第29話 背中に守るものがあるから
「なんだ?」
燼は振り向き威嚇しつつも、心の中では石が当たったのが分身で良かったと思っていた。それは当然である。戦士になり、霊具を手に入れ強さを手に入れたとしても、肉体は超人になったわけではないのだ。石が頭に当たったりしたならば血が出る。当たりどころが悪ければ失神してしまう。
シダとクリスも石の飛んできた方に注目する。
そこにはローズがいた。
「何やってんのよ!」
そう言いながらローズはシダの元へと走った。燼は向かってくるローズには何も手を出さず、やすやすと円の中へと入れた。
「バカ! 何こっちにいてるんだよ!」
「バカとは何よ! あんたを心配して助けに来てやったんじゃない! あ、いや、心配はしてないんだけど、とにかく助けに来てやったのよ!」
「知るか! 危ないから離れてろって言ってんだよ!」
「こんな状態であんたに何ができんのよ! クリスを貸して! 止血しとくから」
ローズはシダからクリスを取り上げると、その場に寝かせて止血を始めた。
シダは燼の攻撃を警戒していたが、燼は何もしなかった。
「なぜ何もしてこなかった。俺がお前から注意を外したタイミングにとどめを刺せば良かっただろ」
「そんなことをしては戦士の恥だろう。最後の時くらい好きなようにさせてやるさ」
「舐めやがって、今トドメをささなかったこと後悔させてやる!」
「そろそろいいかな。では行くぞ!!」
燼は火矢を構え、息を一つ吐く。狙いはもちろんシダ。しかし、距離的にクリスとローズも確実に巻き添いをくらう。攻撃を食らえば3人とも死に至るだろう。
(くそっ! あーは言ったものの、俺にはあの攻撃を耐え、後ろの2人も守る方法なんてない。マジでやばい)
「信じてるわよ。アンタならこのピンチから私たちを救ってくれるって」
絶望の表情を見せるシダに、クリスの応急処置をしながらローズが囁く。
直後、11人から放たれた火矢がシダ目掛けて発射された。
この時、シダには世界がスローモーションのように見えていた。死の瀬戸際に来ると、人はこのような感覚に見舞われることがある。コマ送りのようにゆっくりと世界が動く。頭の中だけがいつものように回り続ける。
(やばいやばいやばい! クリスは俺がピンチの時いつも助けてくれたのに! ローズは俺を信じて必死にクリスを助けようとしているのに! 俺には何もできないのか? 俺には何も守ることはできないのか? あの時誓ったんじゃないのかよ! もー何も失わないために強くなるって! 考えろ! 考えろ! 何か、何かないのか)
刹那の中、シダの頭の中に声が聞こえた。
『悔しいか』
(あぁ!)
『苦しいか』
(あぁ!!)
『ならばどうする?』
(俺はどうする…どうすれば・・・)
『強くなれ!大切なものを守りきれるように』
「そうだ。俺は強くなるんだ! もー何も失わないために。もー誰も傷つかない世界を作るために!!」
ダダダダダダダダダダダァァン!!!
火矢は容赦なくシダに襲いかかった。爆発は周りの大木をもへし折り、大木は倒れ土煙をさらに濃くした。
「最後まで心は折れず・・・か。敵として出会わなければ、いい友になれたかもしれないな」
弓を下ろし、分身を戻しながら燼は土煙の中に向かって言葉を投げた。
「あぁ。俺も同感だ!」
「なっ!! バカな! あの状態でどうやって!」
帰って来るはずのない声が帰って来たことに、燼は少し恥ずかしくなりながら、驚き後ろへと飛んだ。
煙が退くと、そこには無傷でそこにいる3人の姿があった。
シダは、近くに居るだけで震えが止まらなくなるようなエクロムを放ちながら、先程までは持っていなかった大楯をもって立っていた。
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