第14話 黙示録の獣
〜キャラ紹介〜
・シダ…この物語の主人公で、モノボルゥー王国第2部隊参謀長を務める男
・クリスパード…シダの親友にして、モノボルゥー王国第2部隊隊長の赤髪の男
・ローズ・イバラ…ハダクト出身の貴族の娘。特技はバイオリン
・ベルガー…セイモーの国王で、翼の霊具使い
声が・・・聞こえる
シダとクリスがベルガーと戦っている間、ローズはヴァヴで民間達の避難誘導をしていた。
「皆さん! こっちです! 慌てないで! ゆっくり!」
前回モノボルゥー王国に攻められたときにしたローズの避難誘導はとても的確だった。その経験と、功績があったため、今回は国民達もローズの言うことをすんなりと聞いてくれていた。
「これで全員避難完了ね・・・2人は大丈夫かしら・・・」
避難誘導を終えたローズ。2人が向かった方向を見ながらそう呟いた。
「べ、別に心配してるわけじゃ無いし・・・ちょっと・・・見に行こうかしら」
ローズはそんな独り言を言いながら、急いでクリスとシダの方へと、竜馬に乗って走り出した。
それから30分後。
ダダダダダダン!!ズドォォォォン!!!
「ッッ。すごい爆風。どんな激しい戦いしてるのよ」
ローズは、シダが向かった地点(現在シダとクリスがベルガーと戦っている場所)へとようやく辿り着いた。
その時、すごい爆音が鳴り、土煙でローズの視界は曇ってしまった。
恐る恐る前へ進む。
そして視界が晴れた。そこには、予想だにしない光景が広がっていた。
無数のクレーター。逃げ場をなくし、ボロボロになっているクリスとシダ。その上には光を放つ翼の生えた1人の女が2人を見下ろしながら飛んでいた。
ローズには気づいていないようだ。
「グッッ。大丈夫か?クリス」
「ぅ…ぁ・・・」
2人は攻撃をくらい、うつぶせに倒れていた。
シダがクリスに声をかけるが、クリスはもう声を出すこともできないくらいにボロボロになっていた。
(嘘でしょ?あのクリスよ。実際に見たのはほんの少しだけれど、あれだけの力を持った人がこんなになるなんて・・・あの光る翼、もしかして)
ローズは竜馬から降り、近くの建物に身を隠しながら、3人の戦いの様子を見ていた。
クリスがボロボロな理由は、優先的に攻撃されているからである。モノボルゥー王国第2部隊隊長ともなれば、世界の軍兵にクリスという名を知らないものはいない。厄介者は先に倒すのが当然である。
「さて、そろそろトドメといきましょうか」
そう言うと、ベルガーは翼に一層大きなエネルギーを送り込み、15メートル上空からクリスに向かって一気に急降下した。
「クリス!逃げろ!!」
「ぁ…ぁ・・・」
シダは叫んだ。しかしクリスの体はもう限界だった。
シダにはこの一瞬がコマ送りのようにゆっくりと見えていた。
徐々に近づいて来るベルガー。
もがくクリス。
(まただ。俺はまた目の前で大切な人を失う・・・)
そしてシダの頭の中には、かすかに声が聞こえた。
「ーーーーッッ」
その瞬間、シダの体は動いていた。気づけばクリスの前に立ち、両手でベルガーの攻撃を防ごうと構えていた。
「クリス!シダ!危ない!避けて〜!!」
物陰から見ていたローズもまた、体が勝手に動き、シダ達の近くまで叫びながら走って来ていた。
ベルガーは一瞬ローズを見たが、構わずクリスとシダの方へと突撃をする。
2人にぶつかる直前に翼を大きく振り、その途端、大きな爆発が起きた。辺りはまた土煙に包まれ、何も見えない。
「ど、どうなったの?」
片腕で目を覆い体勢を低くして爆風に耐えるローズ。
数秒後、土煙は晴れ、そこにはまたしても予想だにしなかった光景が広がっていた。
