵略で衝撃の方が大きかった。戦って戦った先で助けられたけど宇宙怪獣への恐怖と憎しみは消えず。まぁ屈辱でもあったの。そこで銀河連邦のえらい人らの一部は特措法を利用しつつ、地球人類に宇宙怪獣退治を任せようとした」
嫌な話になるぞ、という彼女の所感がにじみ出してくる。ネロの言葉がひどく皮肉げだ。戦う意志や意欲があるヤツに任せればいいじゃんというのは当然の考えではあるのだが。ネロの言い方も、アンジェラの言葉から感じる脅威から辿ると嫌なことをやらされているという感がある。飯より何よりもさておいて、これを見て安心しておけと程度の相手のこと、嫌なことであるのは間違いないのだが。
「宇宙怪獣対策に与えられるものは与えられ続ける。ついで連邦内部でも動く軍隊としての役割を与えられた。防衛産業もだけど軍事組織を地球人類に任せたのよ。銀河連邦圏内で動かせる連邦の軍隊のアウトソーシング化を進めて各国の供出予算を減らし、ミリタリーパワーを削ることを目的としたの」
「お陰で地球人類はタイタンも巡洋艦も潤沢に用意できる。それでも人員等で制限は受けているのが現実、全部が全部思い通りになるわけではないけれど」
「このクラスの巡洋艦を300人程度で動かさないといけないのはまだ納得いってないわ。おかげでアークⅠとⅢは建造途中だし……」
「あまり規模がよくわからないんですが少ないんですか」
「まぁそうね。自動化出来ない部分が多い。もっと人数を増やそうにも予算もあるし、維持もね。今回無事成功したけどこの後どうするかってのはまだ決まってないぐらい」
「再生者を確保できたんだから押し通せるわよ。そのぐらいのつもりで動かないと」
「まぁそうね。とにかくそうした政治的事情もあってよ。対応能力と兵士との相性。これより小さいものは圧倒できるし、これより大きい者は艦船とで戦う。同じ土俵に立たせることで対策としたの。人の形をしているから、地球人の兵器だとわかるのも特徴でしょうね」
政治的事情や法令についてはいまいちピンと来なかったが、そういう背景事情があったという話でしかないのだろう。適当に流さず応えてくれたので、そこは今話したい事情ではないのかもしれない。とにかく即物的に言えばアンジェラの言うように宇宙怪獣と戦うために同じ土俵にたった。そして人類はその上で勝てるのだということを伝えたかったのだろう。
アンジェラはこの機械の巨人があることで安心しろと伝えたかったところだろうが、ネロはネロでまた違った意図もあるのだろう。地球人類が都合のいい兵隊国家にされているのはおもしろくは……まぁ、私もない。その上で色々と不都合が起きていること、おそらく彼女らが私を政治的に擁立することで解決したい事態でもあるのではないか。
「その、幸運なことにまだ遭遇したことがないからなんとも言えないんですが、とにかく大丈夫なんですよね?」
「えぇ、心配しないで。現在でも開発が続いている地球人類の対宇宙怪獣兵器。出現したと報告を受ければ帝国海軍でも産業同盟軍でも近いタイタン搭載艦船がすっとんでいって退治する。それが34世紀」
「34世紀のヒグマ退治……」
「ヒグマって何の話してるの……とにかくまぁヤバイ相手だけど対策で来てるから。うちの航空隊の支援もあればよくある遭遇例に引っかかっても大丈夫」
この2人が言うならば、また3人目かもしれない整備班長のほうを見ると両手で丸を作って応えてくれた。聞いていたのだろう、今すぐ出ても大丈夫だとでも言いそうな返事をもらえた。私はこの区画に入ってからずっとこちらを見ている全長55mの巨人に強く頷き、了解したことを伝えた。
整備班長がアンジェラの、と言っているのでこれはアンジェラが操る者なのだろう。なので目の前にアンジェラがいる今は乗っている人間はいない。それでも自分の身と安全を守ってくれる……いや、自分だけではない。彼女らやこの船のクルーや宇宙に住む人々を守る存在。これからよろしく頼みますと。
