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紋章の行方  作者: 蒼京院 叶舵
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4.記憶の行方

4.記憶の行方


雨の多い季節になっていた。リュックとソフィアは山で採れたキノコ類や、近所の老人たちが畑で育てた野菜を売りに街の市場にいた。

「いらっしゃいませー!」元気いっぱいにソフィアは声を出して客を呼び込もうとするが、そもそも今日の市場には人が少ない。「今日は雨のせいか人もあまりいないし、売れないね・・・」そう言ってソフィアは隣のリュックの方を見た。

「・・・・」リュックは無言で一点を見つめていた。

返事をしないリュックの視線の先には傘を差して誰かを待つ、クロディーヌの姿があった。それを見たソフィアは俯き、口を閉じた。いくら記憶になくても、心は彼女を覚えている。だから気になる。そう思うとリュックがすぐにでも自分の前から何処か遠くへ行ってしまいそうで、胸が張り裂けそうだった。クロディーヌは待ち合わせていた様子の男が来ると、何処かへ行ってしまった。その様子をリュックはずっとぼんやり眺めていた。

「あっ、ソフィア、今日は売れないね」ふと我に返ったリュックはソフィアに声をかけた。

 しかし隣にソフィアの姿は無かった。「あれ?ソフィア?」周りを何度か見渡した後、リュックはその場を片付け、ソフィアを探し始めた。徐々に雨脚も強まっている。

 リュックは荷馬車を引きながら周辺を見て回った。

「ソフィアー?」荷馬車で通れる場所は限られているので、限られた範囲でしかソフィアを探すことは出来ない。それでもリュックは足を止めることはしなかった。

「はー」ソフィアは一向に見つからず、リュックは溜息を洩らした。荷馬車を置いて探したい気持ちもあったが、盗まれることは間違いないので、その気持ちはグッと押し殺し、再び歩き出した。大通りから入れそうな路地をその入口から一か所ずつ見て回る。狭い路地にはゴミが溢れていた。それに加え、死体なのか生きているのか分からない浮浪者が寝転んでいたりもする。見ていて気持ちいいものは何一つなかった。

そんな中、リュックは先程クロディーヌと待ち合わせをしていた男が路地の入口付近にしゃがみこんでいることに気が付いた。よく見ると何者かに斬りつけられた様子で、男からはおびただしい量の血が流れ、辺りは血だまりとなっている。日のない天候で、一見それは水たまりの様にも見えるが、近付けばどう見ても濁った赤黒い色をしている。目の前の男に意識は無く、リュックはクロディーヌの身を案じた。その路地は奥を右へ曲がれるような造りになっている様子で、雨の音で他の音は聞こえないが、リュックは路地の奥から気配を感じていた。生憎、武器は持ち合わせていなかったので、気配を全力で消して道を進んだ。細い路地の先、右に抜ける道を覗き込むと、薄暗い行き止まりでクロディーヌが男に襲われていた。男の服装は何処にでもいる様な格好で、右手にはがっちり短剣が握られていた。リュックはそっと近付き、男の頭を後ろから蹴り飛ばした。

無防備の男は左に飛ばされ、頭を押さえてのたうち回った。リュックは息つく暇なく男の右手を上から踏みつけた。

男は断末魔の叫びの様な「ギャー」と言う苦しそうな叫び声でナイフを手放し、左手で右手を押さえて悶えた。

「逃げろ!」リュックはクロディーヌを見てそう言い放つと、再び男に蹴りを浴びせた。

しかし男はリュックの足を取り、そのまま自分の方へ、その足を力いっぱい引っ張った。リュックは尻もちをつき、その間に男は短剣を拾い、リュックを上から下に斬りつけた。リュックはそれを紙一重で交わしたが、上着の胸元は下まで裂かれていた。リュックはすかさず立ち上がり、男に襲いかかる動きをした。すると男は慌ててナイフを前に突き出した。リュックの動きはフェイントで、リュックはすかさず男の腕を取り、そのまま状態を横にねじって地べたへ男をねじ伏せた。メキメキと骨が折れる鈍い音がした。腕を固められた男の手からは剣が落ちる。

