こうして悪夢が始まった
初連載挑戦してます。
頑張ります。
「兄貴、なんか変だ」
目の前にいるのは弟……のはずだ。
見慣れたゴブリンの特徴は一切消え失せ、人間の美少女姿に変貌した弟がいる。
「兄貴?兄貴……だよな?」
このモフモフした手足、とてつもなく低い視点、ピコピコと動かせるケモミミ。どうやら俺は獣人らしい。
……どうしてこうなった。
事の始まりは数日前。
俺たちはゴブリンの集落で平穏に暮らしていた。
この世界は人間と数々の魔物で成り立っている。人間と魔物は対立の歴史があったらしいが、今は離れて暮らしている。魔物は発展とお金のことしか考えない人間と違い、信仰深く、素朴な暮らしを好むから文化がそもそも合わないんだ。顔を合わせればいざこざがすぐに起きるに決まっているから分離して暮らすことで平和を保っている。そして魔物同士でも様々な違いで対立が起こるため、種族別で集落を形成するのが主流になっている。
ゴブリンの小さな集落に、小さな社会。質素な暮らしではあるが優しい両親に、可愛い弟、信頼しあえる仲間たち。俺はすべてを持っていた。
しかし、それら全てが変わり始めたのはいつからか。そうだ、雨がいつになく強く降っていたあの日だ。いつも通り家族と食卓の準備をしていた時、雷が鳴り響いた。
「うわー怖いね。近くに落ちたのかな?」
と両親と話す弟の傍ら、俺は急激な頭痛で転倒した。
様々な情報がいきなり脳内を駆け巡ったのだ。
RPG?プレイヤー?ガチャ? なんだそれ。初めて聞いたぞ。
よくわからない単語ばかりがあふれて、あふれて、あふれて、俺は耐え切れず意識を失った。
目を覚ました後も勝手に流れ込みやがった情報はしっかりと脳内に切り刻まれていた。
俺をずっと看病してくれていた弟にこのことについて少しだけ聞いてみたが、よくわからない顔をされた。さては俺の脳が病気にかかったのか。なんだか考えると怖かったからそれ以上追及するのはやめた。
その後しばらくは平和に過ごしていが、突如集落に冒険者が現れて俺はあの莫大な情報の恐ろしさがわかった。普段は人間と魔物がばったり出会ったとしても互いに無視をするのが暗黙の了解だ。しかし、冒険者はずんずんと、躊躇なく俺たちのもとに挑んできた。あちらが攻撃態勢なら俺たちは逃げるか、と周りを見渡してみればこちらも空気が異様だった。あの臆病だが、心優しい仲間達も目の色を変えて冒険者に立ち向かう準備をしているのだ。
「お、おい。なんで……」
言葉にならない声は誰にも届かず、仲間たちはまるで催眠にかかったかの様に冒険者へ飛びついた。
目の前に繰り広げられる光景は現実のものとは到底思えなかった。
対して強くはない冒険者だったが、いくら傷つけても何故かすぐに回復しやがる。それ以上に目を疑ったのは仲間が倒れたと思えば灰のように散っていき、謎の「もの」が地面に残されるのだ。
あぁ
俺は気づいてしまった。
この世界はゲームの世界になってしまったんだ。
この世界ではこの「プレイヤー」は無敵で、そして俺はゲームの「モンスター」で「バグ」だ。
こうして悪夢のような、きっと忘れることのない日々が始まった。
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