スルト、再び
各層への移動手段は二つ。一つは訪問経験があるところに、転移石でワープのようにいく方法。もう一つは意外と原始的だが、階段が移動手段としてある。これは転移石と違いどこにでも使用できる。大半は転移石を使う頃が多いが、侵入可能になったばかりの層には階段を使うしか方法がない。中には裏技を試していた者もいたが、成功しているところは見たことがない。
下の階を目指し階段を突っ走る。階段は合計200段。一刻も早くサキの安否を確認したい、その一心で俺は足を動かした。
もしかすると、居る根拠もないのに必死になっていることを笑うものだっているかもしれない。それでも俺は走る。
「ハァッ!……ハァッ!」
下の階へついた頃には息が切れ、言葉も発せないほどだった。俺は近くにいた住人を止め、こう尋ねた。
「このっ……町の森は……どこにっ……ありますか?」
息切れで声が出せない。とぎれとぎれになりながらもなんとか伝えることが出来た。
「ああ、それならここをまっすぐ行ったところにあるよ」
俺はお礼を言うと、指さした方へと再び走り出した。
もうすぐだ。もうすぐサキに会える。会ったら何を話そうか。この町の上にも世界があること、これからのこと、話したいことはいくらでもある。
草が生い茂る道を越え、ようやく初期スポーン地点へとやってきた。
「帰ってきたぞ……俺の、俺達の始まりの場所。確かあっちの方に――」
始めて仮拠点とした洞窟へと向かう。もう今になってはいつのことかも覚えていない。しかし、歩けば歩くほどその時の情景が鮮明に浮かんでくる。
洞窟の前に立つと、あることに気がついた。
(あれ? どこを探せば良いんだ?)
ここに来れば何かがわかると思ったが、特に見つかるものがなかった。
「あ、俺が死んだはずの所に行こう」
死んだはずのところ――それは、大きなトカゲと戦ったところだ。そこにサキも居るかもしれない。
しばらく歩いてその場所へとたどりついた。しかし、そこにはサキの姿は無く、代わりにいたのはNPCのスルトだった。目を瞑り、倒れていた。
「おい、スルト起きろ!!」
声をかけても反応はない。近くには紙切れのようなものが置かれており、その紙切れにはこう書かれていた。
”このボタンを押してください →”
矢印が指す方には、赤色のボタンがあった。これは押すと地図が出てきたボタンだ。サキが勝手に押したのを覚えている。ボタンを押すと、目の前には地図ではなくサキが映った画面が出現し、
「久しぶりシュウ」と始め、自分の身に起こったことを話し始めた。
「あの大きなトカゲに襲われた時、私は気絶していたの。起きたらシュウもトカゲもいなくて、不安だった。けど、スルトが良いことを教えてくれたの!!」
どうやらスルトは、町へいくことを勧めたらしい。ということは今もその施設にいるということか?
「スルトは故障寸前でこの録画だけ残してくれるらしいけど、もう動かないみたい。私、信じてるから! 必ず迎えに来てね! 待ってる」
動画はサキがいるであろう施設の場所を記した地図が映り終了した。動画が終わると、施設への地図だけを残して、スルトは細かい光となって消えていった。
施設へ向かった。その施設はよくあるホテルだった。崖の上からでは確認できなかったが、造りは日本の家に似た所がある。大きな木の柱。そしてなにより瓦がある家も多かった。
施設の中は白い壁に白い照明と、とにかく明るい印象が強い。入り口には”宿”と書かれた木板が貼り付けてあった。この層は日本要素が強く、どこか懐かしさを感じた。
受付へ行き、サキの名前を伝えた。
「その方の知り合いでしょうか? 203号室になります」
この層は犯罪が少ないのだろうか、と思うほどスムーズに部屋へとたどり着いた。
”コンコン”
「おーい、サキ? 俺だよ、シュウだよ!」
返事が無い。鍵は空いてたため中に入った。部屋はとても殺風景で、六畳ほどの和室に布団が一枚とちゃぶ台が一つ。そして一人の女性が立ち尽くしていた。黒いロングヘアに、赤い眼球、そしてな魔女のような黒く大きな帽子。その帽子に合わせるように全身黒い服で覆われていた。
見たこともない人だったが、少なくともサキではないということはわかった。毎日会っていたからか、雰囲気でサキかどうかはわかる。
普通の人であれば、こんな見た目の人に話しかけようとも思わないが、切羽詰まっていたということに加え、話しかけても大丈夫という気がした。
「あの、サキっていう女の子を知りませんか?」
そう尋ねると、女性はこちらを向き一言言った。
「その子ならこの世界にはいないよ」