落ちた剣は逃げずにその場に留まっていたクロディーヌがすかさず拾った。そしてクロディーヌは男の右目を躊躇わずに突き刺した。男は先程よりも更に大きな叫び声を上げ、状態を反り上げると、そのまま固まって後ろに倒れた。最初は足をバタつかせ、左右に転げまわっていたが、やがてその体は痙攣するだけとなり、最後にはピタッと動きを止めた。男の息が止まった瞬間だった。リュックとクロディーヌは再び男が襲ってくることを想定し、警戒しながら男の様子を見守った。

「大丈夫か?」リュックは返り血で染まったクロディーヌに声をかけた。

「驚いた?」

「驚いたかって?それは驚いたが、何に驚いたかは多すぎて選べないさ」

「リュ・・・えっと、ミロだっけ?ありがとう」そう言ってクロディーヌ血まみれの手で髪を一生懸命整えた。よく見れば当然だろうが煌びやかだった筈の服は返り血に加え、破かれていて、美しい顔は殴られた影響で左頬が腫れていた。そして白い肌が見える腕や足にも痣があちこちに出来ていた。

「怪我をしている・・・。頬も腫れて、痛そうだ」

「ええ。顔はあまり見ないで」そう返事をしたクロディーヌは、左手で腫れた頬を隠した。そしてリュックを下から見上げたが、その視線はリュックの開けた胸元で止まった。

「ん?どうした?」

「ほら、やっぱりそうじゃない」クロディーヌは左手を頬から下ろし、リュックに駆け寄った。そしてまじまじとリュックの胸の傷跡を見た後、手でその傷跡をなぞった。

「な?何だ?」リュックは慌てて一歩後ろへたじろいだ。

「あなた、やっぱりリュックよ!」クロディーヌは大きな瞳を涙で輝かせながら、リュックを見つめてそう言った。

「・・・何故だ?」

「その顔の傷。そして決定的なのは、この胸の傷よ!」そう言ってクロディーヌはポロポロ涙をこぼし始めた。そしてそのまま返り血で染まった体をリュックの胸元に預けると、力強くリュックを抱きしめ、咽込む程に泣き続けた。

「生きていたのね」そう呟くクロディーヌの暖かい体温がリュックへ伝わる。

リュックは胸の高鳴りを感じながらクロディーヌが落ち着くのを黙って待ち続けた。気づけばある程度の血糊が雨で流れ落ちていた。

ずぶ濡れの髪もそのままで、クロディーヌは二人が離れ離れになった日から今日までのことを全て話し始めた。「あの日、そう、あれはまだこの国がロレンヌ王国だった頃の話よ・・・・」


―ロレンヌ王国最後の日

 パトリックが王位継続をしたその翌日、ワルテル大臣の陰謀により、隣国のロマニア国がロレンヌ王国へ進軍した。朝一番にリュックの公開処刑を予定していたが、リュックの脱獄により、それは叶わなかった。リュックの脱獄はワルテルの予定外だったが、脱獄犯を追い駆ける程、ワルテルに余裕は無かった。

進軍してきたロマニア兵は城壁の外からだけでなく、中からもロレンヌ王国を破壊し尽くし、多くのロレンヌの民は殺戮の宴にさらされた。ロマニア兵はいとも容易くロレンヌ城を落城させた。その背景には城の内部からの手引きがあり、街へと続く城門も、城へと続く城門も中から開錠されていた。ロマニア軍は大きな損害もなくロレンヌ王国を手中に収めていた。

即位した翌日にいきなり訪れた自国の危機。動転したパトリック王は、ロレンヌ国民の最後の希望とはならなかった。反撃するどころか尻尾を巻いて逃げてしまった。トップを失ったロレンヌ兵たちは早々と投降し、一方で抵抗を見せた一部のロレンヌの兵たちは次々と殺された。

