第一章 第二話 出会い
投稿し直し第三段です
午後3時
午後の授業も先ほど終了し、入れ代わるようにやってきた担任教師も連絡事項を伝えて解散となった教室内は、部活に行く者、帰宅する者、残ってダベる者と若干騒がしい。
カミューは部活には入っていないため帰宅組だ。
だが、決して運動神経が悪いからではない。
寧ろ良すぎるため、カミューが全力でスポーツをすると他の人がついていけないことがあるので、学校では全力をださないようにしていた。
その為部活にも入っていないのだ。
…カミューがこの学園に入学した頃にあったスポーツテストで、カミューは持ち前の運動神経で他を圧倒してしまった。 そうなると各運動部からの勧誘があるが、カミューは自分は一人暮らしの為部活には入らないことを明言しそれらの勧誘を全て断ったが、それで引き下がる者がいる訳がなかった。
そこでカミューは各運動部それぞれと勝負をし負けたら入部する賭けをしたが、無論勝者はカミューであった。
~閑話休題~
そんなこともあったカミューは偶に運動部に助っ人を頼まれることもあるが、今日は帰宅するつもりのようだが…
「…亮、俺は帰りたいんだ。離せ。」
「ええ~、いいじゃんか~。
カミューちゃんも行こうぜ~!」
帰ろうと教室を出たカミューを亮がカミューの腕を引っ張りながら、今朝のニュースの現場に行こうと言い出したのだ。
カミューは行きたくなかったので抵抗したのだが、亮は180cm程ある為カミューとでは体格が違いすぎるのであまり意味はなかった。
「…ちゃん付けは止めろと言ってるだろ
それといい加減離せ!」
「わぁったよ。
また投げ飛ばされるのもヤだしな。」
亮は漸くカミューの腕を離すと、カミューのとなりを歩き始めた。
「フゥ…大体なんでそんなところに行きたいんだ?
行っても警察が現場検証している筈だから入ることも見ることも出来ないだろうが。」
「うっ…で、でもよ、最近の噂となんか関係あるかも知れないだろ?」
「亮…お前…バカだバカだと思っていたが、そこまでバカだったとは…。」
「ええ~!カミューちゃん俺のことそんな風に思っていたの~!?」
「…」
グイッ!
「…うぇっ!?」
ズダン!
「ウガッ!?」
カミューは亮の腕を軽く引っ張り、亮のバランスを崩すとすぐさま足払いをかけて亮を背中から地面に叩きつけた。
「亮…ちゃん付けするなと言ったよな?
また投げるぞ」
「だ、だから投げてから言うなよ!?
大体なんで俺は投げられたのかもわかんねーし!?(泣)」
「ハァ…そういうところがバカだと言ってるんだ。」
…懲りない男・亮であった。
…結局カミューが折れて現場に行くことになるが、そこまでの話しは長くなるので割愛しよう(笑)
~閑話休題~
午後4時
カミューと亮は普段使うバスを逆送しニュースでやっていた現場のある停留所で降り立った。
「着いたー!」
「…ハァ…」
亮は元気よく到着したことを喜び、それとは逆にカミューはまるで亮に元気を吸い取られたかのように溜め息を吐いた。
「なんだよ~、その溜め息は?
