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謀婚  作者: 樫本 紗樹
七章 幸せを求めて

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義理姉妹のお茶会【後編】

「もう何なの、二人とも。私は二人に仲良くして欲しいだけと言っているでしょう? ナタリー様、いつまで侍女のせいで逃げるつもり? 私がエドお兄様の考えを知らないと思ったら大間違いよ。それにお姉様も。お兄様の考えている事くらい別に聞かなくてもわかっているの。この妙な雰囲気を仕組んだのはエドお兄様。そしてこの雰囲気を元に戻したいのがお兄様。それは二人とも知っていて?」

 サマンサはナタリーとライラを睨みながら一気に捲し立てた。ライラがサマンサの言葉を理解し、どう対応するか考えている間、ナタリーは紅茶を一口飲むとサマンサを睨んだ。

「知っているわよ。私が何の為に五年も我慢をしていると思っているの。殿下に嫌われないようにずっと我慢をしているの。もうほっといてよ」

 おっとりした話し方をするナタリーが珍しく声を荒げた。それをサマンサはにこっと微笑んで受け止める。

「我慢をするからいけないのよ。エドお兄様は寂しがり屋なのに疑り深い人で、今一生懸命なの。素直ではないからわかり難いけれど、アリス姫の溺愛具合を見たら何か感じるものがあるでしょう?」

 サマンサの言葉にナタリーは首を横に振る。

「アリスにだけ優しいの。私の事なんて別に……。今日のお茶会の趣旨は一体何なの。殿下もサマンサ様もいつもはぐらかすような話し方ばかりするから、もう本当に辛くて。シェッドがよくないのはわかるけど、私はあの国に帰りたいなんて最初から思っていない。それなのに五年半努力しても未だにシェッドの人間としか見られないし、勝手に王妃殿下を嫌っている事にされているし、もう嫌」

 ナタリーは両手で顔を覆う。突然のナタリーの変わりようにライラは戸惑っていた。サマンサはライラを見つめる。

「お姉様、ナタリー様を助けたいとは思わない? 夫婦問題は別にして、王妃殿下との話は間にお姉様が入ると上手くいくと思うのよ」

「私に何が出来るのでしょう?」

「お姉様も口調を崩して。今日は上辺だけのお茶会ではないの。お兄様達が帝国と戦っている今、私達は王宮で戦う為の作戦会議をここでするのよ」

 ナタリーが手を下ろしてサマンサを見る。泣いているのかと思ったが、瞳が潤んでいる様子もない。ライラは再びエミリーがいない事を悔やんだ。ライラは人を見極める事自体に自信はあるが、嘘を見抜くのは得意ではなかった。その感性はエミリーが勝っているのである。

「さっきも言ったけど、私は将来嫁ぐから正直どうでもいいの。でもお兄様達の事が不安で。特にエドお兄様とナタリー様の事は本当に心配しているの。お姉様の方は心配していないわ。お兄様の態度でそれはわかるから」

 サマンサの言葉にライラは戸惑った。姫対応をするべきなのだろうが、素を晒さないと話が進まない気もする。

「態度と言われても、私にはよくわからなくて」

「お兄様は好きでもない女性の手など握らないわよ。ずっと手を繋いでいたのでしょう? カイルから軍団基地の時の話は聞いているのよ。朝から晩まで毎日一緒だったと」

 ライラは姫対応を諦めた。協力者の立場を装うにも既に情報が漏れている。しかもカイルからサマンサなど想定していなかった。

「まだ嫁いで一ヶ月くらいでしょう? それなのにもう愛し合っていると言うの?」

 ナタリーが不満そうな表情でライラを見る。ライラは頬を少し赤らめた。

「とても優しくて素敵な方なのであっという間に心を奪われてしまったの」

「たった一ヶ月で? どうやって?」

 ナタリーはライラの腕を掴んだ。先程とは違う鬼気迫る雰囲気を纏ったナタリーにライラは圧倒された。

「ナタリー様落ち着いて。それはエドお兄様とお兄様の性格の違いなの。ナタリー様とお姉様も性格は違うのだから、同じようになるはずがないわ」

 歳下であり未婚のサマンサに宥められ、ナタリーはライラの腕を離すと俯いた。

「私もすぐ殿下に心を奪われたのよ。だけど殿下は私なんて見てくれない。シェッドがある限り、つまり一生殿下は私を受け入れてくれないのよ」

 ライラは内心混乱していた。アリスという娘がいるのにナタリーは何を言っているのだろうか。複雑な恋愛感情をライラはまだ理解出来なかった。ただ、四人で話した内容が正しいのであれば、このナタリーの悩みは無駄である。

