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謀婚  作者: 樫本 紗樹
七章 幸せを求めて
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王宮での生活

 翌日、サマンサから商人を呼ぶから一緒に買い物をしないかと言う誘いを受け、ライラは多少着飾ってサマンサの部屋を訪ねていた。サマンサの侍女三人とエミリーも室内にいた。サマンサの侍女は少し離れていた所に控えていたが、ライラはそれに構わず今までのようにエミリーと話しながら商品を見ていた。ライラの表情が少し不機嫌そうで、それはエミリーがライラの横に立っているせいだというのはエミリーにはわかっていたが、王女の部屋のソファーに腰掛けるのは流石に身分を弁えていなさすぎるので、主の視線が痛かろうがエミリーは無視をしていた。

「お姉様、これはどうかしら?」

 サマンサが商人に勧められた耳飾りを手に取り、自分の耳に当てた。ライラは悩むように少し首を傾げた後、テーブルの上に並べられた他の商品を見回して、小振りな耳飾りを手に取った。

「サマンサ様ならこちらの方がお似合いですよ」

「可愛らしい物を選ばれるのね」

「小振りな物が一つあるととても便利です。既にお持ちですか?」

 サマンサは視線を侍女の一人にやる。その視線を受けた侍女は首を横に振った。

「ないみたい。どのように便利なの?」

「小振りな物は耳たぶだけでなく、耳介にもつけられます。こういう感じで」

 そう言いながらライラは一旦手にした耳飾りを元の位置に戻すと、自分の左耳たぶにある耳飾りを外して右耳介につけた。耳飾りを耳介につけるという発想がサマンサにはなく、納得したように頷くと一人の侍女に目配せをした。その侍女は一礼すると奥へ一旦下がり、宝石箱を持ってサマンサの傍らに侍るとその箱を開けた。中には色々な耳飾りが入っている。どうやら耳飾り専用の宝石箱のようだ。流石王女は違うと思いながらライラはその中を覗いていたが、小振りな物は一つもなかった。

「お姉様ならどう組み合わせるの?」

「そうですね、私ならこの小振りの物とそちらのルビーの物を合わせます」

 サマンサは侍女に視線をやる。侍女は箱を一旦テーブルに置くと、サマンサの耳飾りを外してルビーの耳飾りをつけた。そしてライラが勧めた小振りな耳飾りを耳介につける。サマンサは鏡でその組み合わせをじっと見つめた。

「確かに。小振りなのは邪魔をしないけど、あるのとないのでは違うわね。気に入ったわ、これにする」

 サマンサの言葉に商人が一礼をする。自分が勧めたものが一番高い耳飾りであり、それを売りたかったが、下手に勧めるとこの王女は気分を損ねて一切買ってくれない事を知っているので、大人しく他の宝飾品を片付けた。

「お姉様はいいの?」

「私はガレスから持ってきた物で当分問題ありません。香水など消耗品は欲しいと思っていますけれど」

 ライラの言葉に商人は目を輝かせ、別の箱を取り出した。そこには何種類もの香水があったが、ライラが使っている物はない。

「私は今使っている物と同じ物が欲しいのだけど、取り寄せとかして頂ける?」

 ライラの代わりにエミリーが商品名を告げた。商人はそれなら店にあるから、必要な時にいつでも呼んで下さればお持ちしますと答える。ライラは満足そうに微笑みながら頷いた。

 商人は新しい顧客を見つけ、満足そうな表情を浮かべながら荷物をまとめると、一礼をして部屋を出て行った。

「お姉様の香り、石鹸系よね。薔薇などが似合いそうなのに」

「薔薇も好きですけど、ジョージ様が薔薇は苦手らしいので」

 ライラは微笑んだ。サマンサは頷く。

「お兄様は花系全般が苦手なのよ。わざとらしいのが嫌みたい」

「そうみたいですね。ウォーレンから貰った化粧水をどうしようか今悩んでいます」

「ウォーレンから? 化粧水と乳液を貰ったの?」

 サマンサが驚きの表情でライラを見る。ライラは何がそんなに驚かせたのかわからないまま微笑む。

「えぇ。先日ジョージ様とハリスンのお屋敷に行った時に頂きました。宜しければ使われますか?」

「えぇ。あれはすごくいいと噂なのよ。ウォーレンの美肌を見たでしょう? 男性であの肌になれるのだもの。女性が使えばもっと素敵になるわ」

 サマンサの言い分にライラは納得した。

「では今から取ってきましょうか?」

「明日でいいわ。明日また三人でお茶会をしましょう。その時、ね」

 サマンサはにっこり微笑んだ。これは何か企んでいるなとライラは思ったが、その内容まではわからない。

「もしよかったら私の部屋でお茶会をしませんか? いつもサマンサ様の部屋と言うのも悪いですから」

 エミリーはジョージから貰った茶葉の美味しさを引き出せる淹れ方を見つけていた。それは前回サマンサの侍女が淹れたものよりも美味しいとライラも思ったので、是非サマンサにも勧めたかったのだが、侍女がいる手前正直に言うのは憚られた。

