愛新覚羅溥儀による種明かし
外からは、何かが暴れる音と、銃撃の音、そして、人の悲鳴が響いてきた。
「陛下……一体全体、あれは、何なのですか?」
岸信介の邸宅に閉じ込められた一同は、邸宅の調度品を利用して、バリケードを築き、謎の毛むくじゃらが投げる庭石・置物などを、かろうじて防いでいた。
事態が発生してから、数時間が過ぎていた。
「あれか……。我が先祖・康熙帝が西蔵の支配者たる文殊皇帝の称号を受け継いだ折、西蔵より服属の証として献上されたモノよ。かつて、朕が北京を追われた際に、行方不明になっておったが、最近、ようやく、取り戻しての……しかし、すぐに逃げてしまい、この騷ぎが起きたのじゃ」
「お待ち下さい……康熙帝とは……何百年も前の……」
「そう、あれは、何百年も生きておる」
「はっ?」
「あれは、蒙古ではアルマス、西蔵ではイエティまたはミ=ゴと呼ばれておる。人と猿の中間の如く見えるやも知れぬが、人とも猿とも異なる生物よ……。ひょっとしたら、欧米の空想科学小説に出て来る宇宙人の如きものやも知れぬな」
「うぎゃああああ〜ッ‼……ぐへっ……」
ベランダにバリケードとして置いている大理石のテーブルに、何かが激突する音。そして……断末魔の苦鳴。
「し……しかし……たった1匹の猿もどきでは、戦力もたかが知れておりましょう……」
「いや、あれに、刀槍や銃撃で多少の傷を与えても、瞬時に塞がる。そして、あの膂力じゃ……ヤツが草臥れ果てるまで暴れさせる以外に鎮圧の術は無い」
そして、そのミ=ゴなる生物が体力を消耗して倒れ伏す頃には……歩兵1個中隊分の屍の山が築かれていた。