立っていたのはシダだった。とても荒い息遣いだ。
膝をついていたのはベルガーだった。こちらもとても荒い息遣いだ。
「一体何が?」
そう、小さくローズが言った。
「ぐっ…あなた、一体何をしたのですか!!」
立ち上がりながらベルガーはそう叫んだ。自分の必殺の一撃を防がれ、少し動揺と苛立ちを見せるベルガー。
「ハァァァァ!!!」
もう一度、今度は地面と平行にこちらに向かい飛んで来る。
自分でも何が起きたのかよくわかっていないシダは、もう一度構えるも、もうダメだと目を瞑る。
近くで見ていたローズもまた顔を背け、目を瞑った。
その時、強烈な斬撃がシダとローズの頭上を通り、ベルガーに直撃した。
「ぐぁぁぁぁ!!」
辛うじて翼でそれを防いだベルガーだったが、大きな傷を負ってしまった。
「はぁ…はぁ。援軍か。助かった。しかも今の攻撃はアブズ隊長だな」
一瞬だが、斬撃に飛ばされるベルガーを見たシダ。こんなことをできるのはアブズ隊長しかいないとすぐに分かった。
ダダッダダッ
「どうやら間に合ったようだな」
竜馬にの上からシダとクリスに声をかけるがアブズ。あの一撃を放った後、背中の鞘にしまっていた2メートル近くもある大太刀を竜馬から降り、ゆっくりと抜き、構える。
「へへ。遅いっすよアブズ隊長。て言うか、随分昔より雰囲気変わりましたね。その赤のオーラはボスの力の化身ですか?」
「そうだ。今の俺は、ボスの代わりだ。そんだけ喋れるってことは、お前はまだ大丈夫みたいだな。・・・クリスの方はヤバそうだが」
「あぁ。大丈夫っつっても俺もそろそろ限界なんだ。だから後のことは頼むわ」
苦しそうに笑いながら話すシダ。アブズからは、目に見えるオレンジ色のオーラがメラメラと体から出ていた。
シダは言葉を言い切ると共にふらっと倒れそうになった。アブズは大太刀を地面に刺し、倒れるシダを支えると、ゆっくりとその場に寝かせた。
(剣を置いた今がチャンスです!)
ベルガーはこの隙を見逃さなかった。翼と足に力を込めて、突進しようとする。
「ッッ…こんな時に足首の痛みが。さっきの一撃で痛みが増したのですね…あの少女にやられた傷がこんなところで」
ベルガーは足首の痛みで踏ん張ることができず、もう一度その場に膝をついた。
少し遅れて、後ろからアブズと共に来た、500人近くの第1部隊の精鋭と、第2部隊のアソート率いる中隊が援軍として駆けつけてくれた。
「クソッ!ここまでのようですね。今回は一旦諦めるとしましょう。ですが、次は覚悟しておいてください。必ずこの翼を持って、あなた達を倒してみせます」
ベルガーはそう言うと、空へと高く舞い上がり、自分の兵士達の方へと飛んで行った。
その後、ベルガー率いる全てのセイモー軍が撤退を終え、モノボルゥー王国の国防戦は幕を閉じた。
「おい!クリス!しっかりしろ!おい!クリス!!」
声をかけるシダ。あの爆発以降、クリスの意識が戻らない。モノボルゥー王国の兵士に見つかるわけにはいかないローズは、物陰からそっとそれをのぞいていた。
「この国は第2部隊の担当区域だ。アソート。お前の部隊がここに残れ。復興の手伝いをしろ」
「了知しました」
アブズはそうアソートに指示を出すと、横たわるクリスと膝立ちで声をかけるシダの方を見下ろた。
「大丈夫そうか?心配だろうがお前も負傷しているんだ少し休めよ」
心配の声をかけるアブズ。しかしその声はどこか冷たく、感情がこもっていないように聞こえた。
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