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序章

 石原莞爾少将が、新京に着いてから、たった1時間で、辻政信大尉の胃は痛み出した。

「だから、例の禿の上等兵はどこに行ったのだ?」

「石原閣下、ですから、東條閣下の事をその様に呼ぶのは……」

「なら、聞こう。小職が東條事務官に面会を申し込んでいる事は、あの禿には伝わっているのか?」

「は……はい、一応……。あ……せめて、その東條閣下の事は……」

「判った。貴公に免じて、禿だの上等兵だの事務官だのと呼ぶのは、やめる事にしよう。例え陰口であってもな」

「御理解いただき感謝いたします」

「では、改めて、小職の最初の質問に答えてもらおう。あの憲兵上がりは、今、どこに居る?」

「いや、その……殺人事件の調査に……」

「あいつは、気は確かなのか? それが、関東軍参謀長の仕事か? 部下には規則遵守を五月蝿く言っている癖に、自分は、職務時間中に職務外の事をやっているのか? それとも、そんなに古巣が懐しいのか? ならば、ヤツに『退役するまで憲兵をやってろ』と伝えていただこうか」

 昨年、関東軍参謀部に配属された辻政信の上官の上官の……ともかく、上官を辿っていけば、関東軍参謀長である東條英機に行き着く。

 一方で、帝国陸軍参謀本部・作戦部長の石原莞爾は、辻政信が最も尊敬する人物の1人だ。

 そして、辻政信にとって、最大の問題は、この2人が犬猿の仲だと云う事だった。

「い……いえ、東條閣下も、その内戻られると思いますので……」

「時に、そもそも、殺人事件と言うが、何が起きたのだ?」

「はい……農商務省から出向されて、満洲国・産業部次長を勤められている岸信介氏の邸宅で……」

「あの国賊野郎が死んだのか。それは目出度い。ヤツは確実に国に害を成す思っていたが、くたばってくれたか。たとえ、ヤツの代では大した事をやらかさずとも、ヤツを血脈を断たねば、ヤツの子孫から日本を滅ぼしかねぬ奸物が出る、と云うのが小職の持論でな。不幸にして犯人が捕まったのなら、小職は、裁判所に温情ある判決を出すよう嘆願する事にしよう」

「残念ながら死んでおりません……。被害者は岸信介氏とは無関係な通行人で、たまたま、岸信介氏の邸宅に投げ込まれたものと思われます。いや、それに岸信介氏には感心出来ぬ点も多々有りますが、国賊とは……いささか不穏当では……?」

「『国賊』とは、本来、マヌケな権力者に諂う者の意味だぞ。東條の男妾の岸にピッタリ……」

「閣下、やめて下さい。人に聞かれては……」

「なんだ、貴公も口が悪いと聞いていたが、噂より肝が小さいようだな。それは、ともかく、被害者が岸でないなら、猶の事、何故、関東軍参謀長が自ら殺人事件の調査などをやっている? 確かに、何者かの死体が満洲国の高官の邸宅に投げ込まれるなどとは奇妙な事件だが……」

「閣下、少々、誤解が有るようですが……」

「何だ?」

「司法解剖の結果、被害者は、岸信介氏の邸宅に投げ込まれた時点では生きていた可能性が大であるとの事です」

「はぁ?」

「被害者は岸信介氏の邸宅に生きたまま投げ込まれ……庭の地面に激突して死亡したと見られております」


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