10話 デカい女性に囲まれて生活していくには心の器もデカくあれ
■巨大遺跡構造体コントロール・ルーム
「まぁそう気を落とさないで。やりたいことをやるには色々準備が必要、貯蓄もないんでしょ?」
「ぐぅのねも出ないけどなんか騙された気分がするんですよ!」
「何も嘘は言ってないわ。それに朽ちた地球も何もかも知らぬ存ぜぬとするような人についていく地球人がいると思って?」
「それはそう……そうなんだけれども、そんな途方もない話になるとは……思っていなくて…」
天文学的な話が待っていたなんてあまりに果てしなくて逃げだしたいところなのだが、ネロ氏の言うようにここまできてそのような不義理を働く人間に誰がついていくというのか。うまく乗せられてきたのはわかるがそれは置いておく。置いておいて34世紀の宇宙、知らぬ世界で一人でやっていけるかといえばノーだ。なので今は、彼女らの言うようにしないと生きていけないのはわかるのだが。
「ナンブ様、我々が急を迫ったことは否定しません。説明が足りなかったことも認めます。しかし我々のような立場である人間が、このように運ばざる負えない事態に陥っていることをどうか理解してほしいのです」
嫌とは言わないけどさ、と言葉に窮しているところに差し込まれたのは左隣にいたカタリナ氏の言葉だ。アークⅡの艦長である彼女は椅子を動かしこちらに向き直り、姿勢を正せばこちらを見つめてきた。クラウディア氏と同じくウェアラブルデバイスなのだろうか……モノクルを装着した知的な女性の顔が真剣にこちらを見つめている。
その真剣な表情と言葉でコトの深刻さを空気で感じてしまい、目線だけを周囲に巡らせると……この場にいる皆がこちらを見ていた。機材を搬入していた顔も見えない女性兵士ですらもだ。それらの手を止めてこちらに見ている。やりとりが聞こえていたのか……先程の宣誓はさておいても、私の内心としてどうなのか。本音はどうなんだろうという不安が伝わってくるようだ。
「地球人類だけの問題ではないような事態です。そのようなことを一人に頼みこむことの愚かさは重々承知しています。ナンブ様ご自身が何も知らず与えられたものであっても、使命を果たしていただけるのでしたら我々はどのような協力も拒みません」
右側にいたアークⅣの艦長イリーナ氏も真剣な表情で語ってくる。彼女ら立場も地位もあるものがたった一人に頭を下げている。それほどの事態であるところに、わたくしの都合で乗り気にはなれませんねぇと言えるわけはない。今の彼女らに向けてわかりましたから受けますと伝えるにはどう言葉を選べばいいか、アンジェラを頼ろうとしたがヘルメットの上部を抑えられているもので暗に頼るなという言葉を受け取った。すこし考え、言葉を組んだ。
「……いえ、申し訳ありません。何分急なことでコトの大きさに驚いてしまったようです。地球の再生と人類の再興等私の出来る限りのことをさせていただきます」
「こちらこそ細かい説明を省いた形となってしまいました。最高責任者の1人……地球帝国宇宙海軍の代理人カタリナとしてお詫びを」
「同じく有志連合、独立惑星国家所属アークⅣの艦長イリーナとして感謝を」
この言葉でよかったのだろうか、その不安は三度ほど叩かれたヘルメットの感触で解消された。意図はわからないがまぁ落第点だろうという意味合いと思いたい。
それによくよく考えたのだが、私が憧れる宇宙の自由の戦士は窮地にある人々を見て見ぬ振りであったり仕方ないからやむ負えず助けるような情けない男だったろうか。話の規模の問題ではない。男の中の男はそんな小さい器の男ではない。
むしろ宇宙時代の規模、これぐらい日常茶飯事だぜ普通だ普通と思わなければやっていけないだろう。広大な宇宙に進出している、大きな女性らがいる時代だ。規模もデカい世界なら器もデカい男の中の男こそこの時代にふさわしい。体のデカさは負けるが、器のデカさを宇宙規模にしてみせようじゃないか。
「さぁわかったらみんな仕事に戻って!これから上級士官のレクが始まるから」
「管制のクラウディアより通達。指定の時間の通りフィナメス帰還へのブリーフィングとレクを始めます。各セクション長はコントロール・ルームへ出頭するように」
「そろそろレクも兼ねた昼食が始まるけど、プリム。加工でもいいからナンブの食事はあるの?」
「残念ながら準備は。地球の生鮮食材はありますので調理資格者がいればその限りではありませんが」
「ではアークⅣの生活班長を出しましょう。彼女はそのために同行していましたから」
「アークⅡの調理資格者は海軍の人間ですから特技の人間ではないんですよね……お任せします」
