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ニュースは続く。州内で起こった事件や事故の報道が続き、その後ウェザーレポートに変わろうとしていた時だった。ニュースキャスターがカメラから視線をそらし、何かしらの情報を受け取ったようだ。驚いたように眉が上がり、彼女はカメラに向き直った。
「――臨時ニュースです、たった今、怪盗キャットから予告状が出たとのことです。予告状を受け取ったのは実業家のロベルト・ブラウン氏で、さきほど、ブラウン氏の娘であるローリー嬢によってSNSに画像がアップロードされました」
ブラウン一家はお騒がせセレブとしてゴシップ紙の常連だ。娘のローリー・ブラウンは十九才、いまどきの若者らしく頻繁にSNSを更新するタイプの女性である。
キャサリンは急いで端末を操作し、ローリーのSNSアカウントにアクセスして画像を確認した。フォトジェニックな食べ物、美しい風景、ローリー自身のホットなセルフィーが並ぶ一番上に、件の予告状の画像が載っていた。その投稿は見ている間にも『いいね』の数がどんどん増えていく。
(確かにぱっと見はホンモノっぽい……)
キャサリンはキャットの事件を担当している警察官だ。
「それでは、NNPDの分署長を務めていたこともある、窃盗犯罪分析の専門家と中継が繋がっています。ミスター、この予告状はキャットのもので間違いないのでしょうか――」
緊張した面持ちで語られる内容にキャサリンは頭を抱えた。
「ニュースで予告状を知るなんてサイテー。フツー、犯罪を予告されたらSNSにアップするんじゃなくて911に連絡するもんでしょ? セレブリティたちの危機管理能力ってどーなってんの?」
「エンターテイメント化しているのは否めないな。キャットは殺人をするわけじゃないから危険を感じてないんじゃないか」
テレビに再び向きなおろうとしたところで、ダイニングにコール音が響いた。キャサリンの仕事用端末だ。
キャサリンは端末のシグナルに応答した。呼び出し相手は先輩刑事かつ相棒のタミー・スウィフトだ。
「はい、マクレイです」
『テレビ見た? インスタは?』
タミーは矢継ぎ早に質問を重ねてきた。
「たった今確認したところです」
『どう思う?』
「写真から見える範囲になりますけど、文章の傾向からおそらく本物だと思います」
『オーケー、わかったわ。出来るだけ早く署に来られる?』
「すぐ向かいます!」
『そう、じゃあオフィスで待ってるわ』
タミーのその声で通話は切れた。キャサリンは立ち上がりながら端末をジェギンスの尻ポケットにねじ込み、アルに向き直った。
「ごめんアル、もう出なきゃ。朝ごはん取っといて、帰ってきたら食べる。ホントにごめん」
「わかってるさ。気にするな」
キャサリンは慌ただしくダイニングを出ていく。自室に寄って通勤用鞄を手に取って速足で玄関に向かった。キーチェストからアパートの鍵を取りあげたところでキッチンからアルが追いかけてきた。
「キャシー、ランチとコーヒー忘れてる」
「そうだった! ありがと」
アルはキャサリンにランチバッグを手渡し、彼女の乱れた前髪を直した。
「車に気を付けろよ」
「そっちも。あ、出掛けるなら戸締りよろしくね。じゃ!」
玄関を後にしたキャシーはアパートの廊下を駆け抜けて外に出た。道路を横断してお向かいの公園のフェンス越しに歩道を駆け足で行く。すぐに地下鉄の駅への入り口が見えた。キャサリンがホームに着くと、ちょうど列車も到着したところだった。キャサリンは他の客と一緒に乗り込んだ。
キャサリンはスリに隙を見せないように通勤用鞄を抱え込んで、周囲を警戒しつつもシートに座って背もたれに寄りかかった。署まではしばらくかかるし、今週もきっと徹夜が続くだろう。休める時は休んでおかなければ……。