ep1
俺は令和に息を引き取ったしがないサラリーマンであった。仕事終わりに歩いていたら交通事故に遭遇しぽっくりだ。そうして次に目が覚めたら五歳児の身体であり、なんともまあ生活様式の異なる世界に飛ばされたものだと嘆いた。
――異世界転生。
ふぅ、と状況判断をする。俺はこの家、しがない子爵家の三男として生まれた。名前はニール・バリー・ハリントン。ゆくゆくは家を継ぐ兄の補佐として働くことが決まっているが、弱小といえど貴族としての生活を嗜むことが出来る。携帯もパソコンもないこの世界は中世ヨーロッパのようであり、年々自動化や利便性を追求していく情報化社会に浸かっていた身としてはなかなかどうして歯がゆいことばかりである。
しかし新しい家族は忙しくも団欒を大切にする人間であり、末の子である自分は随分と甘やかされて育てられている。十歳と八歳の兄たちは勉学の合間を縫って遊んでくれるし、母は毎日散歩に誘ってくる。俺はやることもなく適度に書物を読み漁っているが、刺激が少なく平和な日々をおくらざるをえなかった。
「俺、騎士になる」
転生して三日後のことだ。夕飯をとっている最中、次兄が口を開いた。その日は珍しく父も列席しており、和気あいあいとした食事風景であったが、一瞬にしてそれも熱を失わせた。
へー、騎士。がんば。
そんなことを軽々口にすることなど出来るはずもなく、俺は目の前のスープをすくうスプーンを覗き込んだ。銀製の重たいカトラリーだ。放射状に自分がこっちをみていた。
「騎士になるのは並大抵の努力では足りないぞ」
「はい、心得てます」
三兄弟の真ん中は不遇だときいたことがある。上にも下にもいることで、何かと我慢を強いられることが多いとか、兄を見て学習するとともに弟にそれを教えなければならないとか。
俺の目から見ても、次兄は一際真面目でお堅い性格をしていた。優しく正義感に溢れているというか、頑張り屋さんというのか。それに比べ長兄は悪戯心旺盛の悪ガキである。といっても責任感が強くこちらも根は真面目な性格をしている。父親譲りなのだろうな。
「そうか。それならばこれまで以上に剣術の修行に身を置くようにしなさい」
「! はいっ!」
そうして四年後、次兄は騎士になるための試験に無事合格し子爵家を出ていくのだが、それはもう少し先のお話。