増え続ける疑問
希望に満ち溢れた街までの路地を駆け抜ける。青々とした木々に囲まれた道は、まるで天国へ誘う通りのような印象を与える。
なぜこんなにも素晴らしい道かだって?
それはもちろん。自分の好きなゲームの世界だからだ。
ゲーム好きを始め、アニメ好き、映画好き、誰しも一度や二度、二次元へ行けたらという野望を持ったことはあるだろう。VRMMOはそれを忠実に実現した素晴らしい世界ではある。しかし、本当にそれが二次元と言えるのだろうか。
いいや違う。本当の二次元とは人々が想像もできないほどの希望で満ち溢れている。それは到底VRMMOでは再現出来るものでは無い。
そんな未知の世界に今俺は来ている。ワクワクするなという方が無謀であろう。
5分ほど走り、街へ到着した。
(本当にゲームの世界に来たんだな……)
方法も、ここが本当にモンスターワールドなのかも分からない。しかし、生存刑に処されてから初めて気持ちの面で安心出来る場所に辿り着いのは間違いないだろう。
ここは始まりの街。
モンスターワールドで言えば、名前の通り初期スポーン地点にされているところだ。モンスターワールドは全部で50階の階層形式が基盤となっている。フロアのボスを討伐、もしくは課金を行うことで上のフロアへと移動可能になる。
その間、ギルドを作成したり、親友を作ることも可能である。
(それにしても世界変わりすぎだろ……)
あくまで平然を装っていたが、そろそろ限界が近い。肉体的疲労より今は精神的疲労がすごい。なにせ二回も世界が変わったんだ、無理もない。
ただ、このスピード感でこれからも変わられちゃ体が持たない。原因も追求する必要がありそうだ。
俺は始まりの街の中心部である大通りにやってきた。通りを歩くのはゲームに出てくるキャラクターそのものだった。大きな巨体を持ち合わせる巨人族。羽を持ち空を飛ぶエルフ。そしてたどたどしく動き回る人工知能のロボット達。この世界では異世界、近未来など様々な空間、生き物が存在する。ここ、始まりの街でこそありふれた街並みだが、レベルが上がり上層へ行けばいくほど特徴的な世界が広がっている。果たしてこの世界でもその仕組みがあるのだろうか。
しばらく歩くと、中心地である大きな噴水へとたどり着いた。
現代でゲームをしていた頃を思い出し、懐かしんでいる所で腹部からうめき声のような音が鳴った。空腹だ……。
あいにく今は金も含め、何も持ち合わせていない。そこで噴水の水が目に入る。
(どうする?? いくか?? いやいくしかないだろ)
案外決断は早かった。このまま飛び込むのではないか、と思わせる程の勢いで水面に顔を打ち付けた。
バキュームの如く水を体内へと送り込む。
なんて幸せなんだ。なんて美味しい水なんだ。空腹に加え喉も極限まで乾ききっていた俺の喉は、一瞬にしてオアシスへと化した。
「ちょうどいい。ここには案内所もそれらしい酒場もある」
これはモンワーに限らずファンタジーゲームあるあるでもあるが、繁盛している酒場は情報収集に持ってこいなのだ。理由は、情報源である冒険者が異様に居るからである。
まずは案内所だ。案内所には他層の地図もあるから見ておいて損は無いだろう。もちろんこの案内所にはゲーム内でもお世話になったものだ。
”始まりの街案内所”と書かれた建物へ入っていく。案内所と言っても他の建物とは大差なく、赤褐色のレンガでできた単純な作りだった。
中にはいわゆるサービスカウンター的な受付場と、大きな地図があった。広さは20畳ほど。
「ええと、まずは現在地の確認だな」
大きな地図へと目をやる。すると、俺は衝撃の事実に気がついた。
「え……これって……」
地図は合計五十層。始まりの街は一番下――のはずだった。この地図にはあるはずのない始まりの街の一個下、幻の一層があった。
(こんなのゲームにはなかった。しかもこれ……)
幻の一層は他でもなく生存刑――サキと仮想現実に始めてきた世界の地図と一致していた。丘の上に建つ王城、丘下にある城下町、そしてサキと別れた崖上の森。
そう、この世界は別世界でもなんでもない。元から俺達はモンワーの世界に来ていた。ということは、
(まだサキは一層にいるはず!! でも――)
唯一無いものがある。それはノルと始めて会った部屋。死んだ後に訪れたはずの部屋がない。
そもそも俺は死んだんだろうか。ノルとの契約はなんだったんだ?
(くそっ!! ようやく謎が解けたと思ったのに、わからないことばかりじゃねえか……)
沢山の疑問を一気に解決することは不可能に近い。第一そんな能力はどこにもない。まずはこの世界が何なのか、それを把握するところから始めることにした。
情報を整理しよう。
まず、ここは少なくとも仮想現実ではない。その証拠にいくら念じてもウィンドウが出てこない。仮想現実である唯一の証明方法が立証されないのであれば、違う世界としか言いようがない。
次に、一層を除けばここはモンスターワールド――モンワーの世界と類似している。世界の作り、文化全てが共通している。
そして、俺は今生きている。仮想現実だろうが、現実世界であろうが、自分の意思で自分の体で生きているうちはこの事実は揺るぎない。生きていればサキにも会えるし、生きて帰ることもできる。諦めるまで可能性は尽きないだろう。
「そうと決めればやることは一つ……」
一層へ戻ろう。なによりもサキに会うことが優先だ。もういないかもしれない。もしかしたら死んでいるかもしれない。でも俺は探しに行く必要がある。
それが今俺にできる唯一のことだから。