束の間の深夜とお姉さん
時刻は深夜1時、ログイン数も減り学生のプレイヤーは余程じゃない限り限り寝てるだろう。僕はそんな時間帯に1人の女性プレイヤーとの雑談を楽しんでいた。
「それでその後うっかりしてて…」
「ふふ、ダメじゃないですか。私も同じミスしてしまいそうになっちゃいますよ」
その女性プレイヤーの名前は真矢、黒いロングヘアに、上品に笑って口元にホクロがある、僕と同じ普通のプレイヤーの1人だ。
「あら……もう現実に帰らないといけない時間になってしまいました…もっと貴方と話していたいのに」
「そうですか…お疲れ様です、真矢さん」
「貴方もゆっくり寝てくださいね、それではまた明日」
そう言って彼女のアバターは消え、街のベンチに座るのは僕だけになった。ここ1ヶ月の話だ、僕が彼女とここで話すようになったのは。
最初に出会った頃も確か深夜に……。
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「やっば……やり過ぎた、明日も仕事なのに」
時刻は深夜1時を回ったころ、素材集めをしていたら気付けばこんな時間だ。僕が今やってるのはフルダイブVRMMOが出始めてまもない頃に発売されたタイトルの一つ。
最初期は人がごった返し、何度もメンテやサーバーの増設がされたものだ。だけどそれも過去の話、今は徐々に過疎化が進んでいる。
理由は単純にもっと面白いゲームが出たからだ。最初期のゲームだからかグラフィックも所々違和感はあるし、バグも多かった。
だけど今日に至るまでダラダラと続けている。愛着が湧いたとか、辞め時を失ったとかそんな理由だ。今居る人も大体そんな感じだろう。
このままサービス終了まで、続けていくのだと思っていた。そろそろ落ちようとしたが、後ろから聞こえた声によって止められる。
「あの、少しよろしいでしょうか?」
「は、はい?」
振り向けば初心者感溢れる格好をした、女性プレイヤーが困ったような顔で僕を見つめている。
「始めたばっかりでして、よろしければ色々教えてくださいませんか?」
もう初心者など見ることはないと思っていたが、珍しいこともあるものだ。あと少しくらいならまだ起きてられる。
「大丈夫ですよ」
「ありがとうございます! こんな夜遅い時間に本当に」
「いえいえ、それで知りたいことは何ですか?」
「えぇと、道具屋の場所とかを……」
その日はよくお世話になる施設の使い方と場所。あとはちょっとした技術などを教え、フレンドになって終わりだった。
どのフレンドも最後にログインしたのは99日以上前の表示が暗くあるなか、ちょっと感慨深くなった。また明日も会う約束をしてたから、また会えるだろう。そう思っていた。
しかし次の日、彼女が現れることはなかった。ログインすらした形跡もない。少し残念だったが、こんなことはよくある。
気にするだけ無駄だろうと思い、その日の深夜は何事もなく過ぎていった。そこからまた次の日、次の日と一応待ってはみるが来ることはなかった。
いつしか諦めがつき、少しした頃。いつもの通り夜遅い時間に惰性でログインした。本当だったらやることなど何もないのだが、無意識に素材を集めようと安全エリアの外に……。
「あ、あの!」
「真矢さん?!」
「この前はごめんない、約束したのにも関わらず破ってしまいました……」
「いえ、もう来ないかと思ってましたが……来てくれるだけでも嬉しいですよ」
永遠に来ないフレンドを待ち続けるより明らかにマシだ。
「少し現実の方が色々ありまして……深夜からなら毎日来れそうです」
「それは良かったです」
「だからまた色々お願い出来ますか?」
「大丈夫ですよ」
「ありがとうございます!」
そこからは毎日会ってレベル上げ、素材集め、スキルの取り方などを教えた。VRMMOは初めてだったのだろう。
初戦闘は震えてたし、目を離せば迷子になっていた。だけど久しぶりに楽しくお互いにプレイ出来たと思う。楽しかった。
1つ不満があるとすればたった1時間ほどしか遊べなかったことだろう。1時間は楽しければ楽しいほど過ぎるのは早かった。
そんな深夜を過ごしていたある日、真矢さんから大安があった。
「少し疲れましたね……まだ時間もありますし、何かお話でもしますか?」
「特に面白い話とかありませんよ?」
「それでも構わないですよ、話してるだけでも楽しいですから」
「ならあそこのベンチで話しましょうか」
「分かりました!」
その後は残り少ない時間を、思いついた話しをして過ごした。その日はそれで終わったが、また次の日もベンチに座って話していた。
「僕と話してても退屈じゃないですか?」
「そんなことありませんよ、貴方と話してる時がリラックス出来ますから」
「照れますよそんなこと言われたらっ」
「ふふっ」
たまに敬語が無くなる時もあった。僕も僕でこの束の間の1時間で楽しんでいた。同じ姿の敵を永遠としばき続けるより圧倒的に。
「あら……ごめんなさい、落ちますね」
「あぁ……お疲れ様です」
「また同じ時間に会いましょうね」
「はい」
今日も真矢さんは僕を残して現実に戻っいった。僕は上を向き、サービス終了の通知が来ないことを祈りつつまた明日のためにリアルに戻ったのだった。
読んで頂きありがとうございます。リハビリ作品です。