レクことレクチャー、私を確保した後であるこれからの話をするのだけど、その辺りはある程度のことは決まっているから昼食や休憩がてらに意見交換と確認するようだ。重要人物扱いの自分も同席することになるので食事にありつけるような話もある。34世紀に目覚めてからの食事、りんごとバナナと水だけだったので楽しみでお腹が空いてくる。先程までの不安などなかったのかもしれない、いや杞憂だったのだろう。34世紀未来の食事が提供されていくのなら生きているだけでも冒険ではないだろうか。これぞスペース・アドベンチャーが始まる時間。
■
「航路上の危険はないでしょうがアークⅡの損害が大きいことが問題でしょう。整備どころか修復に時間がかかります」
「ナンブ様から許可が下りていますから構造体で整備ドックを建造中です。ただ時間はしばしかかります。補給計画も問題ありませんが現時点でアークⅣで牽引して航海するほどではありません」
「ではアークⅣでの帰還となりますが、私はこちらに残り行政代行を務めたほうがよいと考えています」
「私に委任を?よろしいので。航空隊は2中隊のままですか。タイタン搭載型でしたら搭載数の制限がありますよね」
「ナンブ様、如何ですかお食事は。私が全て手がけました。お気に召していただければ……」
「ならワイバーン中隊とヴァルキリー中隊を連れて行って。欠損人員はそちらから出してもらっても構わない」
「噂に聞いていましたがVファイターの性能は凄まじいものでしたね。管制をしてて驚きました。タイタンが必要な状況以外でしたらなんとかなりそうです」
「他の補給とプリムがパッケージングしているファクトリーとプラントの搬入は一両日中に終わりそうね」
「あっはい。とてもおいしいですね。馴染みのあるもので私も驚いています」
「それはそれは。研究していましたもので、こうして提供できることを今か今かと……」
軍艦の上級士官食堂のような装いになったコントロール・ルームの一部。ここでは今文字通りの上級の士官、艦長から各部署の長らが集まって軽い昼食を取りながら今後の予定を話し合っていた。といっても先に聞いたように、決定事項の伝達だけのようで問題となるようなところもない。2つの艦船で別れて話し合うよりも、というのであったり再生者確保の戦いを勝利で終わらせられたささやかな祝いの席という意味合いもあるようだ。
テーブルクロスが白く染めた上に白いパッケージが並び、サンドイッチのような細く四角いものを手に取り摘まんでいる。それを1つ2つ摘まんで終わりのよう。そんなものでいいのか、と思っていれば各々の前に給仕係らしき女性らが並べていくのは……見慣れた果実がカットされたものたち。りんごとバナナだけではないが、色とりどりのカットフルーツをみなさん貪り食っている……まるでフルーツ・パーラーのオーダー・バイキングみたいな光景が広がっていた。酸味に爽やかで甘い匂いが広がってく。昼食と聞いていたはずなのだが。
私はというと特別扱いなのか、その給仕の頭ともいえる女性がすぐ側にいるような具合。専属のシェフのようについているわけだ。ただし食事の時間なので宇宙服を脱いで用意されたジャンプスーツを腰まで着用したようなラフすぎる姿、シェフが隣にいるのが似つかわしくないおかしさ。
さておいてそんな男の前に出されている料理は発言の通り馴染のあるもの。バゲットタイプのパンと蒸した白身魚の肉とオムレツに生野菜のサラダに果実だった。レストランの軽めの夕食にしか見えない。34世紀の飯はどこだろうか、最初の晩餐がこちらとは。何を手掛けたのかさっぱりわからないのだが、笑顔で感想を聞いてくるものだから聞くに聞けない。味は言うまでもなくおいしい、塩気が薄いが。
「試験栽培と言えどこれだけのものが食べられるのは創世者様に感謝ね……艦長、ワイン開けていい?」
「試験製作中のと聞いてるのですがよろしいので?教導院の方針からしましたらどのようなものでしょう」
「こちらで消費する分には構わないでしょう。ナンブ様のご許可がいただければですが」
「あぁどうぞ。私お酒飲めないので好きに飲んでください」
「本当に?じゃあバンバン開けましょ、下士官にも配っていいぐらいあるわよ。見た?パッケージしてる補給品のリスト、地球のワインが飲めるわよ」
「あまり飲みすぎないように、酒盛りの儀式と思われるようでは我々が海賊かと思われます」
「ちゃんと説明するわよ。地球原産の食事なんてもうないものだから再現料理でも高くつくのよ今。現物なんて幻よ幻、生活班も飲みましょ何年物ってやつなのこれ」
「今提供されているものは西部欧州のもの、次は南米ものを開けますか。200年前のは大丈夫なのですかこれは」
「もちろん保存に関しては問題ありませんが開けたら飲み切ってください」
どういうことだろう、と私は食事を終えた手を拭い給仕の長であり専属シェフみたいになってる女性のトモエ氏に伺えばあまりに単純な話だった。地球がもうメッタメタにやられてしまったもので地球由来のものを使った食事の文化も細くなってしまったらしい。食材の調達がそもぞも難しくなった。
