第四章 仮面と指輪 五
ー 仮面と指輪 五 ー
「おまえであそぶ」なにかがそう言った瞬間、ジェイの体はとてつもない衝撃に襲われ、前方へ十メートルほど吹き飛んだ。ジェイには何が起きたのか全く見えていなかったが、衝撃の正体はなにかの放った蹴りだった。なにかは高速でジェイの背後に回り込み、彼を蹴り飛ばしたのだ。ジェイの体はサッカーボールのように何度も地面をバウンドし、集落の外の木に衝突した。
「あははは!」
「なんだあいつ……!怪物じゃねぇか……!!」
ジェイは無傷だった。彼の右手の薬指にはめられた、指輪が輝き結界を張る。半透明の光の球体が彼の体を包み、全ての衝撃を無効化していたのだ。それは彼の非常識の力だった。「物体に守護の力を込めること」つまりあらゆる危険から身を守る、お守りを作りだすことが、彼の非常識だった。ジェイが毒を気にせず一人集落に残っていたのも、彼がこの指輪で自身を守ることが出来るためだった。
なにかは無邪気な笑い声を上げながら、再びジェイへと高速で接近し、蹴り飛ばす。ジェイの体は森の木を、何本もなぎ倒しながら吹き飛び、彼は必死に指輪に力を込め続けた。
「こんな怪物が出てくるなんて想定してねぇ……!指輪の力がもたないかもしれねぇぞ……!」
「あはは!もっと!もっとあそぼう!」
なにかは凄まじい速さでジェイへと攻撃を繰り返す。ジェイは指輪に力を込め続けるが、ついに指輪に亀裂が入った。ジェイの体を覆っていた結界が消え、指輪の効力は失われてしまったのだ。なにかは不思議そうな顔でジェイへ接近し、彼の顔をのぞきこんだ。
「あそび、おわり?」
「うっ……ぐ……」
「つまんない。ばいばい」
なにかは退屈そうに右手を振りかざし、ジェイの首をはね飛ばそうとする。その時、ヒュンと風を切るような音が聞こえ、なにかは突然動きを止めた。なにかは困惑していた。体が動かない。動けない。まるで自分の時間が止まってしまったように、指先一本たりとも、動かすことが出来なくなってしまった。
「時間停止は一分しかもたない魔法なんだ。しかも一日一回しか使えない」
ジェイの背後から、声が聞こえる。その声の主はしっぽをゆらりと振って、ジェイとなにかの間に立った。
「おかしな魔力を感じたと思ったら……。この生き物はなに?こんな生物をぼくは知らない」
「ローレンス!」
ジェイの危機に駆け付けたのは、ローレンスだった。実際はジェイを助けに来たわけではなく、妙な魔力を感知し現れただけだが、彼にとっては九死に一生を得る結果となった。
「……師匠め。あの魔女め。勝手に何かをデザイアに仕込んでいたのか」
「……ローレンス?」
「ねぇ、この生き物は何体いるか分かる?現れたのはこの一体だけ?」
「い、いや、全部で二体だ。もう一体いる」
「そっか。じゃあきみは眠っていてね」
ローレンスがしっぽを一振りすると、ジェイの意識が失われ、彼は倒れ寝息を立て始めた。ローレンスはゆっくりと、なにかに近づいていくと、彼に似つかわしくない、恨みのこもった言葉を吐き始めた。
「あの魔女は本当にまあ、ぼくの邪魔をするね」
「師匠ではあるけど、嫌いだよ。本当に嫌いだ。大嫌いだね」
「あぁ、こんなに腹が立つのは久しぶりだよ。だから……」
「お前で憂さ晴らしさせてもらう」
その頃マリーとバリーは、坑道から外へ出ようと、岩をどかし続けていた。人型が二体のナニカを出産した時、坑道全体を大きな揺れが襲い、至る所が崩落し、帰り道を塞いでしまった。人型の核は鼓動を止め、もはや機能を失っていることは見て分かるし、外を目指す以外に、二人に出来ることはなかった。マリーは筋肉を膨張させ、小さな岩を殴り砕く。バリーは非常識を使って、大きな岩を移動させていく。坑道内に生えていたキノコはほとんど枯れ落ちてしまったが、その残骸がまだ青白い光を放っていて、薄暗くはあるが、なんとか視界を確保出来た。
