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「これはものすごい好き。好きすぎて出会えてよかったってこれ選んでくれた瀬川に感謝しかない。最愛の一冊かも」

「はじめてじゃね?晶がそこまでいうの。びっくり」

「いやあもう全て好き。最初の1ページから最後の1行まで」

「おまえほんと極端だよな。確かによかった、よかったけどそこまでか」

「こういうストーリー自体の深みだけじゃなくてプラス構成がうまくて圧倒される的な作品に弱いんだよね。個人的好みの問題なんだけど」

「別にこういう話にハッピーエンドは必要ないとは思うけどちょっと読んでて辛すぎたわ俺には」

「確かに。とりかえしがつかない後悔みたいなの日常的にも誰しも経験あるもんなんだろうけど時代背景のせいでそこがちょっと重すぎるんだよな。展開が」

「展開としては悲恋になるのかもしれないけど、なんだろう悲恋にしても愛っていいなって。こんな焦がれあう関係って単純にいいなって」

「お前の愛への賛美とか初めて聞いたぞ」

「だよな、珍しい。晶でもそんなこと考えるのか」

「何それ。いや、でも多分自分に縁遠いからの憧れかも」

「縁遠いんだ。やっぱりな。そんな気はしてた」

「晶はなあ。いいんだけど、ちょっと男を遠ざけてるからな。」

「うるさいな、もう。遠ざけてるわけじゃないけど、こんなふうに人を好きになれるのがなんかよく意味がわかんないだけだよ。そういう瀬川はどうなの。なんだかんだ噂はでるけど結局ずっと彼女いないんだし、一緒じゃん」

瀬川はちょっと黙る。あら?このからかいはあまり空気読めてなかったのかも?


「まあな。一緒だよ確かに。こんなふうに誰かを好きになったことなんて一度もないし」

なんとなく気まずい空気で、楓が突っ込んでくれる。

「そりゃそうだろうよ。でないと土曜の午後にいい年の若いもんが3人集まって本についてあーだこーだ言ってないって」

 瀬川が口を開く。

「これって結局感受性の問題なんだと思う。みんないろんな感情が沸き起こってるもんだけど、それを増幅させていくか、封じ込めるか。認めるか認めないかの差。何もない、何も感じないっていうスタンスで行けば、自然に封じ込めることになる。感じたい、求めてるってスタンスで行けば簡単に感情が増幅していくものなのかもしれないけど、それは人と状況によって出来たり出来なかったりしたくなかったり。恋に落ちるなんて簡単に言うけど意外に落ちてるっていう事象じゃなくて自分でコントロールしてんじゃないかって思うけどな。俺だけかもしれないけど」

「んー要するに、何回も人を好きになってるっていう人は、その感受性が強くて、そんなのないっていう人は鈍いってこと?」

「自分でそれを認めるか認めないかの差だと思う。同じような動揺があってもそれを動揺したと認めて受け入れて恋だと認識できる人、そうしたがってる人と、なんらかの抵抗感から、その動揺を気のせいだのありえないだのとにかく認めない受け入れない人間がいるってこと」

「なるほどー瀬川の説おもしろいな。発端は一種の動揺説か」

また楓が茶化す。瀬川は珍しく饒舌だった。


「例えば、さっきの作品だってさ、なんで晶が感動するような恋として昇華できるものになってるかっていえば、枷があるからだろ。今の時代の俺らみたいに、お互い好きってなって盛り上がって何の障壁もなく、じゃ、つきあいますかってやってれば、ちょっとつきあってれば、やっぱり違うな、なんか違うなって別れたりして、偉大な恋に昇華する間がない。お互いの感情も募らない。あまりに簡単にはじまるから」

「そうなの?でもみんないろいろ悩んでるみたいだけどな、よくしらないけど。募ってるからあんな世間にラブソングが蔓延してんじゃないの?」

「おい蔓延いうな。蔓延は言葉のチョイスだめだろ」

「え、だめかな、まあ瀬川の言ってることはわかるよ。時代が違えば彼らは幸せに結ばれたかもしれない。でもだからといってそれが永遠で強固な感情だったかなんてわからないもんね。結ばれることができなかったからこそ、悲恋としてこっちは心を動かされてしまう、確かにね。なんなんだろうね。ちょっと考えさせられちゃうな」


 この手の話は苦手だからあまりつきつめて考えたことなかったな。あの瀬川がいろいろ考えてることにちょっとびっくりした。



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