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第1話 王立カルロデワ学園

 春風が心地よい四月。それは新たな年度を迎える季節であり、新たな出会いに導かれる季節でもある。特に新たな環境に身を置く者にとってはとても大きな転機になる。


 そして今年もまた、この王立カルロデワ学園に新しい若人たち足を踏み入れようとしていた。まだ着慣れておらず真新しさを感じさせる制服に身を包む新入生たちは、新しく始まる学園生活に胸を踊らされながら入学式へと向かっている。


 十五歳になったら入学の許される全寮五年制の王立カルロデワ学園。そこに我が子を預ける親たちは心配そうに、けれども期待のまなざしを向けながら校門の前に集まっていた。


 「頑張るのよ」

 「負けるんじゃないわよ!」

 「お前は俺の自慢の息子だ!」

 「あんたならできるわよ!」


 自分たちの子供を叱咤する恰幅のよい母親やエプロンを身に着けた父親。


 「頑張るのですよ」

 「あなたならできますわ」

 「行ってこい」


 同じく自らの子供に激励を送る着飾った親たち。


 一見すると住む世界が全く異なるような人々だが、彼らがそのようなことを気にしている様子はない。


 それもそのはず。この王立カルロデワ学園は身分階級が一切関係ない平等な学園。故に校門前には様々な階級の親たちの姿が見られる。しかし一度制服に身を包めば外見から学生の階級を判別することはできず、一体誰が誰の子なのか推測はできても確信はできない。この学園に足を踏み入れた時点で彼らに家の階級は関係ない。ここから先でものを言うのは実力のみだ。


 そこは良くも悪くも機会平等を体現したような学園であった。


 王立カルロデワ学園の教育理念はたった一つ。英雄を育てること。これ以外に特筆すべき教育理念はない。逆に言えば英雄さえ育てられれば何でもいいということだ。


 なぜ王立カルロデワ学園がこのような理念を掲げているかというと、それは現在の人類が直面している状況にあった。昨今、この人類は重大な危機に瀕しているといっても過言ではない。


 この世界における大まかな種族は三つ。


 すべてにおいて優れているとされている完全無敵の精霊族。精霊族の中でも特に強力な精霊である精霊王が統べている彼らの国は何百年にも渡って絶対的な地位を確立しており、彼ら精霊族の地位は揺るがない。もし世界最強の種族を問われたら、誰もが迷わず精霊族と答えるだろう。だがその絶対的な力を有しているにも関わらず、彼ら精霊族は友好的な種族で争いを好まないとされている。


 事実、彼らは人類とも交流を持っており、何百年にも渡って人間たちと友好的な関係を築いてきた。特に三代前の精霊王は妻に人間を娶ったという記述も存在するくらいだ。これがこの世界で最強と呼ばれている精霊族。


 次にその生まれつき優れた身体能力を駆使し、あまたの敵を討ち滅ぼしてきた好戦的種族と呼ばれている魔族。特に魔法能力に長けており、彼らの前ではかつて大魔道士と呼ばれていた人類最高の魔術師も赤子のように扱われていたと聞く。


 しかし彼らが目指すのは世界征服。故に昔から魔族は事あるごとに人類を滅ぼし、あまつさえ精霊族の絶対的な地位を揺るがそうと画策してきた危険な種族だ。昔こそ精霊族もその馬鹿げた目的を掲げる魔族を掲げる魔族をあざ笑っていたが、時代を経るごとに着実に力をつけてきた魔族に対して少々危機感を覚えているとされている。


 最後にその魔族と長年に渡って戦いを繰り広げてきた人族は、その類まれな知能と技術力を駆使して生き延びてきた種族。魔族ほどの優れた身体能力と魔法能力を持たない人族だが、彼らの持つ優れた発想力と技術力は精霊族でさえも目を見張るものがある。


 精霊族も人族のその優れた能力に昔から目をつけていて、友好的な関係を続けている。また人族は魔族と異なり好戦的ではないため、精霊族にとっても都合の良い種族だった。


 一方の人族は知能こそ優れているものの、力勝負となればやはり魔族に後れを取ってしまう。そこで精霊族と友好的な関係を築くことで魔族を牽制しようという裏の目的を有していたが、精霊族もそれを承知で人族と友好的な関係を結んでいる。


 けれども近年では魔族からの侵攻に手が回らない状況が続いているのが現状だ。特にここ百年は魔族の動きが活発になってきており、精霊族の加護だけでは存続することができない状況が続いていた。


 そこで王国は人類の英雄を育てるために、この王立カルロデワ学園を設立したのだ。


 王立カルロデワ学園は様々な種類の職業について学べる学び舎。成人を迎えた十五歳たちからさらに五年という歳月をかけて育成することで、世界で活躍できる人材を育てようとしている。中でもこの王立カルロデワ学園の特徴的な点は英雄を育てることだ。


 もう一度言うと、英雄を育てることであり、正義の味方を育てることではない。その証拠として、この学園には勇者科と並び、魔王科までもが設立されている。


 魔王とは元来人類を滅ぼそうとする悪役の頂点に君臨する者であり、それを人類の勇者が打倒するというのが典型的だ。だが魔族の侵攻から人類を救ってくれるのであれば、それが勇者だろうと魔王だろうと構わない。また英雄が貴族出身だろうが、片田舎の農民出身だろうが構わない。


 英雄なら何でもいい。そういうスタンスを取っているのがこの王立カルロデワ学園である。そして現に勇者科だけでなく、魔王科出身の者たちがこれまでの魔族との戦いで活躍している。


 この画期的なシステムこそが国民はじめ、人類の支持を受けてきた王立カルロデワ学園の特徴だ。精霊族の威を借りるだけでなく、自らの力で魔族の侵攻を防ぐための国家機関。


 そして今年もまた多くの新入生たちが英雄になるために王立カルロデワ学園の門をたたく。


 校門から入学式が執り行われることになっている講堂までは二百メートルほどの一本の大通りになっている。地面は石畳で舗装されており、新入生たちの足音が良く響く。


 そんな中、一際新入生たちの注目を集める者がいた。


 「おい、あれって」

 「ああ間違いない」

 「あのディーハルトの令嬢だ」


 彼らの視線の先にいたのは真新しい制服に身を包み、きれいな銀色の髪を靡かせながら石畳の道を闊歩する少女。その横には同じく真新しい制服に身を包んだ黒髪の大人びた少年の姿があった。

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