「すまん、核を目指したのが悪手になった。坑道の外にいた方がよかったな」
「ぶわははは!気にするな!」
「……その姿にも驚いたが、なんで性格まで変わるんだ?」
「気合を入れる為じゃあ!ぶわははは!」
「……まて、止まれ。なにかが近づいてくる」
「どこからだあ!この道の先かあ!」
「上からだ」
「上ぇ!?」
バリーは天井の先から、なにかが接近してくる音を聞き取った。岩盤を無理矢理砕き、自分達のいる場所へ、真っすぐに向かってくる。間もなく天井が崩れ、そこから”なにか”が飛び出してきた。そのなにかはジェイを襲った固体と違い、白髪だった。ひらひらと坑道の中を飛び回り、無邪気に笑っている。
「あははは!あそぼ!あそぼう!」
「何じゃあ、お主は!?愛い顔をしておるのう!しかもすっぽんぽんじゃあ!」
「あそぼ!あそぼ!あはは!」
なにかは高速で坑道内を飛び回り、標的をマリーに定めた。マリーの動体視力では、なにかの動きが捕捉できない。なにかはマリーに高速で接近し、その勢いのままに、彼女の顔を蹴り上げたが、その足はマリーに命中する寸前で止められた。
「お前、マリーを傷つけようとしたか……?」
バリーはなにかの右足を握りしめ、その顔をにらみつけていた。なにかは怯え、残された左足でバリーの顔を蹴りつける。その一撃でバリーの頭部は右半分がはじけ飛んだが、それでも彼はなにかの右足を掴んだまま離さない。バリーの頭部は徐々に再生していき、その両目には怒りを超えた、憤怒が込められていた。
なにかは必死に身をよじり逃げようとする。見かねたマリーが、もう離してあげるようにとバリーに言ったが、そのとき暴れ回るなにかの爪がマリーの顔を引っ搔き、小さな切り傷をつけてしまった。
その傷を見た瞬間、バリーの中の怒りが爆発し、なにかを全力で壁に投げつけた。なにかは悲鳴を上げながら坑道の奥へと逃げていき、バリーはそれを追う。マリーも慌ててそれを追いかけたが、薄暗い坑道の中で、すぐにバリーとなにかを見失ってしまった。
バリーは坑道の突き当りへと、なにかを追い詰めていた。逃げ場を失ったなにかは、精一杯の大声を上げて、地面に転がっていた石をバリーへと投げつけた。なにかの腕力をもってすれば、ただの石ころが銃弾以上の破壊力を持つ兵器になる。石はバリーへ命中し、彼の右腕を吹き飛ばした。しかしその欠損はすぐに修復され、バリーは鬼のような形相で、一歩づつなにかへ歩を進めていく。
「マリーを傷つけたな……!!」
「あ、あう……」
「殺ス……!!」
「う、う……」
「殺シテヤル!!」
「いやあぁあ!」
なにかは泣き叫びながら、ひたすら石を投げ続けた。バリーは頭が吹き飛び、手足が千切れ、胴体に風穴が開くが、その傷を修復しながらなにかへと襲い掛かる。バリーはなにかを力任せに引き寄せ、左手でその首を締め上げる。そのままなにかを地面へ叩きつけ馬乗りになると、右腕を振り上げなにかの頭部へ振り下ろした。しかし腕を振り下ろしたその瞬間、マリーの「やめて!」という叫び声が聞こえ、バリーの拳はなにかの目前で止まった。
「あたしは傷なんてつかないって!もうやめてあげて!」
「……分かった」
「う、うぅ。こわい……。こわい……」
マリーは髪の毛を伸ばして、なにかの体をぐるぐると簀巻きにして、逃げていかないように拘束した。なにかは小さくすすり泣いており、マリーは頭をなでてなにかをなだめていた。
「よしよし、怖かったねぇ。もう乱暴しないからねぇ」
「うっ……。うっ……」
マリーがなにかをなだめているその横で、バリーは小さな声で「タイニー……」という謎の言葉を漏らした。
