陰謀
翌日の朝、ウルリヒは軍団基地内を歩いていた。彼は正式隊員ではないという事もあって、力仕事は回ってこない。今は復興作業に必要な物をどこにどれだけ運べば効率が良いのかを考えて手配をする任務に当たっていた。復興作業は軍団基地だけでなく近辺の国境付近も含まれているので、軍団基地外の現場に材料輸送を手配するのも仕事の内だった。
「すみません。今日既に誰が馬車で出て行ったか教えて貰えますか?」
ウルリヒが王子である事は隊員全員が知っている。しかしジョージが彼に隊内では敬語を使うよう強要していたので彼は敬語を使い、隊員も敬語で答えるのが日常であった。
ウルリヒの質問に隊員が答える。彼は指定した数より馬車が一台足りない事に気付いて質問したのだが、その答えはやはり一人多かった。頼んでいない人間が出かけている。ウルリヒは早足にカイルの元へと向かった。カイルは資材や食料の調達をしている。もし余分に馬車を使うならカイルしかいなのだ。
「副隊長」
ウルリヒは執務室以外では一応弁えて対応していた。
「どうかしましたか?」
「馬車が一台足りないのですが、緊急な用でもありましたか」
「いいえ。誰が指示されていない馬車を使用したのかはわかりますか?」
「聞いたのですが、聞き覚えのない名前で。トリスタン・ケントという名を御存知ですか?」
ウルリヒの問いにカイルは怪訝そうな顔をする。
「いえ、赤鷲隊にはいません。黒鷲軍までは把握していないので、黒鷲軍団長に確認に行って貰えますか? 私は隊長に報告をしに行きますから」
ウルリヒは頷くと踵を返してカイルの元を去って行った。カイルは胸騒ぎがしたものの、ここで不自然な態度を取ると隊員達に不審に思われるので、平生を装いながらジョージの元へと向かう。しかし執務室の扉が見えると焦りが勝ってしまい、ノックと同時に扉を開けた。
「隊長!」
「カイル、お前までノックと同時に開けるのかよ。ウルリヒの事――」
「緊急事態です。トリスタン・ケントという隊員を御存知ですか?」
「トリスタン・ケント? 今週野営組の黒鷲軍名簿に載ってた気がするが」
ジョージは軍隊の隊員をおおよそではあるが覚えている。赤鷲隊なら全員、黒鷲軍も二年近く一緒にいたのである程度頭に入っている。野営組とは軍団基地より離れた場所で復興作業をしている隊員達を指している。軍団基地と生活に差が出るので交代制である。
「そのトリスタンかはわかりませんが、馬車を勝手に持ち出しています。ライラ様は今どちらにいらっしゃいますか?」
カイルの言葉にジョージの表情が曇る。
「おかみさんの所だ。でもその話は誰にもしていない」
「では昨日誰かに見られていた可能性は?」
「村人は何人か見ていたと思うが、いや話していても仕方がない。迎えに行ってくる。カイルは別の可能性も考えながら待機してくれ」
ジョージは椅子から立ち上がると壁に飾ってあった剣を手に取った。
「御一人で行かれるのですか?」
「俺一人の方が早いし、万が一違ったら村人が不自然に思うだろう? 心配するな。だから騒ぎにならないように穏便に対応しておけよ」
ジョージはカイルの肩を軽く叩くと執務室を後にした。
「ライラ様、少し出かけてきますけど宜しいでしょうか?」
「いいけど、どこへ行くの?」
「少し畑まで」
「あら、私も茶畑を見に行きたいわ」
ライラは目を輝かせた。それをクレアは一喝する。
「駄目です。隊長にこの家から一歩も出すなと言われていますからね。もし畑を見たいのでしたら隊長がいらっしゃってからにして下さい」
「わかったわよ、いってらっしゃい」
「奥に家政婦はいますから、何かあれば彼女に指示をして下さい。では行ってきます」
ライラはクレアを見送ると居間のソファーに腰掛けた。横にはエメラルドが気持ちよさそうに寝ている。彼女は欠伸をした。昨夜あまり眠れなかったのだ。この屋敷のベッドが寝心地悪かったからではない。ジョージがいない事に落ち着かず、どうしたら軍団基地にずっといられるかを考えていたらなかなか眠れなかったのだ。