「今回の戦争の意味、ナタリー様はエドワード殿下から伺っている?」

「サマンサ様もライラ様も先程から戦争と言うけど、何の話?」

 ナタリーは怪訝そうに聞き返した。その表情を見てサマンサは呆れ顔をする。

「いやだ、エドお兄様はそこから説明をしていないの? もう何故全部黙ってやろうとするのかしら。本当にどうしようもない人」

「今朝、ジョージ様が国境へ向けて出立したわ。シェッド帝国がローレンツ公国を蹂躙し、レヴィ国境まで迫ってきたから戦争になると」

 ナタリーは首を横に小さく数度振った。本当に知らなかったようだ。

「議会を通さず勝手に決めたと今議会は大荒れよ。ナタリー様は本当に知らないの?」

「議会を通さず? ガレスとの休戦でさえ議会で何ヶ月とかかったというのに?」

「えぇ。今回は緊急を要すると親子三人で決めたそうよ。そしてそのきっかけを作ったのがお姉様なのでしょう? よくあのお兄様を動かしたわよね」

「私はただ向き合った方がいいと言っただけで」

「それでも十分よ。エドお兄様はずっとお兄様を帝国との戦いに向けさせたくて、水面下で色々策を練っていたの。最後の仕上げをお姉様に持っていかれて少し悔しいみたいよ」

 ライラは平生を必死に取り繕った。姫は戦争の事など気にしないとカイルに聞いていたのに、サマンサは違う。エドワードとジョージの話を聞きつつ、他の貴族達からも情報を集め、この国がどう動くかを全て把握している。そしてきっと知りえる情報を誰にでも流しているわけでもなく、先程は気分と言っていたがきっと狙いがあって情報を操作しているのだろうとライラは感じていた。

「ナタリー様は本当に知らないの? 母国からの情報もあったでしょう?」

「私はシェッドの情報など持っていないわ。父や兄が何か言うのは侍女にで、私は昔から信頼されていないの」

「それなら舞踏会の時、あれは忠告だったの?」

 ライラの言葉にナタリーは微笑む。

「そう、北方言語がわかるの。外出されたからどうなのかと思ったけど」

「あれだけでは何を意味しているのかわからなくて」

「偶然聞いてしまったの。侍女が誘拐計画を立てているのを。兄がライラ様を気に入ったらしいけど、私は兄を幸せにしたくなかった。私の人生が狂ったのは兄のせいなのに、兄だけ幸せになるなんて許せなかった」

 ナタリーの表情に怒りが感じられる。

「でも帝国語だと殿下に聞かれてしまう。だから北方言語にしたの。伝わるかはわからなかったけど、黙ってもいられなくて」

「ちょっと何? 私がお茶会をしなくても実は二人仲が良かったの?」

 サマンサが二人のやり取りに割って入る。流石のサマンサも今の会話の流れは情報として持っていなかったようで不機嫌そうだ。

「いいえ。サマンサ様のおかげよ。私だけでは侍女をまいてライラ様に会う事は難しいから。私が妙な行動をすれば、侍女を通して父や兄に伝わってしまうし」

「あの太った侍女二人でしょう? 私は追放したくて仕方がないのに、エドお兄様が駄目だと言うから我慢しているのよ。エドお兄様はたまに命令が面倒なのよね」

「でも戦争が終わったら追放すると聞いたわ」

 サマンサとナタリーがライラを見る。ライラは微笑んだ。

「ジョージ様は戦争などしたくなかったの。でも帝国との曖昧な関係を清算する為に決心したの。それはレヴィの未来の為、そしてエドワード殿下の為でもあるのよ」

「お兄様の事だから自分の為でもあるわよ、ね?」

 サマンサに笑いかけられ、ライラははにかんだ。平和になれば二人でゆっくり過ごせるという事もサマンサはわかっているのかもしれない。

「戦争はレヴィが勝つの?」

 ナタリーは弱々しく尋ねた。

「お兄様は負け戦などしないわ。言ったでしょう? あの人は根っからの軍人なの。今から帝国に何かを言ってももう遅いわよ。お兄様の事だもの、根回しはもう終わっているわ」