なので私と共に保存されていた地球種でありプリムが管理栽培や養殖をしていた動植物や水産物の食材を使った料理や加工品は超ぜいたく品。34世紀の人間である彼女らからして味の慣れはさておいて、高級嗜好品を口に出来る機会というので盛り上がっているのだとか。
その食材の中でも調理方法を34世紀封に模索するより、果物類をメインに楽しめるようにしたほうがいいとトモエ氏の判断でこのようなフルーツのオーダーバイキング形式になったのだとか。そしてワインも試験的に作っていたために飲む人間がいないというのにしこたまあった。祝勝でもあるし開けて提供してはどうかとプリムに提案され承認したらこの具合で、フルーツで酒盛りをなさってらっしゃる。
「艦長、食事を終えているのならナンブをこのまま連れてアークⅣで今後の話を聞かせたいのだけれど」
「この先の航海についてですね。ではネロとクラウディアのどちらかを連れていきますか」
「いえ折角の晩餐会よ。このままのほうがいいでしょう、皆ずいぶん長いこと気を張っていたし。それじゃ腹ごなしに歩くわよ」
「あっはい。トモエさんごちそうさまでした。また次回を楽しみにしています」
「いってらっしゃいませ。私はプリム様と共に食料品の管理についてお話をさせていただきます」
アンジェラの誘われるがままに食事の席を立ちついていく。食事が終わった後の時間をどうするか手持ち無沙汰だったものでありがたい。酒が飲めないのに酒盛りしている女性陣らの中にいるのは中々に居心地が悪くどうするかと考えていたもので渡りに船でありがたかった。
■巡洋艦アークⅣ後部エリア 格納庫
「食事の時に聞いたと思うけど、地球は壊滅的状況に陥った。そこから復興の目処が立っていないのが現状だし、封鎖状態。そうなってしまった原因を取り除けていない問題があるから見送られている状況」
「宇宙怪獣……21世紀でも見たことはないんだけど……というか私が捕まった後の話?」
「そうなるわね。宇宙怪獣はこの地球人類だけではなく、銀河連邦の人類にとっても脅威。目的もわからず散発的に出現している脅威。それがなぜか単体の惑星でしかない地球に襲撃してきたのは歴史的な事件として今も残っている」
ドックまで車で少し。海賊ギルドをひき殺していた時よりも体感時間としては短く感じられていたが、その先でアークⅡではなくⅣの方のドックに到着した。アンジェラがそのまま車両で格納エリアに乗りつけて艦載機が並ぶエリアを抜けた先のところで止まった。ここから歩く、降車するように言われたもので降りれば、整備担当というツナギをスーツの上から装着した女性兵士がこちらに気づいたようで声をかけてくる。
「アンジェラ?食事会の集まりはよかったのか?それに隣のは……」
「酒盛り始めてるからいいのよ。それより21世紀出身の再生者様に見せておかないと」
「なるほど、まぁご自慢の体を見せたいのはわかるわ。今回は出さなくて済みそうだし」
「そういうこと。ジャケットをもらうわ」
整備班と見られるスーツの女性兵士と少しのやり取りの後に、私は彼女の隣にある容器に格納されていたジャケットを渡された。食事が十分ではないか、それとも痩せた病人みたいな体のせいで基礎代謝が戻っていないのか。ちょっと肌寒くなってきたところに渡されたのでありがたく受け取り羽織る。もたもた袖を通してたが、そこから視点を上げろとアンジェラが隔壁で閉じられた先への移動をを促してきた。
「宇宙怪獣は恐怖の象徴。それでも1000年、1300年過ぎた今は対処法が複数存在する、それがあなたを守るからフィナメスへの航路は安心して。宇宙怪獣が出ようが海賊ギルドが出ようが全て排除してみせる」
歩いていくその先は薄暗かった。隣にいる整備の人がいうには待機状態であるときは安静にさせておくため外気との合わせていく方式らしく、ここは今冷えに冷えている。吐息すら白くなるような区間ではあったが、ところどころ光源のライトやランプがついて安全を保とうと示してくれていた。
だがその場所や位置を示すライトとは別の明りがついた。二つの明りがずっと前の上のあたりで光るとそのまま何かを探すサーチライトのように蠢くと……ピタッとこちらに向いて止まった。そこから動かず、こちらを見つめるような二つの光点。
「この対怪獣機動兵器、タイタンでね」
くいと向けられた指先はその明りのあたり、視点が交わったことを確認したのだろう。区画のエリアを明らかにするように点灯していくと、アンジェラは露わになったシルエットを示すように立ってこちらに語る。これがあるから安心していいと。その先には人の形をした、巨大ロボット。大きさはかなり大きい。何mぐらいあるのだろうか。2つの明りは……その巨人の瞳だった。
「全長55m、宇宙怪獣のサイズと大体同じ。怪獣と戦うために作られた兵器がこれよ。これがあれば負けないわ」




