金曜日、近付く距離
一人でボソッと呟いて、しみじみ浸っていたら
「翔!朝ごはんできたぞ!起きろ!」
(あーあ、台無しだ。)
何も言わず1階に降りて、父ちゃんを睨みつけた。
「おはよう!おーおーなんだなんだ?今どきの中学生は挨拶もできんのか?こわやこわや。これだから反抗期はめんどうなんだ。」
と言い捨てながら、米と味噌汁と惣菜を食卓に並べていた。
「おはよ」
「お!なんだ言えるじゃねーか。良かった良かった。お前も母ちゃんいた時はそんなんじゃなかったからな。んまー、わりぃー、俺は母ちゃんのようにはできん。お前を早く大人にするだけで必死だ。」
(そんなことわかってるよ。俺だって早く大人になりたい。父ちゃんばかりに苦労はかけさせられないから)
口にはしない。口にしたら調子に乗りダル絡みしそうな父ちゃんが嫌だから。
「そういや、今日も仕事遅いと思うから適当に作っといてくれ!」
「わかった。」
ご飯を食べ、学校の支度をして、歯磨きで鏡へ
(髭剃りしよう)
翔は珍しくカミソリで髭を剃った。身だしなみなんて気にしたって仕方ないって思ってたけど、今は違う。ほんの少しでも睦月ちゃんの隣にいて恥ずかしくない自分になりたいと思ったのだ。
そうこうしてると時間が思ったよりかかってしまった。
(やべ!)
「いってきます!」
と、玄関を開けるとやはり睦月ちゃんはそこにいた。
ちょっとムスッとした顔で
「せんぱーい!遅いですよー!」
「ご、ごめん!ちょっと手間取った(汗)」
「あ!先輩!ヒゲ剃ってる!!偉い!それで、遅くなったんですね!なら許します( *´꒳`*)」
些細なことに気づいてくれる彼女の洞察力とそんなことで許してくれる優しさにただ心が温かくなった。
「ありがとう。俺ももう少し早く起きるようにするよ!」
「そうしてくれると嬉しいかもです♪♪」
2人仲良く並んで歩き出した。手を繋ぐ訳でも、身を寄せ合う訳でもないが、ただ彼女の歩く速度に合わせるようにゆっくりゆっくりと
「そういえば、先輩の初恋っていつですか?」
「初恋かー」
(今だよ)
「んー。恋したことないかもー」
(今です)
「睦月ちゃんは?」
「私ですかー?えー?、、、内緒です♪♪」
口元に人差し指を当てて秘密のポーズをとる睦月ちゃんが可愛すぎて鼻血が出てきそうだった。
「そういえば、先輩!明日って休みじゃないですか!!土曜日♪♪土曜日♪♪何か予定ありますか?」
「何も無いよ?」
「え?!ほんとですか?!それじゃー、街ブラしませんか??」
「え?街ブラなんてしたこと無いよ(汗)何するの??」
「んー。カフェ行ったり、ゲーセン行ったり、お買い物したりですかねー。」
「ほーほー。実に興味深い。行く?」
「いくいくー♪♪行きましょ!せっかくの休みなんだから楽しまないと(*´∀`*)」
平日だけ、カップルを装っておけばいいはずなのにまさか、土曜日も日曜日も睦月ちゃんに会えるなんて。ん?これってもしかして、デートってやつですか?