「……すまない。また、やりすぎた……」
「また……?昔もなにかやったの?」
「……あぁ」
「あんな怒り方、異常だよ。この子が無事だからよかったけど」
「……すまん」
「とにかくここから出よう。この子も一緒にだよ」
マリーはなにかに寄り添っているので、バリーは一人で坑道の岩をどける作業を再開した。なにかはしばらくすると落ち着き、黙ってマリーのそばに立っていた。
「……その子供をどうするつもりだ?」
「とりあえず外に出て、執政官に相談かなぁ。そもそもこの子、どこから出てきたんだろ」
「人型だろう。あれの内部から生まれてきたと考えるのが自然だ」
「ねぇ、キミは何者なの?」
「……わからない」
「でも言葉は分かるんだよね。話ができるのは助かるね」
なにかは別人のようにおとなしくなり、暴れ回る様子を一切見せなくなった。バリーは岩をひたすらどかしながら、なにかの面倒をこれからどうやって見ていこうかと考えていた。
「言葉が分かるなら、教育も可能か。また好き勝手に暴れられると困る」
「言葉が通じなくても、ちゃんと向き合えば分かりあえると思うよ」
「……あぁ、その通りだ。ありがとう」
「え?なんでお礼言ったの?」
「外を目指そう。ジェイが無事かも気になる」
「そうだね。集落は大丈夫かなぁ……」
その数十分後、集落でジェイが目を覚ました。彼のすぐ横にはローレンスがいて、ジェイはローレンスに何が起きたのかと、すぐさま聞いた。
「あの怪物は!?」
「その辺に散らばってるよ」
「は?」
ジェイがふと後ろに目をやると、そこにはなにかの首が転がっていた。よく見るとその近くには、もはや原型をとどめていない、おそらく胴体だったであろうものや、無数の肉片が散らばっている。
「……おまえらしくねぇよ、ローレンス。なんでこんなことした?」
「あの魔女がつくった生物なんて、ろくでもないものに決まってるもの。ただの駆除だよ」
「……そうだ、もう一体は!?」
「鉱山の中に突っ込んでいったよ。なんでか分からないけどね」
「鉱山の中!?」
「そうだよ。ぼくがここにいるのは、その一体が出てくるのを待ってるからだよ。あそこ迷路みたいだからね。入れ違いになったら困るもの」
「鉱山に行くぞ!マリーとバリーが危ねぇ!」
ジェイが鉱山へ向かって走り出し、集落から出ようとしたその時「あ、ジェイだ!」とマリーの声が聞こえた。マリーは元気よく手を振っていて、その隣にはバリーもいる。ジェイは二人の無事を喜び駆け寄ったのだが、二人の背後にいるものに気付き、思わず「来るな!」と叫んだ。
「おまえら、それ……」
「どうしたの?あ、この子?」
「……それとは別の個体だが、その翅の生えた怪物に、おれは殺されかけたぞ。ローレンスが助けてくれたけどよ」
「キミ、兄弟がいたの?」
「うん」
ジェイは自分の心を落ち着かせ、再びなにかとコミュニケーションを試みた。マリーとバリーがわざわざ連れてきたということは、二人はこの生物を危険なものと考えていないはずだ。
「おまえの兄弟、いきなりおれに襲い掛かってきたんだぞ」
「ごめんなさい」
「……ちゃんと謝れるんだな」
「ぜんぶ、めちゃくちゃにしないと、いけないとおもった。ごめんなさい」
「なんでそんなこと思った?」
「わからない。あたまのなか、ごちゃごちゃってなった。いまはもう、なおった」
ジェイとマリーは顔を見合わせた、なにかの発言に、思い当たるふしがあったからだ。
「はぐれもの、か」
「この子もそうなのかな」
「……どうだろうな。そもそも人間じゃねぇしなぁ」
「この子、ちゃんとお話しできるし、今はもう大丈夫だよ!ジェイを襲ってきた子はどこ?」