「私はシェッドに対して愛国心を持ち合わせていないから、レヴィが勝つならそれでいい。ただ、その場合私はここに居てもいいのかしら」

「それはエドお兄様と直接交渉をして。アリス姫は絶対に手放さないでしょうけど」

 サマンサの冷めた言い方にナタリーは視線を伏せた。

「アリスを置いて出ていけなんて言われたら、私はもう生きていけないわ。あの子だけが私の生きる希望なのに、そんな……」

 ナタリーは顔を両手で覆った。今度は声が震えているので本当に泣いているだろうとライラは思った。それ故かける言葉が見つからない。

「もう本当に面倒臭いわね。だからそれをエドお兄様に言いなさいよ。エドお兄様は決して冷酷ではないわ。ナタリー様の言い分も聞いてくれるわよ」

「殿下は私に優しい言葉なんてくれないもの。せいぜい好きにすればいいが関の山よ」

「好きにすればいいと言われるのなら、ここに居ればいいのでは?」

 ライラはナタリーの悩みを理解出来ず、あっけらかんとそう言った。ナタリーが顔を上げ、涙を指で拭ってライラを見つめる。

「出ていけと言われても帰る場所がないと言えばいいと思うわ。私はジョージ様に何を言われてもガレスに帰る気なんて一切ないわよ」

「でもそのような事を言ったら嫌われてしまうわ」

「それはつまり今は嫌われていないという事でしょう? それなら出ていけなんて、言われないのではないかしら」

 ナタリーはきょとんとした表情でライラを見ている。その様子を見てサマンサが笑う。

「本当にお姉様はいいわ。考え方が前向きな所はとても好感が持てるもの。お姉様となら心を開いて話せると思っていたのよ」

 サマンサはケーキを一口大に切ると、大口を開けてそれを口に運んだ。ライラもそれを真似てケーキを頬張った。二人は目を見合わせて微笑む。その二人の様子を見てナタリーもケーキに手を伸ばすも小さく切っただけだった。それを横目で見ていたライラがナタリーの腕を掴んで少し大きめに切る。戸惑うナタリーにケーキを飲み込んだサマンサが微笑む。

「いいじゃない、ナタリー様。行儀作法など忘れましょ。私はずっとナタリー様に心を開いて欲しかったの。このお茶会は心の探り合いをしないで楽しみたいのよ」

 ナタリーはサマンサとライラを交互に見る。そして少し大きめに切られたケーキをフォークで刺すとそれを頬張った。慣れない事をしたので、ナタリーは少しむせるも口元を手で覆って一生懸命噛んでいる。そんな姿にサマンサもライラも微笑む。ナタリーも笑顔を浮かべた。

「頬張るなんて初めて」

「そうなの? 王族は大変なのね」

 ライラは微笑んだ。そんなライラにサマンサは呆れ顔をする。

「お姉様も公爵令嬢でしょう?」

「そうだけど、よく王都に出かけてパンを頬張っていたから」

 サマンサとナタリーが不審そうな顔でライラを見る。

「王都とはガレスの王都?」

「そうよ。この王宮は勝手に出られないと聞いて残念なの。ジョージ様に少し見せて貰ったけど、美味しそうな物が沢山あったから」

「この前王宮を出た時に王都も見たの?」

「えぇ。ジョージ様の好きな焼き菓子を買ったの。市場のお店にあんなに焼き菓子が並んでいるのをガレスでは見た事がなくて。流石レヴィという感じで。帝都にも焼き菓子のお店なんてないわよね?」

