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Breaking Juice  作者: まぐろしすてむ
Act.0 Prologue
4/5

④ 矜恃

サボった分出せるし出しちゃえ!って事で今日は二話分出しちゃいます。

 18時を過ぎてから急速に強くなった雨は、木製の小屋の中からでもその激しさをしきりに訴えてきている。この雨の中で、さらに赤外線センサーも回避できる防水ポンチョで夜の闇を軽快な身のこなしで抜けてゆく人間を補足できる人間はそういない。

 応接間として用意された小屋の一室で待機していたエージェントは、正面のドアが開かれ、互いに目を合わせるまで坂巻伶羅の到着に気付くことが出来なかった。

 エージェントは伶羅を見るなり緊張の走った顔つきに変わる。荒事に関してはシロウトなのだろう。


 「やぁ、待っていたよ。君が――」

 「慣れない辛気臭さで息が詰まりそう?」

 「えっ…いや、それは。」

 「無造作に送り出されてきた割に身内じゃ丁寧に扱われてんだな、アンタ。」


 エージェントが腑に落ちたような表情になる。こちらの意図が理解出来たのだろう。


 「あぁ……そうだね。ここまで戦闘員でごった返してる所には、僕は中々入れなくてね。」


 周囲のメンバーの刺すような視線を感じ、再びエージェントの姿勢が強ばる。

 他意は無かったのだろうが、仲間の幾らかはこういった“格”を匂わせるかのような発言には特に過敏だ。政府のアンチも一枚岩で纏まっているわけではなく、それぞれの派閥がそれぞれの利益や思惑の為に動き合った結果こうして利害が一致することもある、というビジネスライクな繋がりだけがそこにかろうじて存在しているにすぎない。

