逃亡した先
ようやく兄と弟のキャラが垣間見えてきた2話目です。
混乱に陥った脳は身体を動かす余裕はなく、俺はただ茫然と目の前で起こる悪夢を眺めることしかできなかった。
そんな俺の目を覚ましてくれたのは弟の声だった。
「兄貴、やっと見つけた!お父さんとお母さんが急に家を飛び出したんだけどどこにいるか……あ」
まだ幼い弟がこの惨事を見てしまうと思ったとたんに身体は動き出し、即座に弟が何も見えながように覆いかぶさった。
「ここにいちゃあダメだ。逃げよう。」
弟が何かを言える前に急いで手をとり、俺は駆け出した。
できるだけ遠く。
できるだけあの冒険者に目を付けられない場所へ。
あの冒険者とは戦ったらダメなんだ。倒しても倒してもきっと復活し続けるから。
俺の脳内の情報が正しければ、あいつは俺たちを「生きた魔物」ではなく「倒したら何かを落とすモノ」としか見ていないから。
恐怖で震えながら俺は必死に弟の手を引きながらどこか隠れる場所を探した。
「あに、兄貴。あそこ!あそこなら洞窟あるよ!ほら、前遊んでた時にみつけたとこ!」
「そこならきっと見つからないな。でかした!」
そこは木々に生い茂られたひっそりとした洞窟だった。俺たちが以前森で遊んでいた時偶然見つけたところだ。あまりにも奥が深そうな洞窟だったから少しだけしか探検できなかったけど。
とりあえず外の光が一切見えなくなるまで奥へ奥へと進んでいった。幸いゴブリン種族は夜目が効く方だ。ある程度の暗さでもおぼろげだが判別できる。
「ここまで来れば流石に大丈夫だろう。にしても、まだ先があるなんて得たいの知れない洞窟だな」
「……兄貴、あれなんだったんだ?」
弟の問いに俺は何も答えることはできなかった。俺でさえも未だに頭が追いついてないんだから。
何も言わない俺をどう思ったのか、弟はそれ以上問わずにいそいそと寝る準備を始めた。
そうだ、俺たちには一旦休息が必要だ。考えるのは明日にしよう。
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あれから数日経った気がするが、俺たち兄弟は洞窟でまるで岩のように突っ伏したままだ。
寝て起きてからまず襲ったのは愛する仲間と親を失ってしまった悲しみ、冒険者への憎しみ、無力感、その他言葉にできない感情諸々だ。やっと感情が落ち着いた今、あえて深くは思い出さないようにする。きっと弟もそうだろう。
一体俺たちに何が起きたか考える余裕?ないに決まってる。
「考えるのは明日にしよう」だなんて言った奴は誰だ。
あ、俺か。
とにかくいろいろ落ち着いた今、気づいたことがある。
絶対数日は経ったというのになぜ腹は減らない?絶望に浸りすぎて空腹も忘れた?それともここが「ゲームの世界」になったのに関係があるのか?ゲーム仕様だったら今の俺たちにはこれとないほどに便利だが。
そしてもうひとつ疑問に思ったのは弟のことだ。
仲間も両親も、冒険者が現れた途端に変になった。だというのにどうして弟は平然としていたんだ?
俺が大丈夫なのはわかる、俺は「バグ」だから。弟は……もしかしたら弟もバグ?
わからないことだらけだ。
悶々と考えてる俺を節目に弟はいつの間にか起き上がり、洞窟のもっと奥深くへ進もうとしてた。
「っておい、俺を置いてどこ行こうとしてんだよ」
「あ、ごめん。なんか奥にキラキラ光ってる物がある気がしてさ」
「キラキラ?そんなんないけど。頭どっか打ったか?」
「いや、ほんとにほんとにあるんだって。黙って僕についてきて」
え、何俺の弟急にかっこよくなった。
「めんどくせーな」
どこまででもついていきたい。
弟はそれ以上何も言わずにどんどん前に進んでいき始めたので、俺も言われた通り黙ってついていった。
何もない通路を体感1時間ぐらい歩いた気がした。入口が遠くなってしまうから流石に引き返そうと弟に声を掛けようとした瞬間、いきなり何もなかったはずの通路のど真ん中に大きな扉が現れた。
「あ!これだよ!これがキラキラしてたんだ!」
「キラキラ……はわかんないけど、すっげぇなこれ。どこから現れたんだ?危なくないか?」
「んー、大丈夫なんじゃない?開けてみよ!」
「え?あ、おい!」
弟は俺の制止など聞かずに扉を勢いよく開けた。
あんなに大きな扉なのによく軽々と開けれたな……。
しかし、開けた先はだたの暗闇だ。
「なんにもないじゃん。ほら、この扉ちょっと不気味だから早く戻ろうぜ」
「……兄貴、鉄って持ってる?」
魔物の間では鉄などの鉱石は加工することで様々な道具を作ることができるので重宝されている。お金などの複雑なもので物を買い取ったりする人間社会と違い、魔物はシンプルに物々交換で必要な資源を手に入れている。その中で鉄は誰でもありすぎても困らないし、俺ぐらいの体格なら割と簡単に採りに行けるので俺が最も交換しやすいもののひとつだ。
話は逸れたが、とにかく俺はもしもの時のために必ず鉄を服に忍ばせている。
「一応少し持ってるけど……なんで急に鉄?」
「ひとつ頂戴?」
くっ、そんな可愛く頂戴って言われたら渡さざるおえないじゃないか!もしや、知っててやってるな!
「しょうがねぇなぁ。あんまりないから大切に扱えよ?」
「うん!ありがとう!」
そう言った矢先、弟は鉄の塊を扉の暗闇の方へ勢いよく投げ捨てた。
おいいいいいいいいいいいいい
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