「私は帝都を歩いた事がないの。馬車で通過するだけ。普通はそうではないの?」

 不安そうにナタリーはサマンサを見る。

「普通はそうよ。私も王都を歩いた事なんてないわ。晩餐会に呼ばれて馬車で出かけるだけ。ガレスはそのように自由な国なの?」

「ガレスと言うか私だけかもしれないわ。私は外交官をしていたから色々と出歩く事が多くて」

「外交官? どういう事?」

 ナタリーが訝しげな表情をライラに向ける。ライラは微笑む。

「外務大臣である父の仕事を手伝っていたの」

「それで兄がライラ様の事を知っていたの? 兄とライラ様の接点が私にはよくわからなかったのだけど」

「私は二年前に皇帝就任祝賀会に参加したの。ガレス王太子妃である妹の付き人として。その時に少しお話をする機会があったの」

 ライラはさらっと話した後に祖父に口止めされていた事を思い出したが、もうどうせ祖父に会わないしいいかと気にしない事にした。

「お姉様は帝国にも出かけているの? あ、だから帝都にお店がないと言ったのね」

「そう。その時は馬車から覗いただけだったのだけど、活気のあるお店はなくて。レヴィとは全然違うのよ。暗い雰囲気と言うか。ずっと曇り空だったからそれで暗く感じただけかもしれないけれど」

「シェッドはレヴィみたいに四季がないの。秋と冬だけと思って貰っていいわ。だから陽の射す時間も少なくて。この王宮に来た時の陽射しの明るさは今でも覚えている。庭も四季折々色々な表情を見せてくれるし、お料理も美味しいし。いえ、お料理は二年前から美味しくないのだけど」

「だからそこは不味いでいいのよ。あのような料理、塩か香辛料を振らないと食べられないわ」

「ちなみにその料理は王妃殿下の口には合っているの?」

 ライラの疑問にサマンサとナタリーは不思議そうな顔をする。

「王妃殿下も嫁がれて約二十年なのよね? 約十八年レヴィの食事だったのに、いくら故郷の味とはいえ普通は美味しい方を選ぶのではないかしら」

「確かに。王妃殿下がレヴィの味付けに文句を言ったという話は聞いた事がないわね」

「それなら何? 自分も我慢する陰湿ないじめとでも言いたいの?」

 ナタリーは眉根を寄せた。侍女の争いだと深く考えていなかったが、そう言われれば確かにおかしいと思えた。

「ガレスとは国交がなかったから公国がよくわからなくて。だけど陛下も公国の味を認めているなら、何か意味があるのではないかと思えるの」

「それこそお姉様が聞いてきてよ。私は王妃殿下には会わせて貰えないの」

「でも私は舞踏会の時に睨まれてしまって。会って頂けるかどうか」

 ライラの問いにサマンサは笑う。

「王妃殿下の冷たい眼差し以外の表情を知っている者なんて、この王宮にそういないわ。私も知らないわよ。ただウルリヒお兄様に聞いたら、微笑んだりは出来る方らしいのだけど」

「私は侍女に仲良くするなと言われていたから、基本的に逃げているの。関わらなければいいかなと思って。結果侍女が好き勝手しているのだけれど」

「ナタリー様と侍女の関係性が私はよくわからないの。教えてくれない?」

 ライラは相変わらず思った事を口にした。サマンサは直球で聞くのかと驚きの表情をし、ナタリーは苦笑いを浮かべた。

「シェッドは政教一致の国。一神教であり、一夫一妻制。母はシェッド北方で最も力を持つ伯爵家の出身。ローレンツ公国との争いが終わらないので、北方とは仲良くしておきたいというわかりやすい政略結婚よ。しかし、父には母が嫁ぐ前から愛妾がいて、その間に生まれた二人の娘が私の侍女二人なの」

 淡々とした声色で話すナタリーの話の内容にライラは驚いた。そんな関係では確かに仲良く出来るはずがない。

「愛妾との子は庶子扱いだから、本来なら修道院に入るのが筋なの。だけど父はそうさせなかった。信頼していない女の娘である私の監視役に二人を付けた。ただでさえ辛いのに、あのように大きな態度を取っているのに誰も咎めない。それどころか殿下の寵愛さえ……」