幸せが逃げるぞ~?」
「…誰のせいだ、誰の!?」
カミューはお気楽な亮に若干キレ気味にそう言うと辺りを見回す。
バス停から少し先にパトカーが何台か留まっており、その先は警察官が通行止めをしていた。
その周りには亮のように好奇心で野次馬に来る者やテレビ局や新聞記者だろう人々が、現場らしき場所をカメラや携帯を向けていた。
「やっぱり、現場は封鎖されてるのか~?」
「…ハァ…当たり前だろうが。
こんな事件があれば誰だって予想するだろうが。
だからお前はバカだと言ったんだよ。」
亮は現場らしき場所を残念そうに見ているが、カミューは『何言ってんだ、コイツ?』とでも言いたそうな顔で亮に返す。
「おっ?テレビが来てるじゃん!カミュー、映りに行こうぜ!?」
「…
誰が行くか!?」
亮はテレビカメラを見つけるとそちらに行こうとカミューを誘うが、当然カミューが行くはずもない。
「映りたかったら、一人で行けよ。
俺は帰るぞ。」
「おうっ!そんじゃあまた明日な!?」
「
…ハァ…じゃあな。
明日遅刻すんなよ。」
亮は此処まで誘ったにも係わらずあっさりとカミューを解放した。
それを見たカミューは亮に対して再び怒りを覚えたが、
『コイツから解放されるなら良いか…』と思い直し、また溜め息を吐いて亮を送り出したのだった。
「…ハァ、何で俺はあんなのとダチになったんだろう…」
カミューは亮と別れてバス停に向かいながら、愚痴をこぼしてはまた溜め息を吐いた。
「…マジか」
バス停に着いたが、時刻表を見るとついさっき自分たちが乗ってきたバスの前に反対方向のバスは出たらしく、次のバスは5時ぐらいまで来ないらしい。
現在、時刻は4時20分。
40分近く待たないとバスは来ないとわかったカミューは、本日何度目かわからない溜め息を吐くのだった。
「…ハァ…仕方ねぇ、この恨みは明日亮のヤツをぶん殴ることで晴らすとして、学校まで歩くか」
亮に恨み言を呟きながら、カミューは学園方向へ歩き出した。
此処から学園前のバス停までは歩きで約30分程で行けるが、カミューはなるべく人目があるところには一人では行きたくはなかった。なぜなら…
「ねえ君、一人~?俺達と遊ばない?」
「」
…そう、ナンパをされるからだ(笑)
亮や知人達がいる時はされないが、一人になった途端このようにナンパをされるのはもはや日常茶飯事になってしまったので、この手の輩の対処法はカミューには幾つかある。例えば…
「ねえねえ、無視しないで遊ぼーぜ?」
「…」
無視である…が、今回はしつこいようだ。
「ハァ…、ジャマ、退け。」
ズダン!
「グエッ!?」
あまりにしつこいのでカミューは実力行使で、ナンパをしてきた一人を亮にやったように背中から叩きつけた。
「てめっ、何しやがる!?」
「オイッ、コイツ気絶してんぞ!?」
「…ハァ。あのさぁ、俺男なんだけど?
男をナンパする趣味でもあんのか?」
カミューはしつこいナンパたちに男であることを明かすと、更に煽るようなことを言う。
「「…え、えぇえ~!?
男ぉ~!?」」
…当然ナンパたちには信じられないらしい。
何せカミューは服こそ学生服だが、普通の服を着れば10人中9人がボーイッシュな女の子と間違える程の女顔だからだ。
「は、ははは。お前が男ぉ?そんなチビっこい男がいるかよ!?」
「」
「だ、たよな。それにその顔で女じゃないなんて詐欺だっつーの!?」
「」
ズダン!ドガッ!
「うげっ!?」「がふっ!?」
哀れナンパたちはカミューに対しての禁句を口にしてしまい、一人は最初のナンパと同じく地面に投げ飛ばされ、もう一人は腹を殴られ気絶してしまった。
「…フン…バカ共が。」
カミューはナンパたちをそのままにして帰路に着いたのだった。
…だが、カミューは知らなかった。
この日常がもう少しで崩れ去ることを…
午後4時40分
亮と別れたカミューは、時折現れるナンパを無視、あるいは撃退しながら学園方向へ歩いていた。
「…ったく、どいつもこいつもナンパなんかしてる暇があんなら、世のため人のためになることをしろっつーの」
…どうやら余りにナンパをされ過ぎてカミューはキレ気味みたいだ(笑)
暫く愚痴をこぼしながら歩いていたカミューは辺りの様子がおかしいことに気付く。
「…?