「え?デートだよね?」
「まーまー、固いことは気にせずに楽しみましょうよん♪♪」
否定もしないってことはデートって事でいいんだよなと思いながら、ブサイクな笑みを撒き散らしていると
「変なことしたらぶっ飛ばしますからね( ͡ ͜ ͡ )」
と、睦月ちゃんはニコニコしながら言った。初めて睦月ちゃんのニコニコが怖く感じたw
「それじゃ、先輩!またお昼休みに!あ!私が迎えに行くので、待ってて下さいね」
「わかった!ありがとう!」
そう言って2人は下駄箱でバイバイし、それぞれの教室に向かった。
席に着くといつもは静かなのに男たちが寄ってたかって僕に話しかけた。
「おいおい、翔!いつから付き合ってんだよ?!」
「どっちが告ったんだ?!」
「どこまでやったんだよー教えろよー」
(うざいな)
こんな風にチヤホヤされるのは初めてでかなりしんどかった。話を全部はぐらかすのも大変で、男たちは僕の適当な返答にいちいち
おーーーー
と、言ってくるのだ。ダルいw
そんな様子をイライラしながら聞いている子が
「あんなキモおっさん、どこがいいんだか。彼女の目腐ってんじゃない?いっそ直接聞いたが早いな。いつか言ってやろ。目覚ませって」
少し慣れたことと、父ちゃんの言葉が響いたのとあり、なんだか久しぶりにちゃんと授業を聞いた。案外ちゃんと聞けば授業も面白いもので、受験を控えた今、恋だけに集中なんてしてられないのだ。いつか好きな子といろんなとこに行けるように今は頑張らなきゃ。
お昼休みになった。
昨日みたいに教室中に響きわたるように声を掛けられても恥ずかしいと思い、教室の前で待つことにした。教室を出た瞬間に
「わ!!!」
びっくりして倒れてしまって、声をかけた人をみるとはやり睦月ちゃんだった。くそ、ケラケラ笑ってやがる。
「せんぱーい!倒れるのは大袈裟すぎーwwwリアクション芸人かなにかですか?笑笑」
「おいおい、人を倒しといてその態度とは解せぬな、お主」
「あははは!ごめんなさい!」
全く悪びれる様子もなく、笑いながら謝る睦月ちゃんが可愛くて、末期かなw
2度目の屋上へ。
「じゃじゃーん!今日はこんな感じです♪♪」
「おぉ!」
野菜炒めにミニトマトほうれん草のお浸しにタコさんウインナーと卵焼き。やっぱり野菜炒めはちょっと焦げてるなwそんなとこをみると可愛くて可愛くて
「おいしそう!いただきます!」
やはり、卵焼きから食べたくなって口にする。そしたらあの味で僕の心が満たされていく。泣きそうになるのを必死で堪えていると、
「お!今日は泣かないんですね!先輩、偉いです!」
パチパチと拍手をする睦月ちゃんがなんだかニヤニヤしているように見えた。
「何度食べても染みるねー」
と、思わず言ったら、睦月ちゃんがゲラゲラ笑いだした。
「先輩、そのセリフどっから持ってきたんですか??wほんと面白い♪♪」
「あ!」
「ん?どした?」
「先輩!もしかして、あーんってして欲しいんでしょ?」
ぶっ!!
ご飯を食べていたのに吹き飛ばしてしまった。
「いやいやいや!そこまではちょっと!」
「なに恥ずかしがっちゃってるんですかー?ほら!恋人なんだからそれぐらいしないとね。ほら、先輩、あーん♡」
そう言って睦月ちゃんが自分の箸でタコさんウインナーを取ると僕の口へ近付けてきた。
(えーーーーー)
そのお箸は、、、うわ、わわわ、え?いいの?パクリ
「どうですか?タコさんウインナーもおいしいでしょ?」
「おいしい。おいしいんだけど、そのお箸、睦月ちゃんので」
「な?!」
2人とも顔が真っ赤っかになった。タコさんみたいに湯で挙げられ真っ赤っかになったみたいに。初めての関節キス。ドキドキして味なんてわかんない。
「意識させないでくださいよ!先輩!恥ずかしくなっちゃったじゃないですか!ふん!!w」
照れ隠しなのかなんなのか睦月ちゃんは口いっぱいに空気を入れ膨れ上がっていた。普通の人が見たらブサイクな顔しやがってって思うのだろうが、それすらも僕にとっては愛おしくて
「ごめん!でもすごく嬉しかった。ありがとう!」
「ふーんだ(˘^˘ )プイッ」
そのまま全部食べ、
