9話 デカい話には裏があるのかもわからない
「正直なところ、自分が求められているようなことが出来るのか自信がありません。この時代に目が覚めたばかりで、無理やり納得しているだけの状況なんです」
「まぁ……それは、そうね。ちょっと急過ぎたのは、認めるわ」
「御見苦しい所を晒してしまいました。先の発言は皆さんお忘れください」
「私は本気で……いえ、申し訳ありません。出過ぎた真似をしました」
正直な実感を言葉で表現したところ3人ともこちらの状況を理解してくれたのかすっと引いてくれた。止まるまで若干時間がかかったために軍用テーブルとか簡易椅子がひしゃげているのは見なかったことにしたい。どういうパワーの出力で繰り出したら丈夫だろう軍需品が歪むのだろうか。それらをガタガタと位置を直し、再び席についたところでプリムが口を挟んで来たのだ。
「それはもちろん、この構造体でナンブ様をお守りしてきた私が保証します。ですがそれでも身に覚えのない力と資格。不安を取り除くのは難しいでしょう」
「まぁ、はい。そのなんというか何故私なのかという点がスッポリ抜けているとなんとも実感が」
「構造体はここだけではりません。他の構造体を探して巡ってみてはいかがでしょうか、何かメッセージが残っているかもしれません」
「ザ・マスターの遺産を辿ることで自分が何故選ばれたのかを知れるかもしれない、か。一番現実的にも思えるけど」
「それに遺跡を巡ることと、宇宙の再生は無関係ではありません。皆様さんもナンブ様が呪文を唱えれば惑星がすぐに再生するとは思っていませんよね?」
先程まで私の扱いでヒートアップしていたのが嘘のように静まり返っている。確かに私がいたらなんだというのだ、どういう方法や手順で惑星が再生されたり地球が復活するというのだというところがスッポリ抜けている。複数のことをやってくれというものだから、私が人身御供になればなんとでもなるような話でもあるまい。
「地球人類の資料としてナンブ様以外の動植物等が採取されていたのと同じ。惑星や恒星のデータもそれぞれ同じような構造体に収められているのです」
「なるほどね。その構造体を継承、管理権を得ることで惑星が再生できると」
「その通り。その過程でナンブ様がなぜ選ばれたのかを知ることが出来るかもしれません」
「つかぬことを伺いますが、プリム氏は何もご存じではない?管理者だったんですよね」
「残念ながら情報の規制もありますもので。私から関係することをお話することはできません」
つまり、どちらにせよある程度彼女らの頼み事を聞くことは自分を知ることにも繋がるようなのだ。遺跡を巡り、継承し、惑星を再生したりしていく。その中でなぜ自分がこんなデカい話の中心に置かれてしまったのかを知ることができるかもと。何もわからないまま、乞われるままに振る舞うよりも今後の目標がはっきりしている分わかりやすくなってきた。
「もちろん生活等については全面的にサポートさせてもらうわ。独立惑星国家側からは頭になってもらうのだから、当然と思っていい」
「地球帝国側は軍備や軍事費の供出等になっています。政治体制となると現体制との軋轢が実態的な危険になる可能性がありますもので……ご理解ください」
「教導院は独立惑星国家側とも同じく。無論私個人としましてはナンブ様の御心のままに望むがままにと考えていますが」
「銀河の独裁者することは出来ないけど、生活以外にでも何か希望があれば叶えるわ。試しに今やってみたいこととかある?」
「いやちょっとそういうのをポンと考えられるような状況ではなかったもので」
「それなら色々終わった後の希望、なんでもいいわ。地球も宇宙も復興し終わって独立惑星国家も安定した時にそれから開放された後に……何がしたい?」
これまた楽観的な話ではあるが人間は希望があるから生きていける。実例としては彼女らにとっての私なのだろうか……さておき私の話だ。当面の希望がないなら、それらデカいことをした後に何がしたいかと聞かれれば困ってしまう。単純な報酬を前に、というものだろう。しかしこの宇宙の時代でやりたいことを色々イメージがあるが……何でもいいとなると余計迷ってしまう。
その欲求が何かを口に出すこと、それによって彼女らの評価も変わると思っていいだろう。こちらを伺うような彼女らの見えない圧をひしひしと感じる。品性下烈なのはだめ。だが不道徳や不義以外なら、彼女らもまぁ受け入れてくれるだろう。
「その……あなた達から見れば幼稚な話かもしれませんが、無限に広がる大宇宙を旅したいですね。21世紀はまだ宇宙で冒険という時代ではなかったので」
「なら尚更よ。宇宙でそうした活動は一人ではできない。遺産の超技術の補助があってもね。政治活動や惑星の復興活動をしていく中で……共に冒険する仲間を見つけたり支援者を探すことで過酷な宇宙の冒険も現実的になるんじゃないかしら」