おかしい…なんでさっきから誰も居ないんだ?」
そう、先ほどから何故か人は勿論、犬・猫も、それどころか電線に泊まっているカラスや鳩等の鳥類も見かけていないのだ。
「…」
カミューはその場に止まると辺りをもう一度しっかり見回した。
今カミューがいる場所は、100m程先に十字路がありそこを右折すれば学園前の道路に繋がる一本道で、そこに至るまでに数件の民家もある。
逆に反対側は50m程先まで少々見通しの悪い竹林となっている。
だが、今カミューがいるところは竹林の切れ目だからそれほど見通しが悪くはない。
「…(やっぱり変だ。
この時間なら買い物帰りのオバサンや近所のガキ共が騒いでいる筈なのに…)」
カミューは警戒しながら辺りを見回していたが、辺りは相変わらず静寂を保っている。
…やがて、後方の竹林の方から一人の男がやってくるのに気付く。
「…」
「…」
男はカミューから5m程離れた場所で立ち止まる。
男の格好はヨレヨレのTシャツに使い古したGパンを着ており、ボロボロのスニーカーを履いている。上着のやや大きめのパーカーのフードを下ろし、更に鍔が大きめな帽子を被っているため表情は見えない。
見えるものはニヤニヤと嗤う口元だけだ。
そんな不気味な雰囲気を出す男は155cmしかないカミューが、首が痛くなるほど見上げなくてはならない程大きい。
おそらく亮よりも高い、2mぐらいあるんじゃなかろうか。
「…クッ…クククッ…」
男は何がおかしいのか、カミューを暫く見つめていたかと思ったら、微かに嗤い始めた。
「な、何がおかしいんだ」
「クククッ…イヤ失礼。
この結界を貼ったのがまさかこんな小娘だったとは、と思ったものでね。」
「…(結界?)」
男はカミューに向かって話しかけてるが、カミューにはワケがわからないことを話していた。
「…まぁいい。
どうせこの結界は術者を倒せば消えるヤツだ…
ならば…!」
「!?」
男はそう言うと、右手を顔の前まで持ってくる。
それを見ていたカミューには信じられないことが起こった。
ビキビキッビキッ!
なんと男の右手の爪が一気に20cm程伸びたのだ。
ビリビリッビリッ!!
変化はそれだけではなかった。
顔の前に翳していた右手を振り払った時、男の衣服は内側から破れていく。破った衣服の下は普通なら只の裸だが、
この男の場合は違った。
全身が黒い体毛で被われていたし、何よりも人間にはない筈の尻尾が臀部から生えてきたのだ。
更に変化は続き、男は被っていた帽子を爪の伸びた右手で器用に外すと、
その顔も変わっていった。
口元が裂けたかと思ったら前方に尖りだし、耳もそれに合わせて頭上に移動し、まるで犬や狼のような面貌になった!
「!?」
カミューはそれを見て数歩後ろに下がる。
そう、カミューの目の前にはアニメや漫画等で見る[狼男]がいたのだった。
完全に狼男に変化した男を、カミューは信じられないものを見たかのように驚愕していた。
それはそうだろう、人間が怪物に変身したのだから。
「グルルルッ!」
狼男は一吠えするとカミューに襲いかかるためだろう身体を屈めた。
「な、な、なんか知らんがヤベェッ!?」
カミューは咄嗟に身体を左側に地を蹴った。
ゴウッ!
それが功を奏したのか、今までカミューが立っていた場所に突風が駆け抜けていく。
…否、風ではなく狼男が駆け抜けたのだった。
「グルルルッ?…よく避けられたな!」
「あっ…ぶねっ…うおっ!?」
狼男の突進をギリギリ避けたカミューだったが、駆け抜けた際に起きた風圧だけは避けられず、僅かにバランスを崩した。
狼男はその隙を見逃す訳もなく、カミューに向かってまた突進をすると、今度は駆け抜けると同時に両腕に付いた凶悪な爪を奮うが、
カミューは感が働いたのか咄嗟にしゃがんでこれをかわす。
「ぐぁっ!?」
…が、やはり風圧でバランスを崩してしまう。
そこに狼男の尻尾がカミューの脇に振るわれカミューは吹き飛ばされた。
ドガンッ!
「ガハッ!?」
更に運の悪いことに、吹き飛ばされた先は民家を囲っているブロック塀だった。
背中からブロック塀に叩きつけられたカミューは咄嗟に受け身の体制をとったが、その前に受けた尻尾の一撃で肋のどこかを折ったらしく吐血してしまう。
「グルルルッ!
これでチョロチョロ出来んだろう!」
狼男はそう言うと、ゆっくりカミューの倒れている方に歩いてくる。
「ガハッ、ゴホッ、ゴフッ!?
(や、やべぇっ…!?