「……バリーだけ来てくれ。マリーはここで待て」
バリーとジェイだけが集落に入り、バリーはなぜ自分だけが呼ばれたのかをすぐに察した。この散らばる首や肉片を、マリーやなにかに見せるわけにはいかない。集落にいたローレンスは、ジェイとバリーには見向きもせず、マリーとその背後にいるなにかを見ていた。
「あの女の子、なんでここに?街にいたはずだけど」
「マリーか?鉱石が欲しくて外に出てきたんだと」
「ノーフェイスに後で聞いておくかな。そんなことより、きみ達の会話は聞こえてたよ。あの生物を、飼いならすつもりかい?」
「処分せずにすむなら、その方がいいだろ。子供の姿してるものを駆除するなんて気分よくねぇよ……」
ローレンスはバリーに視線を移し、彼に質問した。
「きみ、どうやってあれを捕まえたの?」
「力づくだ」
「……あの生物、人間では太刀打ちできないような代物だと思うけど。それを力づくで?」
「この肉片を元に戻す。マリーが保護を望むなら、俺はそれに従う」
「うん?戻すってきみ、なにを……」
バリーは地面に転がっていたなにかの首を拾い上げると、その時間を戻し始めた。周囲に散らばっていた肉片が集まり出し、徐々に人の形をとり始める。ローレンスは「へぇ……」と感心した様子でそれを眺めていた。
「こんな非常識を使える人がいたとはねぇ。きみを強制退去したのはノーフェイスでしょ?ぼくはきみに見覚え無いし」
「あまり覚えていない」
「へ?覚えてない?」
「少し前まで、正気を失っていた。意識はあったが、記憶がはっきりしない部分が多い」
「そっか、完全に正気を失っているタイプだったんだね」
「もう体は戻った。起きろ」
「……う、ん?……ひいっ」
なにかの体は完全に元通りになり、意識も戻った。しかしローレンスの姿を見るや否や、怯えて涙を流し始める。バリーはなにかが逃げて行かないように翅を掴み、マリーのところへと連れて行った。二体のなにかはお互いを見つけると、ほっぺたをすり合わせて、身を寄せ合う。マリーが「もう暴れたらだめだよ」と叱ると、二体は「うん」とうなずいた。
「あいつすげぇな。もう手なずけてるぞ」
「……まぁ、彼があれを力づくで抑えられるなら、好きにさせていいかな。で、あの生物が現れた時のことを教えてもらえる?」
「あぁ、分かった。でもおれにもなにがなんだが、よく分かってねぇ。見たままを話すぞ」
「オッケー。よろしく」
一夜が明け、集落に人々が戻って来て、一連の騒動は終息した。幸い集落には一切の被害が出ておらず、人々は昨日までと変わらない生活を続けることが出来た。ローレンスはジェイから話を聞き終えた後、いつの間にか姿を消していた。そしてマリーは元々の目的だった鉱石を回収すると、ジェイに頼みごとをしに行った。
「ジェイ、一個頼みたいことがあるの!」
「おう、なんだ?」
「この鉱石を街まで運んでもらいたいの!地図はもう書いてあるから、この店まで持って行って!」
「おまえの友達を助けるんじゃなかったか?自分で行った方がいいだろ」
「あたしはもう、行けないから」
「は?なんで?」
「洗脳が解けたから。街に行ったら、また誰かを傷つけるかもしれない」
マリーはそう言うと、鉱石の入ったカゴを、ジェイに渡した。
「あたしね、街で洗脳をかけられたの。『誰も攻撃しない』って命令されてた。だから誰も傷つける心配がなかったの」
「坑道で言ってたな。洗脳が解けたって」
「うん。これを頼めるのはジェイだけなんだよ。キミは、はぐれものじゃないから」
「なるほどな。……ま、断るわけにもいかねぇか。ローレンスはどっか行っちまったし。いいぜ、行ってくる」
「ありがと!」
「伝言はあるか?」
「手紙も入れてあるから、それを友達に渡して。体が人形の子」
