第一章 第三話 救援
投稿し直し第四段です
再び人質になったカミューは狼男に片腕で持ち上げられ、青年の楯にされた。
「…うぅっ…」
「…くっ!?」
「クックックッ…!
さぁ、武器を捨てて仲間に結界を解くように言え!?」
青年は狼男を逃がすまいと弓矢を構えるが、人質になったカミューのことが気になり、攻撃することが出来なかった。
狼男はそんな青年の様子に嗤いをこぼし、再び結界を解くように脅していた。
「くっ!?(どうする!?
アレが間に合えば良いが、このままだと最悪、出血多量で死んでしまうかもしれん!?
…仕方ない、少年には悪いが時間稼ぎをさせてもらおう!)
…わかった!
だが、少年は必ず解放しろ!!」
「…うぅっ…だ、ダメだ…お、俺のことは、良いから…コイツは…ぐぁっ!?」
「小僧!貴様は黙ってろ!?」
青年はなんとか時間稼ぎをしようと狼男に話しかけるが、カミューはこのまま狼男が解放されればどんなことになるのか、想像がつきこのまま攻撃してもらおうと青年に話しかけるが、狼男も早く結界を解かせようとカミューの傷口に捕まえている方とは逆の腕の爪を僅かに刺した。
「止めろ!」
「あぁぁぁっ!?…」
「さぁ、早くしろ!!」
「!?…わ、わかった、今武器を捨てる!
だから、それ以上少年に危害を加えるな!?」
「ギャッハッハッハッハッ!
それで良い、次は相棒に結界を解けと言え!?」
狼男はカミューを更に攻撃して悲鳴をあげさせ気絶させると、青年を脅した。
青年はあることに気づくと、狼男の言うとおりに弓と矢の入った矢筒を外し、自分の後ろに投げ捨てた。
それを見た狼男は嗤いながら次の指示を出した。
…だが、狼男は知らなかった。この青年の仲間が結界を張った者だけではないことを。
ヒュンッ!ザンッ!!
…ドサッ!!
「…あ?……グァァァッ!?
オ、オレの腕がぁぁぁ!?」
狼男が青年の弓矢が青年の背後に行ったのを確認する為、カミューから僅かに目を逸らした瞬間、カミューを掴んでいた右腕の肘辺りに何かが飛んできた。飛んできた何かは狼男の腕を切断し肘辺りから先は、捕まえていたカミューごと無くなっていた。
「…ふぅ。間に合った…!!」
「…遅いぞ、ジュリア!?」
「…そうは言うけど、ミスったのはカートがモタモタしてたからでしょ!?」
「…っ!?うぅっ!?」
「…!?少年、気が付いたか!?
ジュリア、少年を頼む!!」
青年、カートは狼男に掴まれていた腕ごとカミューを救出しながら、やってきたジュリアと呼ばれる者に文句を言うが、ジュリアも負けじと言い返した。
カミューは狼男に吊り上げられていた時は気絶していたが、ジュリアの攻撃により地面に落下したことで意識を取り戻した。
カートはカミューが意識を取り戻したのに気付くと、近くに来たジュリアに渡した。それからカートは背後に捨てた弓矢を拾いに行った。
「わかったわ!
…少年、もう大丈夫よ!?」
「…うぅっ…あ、アンタは?」
「あたしはジュリア。
風の魔導師よ!」
カートからカミューを受けとったジュリアはカミューの心配をしながら、声をかける。
カミューは気絶していた為、ジュリアのことが解らず問いかけると、ジュリアは簡単に自己紹介をする。
「グゥァァッ!?
小娘がぁぁっ!?」
「…!?
…風よ!我らを守りし盾となれ!!
風楯!!!」
ゴオッ!
「グァッ!?」
そんな時に狼男が残った左腕で攻撃しようとするが、ジュリアは風楯の呪文を唱えた。
するとジュリアとカミューを中心に風が竜巻のように吹き荒れ、狼男を弾き飛ばした。
「…な!?」
「ふぅっ。これでもう大丈夫よ!」
ニコッ。
カミューは今自分が目にした光景が信じられず言葉を失うが、ジュリアはカミューが『自分達がまた狼男に襲われるんじゃないか』と勘違いをしたらしく、カミューを安心させようと微笑んだ。
一方、弓矢を拾ったカートは直ぐ様弓に矢をつがえて狼男に攻撃しようとしたが、振り向いた時にその必要がもういらないことに気づき構えを解いた。
何故なら…。
「ギャァァァァァァッ!!」
「…お前も遅いぞ、ゼル!」
「…スマン…」
振り向いた先には、大剣に背中から貫かれた狼男と、その大剣を操っている長身の戦士、ゼルがいたからだった。
「ギィィッ!?
