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第12話 

 入学三日目の今日、レオルベンたちは魔術科の見学に行くことになっていた。入学から一週間をかけて一通りの学科を見学ことになっている新入生たちは今日も見学に大忙しだ。


 「あ、あの」

 「どうかしましたか?」


 朝クラスに集まったレオルベンたち新入生一同。今日も見学に行こうと教室を出かけたその時、レオルベンに話しかける者がいた。


 「あなたはルイさん」

 「は、初めましてだな」

 「ええ、初めまして。レオルベンと申します」


 レオルベンに話しかけてきたのは彼と同じ新入生の制服を身にまとったルイ・リオネルだ。昨日の模擬戦でジョセフに一方的な仕打ちを受けたルイは左腕をアームホルダーで吊るしている。どうやら彼の左鎖骨は骨折してしまったようだ。


 「お怪我の方は?」

 「骨にひびが入った程度だ。治癒魔術があれば一週間で治ると言われている」

 「それはよかった」


 予想よりも程度の軽い負傷に安どの表情を見せたレオルベン。


 「それで私に何か?」

 「昨日のお礼が言いたくて」

 「お礼ですか?」

 「昨日、お前が俺に言ってくれただろ。俺の剣術はあのジョセフよりも上だって」

 「そのことですか。それなら事実を言ったまでなので気にする必要はありません」


 レオルベンの見た限り、ルイの剣術はジョセフよりも上だった。ただジョセフの身体強化があまりに秀でていたためにルイの実力では敵わなかったが、純粋な剣術の勝負ならルイに軍配があがっていてもおかしくないとレオルベンは思っている。


 「だが俺はお前のあの言葉に救われた。俺は剣の腕には自信があったんだ。でも昨日、あのジョセフに太刀打ちすることができずに一方的な敗北を突き付けられた。俺は自分の剣の腕が実は取るに足らないくらいで井の中の蛙だったのかと思った」


 確かにあのような負け方をしてしまえば自信を失うのも仕方ない。


 「でもその直後、お前があの言葉を言ってくれた。しかもお前は俺の技を使ってわざわざ確かめてくれた。だから俺はお前の言葉に救われたんだ。ありがとう、レオルベン」


 レオルベンに向かって深々と頭を下げるルイ。一貴族が他貴族の従者に頭を下げることが何を意味しているのか彼が知らないはずもない。だがそれでも彼はレオルベンに向かって頭を下げたのだから、そこには確固たる意志が存在意思ているのだろう。


 「頭を上げてください」

 「それとお願いがあるんだ」


 頭を下げたままルイは話を続ける。


 「俺に剣を教えてくれ」

 「はい?」


 突然のことについ言葉が出てしまったレオルベンだが、ルイの方は至ってまじめだ。


 「お前のあの剣術は素晴らしいものだった。身体強化したジョセフに対して剣術だけで張り合ったあの実力は騎士として見習いたい。だから頼む、俺に稽古をつけてくれ」


 いきなりの申し出に困ったレオルベンはついラファミルの方を見た。けれども昨日の一件のせいか、ラファミルはそっぽを向いてしまう。おそらく自分で決めろというラファミルなりの援護なんだろうが、レオルベンはその態度に頭を抱えてしまう。


 「わかりました、その申し出を受けましょう」

 「本当か? 本当にか?」

 「ええ。ただし、私の稽古はかなり厳しいですよ」

 「ぜひ頼む!」


 こうしてレオルベンはクラスメイトのルイに剣を教えることになった。





 

 その後、一同が訪れたのは魔術科の校舎。今日の予定では午前中に魔術科と魔女科の見学を済ませる予定になっている。しかしレオルベンたちの前に現れたのは魔術科の学生でもなければ、魔女科の学生でもなかった。


 「やあ、私が今日君たちの案内を務める魔王科二年のポーラだよ。よろしくね」


 レオルベンたちの前に現れたのはなんと魔王科の学生だった。魔王科は魔術科と魔女科の中から特に優れた学生が選ばれる選抜クラス。なぜ魔王科の学生がここにいるのかと疑問に思う学生たちにポーラは笑顔で答える。


 「実は今朝方、街の北西に魔族の襲撃があってね。その対処に魔術科と魔女科が駆り出されて今は人がいない状況なんだ。だから今日は特別に魔王科で新入生の受け入れをすることになっているの」


 魔族とは世界最強の種族である精霊族の地位を奪い取ろうとする好戦的な種族であり、そのために人族の技術を奪おうと度々襲撃を仕掛けてくる連中だ。そのたびに王国は討伐隊を編成して対処に当たるのだが、その討伐隊にこの学園の学生が組み込まれることは珍しくない。


 ただ魔術科と魔女科のほとんどの学生が駆り出されるのは普通ではなかった。そのことが新入生たちの不安をあおるが、ポーラは笑いながら説明を続ける。


 「いや、意外と近くに魔人族が来たものだから先生たちも張り切っちゃって。魔王になるためには魔族との戦闘は貴重な経験だーとか言って皆を連れていっちゃったんだよ。だからおかげで今日の見学会は人不足って訳」


 ポーラの様子から察するに自体はそれほど深刻ではないのだろう。それにもしもの時は魔王科が出れば事足りる。だから新入生たちの不安を煽らないようにポーラは元気にレオルベンたちを先導した。


 「さあて、今日はせっかくの機会だから魔王の体験会でもやろうか!」

 「体験会ですか?」


 ポーラに尋ねたのは先頭にいた女子生徒。その女子生徒は制服の上からローブを纏っているので、おそらく彼女は魔女科志望なのだろう。


 「そそ、体験会。別に普段の活動を説明してもいいんだけど、それなら魔術科や魔女科と変わらないから今日は魔王科でしか体験できないことを体験してもらおうと思って」

 「それってどういう……」

 「ズバリ、魔王様になりきろうのコーナー!」


 ポカンと口を開けてしまう新入生を他所に、わー、と自分で歓声を上げたポーラ。こういうところを見るにポーラは笑顔弾けるポジティブガールなんだろう。


 ポーラが新入生たちを引き連れてやってきたのは魔王科の中に備え付けられた広場のような場所。そこには一面に赤い絨毯が敷き詰められており、壁には人間の頭蓋骨を模したレプリカや紫色の炎が燃え盛る燭台が設置されている。


 また広場の奥には一つだけ椅子が置かれており、それが玉座だということは誰に聞かなくともわかる。部屋全体から漂う禍々しさがその場所の正体を案じさせる。


 「ここは指導者の館と言われる場所で、通称を魔王城って言うんだよー」


 そう、そこは見るからに魔王城だった。その部屋の中にいる限り、自分たちは異世界の魔王城に来てしまったのではと錯覚に陥る程よくできている。ただ残念なのが一度部屋の外に出てしまえばそこはもう平和な学園だということだろう。


 ただ扉を閉めている限りは完全に魔王城とそん色ない。


 「なんか不気味なところだな」

 「ええ。よくこれだけ再現できたと思います」

 「不思議と落ち着くわね」


 各々それぞれの感想を漏らしたマーティン、レオルベン、ラファミル。他の面々も各自様々な感想を抱いているようだ。


 「さて、今日はここで魔王になり切ってもらうよ! そのために暇な学生を集めてきたんだから!」


 そう言ってポーラが指さした先には魔王科の制服を来た学生の姿が何人かある。暗くて顔までは見えないが、纏うオーラはかなりにものであった。

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