ロレンヌ王国はロマニア国・ロレンヌ領として新たな歴史のページをめくった。そしてその最初のページをめくったのがワルテルだった。表向きでは、ワルテルの今までの実績を評価したロマニア国が、ロマニア国への忠誠を誓うことで、元ロレンヌ王国の支配を中断し、治安維持をワルテルに任せるようになったと噂された。勿論それはワルテルが仕組んだ情報で、実際は全てワルテルの計画通りだった。

ワルテル派と呼ばれる部下たちは当然健在で、ワルテルは実質ロマニアの軍事力とロレンヌの経済力を手に入れることに成功し、信頼を寄せている部下たちの地位を上げ、更に懐を肥やしていた。

 何も事実を知らない民は、ワルテルは国の最悪を救った英雄として崇めるようになっていた。一方で、今まで国を治めていたロレンヌ一族は、息子による父の暗殺、国の危機に姿を眩ませた臆病者の一族としてその汚名を残した。ロレンヌ王国が滅んだ翌日には、パトリックの手配書が国土の内外に貼られ、リュックについては脱獄中に死亡、とされていた。

リュックの死亡説。実際はフレデリク・バル参謀長とミシェル・オゾン大将のねつ造だった。行方不明であることは事実だったが、死亡については彼らが死亡報告書を作成し、黒焦げの遺体をワルテルに見せ、装飾品なども偽装したことからワルテルはそれを信じ、リュックは戦火で死亡したこととなった。


―クロディーヌの話

 リュックがロマニア兵のジャックに敗れ、生死を彷徨っていた頃、クロディーヌはオレリに手を引かれ、地下水路の道を進んでいた。今日まで数多の危機を乗り越えてきたオレリは、いくつもの逃げ道を熟知していた。

「早く歩きな!殺されちまったら元も子もないんだよ!」そう言ってオレリは強くクロディーヌの手を引く。

しかしリュックと共に死に絶えることを望んだクロディーヌの足は重く、オレリが強く引く手に何とか前に進める状態だった。生き残った娼婦たちは、情勢がある程度収まるまでは水路の中に身を潜めた。そして静かになった早朝に、城壁の外にある襲撃後の小さな家に身を潜めた。中では抵抗して戦い、無残に殺された家の主と、その後犯され殺された裸の妻の遺体、そしてまだ抵抗も出来る筈がない乳児が一突きで殺された遺体が転がっていた。物の物色はされておらず、オレリたちは、裏庭にこの家族の遺体を埋めた。

 クロディーヌは無残に殺された家族を思って涙した。その様子を見たオレリは「これが戦争さ」と小声で呟いた。この家を拠点に娼婦たちは街へ赴き、商売を再開した。クロディーヌも再び娼婦として金を稼ぎ、オレリは家事全般や娼婦たちの世話をして生計を立てた。


 クロディーヌの話を聴き終わったリュックは、目を閉じて全てを思い出していた。リュックは深く鼻から息を吸うと、ゆっくり口から大きなため息のように息を吐き、その目を開いた。

「そうだ・・・」リュックはそう囁くと、今一度ゆっくりと息を吸い込んだ。「護ってやれなくてすまなかった」

 そう詫びるリュックの胸に、クロディーヌは再度深く顔を埋めた。「嬉しい・・・」死んだと思っていたリュックが生きていた。クロディーヌは今日まで生きて来たことを喜んだ。こんなに嬉しかったことはクロディーヌの人生の中でなかった。

「私も今はクロディーヌが生きていたことを嬉しく思う」

「うん」クロディーヌはそう返事をするとリュックにそっと口付けをした。

 この頃には雨は上がり、辺りはすっかり暗くなっていた。それに加え、荷馬車も丸ごとそこから消えていた。せめて見つけ損なったソフィアは無事でいて欲しいと願いながら、リュックはクロディーヌの手を引き、ソフィアとギュエルタスの家へ向かった。綺麗に晴れ上がった空には星が輝いている。

