6 美術部のふたりと残りのふたり
春の推理2024にエントリーして連載しています。
中学生男子が主人公の推理物です。
語り手は弾。中心人物であるユキの親友です。ユキからだけDDと呼ばれています。
弾の幼馴染の茜、その友達の麻衣が仲間になりました。
最後までお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
放課後は俺とあかねは部活があり、その間、ユキがふたりの美術部員に話をしに行ってみることになった。
うまい具合にふたりきりになれればというので、まいが協力しようかと言い出す。
「いや、いいよ! あ、今日の図書カウンター当番誰? まい、知ってるか?」
「今日は紗枝先輩と七瀬ちゃんかな?」
「あー、了解。ありがとう。それなら大丈夫! なんとかなりそう」
「じゃあ、私今日、部活ないから図書室いるね。何かあったら来て」
「まいの部活って?」
「家庭科クラブ」
国語科準備室から出て2年の教室に戻っていく途中、俺は近藤先生に呼び止められた。
なんだろう?
近藤先生は呼び止めたのにこっちに来ず、仕方がないから俺だけ先生の方へ走って行った。
ユキ達はその場でこちらを見ている。
「代田、あの下駄箱の付箋、なんだ?」
「あ、ああ、あれ……。えーと、2日前に変な封筒が俺の下駄箱に入ってて。
思い当たることないないから、人違いじゃないかな? と付箋で返事してみてんです」
「その封筒はどうした?」
「……まだ手元にありますけど」
「学校へは届けていないんだな?」
「……はい、今のところ届ける気はありません。何か次のことが起きたらわかりませんけど」
「もしかして、園山と相談してるのか?」
「……はい、そうですけど」
「何かあったら相談に乗るからな」
近藤先生はちらりとユキ達の方を見て離れて行った。
ちょっと意外だった。
学校とか担任に報告しろって言われなかったから。
俺はユキ達の元に戻った。
ユキが近藤先生の去って行った方を睨んでいる。
「近藤先生、なんだって?」とあかねが言った。
「付箋のことを聞かれたから、2日前に変な封筒が入っていて、心当たりがないからその返事してみたと話した」
「えっ、じゃあ学校に脅迫状提出するの?」
「いや……そういうのじゃなくて、何かあれば相談に乗ると言われた」
「変なの」
「近藤は信じない方がいい」
ユキが急に言ったので俺とあかねとまいはびっくりする。
「これしか言えないけど、近藤は残りの5人のうちのひとりだから」
「え、じゃあ、脅迫状との関りがあるかもしれない?
だから弾に声かけてきた?」とまいが小さい声で呟く。
「近藤先生、人気あるのにね~。そうなんだユキとは相性悪いんだ」とあかねが言った。
「相性とかじゃなく……、ま、お互い良くは思ってない」
下校時にまいとユキが図書室で待ち合わせして、俺達と合流して下校する約束になった。
放課後、俺とあかねは部活へ。
下駄箱にまだ付箋が残ってる……。下校時にユキが剥がしてくれることになっている。
まいは図書室へ。ユキは美術室へ向かった。
部活を終えて部室を出ると、ユキとまいが部室前で立ち話をしていた。
「待たせた?」
俺が声をかけると、その声を聞いてあかねがあわてて靴を履きながら走り出た。
「うわっ!」
俺は避けようとして転びそうになる。
「弾、邪魔!」とあかね。
ひでーな。
「……その目どうしたの? まい、泣いた? ユキ、あんた、なにかした?」
あかねがユキに詰め寄り、まいがそれを止めようとしている。
「あかね! 違うの。あのね、紗枝先輩が……」
「紗枝先輩って3年の?」
「うん、図書委員の、今日カウンター当番だった」
紗枝先輩、3年のめっちゃ美人で有名な図書委員の先輩。
「ユキが図書室に来て、一緒に帰ろうとしたら、私だけ呼び止められて……」