「なるほど、確かに大航海時代も支援者が重要でしたしね。現実的な実績や経験があればスムーズにコトが運ぶ、その通りだ」
「えぇ理解が早くて助かるわ。それじゃ大変だろうけど色々よろしくお願い。期待しているわ」
あまりに話がスムーズに行き過ぎている気がするが、話自体が何か落とし穴があるのかもわからない。
もしかしたら最初から穴に落ちていたかもしれないので疑い出したらキリはなさそうだ。ただ論理的に言えば、何も間違ってはいない。人は一人では生きていけないが、宇宙を自由に行き来することが出来るならば……技術的なものと生活的なものが違うのは当然だろう。国や惑星に縛られないためには、相応の力やコネクションが必要なのだと。
品性の欠片もないことを言ってしまえば、美女の頼みなんてなんでも聞いてしまいそうなのだ。美人が百難隠す様に。なら別に悪い気持ちではない、彼女らの望むことを最大限やってみようじゃないか。みんなニコニコだしいいのだろう……ちらと伺ったアンジェラの顔は澄ました顔のままだが。
あと少し、子供っぽい話ということでお茶を濁したが実際の希望は遠からずかもしれない。ドクロのエンブレムや赤いスーツの宇宙無頼を目指したいところなのはさらに子供っぽくて語れるものじゃないだろうから宇宙旅行とでも言っておくのが都合がよさそうではないか。図らずもやってきたセカンドライフならぬ2度目の人生を宇宙で始める機会。目指せるなら男の中の男……宇宙を冒険する自由の戦士になるというのは憧れではないか。
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「フィナメスとの通信ネットワーク接続を確認、中継できます」
「準備はよろしいでしょうか、ナンブ様。これからお会いしていただくのは銀河連邦評議会の議員……今回有志連合を結成するよう依頼された方です」
「もちろんです。もう覚悟は決めました。彼らに宣誓をすればよいのですね?」
「はい、議長は立場上今回ご挨拶できませんがオルファリウス議員からのお話を受けていただければ」
「宣誓の作法に関してですが、21世紀の形式のほうがより伝わりますかと」
コントロール・ルームではベコベコに変形したテーブルや椅子らは片付けられ、どこから持ってきたかはわからないが天然木等で作られたような高級感が溢れるテーブルが並べられている。テーブルクロスが敷かれて、見知った地球の花がこれまた見覚えのない芸術センスの花瓶に添えられている。ただ通信をするのにここまで必要なのだろうかと思えるぐらい。
それも当然なのだろう。これから行われるのは銀河連邦議会がある中心地、惑星フィナメスとのもの。そこで私を求め、有志連合の結成を主導した政治家の人たちと顔を合わせることになるのだ。無事確保できたこと、生存の報告だ。そのため政治的にフォーマルなテーブルにチェアが用意されているようだ。
私はそこの中心に宇宙服で座って大人しく繋がるのを待っていた。周囲には私より頭1つ分はデカい女性らが座っており、両隣には現場最高責任者であるアークⅡとⅣの艦長が座っている。視界の横が完全にふさがれており、前しか見えないのだが問題ないと思いたい。
「お初にお目にかかります。いや、しかしこうしてお顔を見れたことは何よりのことにございまして」
「オルファリウス殿、ご挨拶を。私にもお顔を見せていただきたいのですが」
「いや、いや。失礼しました。私が銀河連邦の有志連合を発起しました議員団の代表オルファリウス」
「銀河教導院の導師をしておりますマファー、ソニアが十分に役目を果たしているようで」
「21世紀の地球人、ナンブ・ケンゴです。今回は危うい所を助けていただきました」
「これから起きることに比べましたら最初の一歩というところでしょう。まずはご無事であったことをザ・マスターに感謝せねばなりますまい」
「左様。こうして銀河の希望に出会えたこと、全てお導きによるものでしょう」
一体どういう基準なのかはわからないがまたずいぶん主語や話がデカい気がしてしまう。向かい合うように投影された通信相手である二人の異星人。瘦せ身ではあるがつるっと角ばったナナフシのような体に着物を重ねて着用しているような姿のオルファリウス議員。一方で爬虫類のような顔ではあるものの、筋骨がしっかりと立っている体格の良さを緩やかなローブで隠すようなマファー導師。どちらも服装だけ見れば高貴な身分の人と、僧籍のような印象と受け取れた。
一方で私の姿は宇宙服、アストロノーツ。彼らと向かい合う姿だけ見れば未知との遭遇みたいなビジュアルだ。異星人とのファーストコンタクトと言われても通じる絵にしか見えないだろうか。周囲の彼女らから見たものを21世紀基準で例えるならば、サムライが国会議員に面会するようなちぐはぐさかもしれない。
