生存刑
――Virtual reality Massively Multiplayer Online Game「仮想現実大規模多人数同時参加型オンラインゲーム」略してVRMMO(以降仮想現実)。ついに人類はフルダイブオンライン通信機器、という人々の意識に干渉できるゲームを開発した。この技術はゲームにとどまらず、医療の発展、経済向上など様々な面で有効活用されている。その技術がもっとも発展している国「日本」。この国では、刑罰に活用されている。かつて日本は死刑、服役などにより刑罰を行っていたが仮想現実を導入して以降、コストがかからない、土地を必要としないというメリットから凄まじい勢いで浸透していった。最近では、仮想現実で過ごす期間を刑期として扱うようになったため、脱獄の確率がなくなりとても効率が良い。
その中でもっとも重大な刑が「生存刑」というもの。
なぜこの刑は死刑より重いのか――
この刑は仮想現実の中でサバイバルを行い、生き残れば釈放、死ねば現実世界での操作により脳血管疾患を起こし肉体が死亡。要するに、このサバイバルでの敗北は現実世界の死に値するということである。常に死と隣り合わせの状況に置かれるため、すぐに死を迎える死刑より重い刑として管理されている。
「さよなら…もう来ちゃだめだよ…」
「そんな…まだ何もしてない…」
「それでいいんだ…君は最後まで生きているじゃないか…」
「…‥‥‥」
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ピピピ ピピピという音が部屋中に響き渡る。
「ああ?あれ?俺何してたんだっけ」
布団の中から手を伸ばし、目覚ましを止める。
「なにか重要なことを忘れている気が……」
見慣れた部屋。住み慣れた家。だが、どこか懐かしさもあった。
「まあ、いいか」
大切なことを忘れている気がしたが、気にせず起きることにした。
「シュウ、早くご飯食べちゃいなさい」
母親はそう言ってメカメカしい機械を使って机に朝ゴハンを用意する。最近の世は随分便利になったもので、家の中は大抵機械によって管理することができる。
それだから無くし物なんてめったにない上、服装に悩むことだってない。ただ、便利なのはまちがいないのだが味気ないという理由でそれらの機械をあえて使っていない家庭もある。人それぞれではあるが、自分にはいまいち理解できなかった。
「はーい」
俺の名前はシュウ。近くの高校に通う普通の学生だ。強いて言うなら、機械に詳しいっていうところか。クラス内でも目立たない。目立たなさをランク付けするならば、最高10の所の8ぐらいだろうか。
一つ地味さ丸出しのエピソードを紹介すると、過去に冗談無しで自分の上に間違えて人が座ってきたことがある。相手いわく、見えなかったという。
まあ、17年も生きていればその類のナチュラル悪口にもなれてくる。小学生ぐらいの頃は自分の存在価値について必死に考えたころもあったが、最近じゃどうすればいまの地味さを保持できるか日々試行錯誤している。
「いってきます」
そんな俺にも、友達の一人や一人ぐらい居るわけで。毎朝ともに登校しているやつが一人居る。しかも女。
「おっはよーーー。今日も地味さがたまんないね!!」
こいつが唯一友であるサキ。黒髪ロングとかいう清楚そうな容姿だが、中身は生粋の陽キャラでクラスの中心的存在である。そのため、自分も多少目立ってしまいあろうことか、最近はカラオケというダンジョンに挑戦した。感想は怖かったの一言に尽きる。
とはいえなんやかんやいいやつなので仲良くはしているが、元々はこいつが登校中に転んでいるのを自分が助けたことが始まり。助けて以来、謎に依存されてしまい今に至る。
「朝からうるさいな。今日はテストだぞ、大丈夫なのか?」
「あはは、もう諦めた!!」
「なにやってるんだよ・・」
そんな他愛もない話をしながら学校へ向かっていると、道中でスーツを着たいかにも秘密結社ぽい人が目の前に立ち尽くしていた。
「二人ともそこでとまれ」
「はい? 何か?」
「お前たちには逮捕状が出ている。しかもかなりの大罪だ。至急署まで連行願う」
「シュウ乗るよ」
「は?嫌に決まってんじゃん。絶対この人たち危ないだろ」
