第36話 ナデシコの剣
「リーダー! 今回は何すればいいの?」
前の方を竜馬に乗り走るシダに、風の音に負けないように少し大きめの声で話すマギカ。
時間がなかったこともあり、作戦を伝える間も無く出発したカランコエは、移動しながら今回の作戦をシダから確認していた。
「今回は作戦は特に無い。ただ一つだけ必ず行って欲しいことがある」
シダは先頭を走っているため、声が届きにくかった。一旦スピードを緩め、後ろのメンバーと横に並んでから話し始める。
「今回相手にするのはオンラッシュと言うモノボルゥー王国軍の幹部の1人だ。幹部・下級兵関係なしに、モノボルゥー王国軍と戦うと言うことは俺たちにとっては反逆行為だからな。1人残さず皆殺しだ」
「まっそーなるわな」
軍と戦う。それは絶対にバレてはいけないことだ。特に、第2部隊の隊長と参謀長が揃って反逆したとなれば、その情報は必ず他国に流れる。その途端モノボルゥー王国は他国に一斉に襲撃を食らうことになるだろう。オリバムは死ななくとも、多くの民が死んでしまうことになる。
クリスもそれを理解しているため、仕方ない。と飯場諦めた表情で相槌を打つ。
そもそもバレればシダの復讐作戦など一瞬で崩壊してしまうわけだから、それだけは避けなければならないのだ。
「ねーねー! 作戦がないなら、僕が名乗りのセリフ言ってもいい?」
皆殺しなどと、世界を救うものとは思えないセリフが聞こえてきたはずが、マギクにはあまり関係なかったようで、楽しそうにヒーローをやろうとしていた。
「そーだな。ならお前ら3人で最初行って、後から俺らが行くわ!」
(ヒーローは遅れてやってくるんだよ)
「わかったー! 先に全部倒しちゃいね!」
シダの悪巧みなど知りもしないマギクは嬉しそうに答えた。ローズとヤグルは悪巧みに気づいているようで、呆れた表情でシダを見ていた。
「なんで俺までお前のカッコつけに参加しなきゃいけないんだ!」
クリスはあまり乗り気ではないようだ。
カランコエは急ぎながらも、これから始まる殺し合いとは裏腹に楽しい時間を過ごしていた。
ーーーインティスーーー
シダたちがここを離れてからもう1日が過ぎた。もちろんあんなことをした訳だから、敵が攻めて来る警戒はしているものの、今日オンラッシュが来るとは想像もしていないカスミたちは、シダに教わった方法で農作業を行なっていた。
「次、こっちお願い!」
「はーい!」
インティスの農家の人たちは、互いに声をかけ会いながら順調に作業を進めていた。モノボルゥー王国に支配されて以降ほとんどなかった笑顔が、少しずつ増えて来ている。そんなことを考えながらカスミは農作業を眺めながら見回りの散歩をしていた。
たが、ついにその時は来た。
「おい! そこの農民ども!」
インティスに着くや否や、オンラッシュが農民たちへと怒鳴る。オンラッシュは10人の部下を背に農民の近くへと歩き始めた。農民たちは農具を置いて土下座をする。
「年貢をもらいに来た。出しな!! 出せねぇってんなら・・・おらぁ!」
竜馬から降り、歩いて農民の元へと近づくと、オンラッシュは土下座をする農民を1人蹴り飛ばした。
「こうなりたくなかったさっさと年貢を持ってこい!!!」
怒鳴り続けるオンラッシュ。しかし、納められる年貢のないインティスの農民たちにはどうすることもできなかった。動かないなう民を見て再び暴力を振るおうとしたその足を、カスミの剣が止める。
「そこまでにしてもらおうか」
「あぁ? なんだテメェは」
冷静に対応するカスミに、こんな美人さんに顔近づけすぎだ馬鹿野郎と怒られそうなくらい顔面を近づけながら威嚇するオンラッシュ。
「私はこの国をまとめている騎士のカスミだ。お前の好き勝手にはさせないぞ!」
「ほぅ。テメェだな? 俺の大切な部下をやったのは。覚悟しろよ?」
「それはこっちのセリフです。覚悟はいいですね」
両者は一歩も引かない。互いに言い合った後、一旦距離を取り、2人は武器を構えた。
オンラッシュは短剣を両手に、腰を低くして構える。カスミは右足を少し前に出して、剣を両手に前で構えた。
後10秒、足先のわずかな動きによる牽制が静かに行われる。周りからすればただ構えているようにしか見えないが、手練れが見ればそれは凄まじい攻防と言える喉に両者は高いレベルで戦っている。
先に動いたのはオンラッシュだった。右足のわずかな動きに反応したカスミの一瞬の硬直を逃すまいと、一気に距離を詰めてくる。そして繰り出された短剣のラッシュ。
しかしカスミも負けてはいない。全ての攻撃を剣とその華麗な身のこなしでかわす。その動きは落ちる花びらのようにヒラヒラと全てを受け流すようだった。
「っ! ちっ!」
オンラッシュのラッシュが少し緩んだ隙を見てカスミは左から右へと剣を振った。しかしオンラッシュもそれを後ろに飛ぶことでかわす。
「どーやらちょっとはやるようじゃねぇか」
「あなたの攻撃はもう見切りました。痛い目を見る前にとっととお家に帰りなさい!」
余裕そうに振舞いながらも、自分が劣っていることを自覚してしまったオンラッシュ。カスミの方が一枚上手のようで、カスミには余裕が見える。
オンラッシュは短剣を上に投げると、両拳を胸の前でぶつけ、力を溜めた。
「ハァァァァアアア!!!」
そして一気に力を解放した。その姿は悪魔。背からはオレンジ色のオーラが目に見てるものとして現れていた。