「ンンッ。ではお目覚めの後でしょうが、宣誓をしていただきたく……」
「お話は聞いております。全て承知の上であなた方へ……いえ、この宇宙に住まう人類へ宣誓させていただきましょう」
「先程目を通していただいた原稿はこちらに」
催促ともいえないパスにすぐさま返事。話が大きい、つまり私に対する期待であったり……もしかしたら猜疑もあるのだろう。この人物は期待をかけるほどのものか、それか最悪の場合我々の味方ではないのかも等々。であればとにかく安心してください味方ですよ、と伝えることが大事だろう。トモダチ。
そのためオルファリウス議員の求めに小さく頷けば軽く右手を上げてこれから始めます、と合図を送ればコントロール・ルームの空気が静かに張り詰めていく。各々がこちらに意識を向けているのかもしれない、すごいプレッシャーを感じる。
「私ナンブ・ケンゴは創世者であるザ・マスターの後継者、再生者として宇宙の平和と安寧のために継承した資格と力を行使することをここに誓います」
「確かに御受けしました。正式なものは後日行われましょう、またその時にでも他の話ができれば」
「調印式等ですな。今はまずこちら銀河連邦首都惑星フィナメスで会えることをお待ちしております」
「その宙域もかつて恒星のあった銀河と聞いています。今では虚無とされるようなアウターからの旅立ち、危険はありましょうが無事こちらに着くことを願っております」
彼ら2人とも、ほっと安堵したような声だった。先程あった緊張感が解かれる息遣いが投影映像越しに伝わってくるようだった。私もそれで彼らにとって敵ではないこと、彼らもまた私の脅威となるものではないことが伝わってきた。海賊ギルドの怖い連中とは違うのがすぐにわかったのはこちらとしてもありがたい。周辺の空気も緩み始め、通信が終わればみなさん一息ついていいだろうという具合の落ち着きが広がっていた。
「再生者の名にふさわしいお言葉。ご立派でしたよ、こちらのお水をどうぞ」
「ありがとう。喉がカラッカラで。用意された文面を読んだだけでこれだから本職の人のほうがずっとすごいよ」
「そんなことありませんよ。これから星々を股にかけて遺跡を継承し、惑星を復活させ人々を導くのです。大きな事柄を成すのですから、それに見合うシンプルでかつ力強くも芯の通った宣誓を堂々とする必要があったのです」
34世紀のトイレがどうとかわかっていなかったもので、水を控えたり食事を控えていたりしたせいだろう。喉も乾くし疲労感もある。水を渡してくれたソニアの語る様に、それだけの大きなものをやると誓う場だったのだ。緊張感で背中から異様に出てしまった汗のせいもあるのではないか。一気飲みしたい衝動を抑えられなかったもので、そのままぐっぐっとボトルを傾け続けてしまう。
程度は違えど彼女らも同じだったのだろう、部下と業務的な内容を少し……言葉を交わした後にこちらに向けて気遣いの声をかけてくるアークⅡとアークⅣの艦長の声も落ち着いていた。私の左側にいるモノクルの女性がアークⅡの艦長カタリナ氏、右側の黒髪ロングの女性がアークⅣの艦長イリーナ氏である。
「大変な事業、まだナンブ様を支える者も少ないでしょうが……始めていけばその実績を見て帝国本国も評価を変えざる負えなくなります」
「あなたに希望を抱いているのは地球人類だけではありません。それが現実のものとなるなら、宇宙の救世主として銀河連邦全ての……別宇宙をも救うことになるでしょう。現世に蘇った希望としてです」
労ってくれているのか褒めてくれるのかよくわからないスケールの文言が出てきたので水を飲むをの一先ず止めて視線を動かす。にこやかな左右の女性、話を聞こうと席をずらそうとしたが思うようにいかない。そんなところにちょうどタイミングを見計らったように椅子が引かれて動かされた。私はそのまま、彼女らを2人を見れる位置になる。見上げようとするとアンジェラの顔が映った。彼女がこちらを上から覗き込むように見下ろすもので、そのまま疑問を聞いてみた。
「あの、話がずいぶん大きいように聞こえるけど……復活させたい惑星ってどの程度あるんでしょうか?100ぐらい?」
「そうね。21世紀で使われていた数字の桁数で表現するのは難しいかもしれないわね」
「なんで?数学はあまり詳しくないけれどそう多くはないんじゃ……」
「それはもちろん、銀河連邦は銀河系の連邦国家。宇宙にある銀河の集まり、その長い歴史の中で滅びた惑星の数は……」
「21世紀の表現で聞いたことがあるけど、天文学的な数字よ。まぁ一人で全部出来るとは思わないで。2世代3世代ぐらいのスパンにはなるでしょうから長い目で見て」
アンジェラの返答に被せるようにネロ先生が笑顔でお答えしてくれる。
は、はめられた!悠々自適な宇宙無頼のセカンドライフなんてありゃしないじゃないか!