「実際のところは別でしょ。自分のタイタン見せびらかしたかっただけじゃないの」
「新兵扱いをして欲しくはないわね、ある程度専用に弄ってもらっているぐらいには経歴があるわ」
「専用として弄るには時間がなかったからね。もうちょっと時間があれば新造で作れたんだけれど許可がねぇ」
「それは言わなくていいわ整備班長。念のため程度の話に新造タイタンを作るよりも調整したほうが作業は少ない。実際ネロのVファイターの数を揃えた航空隊にずいぶん助けられたわ」
「そりゃまぁね。そのために作ってたし……まさかそれで?あなたは十分活躍したと聞いてるけど」
「……本分は違う。私はタイタンの専門者なのよ」
「兵隊相手でも無敗のアンジェラさんは宇宙怪獣相手でも無敗ってことなんですよ、再生者様。自慢話が終わったなら戻ってくれるかい、ケージ開放してのチェックに入るよ」
「宴会がまだ続いてないといいけれど……ナンブ、あなたどうしたのそれは。そこまで怯えるなんて、脅かしたつもりはなかったから忘れて」
「ちょ、ちょっと何その顔!アンタ大丈夫!?バイタルデータはどうなってんの!?プリム、聞こえる?あんたのご主人様の顔色が最悪よ」
がやがやと3人で歓談し始めた辺りからだろう。非常に気分が悪い。体調が急激に悪くなった気がしてくる。宇宙怪獣に侵略されて滅ぼされる地球をイメージしてしまったからではないだろうが……気持ち悪さが背筋を通って吐き出しそうにしまった。食あたり、いや胃のむかつきではない。尻から背筋を通って頭を……脊髄や中枢神経を舐め回されているようだった。ついに耐え切れず倒れこみかけると、アンジェラが掴んで支えてくれたのでどこかを打つことはなかったが……異常に湧き出る嫌悪感がすごい。
「何か、何か、何だ……何を触れているんだ……?」
「体温は平常、心拍と血圧がひどい。ドクターに連絡をして運びましょう。ここの温度もあるから動かし他方がよさそう」
「そうね。ドクター、聞こえる?手が空いていないのはわかっているけど来て、タイタン・ハンガーの方。再生者の調子がよくない。プリムのほうにも聞いてバイタルのデータを共有して……」
「プリム、プリム。何かが………何かが私に触れている。撫でているんだ、プリム!」
「まずいわね。食事の影響じゃないと思うけどアルコールの呼気から?目を開いて、こちらを見て!」
アンジェラの声が遠くなってきたところに衝撃が来た。私はアンジェラに抱きしめられて事なきを得たが、整備班長もネロも倒れてしまうほどの衝撃が構造体を襲ったようだ。その衝撃でなのか、意識が揺り戻っていくと、構造体内部やアンジェラやネロ達からけたたましい音が鳴り響く。
「こちらクラウディア!宇宙怪獣出現!特措法承認されました!タイタン搭乗者はタイタンへ、ネロはコントロール・ルームへ!航空隊の指揮を!」
「嘘でしょ……まさか、アンタを?」
「冗談でも言うもんじゃないね……アンジェラ、出撃準備!」
「ネロはナンブをメディカル・ルーム連れて行って。コントロール・ルームへ」
「え、えぇ!わかった、わかったけど!」
「タイタン出撃、出撃するぞ!出撃準備!」
けたたましいサイレンと整備班長やわめくようなドロイドの悲鳴の中で、取り戻せた意識でこちらへ向けられる視線を見上げれば。光る瞳がネロに抱えられている私をずっと見ていた。
tips
タイタン:55mの人型機動兵器。宇宙怪獣と殴り合うために開発された地球人類の手段。スケールの大きい相手をスケールダウンさせるためにスケールアップしたもの。戦うための第二の体。ただしその大きさから製作や保有に艦船搭載まで厳しく制定されている。アークⅣ搭載のものはアンジェラ用に調整されたもの。シルバーグレイの鈍色なボディに赤いラインやパーツというパーソナルカラーが施されている。




