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イタリアツアーの奇妙な面々  作者: 文乃木 れい
6/14

メディチ家礼拝堂 そして ツインのおばば


団体での見学が終わりフリータイムになり、美術館の屋上で軽食をとっていますと、つぎつぎ同じツアーの人たちがやってきます。どうしても近くに固まってしまいますね。日本人は。

 さ、次はどこに行こうかと相談しているところに、大阪のおばちゃん姉妹が

「昨日 革のお店行かれたんですよねえ、場所教えてもらいません」と私たちのテーブルにやってきた。昨日のドタバタ劇が伝わってるんですね。


彼女たち、ふたごなんですって。道理でよく似ています。

お二人とも、お揃いの大きなグッチのリュックをしょって、それが嫌に目立ちます。


「フィレンツェに来たんだから皮のお店行きたくて」

妹さんのほうは 「みっちゃん、もうえーやないの」とひきとめてるんだけど、お姉さんのほうが、どうも買い物に執着があるらしい。


私たちが昨日迷い込んだあたり サンタ・クローチェ教会界隈は革製品のお店が多いところで、昨日世話になった日本人の女の子も、靴の工房で修行してるって言ってた。

何度も訪れたところなので、地図で説明してあげるのだけれど、


「地図ではようわからんしなあ」 というおばちゃんが気の毒になって、結局案内してあげるはめに。


 この大阪姉妹は 昨日はオプショナルツアーでグッチのアウトレットに行ってきたとのこと。

「かばんで時間とっちゃってね、他のものもほしかったんだけどねえ。きっと手袋もあったよねえ、心残りだったわ。」 とみっちゃん。

「嫁たちに、手袋を買っていきたいのよ。」 


4人連れだって歩きだします。


結局、サンタ・クローチェ教会付近にやってきたのは3回目。

昨夜迷い込んだところ。今朝も来たところ。そして懲りずにまた。


3回とも来たくて来たわけじゃないというのが、悲しいというか。滑稽というか。

ここには 来るはめになっているとでもいいましょうか。


主に革製品のお店がぐるっと教会広場を囲んでいます。看板に大きくGLOBEと書いてあるお店に入りました。

 革の手袋がたくさん並んでいました。隅のコーナーに 一色だけとか 一サイズだけになってしまった半端な手袋をバーゲン品として囲ってあり、 みっちゃんたちは、そこでめでたく お嫁さんたちへのお土産を手に入れることができました。 

そのまま そこで さようならと彼女たちを置いてくるわけにもいかず、4人でウインドショッピングしながらドゥォモのすぐ近くまで戻ってきました。


姉妹が、どこか、お茶を飲むところをと探している風なので、 ここからならお二人で ホテルに帰れますよね? と ごちそうするからと強く誘ってくださるのをお断りして、お別れしました。


さて、「どこ行こうか」

なんだか 二人だけで観光ムードに浸れるのが 久しぶりの気がします。

「ホテルのそばに メディチ家の礼拝堂っていうのがあるから そこ行ってみない?」

ホテルまでは いいかげん慣れた道です。安全安心優先。冒険はしたくありません。


ドウーモを眺めながらゆったりと歩きます。


「このへんをさあ、ミケランジェロとか、ボッティチェリとかが歩いてたんだよねえ。」

と感慨にふける私がつぶやくと、

「ボッティチェリが一緒に歩いたのは ダ;ヴィンチかもね。」

そうですか、ふーこさんは 歴史の知識が私より ちょっと深い。 

500年前の話なんだから どっちでもいいじゃないかと思うが、そう500年。


500年先、いやこれからも永遠に 後世の人間に感動を与える仕事をした人たち。

その壮大さを思うと

反対に 嫌でも自分の小ささがクローズアップされてきます。


義母にしょっちゅう掃除に来いとよばれたって、たいしたことはないじゃあないの。

それぐらいしか能力ないんだから。

夫と好みや趣味が合わなくても それあたりまえやないの。違う人間なんだから。

卑近なことに思いをはせていたら、


ふーこさんが ぼつぼつと話始めた。

「こないだ、お義母さんが亡くなったじゃない。最後は自分の息子たちと暮らせて、ある意味幸せだったのかもね。離婚した息子たちに、ごはんしてやって、自分が役にたってたんだから。