ソフィアとギュエルタスの家まではとても喉かで、カエルの鳴き声が途切れることなく響いている。二人は身を寄せ合いながら歩き、平和なひと時を噛みしめた。

 家に近付くと荷馬車が家の前に止まっているのが目に入った。ずぶ濡れのリュックが扉を開けると、同じくずぶ濡れで俯いたまま腰かけるソフィアの姿。そしてその横には心配そうな顔をしたギュエルタスの姿があった。ギュエルタスはクロディーヌを見て、二人に何があったのかを察知した。

「リュック、記憶が戻ったのか?」

「ああ。彼女はクロディーヌだ」

「そうか、大切な人なんだな」

「ああ。すまない」

「謝る必要なんかないさ。それよりその人の治療をしよう。おい、ソフィア、色々と頼む」

「あっ、うん」ソフィアは落ち込んでいたが、クロディーヌの様子を見ると、すぐに治療の準備に取り掛かった。

 クロディーヌの治療を終えると、濡れた服を着替え、皆で暖炉を囲んだ。

「リュック、お前の名はミロではなかったのか?」

「・・・ああ。ミロという名はソフィアに私が名のったことのある仮の名だ。私はリュック・リリエ=ド・ロレンヌだ」

「リュック・リリエ=ド・ロレンヌだって?成程・・・そのリュックか。どおりで聞いたことのある名前だ。その名はロレンヌ王国の死んだ王子の名じゃないか」

「死んだ王子の名って、どういうことなんだ?」

「噂話だぞ?その、リュック王子が父親のピエール王を暗殺し投獄されるも脱獄。しかしその逃亡中で、この国に攻め込んだロマニア兵によって殺されたって話だ。それに王となった弟のパトリック王子も、ロマニアの侵略を前に逃亡し行方不明。今は手配書だって出回っている。今ではロレンヌ一族は国中で蔑まされているんだ。今では王子たちがその後どうなったかなんて、誰も滅多に口にしないさ」

「ではパトリックは生きているかもしれないのだな・・・」

「可能性はあると思うぜ。それより記憶が戻った今、教えてくれないか、あなたのことを」


 リュックはギュエルタスに救われるまでの話をその場で話した。そこには一国の王子という、ここにいる誰もが知らないリュックの姿が見え隠れしていた。

 話を聞き終えたギュエルタスは、自分の髭を触りながら言い難そうに口を開いた。「リュック様、あなたはこの村で、このままずっと暮らせばいいのではないでしょうか?」言いなれない言葉遣いに、ギュエルタスの口調はぎこちなかった。