 それ以上は言葉に出来ず、ナタリーは俯く。ナタリーは勿論知っていた。その侍女二人とエドワードが関係を持っている事を。しかしそれをエドワードに直接抗議した事はない。切られるのは自分の方だろうと思うと何も言えなかったのである。

「ナタリー様はどうしたいの? 一度きりの人生を楽しまないの?」

 ライラはナタリーの心にあえて踏み込んだ。ナタリーは顔を上げてライラを睨む。

「ライラ様に私の何がわかるの? 生きているのが辛くても、侍女達が見張っているから死ぬ事も出来ない人生だったの。今はアリスがいるから死ぬなんて考えは捨てたけど。私にはアリスだけなの。アリスだけはきっと裏切らない……」

 ナタリーは顔を両手で覆って俯いた。ライラにはナタリーが正妻の娘なのに、愛妾の娘に遠慮している理由がわからない。複雑な事情があるのだろうが、そこに拘る気はなかった。ライラはあくまでレヴィ王宮内の争いを鎮めたいのであって、それ以外まで首を突っ込む気はない。

「わかったわ。ナタリー様の為にも王妃殿下と接触が出来るか探ってみる」

 ライラの言葉にサマンサは明るい表情をする。

「ありがとう、お姉様。私も出来る限りの協力はするから宜しくね」

「それならこうやって定期的にお茶会を催したいわ。私達が仲良くする事で、王妃殿下に動きが出るかもしれないし」

「そうね。私とナタリー様だけでは何の反応もなかったけど、お姉様もこちら側と思えば、王妃殿下は孤立した気分になるでしょうし」

「だけど先程の戦争の話、ローレンツ公国に有利な状況になるのよね? 王妃殿下が強気になる可能性もあるのではないの?」

 ナタリーの疑問にライラは考える。ジョージは公国を重んじるとは言っていた。しかしあくまでもレヴィが一番有利になるように交渉する事には変わらない。そもそも大公の手紙に苛立っていたのだ。表面上はわからないが公国が利するような話には持っていかないだろうと彼女は判断した。

「それは大丈夫だと思う。ジョージ様はレヴィが一番になるように考え行動する方。エドワード殿下もそうではないの?」

「そうだとは思うけど、殿下は私とあまり話して下さらないからわからないわ」

 ナタリーは寂しそうに目を伏せた。サマンサがため息を吐く。

「エドお兄様に遠慮をし過ぎるの、そろそろやめたら? お姉様みたいに何でも口にするからお兄様も折れた訳で」

 ライラはサマンサを見る。サマンサは微笑んだ。

「お兄様、本当に今まで女性に興味なんて持っていなかったのよ。何を考えているのかわからず信用し難いと。でもお姉様は賢そうな雰囲気があるのに素直な感じもして、隠し事をしている感じがしないのが、この王宮ではとても新鮮で魅力的」

「私は隠し事が出来る方だと思うのだけど、そこまで顔に出やすいかしら?」

「多分お姉様は本能的に相手を見ているのよ。素で話していい人か、表面上だけの付き合いの人か。私とナタリー様に対しては素を晒していいと判断して今の態度でしょう?」

 サマンサに分析されライラは笑うしかなかった。流石はレヴィ王家唯一の王女だと感心するしかない。そしてそれはナタリーも同じように感じていた。

「凄いわね。私はそういう駆け引きは駄目なの。相手に深入りをしなければ自分も傷付かない。それ以上の事は怖くて……」

「急に性格は変えられないわよね。だからエドお兄様の件は一旦置いておきましょう。私は王宮の食事が美味しくなる事の方が重要だから」

 サマンサの言葉にライラは笑う。ナタリーも困ったように笑う。

「お茶会初日にしては有意義だったわ。ナタリー様、お姉様、これからも宜しくね」

 サマンサはにっこりと微笑んだ。ライラとナタリーも微笑む。ここに女三人の秘密の協定が結ばれたのだった。

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