あの人たち 過去に贅沢な暮らしをしてたから お父さん亡くなって会社がダメになっていってもおんなじ感覚でいて、それで 家族が崩壊していって、

最後は親子三人だけになった。

うちのだんなは 後妻の子だから、本当の親子は あの三人。」


「あのおかあさんてさ、あなたに お小遣い請求してきてたじゃない?」

なんだかんだと 10万20万貸してと言われていたふーこさん。

一度も返してもらったことなどない。


「そう、息子たちも一文無しだったから、私にしかせびれなかった。それが 私たち夫婦を壊すことも気が付かないような人だった。夫にとっては義理の中とはいえ、育ててくれた母だからね、私に我慢してくれというだけ。

わたしさあ、義母が亡くなってはじめて 夫とすっきり別れられる気がしたわ。」


「ツアーが決まってたし、身内だけの家族葬なので 葬儀はパスしちゃったけど、考えてみれば 息子3人ともが嫁不在の葬式なんだよね。

めちゃめちゃ派手でいつも賑やかしいだった義母の最後が そういうことなんだよね。」


「調停もなかなか思い通りにならないけど、 もう早く終わらせようと思う。今回いくつか教会に行って なんかそんな気分になった。」


 そっか、離婚調停中に 突然にお義母さんが亡くなり、その時点で、この旅行はあきらめかけたけれど、ふーこさんが行く というので決行した。

来て良かったのかもしれない、ふーこさんも この悠久の歴史の中で 何か感じるものがあったのだろう。


 宿泊ホテルの前を通り過ぎ 少し行くと ドォーモに覆われたがっしりした建築物が見えてきた。  

足場がかかり修復中。これかな?

メディチ家の礼拝堂

「ここ、ここ、メディチって書いてある。」入り口に観光客らしき姿も。

扉を開けて入る。おお、さすが隆盛を誇ったメディチ家の礼拝堂。中はゴージャス。美しい色の大理石をふんだんに使った床のモザイク模様、壁、柱の装飾、どれにもため息が出る。


「日本なんて、江戸時代になったとこ、鎖国してる間だよ。すごいよねえ。」ふーこさんは、よく日本史と比較します。

「ミケランジェロって ものすごく興味ある、帰ったら勉強しよ。」とも。

ミケランジェロの聖母子像など、触ろうと思ったら触れるようなところに巨匠の作品があるのって、信じられない気がします。

ミケランジェロの有名な彫像 「夜」「昼」「黄昏」「曙」などの彫刻、迫力と気品を感じ、

「イタリア来たかいがある。」八角形の天井のフレスコ画にも見入ってしまいます。

 メディチ家の富があってこその フィレンツエの建築家 芸術家の作品があって、今 私たちが感動をもらってるのも メディチ家のおかげなんですね。

メディチルネッサンス。


 何度も歴史で学んでいるのに、知っているはずなのに、目で実際に見たことによって、

ルネッサンスをようやく少し理解できた気がしました。

いつもの二人とは違って 真面目に深く感動したのでした。


 「天才ってさあ、目の前に何も見えなくても 真実とか永遠が見えるのかも。

ダ・ビンチとか ミケランジェロとか。」

いつになく 哲学的なふーこさんだったのです。


ホテルに帰って、みっちゃんたちの部屋をノックしました。無事に帰っているか確認です。

部屋間違えたかな?って一瞬思いました。

お化粧落とされたお顔が別人でした。。。

まだ、7時まえだというのに すっかり寝支度状態でした。

「戻ってますよー。そうそうこれを受け取って」ってなにやらひとつずつ紙包みをくださいました。

「ソックスだから、ほんの気持ちだから」って。

必死に辞退したのですが

「イタリアのおみやげにしたらよろしいよ。」って押し付けられてしまいました。

 

ホテルのそばのレストランでイタリア来て初めてふーこさんとふたりだけで 夕食をしました。

店の外のテラスで食べました。

 

評判のお店らしく 流行っていました。

 隣に 大学生くらいのかわいらしいカップルが座りました。 まだ 20才前かも 飲み物はコークでしたから。


 でも男の子はタバコを吸ってました。ちゃんと私たちに断ってから吸い始めました。

イタリアは公共の場は全面禁煙ということで、そのへんのエチケットにはうるさいのかもしれないですね。


 前菜のハムも、ピザも、ポルチーニ添えのお肉もどれもとても美味しくて、

「みっちゃんたちも、つれてきてあげたかったねえ。」と、ふーこさんが言うのと、

「夕食の約束をしておけばよかったねえーと。」と私が言うのと、ほぼ同時でした。


ふーこさんも私も、みっちゃんたち大阪ツイン姉妹と デパートの前で半ば強引にバイバイしたこと、ちょっと心にひっかかっていたのでした。


フィレンツエ最後の夜は まあ なんとか穏やかに更けていったのでした。


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