「ご馳走でした。本当に美味しかった!ありがとう(*´∀`*)」
「お粗末さまです♪♪」
と、ご丁寧にな挨拶をしてくる睦月ちゃんがなんだか面白くて笑ってしまったっけ。
「そうだ!先輩!!今日、お家に遊びに行ってもいいですか?私晩御飯作りますよ!!」
「え?いいの??すごく嬉しいんだけど、お母さんとか心配しない?」
「ママは大丈夫です!友達の家にちょっと遅くまでいるって言ったらOKしてくれる人なんで( *˙ω˙*)و グッ!」
(そういえば父ちゃん、帰ってくるの遅くなるって言ってたな)
「いいよ!うちの父ちゃんも帰り遅くなるって言ってたから一人で何か作って食べる予定だったし、作って貰えるなら嬉しい!」
「了解です♪♪そしたら、部活後そのままお家にお邪魔させて頂きますね!あ、でも、食材買わないとですね♪♪」
「食費は貰ってるから大丈夫!帰りにスーパー寄って買って帰ろ」
「ハ━━━ヾ(。´囗`)ノ━━━イ」
こうして、昼休みが終わり、午後の授業を受け、部室に行った。
「そうなんだ!睦月ちゃんって転校してきたんだ!」
「通りで見たことないなーって思ったよー。」
「私にはお見通しだけどね」
「そーなんです!それで、たまたまこの部活を知って、楽しそうだなって。ちなみに今までどんな怪奇現象を解決してきたんですか?」
「雨の日、全ての傘が消えるという謎の現象や燃やすはずの笹が何故か学校に戻ってきてしまう現象なんかだね」
「わー!なんか凄そう♪♪私も解明してみたいなー♪♪」
「ふっふっふっ、睦月ちゃんにはまだ早いぞ!そんな簡単に解明できるほどこの学校の怪奇現象は楽ではないのだ」
と、話に割り込んでいったものの、8割ぐらい解明してきたのは大智とミカなのだが(苦笑)
「先輩お疲れ様でーす」
「先輩ご無沙汰でーす」
「先輩ご飯はまだでーす」
「先輩お風呂もまだでーす」
どのボケに突っ込めばいいのかもうわからないのでいったんシカトしようと思った。なんか一人普通に加わってるしw
「お疲れ様!みんな!日曜日の情報は収集できたか??」
「そうですね!たこ焼きに何故かタコが入ってない模様です!」
「はい!それ!定員のいたずら!タチ悪い!」
「はい!鉄砲のたまが当たっても物が倒れないと苦情があったみたいです!」
「はい!それ、ボンドな!ボンドのせいな!店を速攻で訴えよう!」
「はい!竹やぶの中で何かわさわさ音が聞こえるみたいです」
「はい!それはみなまで言わせるな!ミカ!急にぶっこむな!」
「はい!カップルのイチャイチャが止まりません!」
「はい!それ以上言わない!睦月ちゃんまで悪ノリしない!」
なんだか一人家族が増えた気持ちになった。迎え入れたと言うべきなのか。凄く自然に睦月ちゃんはうちの部に溶け込んでいた。
「事件は会議室で起きてるんでねー現場で起きてるべ!」
ということで、ノープランで日曜日の初夏祭りは行くことにした。集合時間と場所を決め、どうか怪奇現象よ!起きてくれと願い、今日の部活は終了した。これが部活かどうかを問おうとする君!そこに何の意味がある?意味なきことへの挑戦が新たな価値を産んできたのだ。
校門を出て、みんなでバイバイしてると、
「あれ?昨日も気になったんですけど、翔先輩と睦月ちゃんて一緒に帰ってるんですか?」
「一応、カップルだからね」
誇らしげにえっへんしてると
「今日はお家で一緒に夜ご飯食べるんですよねー♪♪」
「え?」
大智と雪はきょとんとして顔を見合わせた後、険しい顔になり頷き合い、大智は僕に雪は睦月ちゃんに寄って行き、2人を遠ざけて
「翔先輩!何しようとしてるんですか?!相手は1年生ですよ!つい最近まで小学生だったんですよ?!」
「え?何ってご飯作ってもらって、それ食べようとしてるだけだよ(汗)」
「本当ですか??下手な気起こさないで下さいよ!うちに新しい子入ってくれたから本当に大切にして下さいね!」
「大智ー。言われなくてもわかってるよ。それに僕が下手な気を起こせるとでも思ってるのか?」
「確かに、、、」
みくびられても困る。僕が何か出来るほどの肝の据わった男ではないということ。わんちゃんなんて考えてない。これはあくまで恋人のフリなのだ。自分でも悲しくなってきた。
