4 古新聞を探せ
春の推理2024にエントリーして連載しています。
そんなに長くはならない予定ですが、最後までお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
ユキの頭の中のリストから大場麻衣は消えたらしい。
教えてくれないけど、後5人もいるらしい。
「うーん、2人が美術部で被ってるんだよな」
ユキが腕組みをして言った。
「えっ、じゃあ、これ、もしかして……」
あかねがもう一度脅迫状をしげしげと見つめる。
「あ、気が付いた?」とユキがあかねに言った。
「うん、これ、学校の美術室の古新聞じゃない?」
あかねが脅迫状の活字を指差す。
「微妙に絵の具がこすれたみたいなとこがあるし……。紙の色が古そうなのもあるし」
「そうそう、ここ、ちょっと色ついてるよな。絵の具がこすれたみたいに……。
それに生徒が触れそうな古新聞、美術室か……書道部とかか? そうすると美術室のが怪しいよな」
ユキは俺の顔を見て言った。
「明日、美術室の新聞調べてみよう。それから、美術部の2人に直接聞いてみようかと」
「了解! だけど、いつ調べる? 明日は剣道部あるから」
「そうだなあ。朝とか?」
「面白そう! 私も行く!」
あかねが口を挟んでくる。
「じゃあ、朝いつもより30分早く登校しよう。で、終わらなかったらひとりで放課後も調べるよ」
「大丈夫か?」
俺は心配になった。
「放課後なら美術部が数人いるだろうし、なんか理由考えとく」
水曜日の朝、いつもより30分早く家を出る。
昨夜のうちに、明日は朝練習があり、弁当ではなくてパンを買うからとお金をもらった。
家を出ると、あかねがいた。
「おそい! おはよう!」
「あ、おはよう。ほんとに来たんだ」
「うん、なんか面白そうだから。それにユキって変わってんね」
「でも、いい奴だろ? 裏表がないっつうか、そんな感じ」
「うん、話すとわかるけど……見た目とのギャップがえぐすぎる」
「あ、それな!」
「そういうギャップが好きって子もいると思うけど……。
ユキの場合、見た目でまず好感度上がってるから、後は下がるだけだわ。あれは」
「でも、見た目は本当にいいよな」
「男子でもそう思うの?」
「うん。思う」
ちょっと足早に歩いて行くと前にユキの背中が見えた。
「おはよ~!」
声をかけて走って行くとあかねもついてきた。
「おはよう!」
ユキが挨拶を返してくれた後、立ち止まりこちらを見て待ってくれる。
「な、優しいだろ」
「うん、下がった後、また上がるわ」
「何が?」とユキ。
「うん、なんでもない」
学校に早くついて下駄箱を見ると、まだ付箋が貼られたままだった。
「まだ気づいてないな」
「じゃあさ、これに気が付く人見てたらいいんじゃない? はがす人とか?」
あかねが気が付いたように言った。
「それはどうかな?」
ユキが考えながら続けて答えた。
「あかねはさ、自分が犯人で、登校してきて周囲に人がいるのにこの付箋に気が付いたら、どうする?」
「んー、周囲に人がいたら……そのままスルーかな。そうか、気がついても気が付かないふりするか!!」
「うん、そうだと思う。あわててはがしたりしないよな。きっと」
「じゃあ、これずっと貼ってるわけ?」
俺はちょっとため息をついて言った。
「今日1日は貼っておいてくれ。犯人が見ないと気が付かないし」
「わー、誰かに何も言われませんように……」
3人でそのまま美術室に行く。
鍵はかかっていなかった。
棚に積まれている古新聞のストックをそれぞれ一掴みずつつかんで、広げていく。
「あ、これ?」
2週目ぐらいであかねが声を上げた。
あかねの手の中の新聞。活字がいくつか切り取られている。
「……うん、これだな。文章的にも切り取られている文字が合う。あかねサンキュー!」
ユキにお礼を言われてあかねはうれしそうだ。
ユキはその古新聞をカバンにしまうと「じゃあ、教室に戻ろう!」と言った。
「いつ、その美術部の2人に話するの?」とあかね。
「うーん、タイミング見て、今日か明日には。それぞれふたりきりになれた時、聞いてみる」
あかねはD組、俺達はB組なので、教室前で別れた。
B組はまだ誰も来ていない。
運動部の朝練がある奴は教室ではなくて部室や校庭に直接行くから、俺達が本当に一番乗りだった。
「そーいえば、ユキの部活はなんか大会あるの?」
「あー、秋のゲーム大会? 春は新歓を兼ねてやったけど」
「それって校内のだろ。市の大会とかは?」
「あー、将棋とかやる奴はあると思うけど。人数合わせで声かかるかもな。
普通にゲームができるから、ボードゲーム部に入ったけど、特に大会は聞いたことないなあ。
剣道部は春と秋だっけ?