「失礼致します、どなたかいらっしゃいますか?」
玄関から声が聞こえ、ライラは奥の家政婦を呼ぼうかと思ったが、これくらいなら怒られないだろうと彼女は立ち上がって玄関へと向かった。
「ごめんなさい、今この家の人は出かけているのですけれど」
言いながら玄関へ出てライラは後悔をした。玄関に立っている男は軍服を着ている。彼女は商人の服を着ているとはいえ、かつらをかぶっていない。名乗らなくても正体を明かしているようなものだ。
「ライラ様で宜しかったでしょうか?」
「えぇ、私に何か用かしら」
「ジョージ隊長よりお迎えにあがるよう言付かって参りました」
軍服の男の腕章は黒い。黒鷲軍の軍人と見ていいのだろうが、昨日危機感を持てと釘を刺されたばかりのライラは、易々とついて行く気はなかった。彼女は不自然にならない断り方を瞬時に考える。
「私は彼が迎えに来るのを待っているの。代理では嫌だと伝えて貰えないかしら」
「こちらを預かって参りました。どうぞ」
軍服の男はライラに手紙を差し出した。宛名はないが鷲の紋章の封印がしてある。封を切る為に屋敷内に入るのは簡単だが、それでこの男がついてきたら面倒だと彼女は思った。
「ペーパーナイフはある? 私は持ってないのよ」
「いえ、私も持っておりません」
「それなら行儀が悪いけど見なかった事にしてね」
そう言いながらライラは封を破り、中の手紙を開いた。
――手が離せない用が出来たので迎えを代理にお願いした。彼の馬車に乗り軍団基地まで来てほしい。 ジョージ――
ライラはあえて寂しそうな顔をしながら手紙を読んだ。綺麗な文字である。署名も綺麗である。まさかこんなに早く偽書に遭遇するなどとは思ってもいなかった。しかしこれをどうやってかわすかが、今一番の問題である。彼女は手紙をポケットにしまうと男の方を向いた。
「軍団基地で何か問題でも起きたの?」
「それはライラ様には関係ない事ですので」
「ではきっと大変な事なのね。それならば私はここに残るわ。軍団基地に行っても邪魔になるだけでしょうから」
「いえ、それは困ります。ライラ様を連れてくるようにと命令をされていますから」
「大丈夫よ。私が事情を察したと伝えたら貴方が処罰を受ける事はないわ。落ち着いてから迎えに来て欲しいと伝えて頂戴」
「ですからそれでは困るのですよ!」
そう言いながら軍服の男はライラの腕を掴んだ。彼女は力強く男を睨む。
「無礼者! 手を離しなさい」
「いいえ、貴女を連れて行く必要があるので離しません」
男は強く腕を引っ張った。ライラはそれに抵抗する。
「離しなさいと言っているでしょう? このような無礼な事、彼が許すと思っているの?」
「うるさいな、黙れよ!」
軍服の男の恫喝にライラは一瞬怯んだ。それは声の大きさに怯んだのではない。レヴィ語ではない言葉に驚いたのだ。
「貴方は誰なの? 今の言葉は何と言ったの?」
ライラは言葉の内容に気付かない振りをして時間を稼ごうとした。ジョージかクレアか誰かが来たらきっとこの男は逃げるはずだ。それまで何とか耐えなくてはいけない。
軍服の男は舌打ちをした。
「とにかくあんたを連れて行かないといけないから黙って馬車に乗れよ!」
うっかり口走った言葉に自分の正体を隠せないと開き直った男は、レヴィ語に戻ってはいたが態度が大柄になった。
「だから嫌だと言っているでしょう? どこに連れて行くつもりなのよ」
「それはあんたが知る必要はない。もうしつこいな、いい加減諦めろよ」
ライラは抵抗していたが彼女は身体を鍛えているわけではない。男に引っ張られて踏ん張れる力など限られていた。彼女の力が弱った所で男は強く彼女を引っ張り、玄関から連れ出すと外に止めてあった馬車へと引きずっていく。彼女は必死に抵抗するが力が残っていない。
「おい、その手を離せ」