向こうも話が終わったみたいで、こちらに向かってきた。
「それじゃ、くれぐれも何もないように!」
「心配し過ぎだって(汗)」
「日曜日に!先輩、睦月ちゃんまたね!」
2人とさよならした。その時、大智の目が一瞬曇ったように見えたが気のせいだろう。僕と睦月ちゃんはスーパーに寄った。田舎なので品揃えは良くないが、野菜の質はいい。どんな野菜も新鮮で美味しいのが田舎の良さだ。
「先輩!いっぱい食べれるようにカレーにしようと思うのですが、どうでしょう??」
「いいね!カレー好きだよ!」
「それじゃ、決まりですね♪♪」
人参、玉ねぎ、じゃがいもにバラ肉とルー隠し味にりんご等を買った。
なんだか、こうやってスーパーで一緒にご飯の材料買ってるって夫婦みたいだなって思ってると、
「せんぱーい!ふうふかんけいはまだはやいですよーんw」
と、また見透かされてしまった(苦笑)。
家に着く。真っ暗だ。よし!誰もいない。
「どうぞ!」
睦月ちゃんを招き入れた。
「わー!ひろーい!!!」
睦月ちゃんは目を輝かせながら当たりを見渡していた。
「もともと3人で暮らしていたからね。2人となった今では広すぎて」
「先輩!お仏壇いっていいですか?お母さまに挨拶したいです。」
「え?いいよ。」
(そんなことしてくれるんだ)
チーン
睦月ちゃんが母ちゃんの写真に向かって拝んでくれた。こちらが僕の彼女ですと母ちゃんに紹介できたらどんなに嬉しいことか。。。
「ありがとうございます!早速、お料理しますね!」
「こちらこそ、ありがとう。おいらは他の家事してるよ!」
と、言って、洗濯物畳んだり、風呂掃除したり、自分の部屋を一応片付けたりしていた。
1階からはトン!、トン!、トン!っとちょっとテンポの遅い包丁の音が聞こえてきて、本当に最近料理頑張りだしたんだろうなって微笑ましく想えた。
どんな感じかなーって料理姿を見に言ったら
「え?!ちょっと待って!睦月ちゃん!!!リンゴ角切りで入れないでー!!!!」
「え?!りんごってこうやって入れるんじゃないんですか??」
「違う違うー!そのまま入れちゃうとリンゴが具として登場してきちゃうよwww」
「あ、そっか!笑」
「りんごはね!すりおろしで削って入れるんだよー。」
「勉強になります!先輩!!」
意外と天然というか知らないことがまだまだあるというか、初々しさがたまらないなって微笑んでしまった。
「そんなに笑わないで下さいよー。誰だって失敗することあるんですからー!むーーー!!」
「ごめんごめん。なんかついつい。かわいいなって」
「え?」
「あ」
またしても2人で茹で上がっていた。そんな中、ピンポーン
(誰だろ)
「ちょっと行ってくるね」
(なんか誤魔化せた!ラッキー)
と、玄関に行くと!
「ただいま!!」
!?
「と、父ちゃん??え?なんで?今日遅いって、、、」
「いやー、なんか思ったより会議が早く終わってな!ラッキーー!お!なんかいい匂いするな!カレーか?!」
「ちょちょ!ちょっと待って!」
「こんばんは♪♪」
「え??こ、こんばんは。ちょっと翔くんいいかな??」
父ちゃんが俺の背中を引っ張って別室に連れていった。
「おいおい、お前も隅に置けないな!なんだあの可愛い子!昔の母ちゃんにそっくりじゃねーか!」
「いや、うん。えっとー。」
「初めまして!翔さんとお付き合いさせて頂いている睦月と言います。よろしくお願いします♪♪」
「お、お付き合いしてらっしゃるんですね(汗)これはまたご丁寧にどうも。もしかしてカレーは睦月ちゃんが作ってくれてるの?」
「はい!そうです!良かったらお父様もご一緒にどうぞ!先程、翔さんからリンゴは角切りで入れるものではないとご指摘を受けたばかりですが、味は美味しいと思います!」
「ちょちょっとーー(汗)」
「がははは。可愛い上に面白いとまできてやがる!おい!翔!わりーが俺も食べさせてもらうぞ」
「う、うん」
まさかの展開だった。父ちゃん帰って来るなんて、、、せっかくの新婚生活気分が、いや、みなまで言うでない。
チーン!
