③ 瘤
早速一日サボっちゃいましたが、続編です。
たんこぶ、ってやつを大きくなってから作ったことはあるだろうか。
私は随分と久しぶりに頭の上で再会したそいつを、陶器を愛でるような手つきで撫でながら(それはもう最悪だったろう目つきで)学校にやってきた。そう、わざわざ歩いてやってきたのだ。
もはやわざわざ自分の足で校舎へ赴く、なんて行為も珍しい時代になっている筈なのだが、規律と学生らしさという前時代的なルーティンが跳梁跋扈する空間でのみ仕事のやりがいを満たせる古狸達が、この時代にもまだまだ居るというワケだ。
ウチの学校はとくにそういった規律にうるさいほうで、私の16歳目の青春は西暦2062年にいながら3、40年前の高校生のようだ。でもって、青春、という言葉も実はもう死語だったりする。クラスの半分も知らないだろう。
そんなこんなで最新の教育システムのありようなんかに思いを馳せつつ席に座っていると、青春の意味を聞き返してきた一人が隣の席に座った。
「伶羅ちゃん、おはよう!」
「おはよ、由希成。前髪、ちょっと切った?」
一条 由希成。私にとって、ここまで気の置けないクラスメイトはそう居ない。こまめに切り揃えているショートカットの、これまた綺麗に整った前髪からは、凜々しい眉毛が覗いている。
「おっ、ご名答。」
「私も変わったところ、あるんだけど?」
「え~……?前髪?いや相変わらず伸び放題だしな、違うか。」
「うるさい。うるさいから時間切れです。ハイどーこだ?」
「え~?で、結局どこなのさ?」
「左側頭部。」
左側頭部?と聞き返しながら由希成が顔を回り込ませる。口に出したらあらぬ勘違いを招きそうだが、可愛い。パーツはかっこいい派のクセして、こんなに可愛い奴があるかってんだ。
「きょ…ふふ、巨大なたんこぶが、あります。」
言い出す前に笑ってしまった。
「わ~か~る~か~~~!!」
「あっははははは!」
たんこぶと聞くや否や、由希成は私の頭をなんとしても触ってやろうとつかみかかってくる。運動部でもないくせして意外と腕力が凄いもんだから、じゃれ合いも軽くスポーツである。
「あ~伶羅ちゃんのせいでつかれちゃった。それで、なんでそんなの作ってきたの?」
「えーとね、机の下に潜り込んで掃除してたらでっかい虫と遭遇してね?」
「あっ」
「うん」
「跳んだ?」
「跳んだわ。で、やった。」
「ドジだなぁ~、はははは!」
由希成にあわせて笑う。
本当はもっと血生臭いところで作ってきた傷のうちの一つなのだが、そこは他の傷と一緒に隠しておく。
学校に通うたび、こういった嘘を重ねることにも慣れてしまったように思える。
しかし、そこに『あの仲間達』と過ごす私を守るため、という理由を付けるのは間違いだ。ここにいる私は世を忍ぶ仮の姿なんてものではないし、どちらも等しく尊ぶべき私の日常だ。どちらかといえば、こちらの私こそ中心に寄っているかも知れないくらいだ。
「あ、もう授業?」
「みたいだね、ちなみに伶羅ちゃん、今度こそ宿題やってきました?」
「や~、ホラ、自由研究がのこってるというか。」
「坂巻さーん?いま何年生の何月なんですか~?」
けれども、これらが折り合える時は永遠に訪れない。
だからせめて、これ以上私が居場所を見失わないための精一杯のあがきとして、この平和の象徴みたいな女の子を目の前に、セーラー服の下の傷やたんこぶを嘘で塗りたくってでも笑い合うのだ。
次回からはすこ~し尺が伸びます。どうぞよしなに。




