第16話 革命を嫌う者
「ギベリっちゃんにはもう連絡ついたのか?」
「ええ。連絡は取れてるわよ。でも、まだ会うところまでは話が進んでないわ。取り敢えず前向きには考えてくれているみたい」
先に話し出したのは、『ペパー=ジャーマン』。元貴族の息子。貴族の息苦しさに耐えかねて、家出し、今は冒険家をしている。
それに応えたクールビューティーな女性は『メリッサ』。出身はハダクトだが、国の目指す平和とはまた違う平和を望み、反革命軍を作った人物だ。
話に登場した『ギベリっちゃん』とは、『ギベリス』のことで、最近噂になっている凄腕のスナイパーだ。
どうやら反革命軍は、このギベリスという人物と連絡を取っているようだ。
「次はフォーロ…なんだっけ?と同盟の話ししに行くんだよな?」
「フォーロップよ。相手国の名前くらいちゃんと覚えて!」
「うっ…すまん」
ジャーマンはあまり勉学が得意ではない。名前を覚えるのもあまり得意ではないようだ。
対してメリッサはしっかり者だ。反革命軍のリーダーだけあって同盟を結ぶ相手国の名前をしっかりと覚えている。(当たり前)
メリッサに怒られたジャーマンは弱々しく返事をした。
【フォーロップ】革命ではなく、変革を望む国。
ハダクトと同じく、この国でも革命は起きなかった。しかしこの国はハダクトとは違う。
ハダクトは平和を望むが故に何も変えようとしなかった国だ。だが、フォーロップは常に変わっている。進化している。
現在世界は、大きく4つの勢力がある。
革命によって進化し、世界の1/3を支配した【モノボルゥー王国】。同様に革命によって誕生した世界最大革命軍【リヴィル軍】。そして、今の状態を維持しつつ、新しいものを取り入れ進化して行くという、変革により周囲の国をまとめ上げる【フォーロップ】。
この3つの勢力が実質的に世界を動かしている。
もう1つの国とは【ワース】の事だが、現在は安定期を迎え、大きな戦いは行なっていない。
反革命軍は、現在約1万人の勢力を持つが、この勢力では、他の大国との戦いはとてもじゃないと不可能だ。
そこでメリッサは、同じ革命を選ばなかったもの同士同盟を結び、世界を変えるために力を合わせようと考えたのだ。
フォーロップは、反革命軍の基地のある島のすぐ東側にある。
今まさに、フォーロップに向かい出航の準備をしているところだ。
「そちらの準備は順調か?・・・貴様!何をしている!」
船への積み込みの様子を見に、船上に来たメリッサだったが、そこには血まみれで倒れている兵士と、傷口がペチャンコに潰されて倒れている兵士。それをやったと見られる、白いワンピースを着た少女の姿があった。
「己よくもぉぉ!!」
積み込み作業をしていた兵士が、味方がやられる姿を見て、その少女に攻撃を仕掛けた。
少女は一瞬フラっとすると、気づけばその兵士の頭上へと移動しており、手に持った大鎌を両手で振りかぶっていた。
ガキィィィィィン!!!
「何をしている!早く逃げろ!」
それを受け止めたのはメリッサだった。メリッサもまた、少女の動きに匹敵する速さで、兵士と大鎌の間に入り、腰に下げていた1本の刀でその攻撃を防いだ。
兵士にそう叫ぶと、メリッサと謎の少女は一旦距離を取ると、その後常人には見えない速度で2,3発刃物を交えた。
もう一度距離を取ると2人。
少女は2,3発やり合った際に、メリッサに声をかけていた。
「戦わないで…」
と。
メリッサは、足にめい一杯の力を込め、少女の懐まで一瞬で侵入し、一撃!!
しかしそれは大鎌によって弾かれ、逆に大鎌により体を切断されそうになってしまった。
そこへ巨大な1つの斬撃が飛んできて、2人の間を通った。
ジャーマンだ。見ると、背中にあった身長よりも大きな大剣を縦に振り切った体勢でそこに立っていた。
少女は一瞬目を離したすきに姿を消していた。
「あの少女は何者なんだ?」
後から大きな音に気づきやってきたジャーマンが、メリッサに近づきながら声をかける。
「分からない。ただ。仲間が2人殺られた。そして見て!」
「…これは!」
そう答えたメリッサは死んだ2人の仲間を指した。
「恐らく霊具だ。あの少女、本当に何者なのでしょうか・・・」
(それに、戦わないで…あの言葉は何?)
その後、メリッサとジャーマンは話し合い、一旦時期を置いてから、ほかに100名ほどの兵士を連れて、フォーロップへと出航する事にした。
その頃、傷がだいぶ癒え、ある程度激しい動きも出来るようになっていたシダは、昔お世話になった、王城のあるの街の少し離れた隣街を散歩していた。
「今日はお肉が食べたいなぁ・・・」
「あっ!シダ!助けてくれ!」
!!
呑気に歩いているシダに、おじいさんの助けを呼ぶ声が聞こえた。
振り向くと、そこには役所の人がおじいさんを連れて行こうとしている姿があった。
「フレン爺!」
フレン爺とは、シダとクリスがまだ未熟だった頃、修行で死にそうになった2人に、パンをくれた優しいおじいさんだ。他にも、困った時は2人はいつもフレン爺のとこに来て、その度にフレン爺は優しくしてくれていた。
駆け寄るシダ。
「シダ参謀長。ご苦労様です!」
フレン爺を引っ張っていた役所員は、シダを見ると、フレン爺を一旦離し、敬礼をした。
「おう。それより、フレン爺が何かしたのか?」
少し焦りながらシダは役所員に質問をした。
役所員の話によると、とある家からフレン爺がものを盗むところを見たという通報が入り、翌日フレン爺の家を調べたところ、盗まれたものが発見され、現在牢屋に向かっているところだと言う。
「ワシはそんなことはしていない。シダ!信じてくれ!」
「貴様参謀長を呼び捨てにするなど、無礼だぞ!」
フレン爺は役所員の説明を否定した。しかし役所員は、フレン爺がシダを呼び捨てにしたのを聞き、怒鳴ると、再びフレン爺を引っ張って行こうとする。
「ちょっと待ってくれ!このおじいさんは俺の知り合いなんだ」
「そうでしたか。では、少しの時間なら」
シダは、その場を去ろうとする役所員を止めると、役所員もフレン爺と話す時間を少しくれた。
「フレン爺は本当にそんなことしてないんだな?」
「本当じゃ!だから信じてくれ!」
シダの問いかけに、シダの袖を両手で掴みながら必死に答えるフレン爺。
シダの目にはフレン爺が嘘をついているようには見えなかった。
「わかった。俺もいろいろ調べて見る。だからそれまで大人しくして待っていてくれ」
シダはフレン爺の耳元でそう囁いた。
フレン爺は安心した表情で一回頷くと、役所員のところへと戻った。
「じゃあ、よろしく頼む」
「はっ!」
シダは役所員にフレン爺を預けると、そう言った。役所員はいつもより力強い返事をした。幹部の前でいつもより良くしようとするのは当然である。
シダは連れて行かれるフレン爺を見えなくなるまでその場で見送っていた。
そして、気合いを入れ、情報収集に取り掛かった。