「ただいま」
「お母様お綺麗な方ですよね。」
「あー。俺には勿体無いぐらいにな。いい母ちゃんだったよ。んま、睦月ちゃんも母ちゃんに引けを取らないぐらい可愛いな!がははは」
睦月ちゃんは顔を真っ赤にしながら
「いえいえそんなことないですよ!お母様の方がよっぽどお美しいです!私なんて足元にも及びません!!」
「それを決めるのは睦月ちゃんじゃなくて翔かもな!なぁ!翔!!」
(無茶ぶりしてくんなよ)
「う、うん。実にかわいいよ。」
そう言ってみたものの。顔が赤くなることにもはや違和感はなかった。
「いただきマース!」
3人での食事。なんだか懐かしい。母ちゃんがいた席に睦月ちゃんは座り、父ちゃんにビールをつぎながら、お疲れ様です。と、なんとも素晴らしい対応をしてくれていた。
「かぁー!こいつはうめーや。母ちゃんの味になんか似てんな。翔の料理じゃ物足りなかっからなー。久しぶりに心に染みるわ。がははは」
(うるさいな)
「ほんとですか?!嬉しいです♪♪頑張って作った甲斐があります✩.*˚いっぱい作ったのでどんどん食べて下さいね。先輩も遠慮しちゃだめですよ。」
そう言われ、親父の陽気な笑い声にうんざりしながら、カレーを一口加えた。
(やばい。泣きそう。)
睦月ちゃんは天才なのかな。なんでこうも睦月ちゃんが作る手料理は母ちゃんの味がするんだろ。満ちるという言葉がこんなにもしっくりくるのは何故?必死で泣きそうなのをこらえながら
「本当に美味しい!マジで母ちゃんの味するよ。ありがとう。いっぱい食べるね!」
「へっへーん!私もしかしたら天才かもですね。えっへん♪♪」
「おーおーいいご夫婦だこって!これは眩しすぎて見てられねーや。がははは」
そう言って父ちゃんは既に2杯目をおかわりしようとしてた。それを自然に貰い受け、ご飯をよそい、カレーをかけ、
「はい、どうぞ!」
「はい!100点!がははは」
父ちゃんが嬉しそうだった。こんなに笑顔な父ちゃん久しぶりに見た気がする。俺とふたりじゃ小言しか言わないからな。一人女性が加わるだけでこんなにも食卓が彩るとは。睦月ちゃん。さすがです。
結局2人して3杯たいらげてしまった。皿洗いはやっとくから、2人で仲良く部屋にでも行ってろと父ちゃんがなんか優しかった。
「あ、でも君らはまだ未成年だ。キスまでだな!がははは」
(こういうとこ余計なんだよなー)
「またー♡」
と、何故かニヤニヤしてる睦月ちゃんが気になり、いこう!と手を繋ぎ、2階へ
バタン
初めて女の子を部屋に入れた。こんなシチュエーションが自分の人生にくるなんて思ってもみなかった。
「あれ?先輩?キスしたいんですか?」
「ちょ、ちょっと!冷やかさないでー」
「www」
完全にからかわれていた。さっきの父ちゃんの悪ノリに乗っかってるのが目に見えてわかる。
どこに座ればいいかなーと周りを見渡していて、確かに。座るとこなんて用意してねーや。いつもベットを椅子がわりにしてたからな。
「こ、ここでいい?」
ベットを指指した。
「え?あ、う、うん」
自分で言ってて恥ずかしくなった。いやいや。何もしませんよ!神様!信じてください!座る所がないだけなんです!
そう思いながら2人してベットに座った。
「先輩もなかなか大胆ですね。まさかこうくるとは思ってませんでした!」
「いやいや、座る所がないだけだから!何もしないから!」
「ほんとですかーー??あやしーー」
赤らめていた表情がだんだんにやけている睦月ちゃんが絶対何か企んでるんだろうなと感じた。
「お父様からも許可頂きましたし、キスでもしてみますか??」
「いやいやいやい、、、もうからかわないでー」
「あははは。ほんと先輩かわいい。なんだかこう、母性ってやつですかね。くすぐられちゃう」
「本能ってやつですか?」
「どんな質問ですか?あははw」
ようやく、吹っ切れたというか普通に戻れた気がした。でも、他の男子だったらそう。こう、んー。なんでもない。
「先輩の昔の写真とか見して下さい♪♪」
「え、いいよ?」
「やった♪♪」
「部屋に置いてある小学生までの写真を渡した。」
「おーおー。先輩、顔変わりませんねー。」
「昔から老け顔なんですよー」
(言わせるな。)
「あははは。もう!そんなこと言ってないじゃないですか!笑。あ、お母様。ほんと綺麗✩.*˚」
「母ちゃんは優しいし、綺麗だったよ。本当にいい母ちゃんだった。だから俺もそんな風になりたいなって、それに母ちゃんの分まで生きなきゃなって、やっと思えるようになってきたんだ。」