運動会の後だよな?」
「うん、秋の大会が運動会の後にある」
「じゃ、そろそろじゃん。また応援行くから教えて。
剣道って掛け声が特徴的で見てて面白い」
「それは人による!!」
ユキは本を出して読み始めた。
俺は立ち上がると「ちょっと下駄箱見てくるわ」と言った。
「あんまり気にしない方がいいぞ。
もし、誰かに何か言われたら、儂のせいにしていいからな」
「……なんて?」
「うーん、そうだなあ。知らない手紙が入ってて、儂に相談したら、こうしてみろ!と言われたとか?」
「あー、うん。それくらいなら言えるかも」
昇降口への階段のところに行くとあかねがウロウロしている。
「あんたも気になったの?」と俺を見て言った。
「あかねこそ、気になってるんだろ?」
「ユキにああ言われちゃうと納得なんだけど、やっぱり気になるよね……」
ふたりで下駄箱前まで行ってみる。
まだ付箋はある。
うーん、やっぱりなんか恥ずかしい。早く剝がしたい!
ちらほらと登校してきている人が増えてきて、その場に居づらくなった俺達は階段まで待避したが、結局、教室前の廊下まで戻り剣道部のことを話していた。
うちのクラスの男子数人が意外そうな表情をして廊下を通り、教室に入り、また廊下に出て見てくる。
「何? あれ?」
あかねが眉を顰める。
「あいつら、時々、ユキと俺をからかったりするから。
一緒にいないのが意外で、それに俺があかねといるのも意外なんだろ? きっと」
「へー。男の嫉妬?」
「なにそれ?」
「ユキと弾が仲いいのに嫉妬してるんじゃないの?
ユキって見かけはいいから、友達にしたいと思っている子、実は多そうじゃない?」
「それって、ユキのことけなしてるの? 褒めてるの?」
「んー、どっちもかな?」
「あかね! おはよう!」
声をかけてきたのは大場麻衣だった。
「代田くんも、おはよう!」
小柄でかわいらしい感じの大場が俺にも挨拶してくれる。
「まい、おはよう」「おはよ……」
「もう、剣道部! 声出てないよ!」
大場がかわいらしくにっこり微笑む。
『尋常じゃなくキレてた』とユキの言葉が頭に浮かぶ。
わー、こんな感じなのにキレるとかこわいけど、見てみたい気がする……。
「ふたりでいるの珍しいね」
大場が探る様に俺とあかねを見る。
「剣道部のことで……」と俺が言いかけた時、ユキが廊下に出てきた。
「DD! あかねもいたのか?」
ユキの言葉に大場の眉がピクリと動いた。
「あかね?」
「大場さん、おはよう。
そろそろ登校時間終わりだから、儂、下駄箱見てくるわ」
「俺も行く!」
俺はこの場にいない方が良さそうと判断してユキの後を追った。
ちらりと振り返ると大場があかねに詰め寄っている。
頑張れ、なんとかしろ、あかね! 俺はそっとこぶしを握って心の中で応援した。
下駄箱の付箋はそのままだった。
「なあ、まだ剝がしちゃダメか?」
「うーん、もう少し。クラブに行く時封筒に気が付いたんだろ?
それなら、下校までは貼っておいて欲しい」
「わかったよ」
階段を上っていくと、B組の前で大場が待ち構えていた。
「園山君、ちょっと話があるんだけど!」
「何?」
「何であかねと仲良くなってるの?」
「昨日、話をしたから」
「なんの?」
ユキは大場の後ろでこちらに向かって手を合わせているあかねをちらりと見てから言った。
「確認したいことがあったから。その時にあかねって呼んでいいと言われたから」
「答えになってない」
その時HRの予鈴が鳴った。
「じゃあ」とだけ言って教室にさっと入ってしまうユキ。
俺はタイミングを逃し、大場につかまった。
「代田君、あいつに伝えといてくれるかな。昼休みに話があるって……」
ひー、怖いよ、大場!!
俺の表情を見て大場は手を離すとあかねと一緒にD組の方へ去って行った。
読んで下さりありがとうございます。
次も頑張ります!