聞き覚えのある声にライラは声のした方を向いた。ジョージは颯爽と馬を下りて男の方へ向かっていく。男はライラの手を掴んだまま自分の方へ引き寄せた。
「邪魔をするな」
「邪魔はそっちだろう? 誰の命令でこんな事をしているのか」
「お前に関係ない。こちらはこの姫にしか用がない」
「そう言われて俺がどうぞと言うわけがないだろうが」
ジョージは柄に手をかける。男は卑しい笑みを浮かべた。
「それを抜けば彼女に傷がつくと思うが」
ジョージは男を睨みながらライラの様子を窺う。彼女は怯えていない。ただ力がなくて逃げ出せないと言う感じだ。
「女性を盾にするとは騎士ではないな」
「目的の為に手段など選んでいられるか」
「それは同感だが下衆な態度は好かん」
そう言いながらジョージは男との距離を詰めた。そして柄から手を離すと懐から短剣を取り出し男の横腹に鞘のまま力強く突き刺した。男の腕の力が鈍った所でライラを自分の方に引き寄せると、後ろに下がって男との間合いを取って短剣をしまい、再び柄に手をかけた。一瞬の出来事に彼女は何が起こったのかわからなかったが、危機から解放された事に安心してその場に座り込んでしまった。
「命令した者に伝えろ。二度とふざけた真似をするなと」
軍服の男は舌打ちをすると馬車に乗ってそのまま逃走した。ジョージは男が去ったのを確認してからライラの方を見た。
「ライラ、大丈夫か? 怪我は?」
「え? えぇ、大丈夫。腕を少し強く掴まれただけよ」
「帽子がないね。一旦屋敷内へ入ろう。歩ける?」
ライラは差し出された手に捕まって立とうとしたが立てなかった。上手く力が入らないのだ。ジョージはその様子を見て屈んだ。
「ライラ、俺の首に腕は回せる? 抱きかかえるから」
ライラは頷くとジョージの首に腕を回した。彼は彼女の膝と脇の下に腕を入れると軽々と彼女を抱きかかえた。そしてそのまま屋敷の中に入っていき、居間のソファーに彼女を座らせた。
「おかみさんは?」
「畑に行っているわ。奥に家政婦はいるはずよ」
「あの騒動に反応しないとはその家政婦は何をしているんだ」
「大事には至らなかったし、家政婦が太刀打ち出来るとも思えないし、彼女を責めるのは間違っているわよ」
ジョージは小さくため息を吐くと、ライラの横に座り彼女の袖を捲った。腕が赤くなっている。
「あいつ、こんなに強い力で握っていたのか。鞘を抜いて刺しておくんだったな」
「逃がしてよかったの?」
「小物を捕まえても意味がない。馬車一台盗まれたがライラの命には代えられないから」
「ごめんなさい。まさかこのような事になるなどとは思っていなくて」
ライラは頭を下げた。ジョージは彼女の肩を叩いて頭を上げさせる。
「いや、俺も思っていなかった。本当はもう少し後で来る予定だったから危なかった」
「何かあったの?」
「馬車が一台足りないと報告があって慌てて飛び出してきたんだ。軍団基地から馬車を盗んでくれなければ気付かなかったわけだから、そう考えると馬車一台は安いもんだな。間に合って本当によかったよ」
ジョージが微笑むのを見て、ライラは涙が溢れてきた。あのままあの男に連れて行かれていたら、もう彼と会えなかったかもしれないと思うと、急に怖くなってきたのだ。そしてその恐怖が取り除かれた安心感も同時に広がっていた。
「どうした? え?」
「ごめんなさい。恐怖と安心が入り乱れて、おかしいわね。何かしら、これ」
戸惑うライラをジョージは抱きしめた。
「俺は焦って剣しか持ってこなかったから、軍服で涙を拭いてくれる?」
ジョージの言葉がライラはおかしくて、泣きながら笑った。そして彼女も彼を強く抱きしめる。彼女にとって一番落ち着くのはこの胸なのだと改めて思った。暫く泣いたら彼女はすっきりした。終わった事を怖がっていても仕方がない。前を向かなければいけない。もうこんな目に遭わないように考えなくてはいけない。
「ありがとう、ジョージ。もう大丈夫」