「おう。さくっと行って帰って来るわ。……あぁ、そうだ。念のためバリーにも用事が無いか聞いとくか」
ジェイとマリーは、集落の中にある、倉庫へ入った。その中では、バリーが二体のなにかに”教育”をしている最中だった。
「いいか、まずは力加減を覚えろ。覚えないと殺すぞ」
「ひいっ」
「お、おぼえる!おぼえる!」
「このコップを壊さないように持て。お前達の力は強すぎる、人間に合わせろ。……触覚の無い俺でも出来るんだ。焦らなくていいから、やってみろ」
「バリー、ちょっといいか?」
ジェイがバリーに声をかけ、教育係はマリーに交代した。二体のなにかは心底ほっとした顔をして、そっとコップを握った。コップは粉々に砕け、なにかはバリーを見て怯えたが、彼はそれに気付いていないふりをして、倉庫から出た。ジェイとバリーは集落から少し離れた森の中へ行くと、木の切り株に腰をかけ、集落から持ってきたタバコにマッチで火をつけた。
「自然の中で吸うタバコが一番美味ぇ。しかしまぁ、ちょいと不便になっちまったな」
「なにがだ?」
「森のキノコが無くなっちまった。小さいキノコは集落で栽培して、ランプ代わりに使ってるがよ。あのでかいキノコは、人の手で育てるのは無理だろ。街灯の代わりに丁度良かったんだけどなぁ」
「結局、あの二体はなんなんだ。なにか分かったのか?」
「なぁ~んにも分からん。ローレンスにも意味不明だってよ。魔女がどうとか言ってたが、正体不明だ」
「……それで、俺になにを聞きたい?」
「一応聞いとくけど、街に用事なんてないよな?」
「……ないな」
「おまえ、どこからどこまで正気じゃなかったんだ?デザイアに来た時からか?」
ジェイは一本目のタバコを吸い終えると、吸い殻を腰につけている小さなポシェットの中に放り込み、二本目に火をつけた。バリーも一本目を吸い終え、ジェイはポシェットを渡したが、バリーは吸い殻の時間を戻し、再び一本目を吸い始めた。
「マジかよ。便利すぎるだろそれ」
「地球でのことは覚えているが、デザイアに来てからの記憶が曖昧だ。いつ正気を失ったのかも分からん」
「そうか。……デザイアには、他人の過去を無暗に聞かないって暗黙の了解があるんだ。だからこれ以上は聞かねぇよ」
「そんなルールがあるのか」
「デザイアに来るのは、強い欲求を持った魂だ。ここに来るほどの欲求ってのは、それなりにキツイ体験をしてる奴じゃないと、生まれねぇもんなんだよ。結構な不幸を背負った人生だったとかな」
バリーは自分の地球での記憶を思い返し「なるほどな」と納得した様子だった。
「話したくない過去を持っている奴が多いのか」
「そういうことだ。ま、たまに信念の強さからデザイアに来る奴もいるがな」
「お前はそうなのか?……いや、聞かないほうがいいか」
「構わねぇよ。たぶんおれとおまえは、似た者同士だろうしな」
「……そうか?」
「おまえの非常識、大切な人を助ける為の力だろ?その時間を戻す力」
ジェイはそう言うと、自分の指にはめている指輪をバリーに見せた。昨日亀裂が入ってしまったものは修理に回し、他にいくつも作ってある、予備の指輪を右手の薬指にはめていた。
「この指輪は、大切な人を守るために作ってんだ。まだ完成してなくて、これは試作品なんだけどな」
「誰だ?」
「……家族だ。息子と妻がいたんだ」
ジェイは指輪を外し、それをバリーに渡した。銀で作られた指輪で、よく見てみると、内側に文字が彫ってあった。
「これはなんと書いてある?言語はあまり勉強していなくてな」
「英語だ。『希望』って意味の言葉でな。……息子の名前なんだ」
「なんと読む?」
「HOPE。妻と二人で考えて、息子にそう名付けたんだよ」
次回へ続く……