「その時にお姉様が持っている宝飾品を見せてくれる?」

「勿論です」

「それならお姉様の部屋で、紅茶もそちらで用意してくれるかしら。お茶菓子は私が適当に声をかけて持っていくわ。明日の午後二時でいい?」

「大丈夫です。楽しみです」

「えぇ、楽しみね」

 サマンサとライラは微笑みあった。



 サマンサの部屋を後にしたライラとエミリーは部屋へは直接向かわず、少し遠回りをしていた。それはライラの希望を叶える為である。

 暫くして太った女性が二人、向こう側から歩いてきた。ライラはその見た目、過度な宝飾品でナタリーの侍女二人だと判断した。立場的には赤鷲隊隊長に嫁いだライラの方が上なので、ナタリーの侍女達は頭を下げなければいけないが、立ち止まる気配もなく帝国語で話しながら二人はライラ達の横を通り過ぎた。

 その時、ライラは侍女二人に視線を向けた。頭を下げなかった事を咎める為ではない。二人が話している言葉の中にガレスと言う響きがあったから反応したのだ。しかしナタリーの侍女二人はライラを見下すような表情をして、そのまま去っていってしまった。ライラは暫く動けないでいたが、エミリーに促され自室へと歩き始めた。

「よくあれを放置しているわね」

 ライラは自室に入るなり不機嫌そうな表情でソファーに腰掛けた。

「帝国語は誰もわからないだろうと好き勝手に話されているのですよ」

「それにしても酷くないかしら。『あいつが執着していたガレスの姫、大した事ないじゃない』『誘拐失敗で良かったかもね。あの貧相な身体で皇妃は無理でしょ』とはどういう事よ。私が貧相ではなくて、二人がふくよか過ぎるだけなのに」

 ライラはナタリーのふくよかな侍女二人が、想像以上に太っていて驚いた。ふくよかと聞いていたのでむっちりしているくらいだと思っていたのに、腰のくびれもわからず全体的に太っている侍女など今まで見た事もない。むしろ独身女性としてありえない。顔も別段綺麗というわけでもなく、エドワードが何故関係を持っているのか、ライラは余計にわからなくなった。

「誘拐失敗で良かったと思われているなら、それでいいではありませんか」

「再度誘拐されても困るし、それはそうだけど」

「ナタリー様の心労を考えれば、多少の文句くらい聞き流されたら宜しいかと」

 エミリーにそう言われ、ライラは小さなため息を吐いた。

「あれが五年、もしかしたら嫁入り前から側にいるのよね。よく我慢をしているわ。本当にナタリー様は何が楽しくて生きているのかしら」

「今はアリス姫が生き甲斐でしょう」

「その前の三年は辛かったでしょうね」

「それは何とも。帝国にいるよりは幸せという可能性もありますし」

「怖い兄がいたら暮らし難いでしょうしね。エミリー、明日は上手く聞き出してくれる?」

 ライラは笑顔をエミリーに向けた。エミリーは困ったような表情を返す。

「私がここに控えさせてもらえるかはわかりません」

「サマンサは追い出さないわ。ナタリー様も反論しないと思うけど」

「追い出さないとは?」

 ライラはエミリーの腕章を指差した。

「その腕章をつけた者が王宮内に他にいる? それはジョージが信頼した証。サマンサはジョージが信頼した人を受け入れないはずがないわ」

 ジョージが無知な貴族や使用人達に軽んじられているとはいえ、赤鷲隊が国内で一番の軍隊であり、その腕章をつける事は軍人の憧れである。腕章にも階級を表す線が入っているが、エミリーの腕章は隊長しか使用が認められていないもので、知っている者が見れば一目でわかる。しかしエミリーは軍隊に関しての知識を持ち合わせておらず、今まで気にせず身に着けていた。その腕章があるからこそ仲良くしてくれる使用人達がいるとは気付いていなかった。

「わかりました。私もお茶会には参加したいので上手く言ってみます」

「えぇ、美味しい紅茶もお願いね。エミリーの紅茶がまた飲みたいとなれば、この部屋で毎回お茶会をする事も可能でしょうから」

 エミリーは頷いた。彼女はこの王宮に来てから他人の淹れた紅茶を飲んだ事はない。それでも自分が淹れる紅茶が一番だと自負している。ジョージ達に振る舞った時より美味しく淹れる事も出来るようになったし、ガレスから持ち込んだ茶葉もある。それに何より彼女自身、そのお茶会がとても気になっていた。王女と皇女の会話に興味がそそられていた。

 エミリーがどうしようか考え始めた頃、扉をノックする音が響いた。彼女は音で誰か判別出来ず扉に近付き、どちら様でしょうかと声を掛けた。そして帰ってきた答えに驚き、振り返ってライラを見る。ライラは微笑んで頷き、エミリーは扉を開けた。

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