呼ぶ者
国が倒れし時、扉より運命の女が来たる。
古代より運命は定まれり。
されど、運命の女は、新しき未来を開く者なり。
これ、百夜で定まり、再び扉は開く。
後に民は語る。
知を持ち、剣を持ち、美を持つ運命の女は、扉が選び、魔が呼び、来たると。
さらに後、詩人は『百夜伝』と謡う。
カーテンを閉めた暗い部屋で、ろうそくの炎だけが揺れていた。
風のない部屋でゆらゆらと炎が揺れる中、頭から足まで黒の布で覆っている者がいた。人は魔術師と呼んでいた。
二本のろうそくの間にあたかも何かがあるように向けられた瞳が鋭く光った。
魔術師は振り向いた。
「困りますね。儀式の最中ですよ」
部屋の扉を開けて大柄な男が立っていた。男は自慢の顎髭を触って言った。
「いつになったら終わるんだ。おまえがぐずぐずしているうちに敵はやってくるのだぞ」
魔術師は黒のフードの中で笑って言った。
「もうすぐです。二百年ぶりに呼んでみせましょう。まちきれないのでしたら、そこでご覧になってもよろしいのですよ。ただし、私の邪魔をせず、今開けた扉を閉めてくだされば」
男は魔術師の人を見下した態度が気に入らなかったが、歴代の魔術師の中でも凄腕であることを知っていたので、黙って言う通りにした。
「あなたは運がいいですよ。二百年ぶりの儀式をご覧になれるのですから」
魔術師の男とも女とも言えない声は、暗い部屋に響いた。
国が倒されようとしているときに運がいいとはとても思えなかったが、男はやはり口に出さずにいた。
そして、魔術師はつぶやいた。
「運命の女…」