ライラはジョージから離れると強い眼差しを彼に向けた。そこにはもう先程まで泣いていた面影はない。
「ライラ、普段の衣服は持ってきてる? 俺が渡したのではなくてガレスから持ってきた物」
「えぇ。エミリーに言われて持ってきているわ。宝飾品もいくつかあるわよ」
「エミリーは優秀だな。それなら着替えて来てくれない? 軍団基地ではガレスの姫として振る舞ってもらうよ。暮らし難いと思うけど、ここにはもう置いておけないから」
「そうね、クレアさんに迷惑をかけてしまうし。少し待っていて、すぐに着替えてくる」
ライラはそう言うと着替える為に居間を後にした。それと入れ違いになるようにクレアが居間へと入ってきた。
「隊長、馬は繋いでおいてくれないと危ないではないですか。いくらあの馬が優秀だとしても、逃げて困るのは隊長でしょう?」
「あぁ、悪い。忘れてた」
あっけらかんと言うジョージにクレアはため息を吐く。
「忘れていたなんて、そんなにライラ様に早く会いたかったのですか? 全くそれならここに預けなきゃよかったのですよ」
「うん、だからライラをこれから軍団基地に連れて行くよ。一晩ありがとう」
「本当に連れて行くのですか? 軍団基地にお姫様を? それは何でも酷い話ではないですか?」
「いや、ライラも納得してるから」
「そうやって振り回しているといつか痛い目を見ますからね?」
ジョージは苦笑いをした。今まさに痛い目を見たのだが、それをあえてクレアに言う必要もないだろうと彼は思った。この平和な農村に危険をもたらしたくはない。
「いやだ、お茶も出してなかったのですね。うちの家政婦は何をしてるいるのかしら」
そう言いながらクレアは部屋の奥へと消えていった。そして暫くして彼女が怒っている声が聞こえてきた。ジョージは何事かと思ったが、首を突っ込む事でもないだろうと気にしないでいた。
「隊長、すみません。うちの家政婦ったら居眠りをしていたのですよ。もう信じられない。まだ昼前だというのに。すぐにお茶を用意させますから」
居眠りをしていたから騒動に気付かなかったのか、それともあの男に寝かされていたのか。ジョージが考えていると例の家政婦が慌てて茶器を運んできた。
「申し訳ございませんでした」
「いや、気にしなくていいよ。でも居眠りなんて夜更かしでもしてたの?」
「いえ、そんな。知らぬ間に寝ていて。いつもはこのような事はないのですが。以後気を付けます」
家政婦は恐縮したまま紅茶を淹れた。ジョージはもしかしたら彼女を巻き込んだのかと思うと申し訳ない気持ちになったが、何も知らないのならこのままここを去ろうと思った。
「あら? そう言えばライラ様は?」
「今着替えてる。商人の服でずっといるのもどうかと思って」
「それはそうでしょうとも。あのような恰好をさせているのが、そもそもおかしい話ですからね?」
クレアがジョージに文句を言っていると、着替え終わったライラが荷物を持って戻ってきた。
「クレアさん、おかえりなさい」
「ただいま戻りましたって、え? ライラ様?」
「何? ドレスでもないし、化粧もしてないからそんなに変わらないでしょう?」
クレアはライラの姿に驚いていた。服と髪型が違うだけでも印象は変わるものだ。ライラは綺麗なレースがあしらわれている若草色のワンピースに髪を左肩に流して髪留めをしていた。真珠の耳飾りと首飾りは大粒で光沢があり高級なのが一目でわかる。
「本当にお姫様だったのですね」
「今までライラを何だと思ってたの?」
「隊長に振り回されている変わった女性?」
クレアの答えにライラが笑う。
「姫らしくないのは昔からなのよ。ごめんなさい」
「ですがその姿を見たら尚更不思議なのですけれど。隊長は美青年ではありませんし、人をすぐ振り回しますし、何故このような男と一緒にいるのですか」
「俺に対して遠慮がなさすぎないか?」
クレアの言い方が引っかかってジョージが突っかかる。それに対しクレアは怒ったような表情を向けた。