「先輩、、、強いですね。うん。かっこいい。それに先輩は誰よりも優しいですよ!それは私が保証します!」
「え?あ、ありがとう。か、かっこいいなんて。言われたことないや。こんなブサイクかっこいい訳ないじゃん」
「せーんーぱーいー!!だめですよ!!!見た目だけがかっこよさじゃないですから!そんなことを知らない人が多すぎなだけですから、ほんとみんな見る目ない。」
「いやいや、褒めすぎwそんなに褒められてもマジでなにもあげれるものないから」
「えー。じゃぁー」
睦月は辺りを見渡した。
「この砂時計ください♡」
「え?こんなんでいいの?全然いいけど」
「やった!大切にしますね♡わーい!砂時計ゲットだぜー♪♪」
「ほんと睦月ちゃんって無邪気だよなー」
「えー?それ褒めてるんですか??ガキっぽいってことですか??」
「いやいや、そういうんじゃないけど、なんだろ。うん。見てて癒される。」
「先輩!恥ずかしいセリフ禁止ですw」
「ご、ごめんw」
「おーい!そろそろ遅いからーもう帰るんだぞー!キスはしたかー?がははは」
確かに、もう8時だ。さすがに遅すぎる。相手の親も心配させてしまう。それを察してか睦月ちゃんがお母さん宛に[今から帰るね!]とLINEしていた。
「先輩!今日も楽しかった!あ!明日は、待ちに待った休みですね!そして、街ブラ!!たっのしみー♪♪」
「うん!俺もめちゃくちゃ楽しみ!送ってくよ!」
「大丈夫です!すぐそこだから、一人で帰れます!心配しないでください!変なやつ来たらキックしますから!」
「ただ、変ってだけで蹴らないでね」
「は!確かに!!」
「ずっと喋りたくなっちゃうから、ここで終わろ!おやすみ!睦月ちゃん!また明日」
「はい!明日も楽しむぞー♪♪それじゃー先輩!おやすみなさい♡」
と、睦月ちゃんは言い、楽しそうに帰って行った。家に入ると、父ちゃんが、
「おう、翔。ちょっといいか?」
と、なんだか、真剣な面持ちで言ってきた。
縁側に2人並んで立っていた。
「あの子、睦月ちゃんか。いい子だな。」
「うん。」
「どこまでやったんだ?」
「うざい」
「なんだか、母ちゃん見てるようで本当に楽しかった。あの子はいいぞ!でかした!翔!!」
「はいはい」
(彼女じゃないんだって)
「俺もな。母ちゃんと付き合うのは本当に苦労した。俺がブサイクだったから本当に高嶺の花だった。何度も何度も告白しては振られてたわ。」
「何の話?」
「大切にしろよ!ま、そう言わなくても翔なら大切にできるってお父さん信じてるから」
「当たり前だよ」
大切だ。僕にとって睦月ちゃんは本当に大切な存在だ。こんなにも誰かを愛おしく思ったのは初めてだ。
「父ちゃん」
「ん?」
「明日、デートするからお金ちょうだい」
「は?」
父ちゃんは黙って僕に大金を渡してくれた。中学生の僕にとってはびっくりするぐらい。
「いいか!変なことに使うんじゃねぇーぞ!あと、お昼代ぐらい男が奢れ!割り勘なんて情けない真似するな!」
「ありがとう。」
「あと、睦月ちゃんがそれで困ってたら父ちゃんが昨日はご馳走様でしたって言ってたって伝えてくれ」
親父の笑顔がなんだか久しぶりに嫌な気がしなかった。むしろブサイクなはずなのにかっこよく見えた。あぁ、そうか、かっこいいとはこういう時にも使うのかな。
明日、何着ていこう?部屋で自分の私服をじーっと見ている。どれも冴えないオタクのような服しかない。困った。どれを着てもいまいちなんだろうな。てか、デートなんてしたことないから服なんていつも適当だし、興味なかったから。やばい。こんな格好じゃダサくて一緒に歩いてもらえない。愕然とした。
ティロリロリン♪♪
あ、LINEだ。
[先輩!明日、楽しみですね♪♪
たぶん、服のことでお悩みだと
思うので、お伝えします。
明日、一緒に洋服選びましょうね✩.*˚]
[なんでバレたの?!]
[先輩のことならわかりますよ♪♪]
[ありがとう!ほんと何着て
いいか全然わからなくて(汗)]
[大丈夫です!どんな格好でも
先輩は先輩ですから✩.*˚]
嬉しいな。こんなにも気遣ってくれるなんて。翔はしみじみと天井を見上げた。幸せとはこういうことを言うのかもしれない。例え偽の恋だっていいじゃないか。この恋が恋と呼べるなら。どうだっていいじゃないか。
何の迷いもなく、ゆっくり眠れた。もし睦月ちゃんからのLINEが無ければ、ずっとあーだこーだ考えて寝付けなかったよなって今なら思う。