ま、まだ仲間がいたのか!?」
狼男は自分を刺した相手・ゼルを視界の端に捉えながら、その場に倒れそうになるが、まだゼルの大剣が背中から貫通している為それも出来なかった。
「グゥゥッ!?
…し、仕方ねぇ…こうなったら…!?」
「…?…終わってない?…」
「…!?ゼル!ソイツから離れろ!!」
ゼルは背中側に居たため解らなかったが、カートは狼男の左正面に居たため、狼男の様子がおかしいことに気付きゼルに離れるように命じる。それを聞いたゼルは狼男の背中から大剣を抜き始めた。
「ぐっ、グルルルッ!?
…き、貴様等も…道連れだぁぁぁっ!?」
「…!?ガァッ!?」
「!?ゼル!?…うぉっ!?」
狼男はどこにこんな力が残っていたのか、大剣が抜けた瞬間、ゼルをカートのいる方へ蹴り飛ばした。ゼルとカートはぶつかりその場に転がってしまう。
「…!?ゼル!?カート!?
…!?」
「グルゥォォォォォォッ!
…こ、これだけは…使いたく…なかった…が、し、仕方ねぇ…き、貴様等全員、オレ様の糧となれぇぇぇっ!?」
「…!?…自分の首を刺した!?自殺か…!?」
「…!?いいえ…違うわ。
反転しようとしているのよ!?」
そう、カミューの言うとおり狼男は残った左腕の爪を自分の首に突き刺した。まるて自殺をするかのように…。
「は(り)、反転って!?」
「…反転現象って言ってね、狼男が自分の生命力と引き換えに、生命力が尽きるまで止まらない、暴走状態のことよ!?」
…だか、ジュリアの見解はカミューのそれとは全く逆だった。
[反転現象]と呼ばれる、それは自分の生命力と引き換えに、無限の力を与える暴走状態にすることが出来る。
最も与えられる力は個人個人で違うが、それでも以前の数倍から十数倍になる。
「風よ!悪しき者を打ち払え!!風弾!!!」
ジュリアはカミューを担ぎ直し、狼男に隙を見せないように杖を構えると風弾の呪文を唱えた。
すると、ジュリアの周囲に風の塊が出現し、狼男目掛けて飛んでいった。
…が、狼男は左腕を振り払うように動かしただけで、飛んできた風弾を掻き消した。
「…くっ!?
ゼル!カート!!何寝てんの!?コイツをなんとかしなさいよ!?」
「くっ!ゼル、行くぞ!?」
「…!?…コクリ…!!」
ジュリアの叫びを聞きながら漸く起き上がった2人は、それぞれ武器を構えて狼男に対峙する。…だが、狼男は反転して暴走状態になった為、スピードも上がり2人の攻撃を易々とかわしていく。
それに相性も悪かった。カートの武器は弓矢で主に中・遠距離が一番効果を発揮するのだが、狼男は中・近距離を維持し時折飛んでくる矢は全て叩き落としていた。
ゼルの大剣も似たようなものだ。ゼルの持つ大剣は190cm前後あるゼルより若干短いぐらいな為、重量もそれなりにある。
ゼルはその巨体を生かして上手くその大剣を操ってはいるが、スピードが上がった狼男には簡単によけられていた。
「ギャッハッハッハッ!?
どうした、魔獣狩り(ハンター)共!?貴様等の力はそんなモノか!?」
「るっせぇ!?テメェこそ反転してるだけで、元の力はそれ以下だろうが!?」
「…ずるい…」
狼男の挑発をカートとゼルは効果がないと知りつつ攻撃をしながら受け流していた。
「…じ、ジュリアさん…お、俺のことは…はぁ、はぁ…良いから…2人の方へ…」
「バカっ!?アナタね、今はあたしが魔力で傷口からこれ以上出血しないようにしているけど、それを止めたら直ぐに死ぬわよ!?」
そう、ジュリアが言うように今はカミューの背中の傷から出血していなかった。カミューの背中をよく見ると、薄い碧色の光が傷口を覆っておりそれが蓋のようになり、それ以上の出血を防いでいた。
仮にジュリアが魔力を流すのを止めれば、一気に傷口から出血しカミューはそのまま出血多量で死んでしまうだろう。
「チィッ!!
(だが、どうする!?
アイツが来ればまだ勝機はあるが、少年の様子を見る限りこれ以上は保たない!!
