衣食住
不運だ――
これまでまっとうに生きてきたのに、こんなところで死ぬわけには行かない。必ず生き残ってやりたいこと全てやってやる。そのためだったら手段は問わない、殺しだってする。その覚悟がなければ生き残るどころか希望だって持てない。そうだ、生き残るのはいつも意思が強い奴らだった。
5年前
俺は中学受験に失敗した。当時の成績は申し分なく、12月の模試では志望校A判定をもらっていた。しかし、それで調子に乗ったもしくはどこかでどうでもいいという気持ちがあったのか合格することが出来なかった。意思の強さがいかに勝負時に生きてくるかというのを身を持って体感した瞬間だった。それからというもの、何事にも全力で前向きにこなして来た。俺ならできる、絶対に――
2
「ここだ入れ」
扉の上部に生存刑とだけ書かれた部屋へ入った。中にはVRMMOへ接続するための機器が二人分とベッドが二つ用意してあった。生存刑は実に初めての試みであり、世界も試験段階に過ぎない。半年に一度ほどメンテナンスを行うみたいだが、そのときは30秒ほど視界が真っ暗になる時間があるらしい。細かい刑期は宣告されなかったが、この説明をもらった時点で俺達が半年以上いることは決定しているようだ。
「ヘッドギアをつけてこのベッドに横になれ。用意が出来たら接続を始める」
ヘッドギアというのは脳内へ干渉を行うために必要となる通信デバイスのことだ。脈拍、心拍数など健康状態は全てヘッドギアの情報を通して管理されている。万が一体調が悪化したとしても、死刑囚同然の俺達は研究の材料に活用されるだけなのであまり管理されている意味はない。
「準備できました」
ヘッドギアを装着し、接続作業へと移行できる状態になった俺達はそう言った。
「それでは始める」
ゴーグル越しに見えていた天井が暗闇へと変わった。その瞬間意識が飛び、失神状態へと陥った。
目を覚ますと、視界に入るのは研究施設の素っ気ない天井ではなく、ギラギラと太陽が照らす青空だった。
ゆっくりと体を起こし、軽く周りを見渡す。
「ここが、VRMMOの世界……」
周りにあるのは木、そして木、あるいは木。俺達が目覚めたのは丁度森だったらしく、周辺にはほとんど木しかなかった。かろうじて存在していたのはなけなしの動物たち。こんな言い方では動物たちに失礼極まりないが、そう言わざるを得ないほど木しかなかった。しかもそれらの木は現代で見た事のない種類で、季節も、場所も判断できなかった。当然仮想現実なのだから、想像なのだろう。
「そうだ、サキはどこだ」
「なんか呼んだ?」
聞き慣れない声が足元が聞こえた。目をやるとまるで芸能人のように整った容姿の少女が寝転がっていた。
「うわっ!!!」
思わず声を上げてしまった。それにしてもこの人は誰なんだ。
「まさか……」
「あんた誰?」
「え、僕?」
少女は名前を尋ねてきた。
「僕は、シュウって言うんだけど……」
「シュウ? あんたが? 嘘つかないでよ。シュウがこんなイケてるわけないでしょーが」
「おい、まさかお前……」
「私はサキよ?」
「ええええええええええ」
世界が変わったのだから当然ではあるが、お互い容姿が変わっていた。しかもかなり美化されている。サキの方は、ショートヘアの金髪美少女に。自分はサキ曰く、赤髪のまさに陽キャボーイへと変貌していた。
「な、なんかこんな容姿じゃ落ち着かないわね」
「そ、そうだな。とりあえず持ち物を確認するか」
開始前の説明では、思うだけでウィンドウは現れるという話だったが果たして本当なのか。
(ウィンドウ……)
”ピコン”
「おお、本当に出てきた」
メインメニュ欄には、”アイテム” ”ステータス” ”オプション”の三つが用意されていた。
その中のアイテムを選択し、持ち物を確認した。
アイテム欄には、初期装備一式と一日分の食料、そして簡易的な地図が用意されていた。
「なるほど、最低限の物資も自分で用意しろってことか」
サキの持ち物にも同様のものが用意されていた。どうやら初期アイテムに個人差はないらしい。
サバイバル――それは人間が文明や人間社会から隔絶した場所で生存し続けること。昔から人間が生きるために最低限必要なものは衣食住と言われ続けている。寒さや暑さなど異なる環境に適用するため、調節可能な衣服。身体が行動をするために必要なエネルギーを生成するために必要な食事。安定した滞在場所を各所するための住居。そのうちの衣食は急ぐ必要がないほどのは揃っている。
「そうなると最低限の住居が必要となるな……それと……」
忘れてはいけない。これは決して楽しいキャンプでも、貴重な体験ができる無人島生活でもない。命がけの生き残りサバイバルなのだ。そのためには自分の身を守る盾。そして相手にダメージを追わせる矛が必要不可欠である。要するに武器だ。
「こんな森のなかでどうするべきか……」