「行くなって止めたんだけど……」とユキが申し訳なさそうに言う。
「奥に連れていかれて、ユキと付き合ってるのと聞かれて……。
告白して振られたんだけど、友達になったと答えたんだ……。
振られたのに図々しいとか、あんたみたいのが雪人にまとわりついて調子に乗るなとか言われて……」
「だから、行くなって言ったのに……」
ユキがぼそりとまた呟く。
「美人が凄むと本当に怖いんだ……。悪役令嬢にいじめられるヒロインみたいなすごい体験してると思ったけど、本当に涙が出ちゃったよ。でも、大丈夫!」
「ごめん、怖い思いさせて」
ユキがまいに謝る。
「なんで紗枝先輩がそんなことになるの?」
あかねの疑問に俺も激しく同意だ。
あかねと俺にじっと見られて、ユキは自分の頭をがりがりかき回す。
「あー。もう! 今日もDDん家コース?」
「うちは大丈夫!」と俺が答えた。
あかねとまいも大丈夫と言うことでみんなで俺の家に向かう。
歩きながらユキが「付箋剥がしたから」と見せてくれた。
結局、誰も剥がさなかったんだな。
今日は家族の誰もまだ帰っていなかった。
「お邪魔します」とまいは小さな声で言って入ってきたが、「「お邪魔しまーす!」」とユキとあかねは大きな声で言って階段へ直行しようとする。
「おい! ちょっと待て! 今日は先に俺に着替えさせろ!!」
俺は3人を玄関に待たせて、先に部屋に入りあわてて着替えてから部屋のドアを開けて「いいぞー!」と呼んだ。
階段を上がってくる音が聞こえて、3人が俺の部屋に入ってきて、ユキが床に座るとその周りにみんな何となく座る。
さすがに4人もいると部屋が狭く感じるな。
「遅くなるといけないから手短に言うな。
まず美術部のふたり、ひとりは海人だったんだけど、違った。
海人は1年の図書委員で、その儂に対してちょっと態度がおかしくて……」
「七瀬ちゃんでしょ?」とまいが補足する。
「海人くんは同じ学年の図書委員の七瀬ちゃんが好きなのよね。
なのに七瀬ちゃんは、ユキが好きだから、ユキに対抗心があるのよね」
「海人には友達に脅迫状が送られて調べていて、美術室の古新聞にたどり着いたことを話した。
本当は先輩に送りつけられてたんじゃないですか? もしかしてそんなこと言って先輩が作ったんじゃ? とか憎まれ口をたたきながらも、もうひとりの圭先輩に話をするなら一緒に行ってくれるというのでお願いした」
「圭先輩? 図書委員の?」
まいがびっくりした顔をする。
「圭先輩ってすごくいい人だよ」
「うん、まあ、儂の話とりあえず聞いて。
圭先輩に海人と同じ話をしたら、驚いてて、でも、脅迫状を作ったことは認めてくれた」
「「「えっ!?」」」
「最後まで聞いて!
いたずらしてやろうと脅迫状を作成したのは圭先輩。だけど、先輩は違う人の下駄箱に入れたと。
誰のところへかは教えてくれなかったので、棒倒しの丸太のことも話してみた。
ふたりとも驚いてて、一昨日の昼休みのこと確認させてもらったけど、ふたりとも教室にいて、友達もいたから聞いてくれていいと名前まで教えてくれた。これで話はおしまいにして海人は帰ってもらった。
その後、もう一度、圭先輩とふたりで話をした。
口止めされてたことのその後をことを話して、脅迫状のことも学校へ届けることはしないという条件で教えてくれた」
ユキがそこで黙ったので思わず俺は「口止めされてたこと?」と言ってしまう。
「ちがうでしょ! 今は誰が脅迫状を手にしたかってことが先!」
まいが言った。
「そうなんだよなー、すっげえ入り組んできた。
まず、圭先輩のことから話す。うーん、これ聞いても誰にも言うなよ。自分の身を守るために教えるけど、約束してくれ」
俺達はお互いを見合って頷いた。
「なら……。圭先輩は近藤の下駄箱に入れたそうだ」
「! じゃあ、近藤先生が俺の下駄箱に?」
「んー、そうかもだし、でも、それなら声かけてくるの変じゃね?