良く考えればわかることだ。スーツ姿の人なんていかにも秘密結社ぽくて怪しい。前々からバカだとは思っていたが、これほどだったとは。
「申し訳ないですが、私たちは関係ないのでお引き取り願います」
自分の中でもかなり丁重な断り方をしたと思ったが、そう簡単には相手も引き下がれないのだろう。
「ダメだ! この車に乗るんだ!!」
強引に車に引き込まれ、目隠しをされ、手錠で手を拘束された。
そこからは目隠しのせいでほとんど情報をえられなかったが、直進している時間が多かったことを考えると高速を使うところ。要するに近所のどこかというわけではないらしい。
途中、サキが不安のせいか泣いているのがわかった。当然俺だって不安だった。
1時間ほどが経ったのか、男が「ついたぞ」といい目隠しを取った。
目の前にはとても殺風景な建物が建っていた。全域が白い壁で出来ていて、なにかの工場かと思うほどの敷地面積があった。この建物には見覚えがある、どこでみたんだろうか。
「進め」
その頃には長時間の苦痛に疲れ果てて、抵抗する力が残っていなかった。
控え室と書かれた部屋に連れていかれ、手足を拘束されたままここで待つように指示された。
男が部屋を出た瞬間、俺はサキに合図を送った。いつも気が合わない俺達も、その時ばかりは同じことを考えていた。
いっせいに立ち上がり必死で飛んで移動した。
(くそっ!!! 自由が効かない!!!)
当然両手両足を縛られた経験など一度もなく、部屋を出たところですぐに捕まった。
疲労の影響か、方法が思いつかない。考えている間に時間は過ぎ、男は再び部屋へと戻ってきた。
二人の足を解放し、
「こっちへ来い」
俺達は、建物内にある大きな法廷に案内された。刑事ドラマさながらの裁判所には、イメージ通りの空間が広がっていた。その中の被告人席に座らされた。
すると、続々と人が入廷し法廷は満員となった。
「これから、被告人二名についての裁判を開廷する。まずは被告人の罪名及び、犯行の報告をお願いいたします」
裁判長らしき人がそういった。それにつづいて
「はい、この二名の被告人は器物損害の疑いがあります。器物損害といっても、民間ではなく、国家に必要となるデータを破損させた疑いがあります」
そういうと、手元においてあった写真を提示した。その写真には、メモリーカードと思われるものが見事に粉砕されているのが確認できた。
「こちらは一週間前の午後4時頃、この二名が重要データ運搬中の車に石を投げつけたことにより破損したメモリーカードです」
そんな国家に影響を及ぼすようないたずらをするわけがない。そうおもっていたのだが、心当たりが自分にはあった。時間は同時刻、テストの補習が終わったあとのこと。むしゃくしゃした気持ちを晴らそうと高速道路に向かって一発ずつ投げ込んだ。それが命中してしまった車があるのは知っていたがまさか国の車だったとは…。
隣を向いてサキの様子を確認すると、明らかに動揺しているのが確認できた。大粒の汗を大量にかき、目をかっぴらいていた。
「この行為を考慮すると、この二名は同じ世界への潜入。生存刑が最適と思われます」
「せ、生存刑???!!!!」
裁判官が放った刑名に思わず声を上げてしまった。生存刑は実際に刑として扱われるようになってから間もない。当然その残酷さは世界中で話題になっている。しかもまだ執行された人はいないというのだ。そんな刑になぜ俺達が――
「それでは、判決にうつります。この二名は国家反逆罪として生存刑に処する。執行については当事者に当日伝えるものとする」
「き、きまってしまった。おいサキこれからどうするよ…」
「どうするって決まってるでしょ、生き残って帰ってくる。それしかないでしょ!」
サキはさぞかし落ち込んでいると思っていたが、思いの外ポジティブだったのでそれに負けじといい切ってしまった。今回もだが車に迷わず乗ったところも含め、いつもは浮かれているサキが今日は妙に冷静だ。それが逆に俺の冷静さを失くす。
「あ、あたりまえだろ!!絶対に生き残るぞ!!」
と。
生存刑――それは、仮想現実でサバイバルを行い。負けたら現実世界での死。生き残れば死刑という完全デスマッチ。
二人の運命はいかに――