…ヤツじゃねぇが、仕方ねぇか)
…ゼル!ジュリア!!賭けに出る!!!」
「…!?」
「カート!?まさか、あんた!?」
カートはそう言うと胸元から蒼く輝く小さなペンダントを取り出した。
それを見たゼルとジュリアはカートが何をしようとするのが解り、カートを止めるのだった。
狼男に攻撃するのを止めたカートは取り出したペンダントを投げ捨てた。
ペンダントは蒼く輝きながら弧を描き地面に落ちると、一瞬強く輝くとやがて静かにその光を消してその場に落ちた。
「くっ!?うおぉぉぉっ!」
「!?カート!?」
「止めなさい!戻れなくなるわよ!?」
カートはペンダントの光が消えたと同時に叫び声を上げる。それを見たゼルとジュリアはカートを止めようとするものの、既に遅いと気付くのだった。
「アァァァッ!
…ふぅ…ゼル、ジュリア…あとは…頼む!!」
やがて叫び終えたカートはマントを脱ぎながらそう言うと、やや大きめなナイフを取り出すと狼男に向かって駆け出した。だが先ほどとはそのスピードは全然違った。
「!?…何だと!?」
ゼルを相手にそのスピードで翻弄していた狼男は、突如スピードの上がったカートに慌てた。
「…!?…急にスピードが上がった?
…ジュリアさん、あの人はいったい…何を…」
「…っ!?…あたし達やアイツがこの世界の者じゃないっていうのは、もう気づいてるよね…?」
「…ああ…」
カミューは突如スピードの上がったカートに何が起こったのかジュリアに尋ねた。ジュリアはカートと狼男の戦いを観ながらカミューにそう前置きしながら話し始める。
「…あの狼男も今はあんな姿だけど、あたし達の世界では元々普通の人間だったの。」
「え!?で、でもアイツ…」
「最後まで聞きなさい!
…あたし達の世界とこっちの世界…いえ、何処の世界でもそうなんだけれど…世界間の行き来は通常出来ないの。
…もし別の世界に行けば、その人はその世界に行った瞬間に魂ごと消えてしまうわ…」
ジュリアはカミューにまず世界間の移動について説明した。
それによれば、何らかの方法で別世界に行った場合、その人物は存在を消されるということだ。
「…!?…でも、アンタ等やあのバケモンは…?」
「…ええ、実際にこっち、この世界に今こうして生きているわね。
それを可能にする為には二つの方法があるの…」
「…二つ?」
「…一つ目はあの狼男みたいに、人間から反転して魔獣と呼ばれる存在になること。
…そして、もう一つが…」
ジュリアはそう言うと懐からカートも持っていた、蒼く輝くペンダントを取り出した。
「…?それはあの人も持っていた…?」
「ええ、カートやあたし達がこの世界に…いえ、別世界にいる為に必要な、[精霊石]のペンダントよ。」
ジュリアはそう言うとカミューに見えるように、掌に乗せた。精霊石のペンダントは小さなサファイアのような宝石で菱形をしていた。
だが普通のサファイアとは違い、そのペンダントは蒼く輝いている。
「精霊石のペンダント…」
「…これは、あたし達の世界の大精霊・ラウルが宿った石って言われているんだけど、その辺は今は関係ないから説明を省くけど…ともかく、この精霊石のペンダントがあれば別世界に行っても消滅しないで済むようになるの!」
「…!?じ、じゃあそれを外したあの人は消滅しちゃうってことか!?」
「…いいえ、この精霊石のペンダントをちょっと外したぐらいなら直ぐに消滅するワケじゃないわ。現にあたしもカートも外しているし。」
「あ…そういえば…」
「…でも、カートはそれを捨てた…
…さっき別世界で活動するには二つの方法がある、って言ったわよね?」
「あ、ああ…!?まさか!?」
ジュリアはカミューに見せていた精霊石のペンダントを付け直しながら、カミューに説明を続けるが、カミューはその先の答えがわかったのかジュリアに聞き返した。
「そう、そのまさかよ!
カートは精霊石の加護を捨てて、自ら魔獣となったのよ!!
…あれを見なさい!?」
…精霊石のペンダントは別世界で活動する為に必要な物だ。
それを外したり破壊されれば、待っているのは消滅するしかない。
だが…それを回避する為に、消滅する前に自ら反転し魔獣に堕ちれば、生命は助かる…がその代償は大きい。
ジュリアがカートを指差し、それを見たカミューは更に驚愕した。
カートは狼男と戦いながらその身体を変化させていたのだ。
狼男と同じかそれ以上のスピードを出す為に脚は獣の後ろ脚のようになり、
いつの間にかナイフを捨て、少しでも狼男に攻撃が通るように両の腕の指先に鋭い刃物のような爪を生やしていた。
手足だけではない。
狼男に攻撃されても大丈夫なためか、カートの全身は鱗のようなものに覆われはじめていた。
頭部は額の左右から角が伸びだしており、顔も以前のカートの名残など残っておらず、全身を覆っているのと同じように鱗のようなもので覆われ、口内は牙のような歯になり鼻面が伸びた。
「…!?…龍…いや…竜人…か?」
そう、カミューが口にしたように、
その姿はまさに竜人と呼ぶべき姿だった。
竜人へと反転したカートは狼男へ攻撃をし、狼男は片腕でなんとかカートの攻撃を応戦してはいるが、徐々に捌ききれなくなってきていた。
「グッ…!?