もうひとりぐらい間に入ってるかも。
まず、脅迫状の件で儂を恨んでいる予想6人から外れた人を確認するな。
まい、海人、圭先輩、拓斗先輩の4人。
で、残ってるのが近藤と紗枝先輩」
「丸太の事故は?」
「あー、それはわからない。まいと海人と圭先輩は違うと思うけど、拓斗先輩は脅迫状とは別と考えると、俺を恨んでて事故だけ起こしたとしてもおかしくないよな。後は残りのふたり」
「残りのふたりはなんでユキを恨んでいるの?」とあかねが心配そうに言った。
「あー、近藤に口止めされてたけど、これはいいやもう言っちゃえ。
紗枝先輩と付き合ってる」
「誰が?」
「近藤が」
「「「えっ?」」」
「だから、近藤が紗枝先輩と付き合っていて、車で出かけているところを儂が見てしまった。
それも、ちょっと……、紗枝先輩の策略的なとこがあって……。
実は圭先輩も紗枝先輩と付き合ってた時期があって、これも儂、鉢合わせさせられてる……」
「ど、どういうこと? 俺、全然訳わからないんだけど」
俺の言葉にあかねが頷いてくれたので安心する。
まいは考え込んでいたが口を開いた。
「紗枝先輩、ユキとも付き合いたいの?」
「あー、あの人の考えてることはよくわからないんだけど……。
儂のことは3年前に会った時から、弟というか自分の物のように思ってるところがあるみたいで。
放っておいてくれる時もあれば、ストーカーみたいに付け回された時もあるし、自分が付きあっている人がいる時はなんでか紹介したがるし……。
でも男が1歳年上の女子が怖いなんてそんな事訴えてもなかなか、親すらも最初は理解できなかったみたいで……、あ、今はわかってくれてるから。
同じ中学に進学することがわかっていたから、なるべく用心してたけど、1年生の時はそこまで活動が被らなかったからちょっと平和だった。
2年生になったら同じ図書委員にはなってくるし……、よく行く本屋とか図書館になぜかいることがあって……。
圭先輩とデートしてる風な感じで本屋でばったり会ったし、近藤との車に乗ってるのも図書館の帰りにばったり、しかも紗枝先輩から声かけてくるし……。
なんだろう、理由はわからないけど、最近はなんとか儂に関わろうとしてるみたいで。
……だから、まいに攻撃してきたんだよ。
今日はカウンター当番ならあっちは動けないから、逆にこっちは学校内を動きやすくなると思ったんだけど、帰りの時のことまで考えてなかった。図書室の外で待ち合わせすればよかった。ごめんな」
「……そういうことがあるから、今まで誰とも付き合わなかったり、男子の弾としか親しくならないようにしてたの? もしかしてスマホを持たないのもそのせい?」
「いや、それだけじゃないけど。スマホは確かにクラブとか委員会とかでつながると面倒なことになりそうだから、持たないことにしてる。
だから、あかねとDD、まいのことちょっと気を付けて見てやって欲しい。頼むな」
「なんで紗枝先輩は、ユキに執着してるの?」と続けてまいが言った。
「執着……、うん、それが一番合ってる言葉かもな。
儂、母親しかいないだろ。
3年前、母に再婚話があって、それが紗枝先輩の父親だったんだよ。
顔合わせとかまで話が進んでいたんだけど、紗枝先輩がすごく嫌がって、再婚という話は無くなった。
その時、再婚は嫌だけど、弟は欲しかったみたいなことを言われて。
再婚しなければ家族ぐるみで付き合ってもいいと父親に言ったそうで、食事とか出かけるの一緒にと言われて、時々。
そのうち、弟というより……、儂と紗枝先輩が付き合えば、親は再婚あきらめるんじゃないかとか言い出して。
母はだんだん紗枝先輩の儂に対する態度がおかしいことに気が付いて、家族で出かけたりするのはやめてくれたんだけど……。
まあ、向こうが中学卒業するまであと半年だからと思っていたんだけどさ……」
「全然知らなかった……。言ってくれれば良かったのに!」
俺はユキにちょっと怒りを感じて、つい口調がきつくなった。
「DD、ごめんな」
「ごめんなじゃないよ! ユキは何も悪くない!」
あかねが俺に怒ったように言った。
「そうだよ。言ってくれなかったという悔しい気持ちはわかるけど、大好きな友達に言いにくいことだってある。それに言って、もし真剣に受け止めてもらえなかったらということもあったんじゃない?
ユキは弾のことがそれだけ好きだったってことだよ」
まいも俺とユキの気持ちを言葉にしてくれた。
「そっか、儂、DDとはずっと今のままの友達でいたいから、言えなかったんだ。
でも、今、全部話しちゃったよ。
あかねとまいも一緒に聞いてくれてありがとうな。
話せたら、気が楽になった……」
「うんうん、ここにいるみんな、ユキの仲間だから!」
あかねが言うと、ユキが照れたようにへらっと笑った。
その笑顔がとても子どもっぽくて、いつも大人っぽいユキが俺よりずっと小さな子どもに見えた。
俺はとても悲しいような励ましたいような心がキューッと痛いような気持になり、ユキに抱きついた。
ユキが「うわっ!」と言って、俺を抱えたままごろんとひっくり返った。
「ずっと友達だかんな!」
俺が叫ぶとユキはちょっと驚いたような表情で俺を見てから微笑み「ありがとう」と言った。
その時、「どうしたの?」と言う声がして部屋のドアが開けられた。
「弾と、ゆきとクン!? 何してんの? あ、あかねちゃんと……」
びっくり顔のねーちゃんにあかねがまいを紹介する。
「私の友達の大場麻衣さんです」
「お邪魔してますっ!!」
まいがぺこりとお辞儀をする。
「で、これはなに? なんで弾がゆきとクンを押し倒してるの?」
読んで下さりありがとうございます。
次も頑張ります!