 邪魔をするな、とでも言わんばかりに殺気だった仲間を一瞥すると、伶羅は改めてエージェントへ向き直った。


 「まぁ、さっさと本題といくか。私に仕事の依頼なんだろ?ウインドミル。」

 「そうだ。我々から君ひとりへ向けての潜入任務さ。」

 「なんで私なんだ?単独での隠密機動なら、牟形とか神崎辺りに頼んだらいい。」

 「上は君をご所望だ。僕もその意図までは聞かされていない。」


 それを聞くや否や、横で控えていた男がエージェントへ掴みかかった。

 伶羅は止めなかったが、エージェントの体躯は思っていたよりも非力で、簡単に引っ張り上げられてしまった。


 「しらばっくれてんじゃねぇ!!ウチから若くて優秀な奴引っこ抜くために言い寄って、ゆくゆくてめぇらの肥やしにしてぇんだろうがっ!!」

 「待ってくれ!彼らが何を考えてるかなんて、僕なんかじゃ知るよしもないんだってば!」

 「てめェ…」

 「おい、やめろ!」

 「伶羅、でもよぉ!」

 「いいから待ってよ。まだコイツの話を最後まで聞いてない。」


 そう言うと興ざめしたのか、男はエージェントを降ろして部屋を出て行く。エージェントもエージェントで、今度は本心で残ったメンバーを睨み付けながら座り直した。


 「こほん。とにかく、君にだってタイムリーで得のある話だ。先に仲介人を通して送った資料はもう目を通しただろう?」

 「一通りはな。まさかあんたらも『牛蛙』狙いとは知らなかった。まぁ、確かに得ではあるよ。」

 「…その反応からして、昨夜はそこまで収穫があった訳ではなさそうだね。」

 「『牛蛙』はあくまでオマケ。メインの仕返しは上手くいったから無収穫じゃない。」

 「…それはなによりだ。今回の依頼で、オマケの方もカタがつくといいけど。」


 伶羅は始めて目の前の男へ嫌悪感を抱き、小さく舌打ちした。


 「話は分かった。私で良ければやるよ。……で、そっちからも出すって言ってたよな?」

 「何をだい?」

 「『協力者』。居るんだろ?現地で合流しろとしか言われてないけど。」

 「ああ。一人、主に脱出工作と逃走経路の確保にまわって貰う手筈になってる。」

 「そいつの外見と特徴は?」

 「僕も詳しくは。現地で向こうが君を見つける、とか。」

 「ハァ…さすがはウインドミル。アンタも所詮は仲介人だったな。オーケー。わかった、ご苦労様。」

 「ちょ、ちょっと待ってくれ、報酬と手に入るだろう情報リソースの分割は――」

 「そこは私の役目じゃないから。話が分かるヤツを当たりな。」


 伶羅を唯一の見方としてよほど頼りにしていたのか、部屋に取り残されかかったエージェントの男が再びそわそわし始める。

 その様子を尻目に、伶羅は再び小さな舌打ちを残して小屋を出た。






 「よし、それじゃあ始めますか。」


 アレックスが長机の中心に置かれた端末を起動すると、古びた机のデザインには不釣り合いな立体ホログラムが鮮やかに展開する。現れた3Dマップは、最新鋭の警備設備や建築技術をふんだんに織り交ぜつつも古き良き洋館を思わせる、絢爛豪華な建物を映し出した。


 「用心御用達、ツテなしの一般人じゃあ予約は二年待ちと言われてるホテルだ。建物は12階建て。で、そのうち侵入できそうなポイントが――――この3カ所。」


 マップに次々と赤い点が表示される。

 背の高い林に囲まれた郊外にあるこの洋館の周りでも建物の至近距離まで木々が生えている東側の外壁、

 一部がガラス張りになっている三角屋根、


 そして、正面エントランスだ。


 「エントランスだって?」

 「そ。何だ?」

 「いやだって、一番入れてくれなさそうじゃんか。政府の要人がわざわざお忍びでやってくるような所のセキュリティなんて、どうやってくぐるつもりだよ?」

 「ま、そう思うよね。でも今回のホテルに関しては大丈夫。『牛蛙』がこの神奈川特区のワケあり要人である、という事実はホテル側にとってさほど重要じゃあないからね。」

 「あくまで普通の客…ってことか?これだけのヤツが?」

 「そ。こんな辺鄙な所に建てられた高級ホテルにまでわざわざ足を運んでくる、事情も知らない普通の客だよ。」

 「………。」

 「じゃあ、彼は何故わざわざここを選ぶんだと思う?」

 「……やっぱり、ホテル側になにか――」


 言いかけた伶羅の手前で光り続けていた3Dマップが、突如として縦長に拡張される。新たに現れたのは地上3階分に相当する直方体の地下階層だった。


 「ここはもうホテルの経営の外だ。ホテルの人間は、ただ自分の働いているこの場所に、自分の知らない何かが存在する事を密かに察しながらもその事実を知ることはないってこと。」

 「完全に従業員の管轄の外で、地下にこんな広い空間を…可能なのかよ、そんなこと?」

 「郊外だからできる芸当だろうね。それに、特区の要人が主に避けたいのは私達みたいな人間じゃない。もう、この列島は一つの国で出来ていないからね。」

 「叡智人類、ってことか。」

 「ご明察。」


 神奈川特区を統括する『議会』に席を置いている世代の多くは、叡智人類のクーデターにより首都を追われた、東京難民と呼ばれる人間だった事が多い。

 叡智人類が相手となれば、秘密裏にといえども、いざという時には即時的な武力行使による殲滅も辞さないだろう。


 「私達は眼中に無ェってか。ったく、ナメられたもんだな。」

 「全くだね。」


 その他、細かな作戦工程を確認し終えると、アレックスは巨大なホログラムを消失させる。

 部屋が再び、ほの暗さと高い湿度に乗じて充満していたカビ臭さを伶羅たちへ思い出させる。

 組織として、非常時の撤収や予算繰りを案じた結果がこんな部屋での作戦会議を招いているとは理解しているつもりだったが、これじゃあ矮小な勢力と罵られても言い訳は出来ないだろう、と伶羅はため息をついた。


 「作戦開始は明日の18時。準備を怠るんじゃないよ、『協力者』とやらも驚かしてやりな。」

 「わかった。皆もよろしくね。」


 アレックスをはじめ、静かに話を聞いて同席してくれていた同志達が頷き返す。

 どれだけの相手と喧嘩をするハメになったか、『牛蛙』には思い知る隙さえ与えるつもりはない。


さて、プロローグは次回でおしまいです。いよいよ本格的に動き出しましてよ…たぶん

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