さ、流石に竜人と戦り合うには…ガッ…!?か、片腕じゃあ…グアッ…!?」
竜人化したカートの攻撃に着いていけなくなってきた狼男は、なんとかしようと片方しかない爪を振るうがカートの方がスピードは上らしく、あっさりかわされる。
それどころか逆に反撃を食らう始末だ。
「…な、なあジュリアさん…」
「…何?」
「さっき精霊石の加護を自ら捨てて、反転すれば別世界で生きていけるって言ったけど、あの…」
「…残念だけど、カートはもう無理よ…」
カミューはカートが元に戻ることが出来るのか聞きたかったが、ジュリアはその質問が最後までされる前に応えた。
「…さっき、カートがペンダントを投げ捨てた時、ペンダントの光が消えたのが見えたでしょ?
…あれはもう精霊石の効果が必要ない時に起こる現象なの…精霊石のペンダントが輝いていればまだ希望があったけど、あそこまで反転してしまったら…もう…!?」
ジュリアはカートが元に戻らないことをカミューに伝えると、カートと狼男の戦いを最後まで見守り続けた。
その時、今まで当たってもカスるぐらいしかならなかったカートの左腕の攻撃が、狼男の右脇に突き刺し引き倒した。
「ガァァァァァァッ!」
「グゥッ!?は、放しやが…ギャァァァァァッ!?」
ザグッ!ブチブチブチッ!
「…!?」
「…な!?」
「…!?」
…そして、カートは狼男の残った左腕に右手の爪を突き刺すと、強引に引き千切った。
余りに凄惨なそれを見てしまい、ジュリアは顔を逸らし、カミューは怪我のせいで青かった顔を更に青くし、普段顔色を変えることの少ないゼルでさえ思わず顔をしかめた程だった。
…だが、カートの攻撃はまだ終わってなかった。
ガッ、ミシミシミシミシッ、ビキッ、バキャッ!!
「ギィァァァァァッ!?」
今度は狼男の両膝辺りを捕まえると、その怪力で筋肉や骨ごと強引に握り潰し、狼男を動けなくした。動けなくなった狼男は激痛により、ただ叫ぶだけしか出来なかった。
「ガァァァァァァッ!」
「グハッ!?…ハァハァ…や、止めろぉぉぉぉっ…!?」
ドシュゥッ!
そんな狼男にカートは無慈悲に見下ろし、狼男の頭部にトドメの一撃を加えた。
「グォォォォォォウッ」
バキッ、バリバリッ!
…クッチャ、クチャッ、ゴクン!!
「「「!?」」」
…完全に動かなくなった狼男を確認したカートは、なんと狼男の胸部に爪を射し込むと胸から、心臓らしきモノを取り出しそれを喰い始めた!
「…マジかよ…」
「…ゼル、カートを…」
「…コクリ…」
カートのその行為に引きつりながら見ていたカミュー達だったが、ジュリアは一言そうゼルに話しかけると、ゼルは自分の大剣を担ぎ直し静かに歩き出した。
…食事中のカートの方へと。
そしてジュリアも担いでいたカミューを降ろすと、カートだったモノに杖を向ける。
「…?…ジュリアさん…いったい何を…?」
「…仕方ないのよ…あたし達は…魔獣狩り(ハンター)だから…」
「…!?まさかカートさんを…!?
仲間なんだろ!?
だったら…」
「…風よ…彼の者に優しき風を…風眠…」
ヒュゥゥゥッ!
…クラッ!!
「…うっ!?…な、なにを…」
ズルッ、ドタッ!
カミューは突然担がれていた自分が降ろされたことに疑問を抱き、ジュリアに問いかけるがその答えに自分が怪我をしているのを忘れ、ジュリアに掴みかかろうとするがジュリアはカミューに風眠の魔法をかけた。
「…ごめんね、少年…
今かけたのは、ただの眠りの魔法だから…起きた時には全て終わってるからね」
「な…!?だ、ダメ…だ、仲間同…士で、戦…うなん…て…」
バタッ!
ジュリアにかけられた魔法に必死に抗いながら、カミューは言い募るが襲ってくる眠気には勝てず、そのまま倒れた。
ジュリアはこの心優しい少年をなんとか助けようと誓いながらカミューを見ていたが、やがてそのことを振り切るようにカートだったモノと対峙するのだった。
<続く>
お読み下さり有り難う御座います。
m(_ _)m