「隊長の態度がそうさせているのですよ!」
「おかみさんの対応はありがたいよ。でもこんな男扱いは酷くない?」
「そうよ、このように素敵な男性は他にいないわ」
ライラの言葉にクレアは呆れた顔をした。
「そうですか。それではもう何も言いませんよ。すぐに出発をされるのですか?」
「あぁ、そのつもりだ」
「でもジョージ、私は横乗り用の鞍を持ってきていないのよ。歩いて行くの?」
「あぁ、そうか。そう言えばずっと跨いでいたね」
高貴な女性が乗馬をする場合は基本横乗りである。しかしライラはガレスで外交官時代男装をしていたので馬に跨る事自体に抵抗はなく、また商人の女性なら馬に跨っていても不自然ではない為、迷う事無く通常の鞍でここまで来ていた。
「その方が早いし、楽なのよ。でも流石に鞍なしでは乗れないわ」
「うちのでよければお貸ししますよ。今は使ってないのがありますから」
「おかみさんが乗馬をするの?」
「私ではなく娘がね。嫁いだ時に置いていったものです」
馬は高級なので平民が乗る事はまずない。流石豪農といった所だろう。
「じゃあ遠慮なくそれを借りていこうか。で、王宮に戻る時にまた交換に来ていいかな?」
「王宮に戻る時は商人の服に戻るのですか? それはおかしくないですか?」
「もしかしたら馬車で帰るかもしれないな。でも鞍を抱えていくのもおかしいし、とりあえず預かっておいて」
「はいはい、もうお好きにして下さい。あ、ライラ様の洗濯物が乾いているかを見てくるので、少しお待ち下さいね」
クレアはそう言うと奥の家政婦の所へと消えていった。ライラはソファーに座ると、ジョージが飲んでいなかったティーカップに手を伸ばして紅茶を飲んだ。
「この紅茶、サマンサ御用達らしいわね」
「美味しかったからサマンサに教えただけだよ。今では貴族達に人気の逸品だ」
「今回の旅行ではサマンサに勧めようと思ったものを何か見つけたの?」
「いや国内にはなかったな。ケィティではいい物を見つけたから買ったけど」
ジョージの言葉にライラが驚く。
「いつ買ったのよ」
「じいさんと市場を歩いてた時にね。サマンサが気に入ると流行になるから面白いんだよ」
「それが流行したらケィティは儲かるの?」
「そうだな。海の向こうの物だから交易が更に盛んになるだろうな。問題はサマンサが気に入るかどうかだけど。あれは目が利くから簡単には納得しない」
「まるで商人ね」
「国内を豊かにするには金が回った方がいいんだよ。だから金持ちが金を使うように仕向けるのが一番早い。豊かになったら平和は続くと思うんだ」
「平和にする方法は色々あるのね」
ライラが感心しているとクレアが戻ってきた。クレアは袋を抱えている。
「お待たせしました。こちらに入れておきましたよ。鞍は厩舎で準備をさせています」
「ありがとう」
ライラはクレアから洗濯物を入れた袋を預かると、自分の荷物に入れた。
「よし。行こうか」
ジョージは立ち上がるとライラの荷物を持って手を差し出した。彼女はそこに手を添えて立ち上がると帽子を被った。三人は屋敷から出て厩舎へと向かう。そこには鞍を拭き終わった使用人が待機していた。
「ありがとう」
ジョージは手際よくフトゥールムの鞍を取り換えた。そして元々の鞍を使用人に預けた。
「おかみさん、もしライラを尋ねてくるような人がいたら軍団基地にいるって伝えて」
「そんな人がいますかね?」
「いないとは思うけど一応。じゃあ、また」
「はいはい。お気をつけて」
ジョージは自分の馬にライラの荷物をくくりつけた。ライラは使用人から鞭を受け取ると踏み台を用意してもらい、鐙に足をかけて馬に乗った。普段なら踏み台などなくとも跨がれるのだが流石に足首まであるワンピースでは裾が気になって出来なかった。
「色々ありがとう、クレアさん」
「いいえ、何もお構い出来ませんで。お気をつけて」
クレアと使用人に見送られ、二人は屋敷を後にした。