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第三の世界

「さあ、はじめましょ」


 ノルは『フッ』と小さく笑うと奥の部屋へ消えてった。

 しばらくするとノルはジャラジャラと音をたて、奥の部屋から出てきた。ノルの両手には見るからに残酷そうな拷問器具があった。チェーンカッターや爪を剥がすためのペンチ。その他様々。

 ノルが最初に手に取ったのは、緑の液体が入ったポーションだった。

 本能的にやばいと思った俺は、縛られた椅子のまま抵抗した。抵抗を続けるとノルにぶつかり、その衝撃でポーションは床に落ちて割れた。


「なんて事を……仕方ないもう一つ持ってこよう」


 そう言って再度奥の部屋へと消えていった。


(今がチャンスだ!!)


 そう思った俺は、ノルが置いていったチェーンカッターを口でくわえ手に巻きつけられ鎖を切断。足も同様に切断をすると、二人がいない事を確認し、とにかく必死で走った。走り出して気がついたが、ここは地下だった。走っても走っても光が出る様子はない。

 そんな時ふと天井を仰ぐと、穴が空いていることに気がついた。


(これだ!!)


 穴へ入り、そのまま地上へと登り続けた。途中ノルが叫ぶ声が聞こえた。それは世の中のどんな声よりも恐怖を感じる。そんな声だったと思う。十五分ほど登るとようやく光が見えた。


(ま、まぶしい)


 いつぶりの光だろうか。地下にいた時間は1年の長い時間だったような気もするし、ほんの10分ほどの気もする。近くに街があることを確認すると、そこへ向けまた足を動かした。走りながら見えるのは初めてきた地とは思えないほどの安心感がある所だった。どこで見たのだろうか、思い出せない。


 街へ近づいていくと、十歳ほどの少年が川で釣りをしていた。少年はただぼーっと川を見つめていたが、どこか寂しそうな顔にも見えた。髪は茶色のストレート、目は川の水のように水色で、あまり日本では見ない顔立ちをしていた。


「ねえ、君どうしたんだ?」


 そんな事を考えていると、思わず話しかけてしまった。どことなく今の自分と似たような表情をしていたのかもしれない。


「僕は……なにがしたいんだろう……」


 その少年は意味深な返答をした。何がしたいのかわからないというのは、誰しも一度は体験することだろう。しかし、そこまで経験者が多いのにも関わらず明確な解決策は無いに等しい。なぜならそれは個人によって規模、内容、条件が大きくことなるからである。算数の問題のようにやり方があり、それ通りにやれば正解するということもなく、ある人に上手くいったからといってまた別の人に通用することもない。そこが難しいところである。


「そうだなあ……いつからそう思うようになったんだ?」


 そんな時有効なのは、詳細をできるだけ多く掴むこと。頭の中で悩んでいることを他人ができるだけ理解することで新たな考えに導くという魂胆である。


「僕は、お母さんがいないんだ。八歳の頃、この世を支配していると言われる魔王に殺されたんだ。お母さんだけじゃない、街の人が沢山殺された。でも僕は、見てることしかできなかった。何も力がなかったんだ。だから――」


 思いの外深いキズを触ってしまった事に気がついた俺は、


「ごめん、容易に聞くべきじゃなかった。大変だったんだね」


 俺は日本に母さんも父さんも居る。比較的恵まれた環境で育った俺にとっては、八歳で母親を失くすなど想像もつかない苦労だろう。今は話を聞くことしかできなかった。


「そこからは最悪だった。みんな苦労しているはずなのに、お金持ちは親を無くした子供をこき使って楽をしてた。僕はその時もなにもできなかった」


「いいんだよそれで。まだ十歳なんだ、未来はいくらでもある。だからこそ、みんなを助けるためにも今は努力をしようぜ」


 それっぽい事を言っているが、自分がやりたいことで悩んでいるとき救われた言葉でもある。言葉の効果は実感済みだ。


「そうだ……僕、帰るよ。今日から頑張って絶対困ってる人を探すんだ!!」


「そうだ。頑張れ!」


 元気に走り去る少年を見て、今自分が置かれている状況に絶望した。金もない、いく宛もない、ノル、サキ、そしてついに三つ目の世界に来てしまった。ただ、初めてきたとは思えないほどの安心感がある。どこでみた光景何だろうか。


「とにかくまずは街に行くぞ」


 少年が去っていった方角に向け、自分も走り出した。川を越え、坂道を降りた所で森に入った。森は同じ光景が続くということで、遭難することが多々ある。実際ゲームなどでしか入る機会はないが、それでさえマップを見ないと迷ってしまう。俺は自分の感覚を信じ、とにかくまっすぐ進んだ。その判断が功を奏ししばらく進んだところで開けた所に出た。


「ようやく開けてきたぞ。あれが街か?」


 開けた所から街を確認する。


 ――え


 ようやく謎が解けた。目に入った光景はゲーム――ワールドモンスターの始まりの街そのものだった。青い屋根の家々、ヨーロッパの街通りに似通ったレンガ造りの道、街の中心にある大きな噴水。全てが全て同じだった。先程の安心感というのはこの影響だろう。やっぱり冴えてるな俺。


 唯一異なるのはこの世界はゲームとは違い、やり直しが効かないこと。ゲームであれば、セーブを行うことで死んでもやり直しが効く。しかし、現実となればやり直しはもちろんセーブだってすることは出来ない。


(世界は変わっても命懸けなのは変わらないってところか……)


 再度今の状況を把握するため、持ち物等を確認した。

  服装は知らぬ間に制服からTシャツに短パンという軽装になっていた。もしかすると、容姿も戻っているかもしれない。


(そういえば生存刑になってから服装は気にしてなかったな)


 持ち物は特にない。強いて言うなら、使えると思って先程取っておいた鎖の一部。長さは三十センチ程だが、何も無いよりはいいだろうとも思ったが、よく考えれば邪魔なだけなので捨てた。

  今俺がやることは二つ。安定した生活の確保と、サキを見つけ出すこと。


 安定した生活の確保というのは、生きる上で最低限必要なことであり、サキを探す余裕を作るためにも重要となってくる。ここだけはどの世界であっても妥協することはできない。

 俺は生活の地盤となる住居を探すため街へ急いだ。


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