「はは、ギュエルタス、そんな話し方よしてくれ。我々は友であろう?」

「ああ、分かった。なあ、ここでゆっくり暮らそうぜ。残念だがロレンヌ王国はもう無い。そして王子のことは忘れられている。死んだことになっているんだぜ」

「しかし、今こうしている間にも、ロレンヌの民たちは苦しみ続けている。それを横目に違う人生をのうのうと生きることは胸が痛む」

「気持ちは分かるが、今この国はロマニア国のロレンヌ領だ。リュック一人で何が出来る?」

「そうだな、今更何も出来ないだろうからな」リュックは抗えない力を再認識させられた。

「よし、ではこれからどうして行くか話し合おうぜ、クロディーヌちゃんも一緒にね」

「ええ、宜しくお願いします」

「その前にソフィアと少し話をさせてくれないか。ソフィア、良いかな?」リュックは立ち上がりそう言うと、外に向かって静かに歩きだした。

「・・・うん」

 二人は外に出た。外は日中の雨の影響で少し肌寒くなっていた。

「すまない」

「うん・・・私も・・・ごめん」

「いや、君が謝ることは何もないよ」

「でも、恋人のふりをしたよ」

「いいよ。私もミロと違う名を名乗った。嘘、一回ずつでお互い様ってことだ」

「うん。でも、本当に私はミロ、リュックのこと好きだったんだよ」

「ああ。ありがとう。君の愛があったから、私は今日まで生きてこられたんだ。本当に感謝しているよ。でも、私は彼女のことを愛している」

「そんなの、誰が見ても分かるよ」

「そうなのか?」

「なーにそれ?リュックは正直すぎるよ」

「そうか、でもソフィアだって正直だろ」

「そうだね、ある意味私たちは似ているのかもね。ね、これからどうするの?」

「まだ考え始めたばかりだ。記憶を失う前は、国王暗殺容疑で投獄されていた身だしな。当時の仲間たちが用意してくれた家はもうないだろうし、あったところでもう住めないさ。今はもう、彼らに会う術もないし、生きているのかさえ分からない。もし生きているのならば、共に立ち上がる必要があるかもしれないが」

「お城に行ったら、また捕まっちゃうもんね」

「ああ。分かっていて藪蛇になるバカではない」

「そうだね。もうお城には近付かない方が良いのかもね」

「ああ。だが心の何処かに罪悪感がある。私がもっとしっかりしていれば、この様な事態にならなかったかもしれないという」

「今それを言っても、どうにも出来ないんじゃないかな?リュックは今、ここにいる。今はそれが全てでしょう?」

「そうだな。過去に囚われては、その先の未来はないな」

「私もそう思うよ。ねえ、リュック、もし良かったら、私と一緒に畑作らない?」

「畑?」

「小麦畑にオリーブ畑、他にも野菜育ててさ。この辺りの住民はお年寄りばかりだから。若い世代が何とかしないとだし」

「そうだな」

「じゃあ決まりね!あっ、クロディーヌも手伝ってくれるかな」

「聞いてみるよ。多分、大丈夫」

「よーし!ではこれからも宜しく!」

リュックとソフィアは握手をすると家の中へ戻った。

「話は済んだのか?」ギュエルタスは二人が何の話をしたのかを想像し気まずそうにしていた。

「ああ。あと、ギュエルタス、私とクロディーヌの住処について相談したいのだが・・・」

「今クロディーヌちゃんにも話したが、この家の少し先にある蔦が絡みついた家があるだろ?」

「ああ、あるね」

「あそこは二年前に住んでいたばあさんが死んでから空き家なんだ。もしよかったらあそこに住むといい」

「わかった。ありがとう」

「生活が出来るようになるまではここにいればいいだろ」

「ああ、助かる。本当にありがとう」


 翌朝、リュックとクロディーヌは蔦のある家の前にいた。

「ねえ、リュック、この家、蔦がいい味出していると思わない?」

「ああ。そのままにしておこうか」

「うん。あと家の周りに花を植えても良い?」

「勿論だよ」

 家の扉を開けると、想像通りのジメジメとしたカビ臭さと、人がかつて生活していたことを物語る家具などが残っていた。二人は少し微笑み合うと、まずは部屋の換気を行った。

「中の状態は想像していたけれど、それでもありがたいな」

「そうね。それに今はワクワクした感情しかないわ」

「クロディーヌ、もうずっと一緒だぞ」

「・・・はい。でも・・・」

「オレリさんか?」

「ええ」

「彼女にはもう十分な程に恩を返しただろう。もう戻らなくていいさ」

「・・・はい」

 リュックはクロディーヌをそっと抱きしめた。二人はこれからの人生について語り合った。家の家具の配置から食べたい料理、欲しい子供の数や性別まで、時間の許す限り失った時間を取り戻し続けた。

 翌日、リュックはクロディーヌに聞いたオレリの家に向かった。外から家の中をそっと覗き込むと、しこたま貯め込んだロレン硬貨を眺めては不敵な笑みを浮かべていた。

「これは本当に大丈夫そうだ」そう呟くとリュックはその場を後にした。



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