アバラ骨のどっかをやっちまったか!?)」
カミューは右手で脇を抑えてなんとか立ち上がり逃げようとするが、身体はいうことを訊いてくれず、またその場に崩れ落ちる。
「グルルルッ。
さぁ、殺されたくなかったら大人しくこの結界を解け!?」
狼男はそう言うと長い爪の生えた手で器用にカミューの襟首を持ち上げる。
「うぐっ!?」
当然そんなふうに持ち上げられれば首が締まり息が出来なくなる。
カミューはなんとかしようと狼男の手首を掴んだ。
「なんだぁ?…グァッ!?」
狼男はカミューが何も出来ないと思って僅かに腕の力を緩めたが、カミューが狙っていたのか偶然なのかわからないが、カミューは狼男の力が抜けた瞬間に両手を力いっぱい握った。
そのカミューが握った箇所は狼男にとって、いや我々人間にとっても急所である関節であった。
これにはさすがの狼男といえども溜まらず、カミューを放り出した。
「がっ!?」
「こ、小娘風情がぁ~!?」
狼男はカミューを憎々しげに睨みつけ、若干距離を取った。
「かはっ、ゴホッゴフッ!?
…ハァ、ハァ…なぁ、バケモン…ハァ、お前さっき、なんつった…?」
「…あ?」
カミューは狼男を見ながら、とある[疑問]を思ったので狼男に質問しようと口を開いた。
「ハァ、ハァ、ゴホッ、…ハァ、…お前言ったよな?この結界を解けって?」
「…だからなんだぁ?
解いてやるから見逃せってか?」
「いや…それはちっとばかし無理だ…ハァ、ハァ…ふう~。」
カミューは狼男の答えに確信を持つと呼吸を整えて[その時]を待った。
「グルルルッ…ならば、貴様を始末してから結界を解くまでよ!?」
「…ハァ…それも…無理だな!」
カミューに意識を向けていた狼男にはわからなかったが、カミューには見えていた。
先ほど狼男に振り払われた場所はちょうど竹林の方に狼男がいるかたちになっており、狼男の後方の竹林の奥は暗く見通しが悪かったが、座り込んでいるカミューには僅かだがその先に居るものが見えていた。
男か女かわからないが、弓らしき物を此方に、正確には狼男の方を狙っているのが。
カミューは矢に貫かれ身もだえしている狼男を警戒しながら、こちらにやってくる矢を射ったと思われる青年を見ると僅かに眉をしかめた。
青年は弓矢を構えながらこちらにやってくるが、その服装はまず現代の日本でするような格好ではなかった。
まず一番目立つのはフード付きのマントを羽織り、全身を隠していることだろう。
弓矢を構えている為マントの隙間から覗く下の服装も普通とは違う。
革の鎧というのだろうか。
上半身はそれを付けており、鎧の下にはチュニックと思われるものを着ている。
腰から下は黒いズボンと普通だが、そのズボンを留めているベルトに小さな袋を幾つか下げていた。そして背中に矢の入った矢筒らしきものを下げている姿は、まさに狩人といった感じだった。
そんなコスプレじみた格好の青年は、狼男から10m程離れた場所で止まりカミューに話しかけた。
「…無事か?」
「…あ、ああ…アバラをやっちまったがなんとかな」
カミューは話しかけられて初めてその青年の顔を見た。
歳はカミューと同じ位か一つ二つ上だろうか。狼男を鋭く睨みつけるその瞳は碧く、スッと通った鼻梁をし薄い唇を通るその声は男にしては若干高めだった。
フードの隙間からこぼれ出た髪は銀色で、この青年が日本人でないことだけはわかった。
「…なぁ…あんたが結界ってのを張ったのか?」
「…いや私ではなく、私の仲間が張ったのだが…スマナイ、君を巻き込んでしまった。」
カミューは先ほどこの青年が喋った言葉が日本語だった為、狼男と対峙していた時からの疑問をこの青年にしてみたが、青年の答えにまた僅かに眉をしかめた。
「グルルルッ!?
き、貴様魔獣狩り(ハンター)か!?」
狼男は漸く自分に刺さった矢を抜くと、左目を押さえながら残った右目で青年を睨みつける。
「…そうだ。狼男が此方側に反転したとギルドから連絡があったが…少し遅かったようだな。
…何人喰った?」
「クックックッ…。
まだたったの3人だぜ!
それで貴様等魔獣狩り(ハンター)が来るとは…だが…!」
「(…ハンター?…此方側?…反転?…何を話してるんだ、コイツら?
…何が何だかわからんが、ヤな予感がするからもう少し離れた方が良さそうだな)…!?」
青年と狼男はカミューにはわからない会話をしていたが、カミューはふいに嫌な予感を感じた。
その為カミューは狼男を刺激しないようにゆっくり後退りしていたが、狼男はそのカミューの挙動を見逃さなかった。
青年との会話をしていた狼男はまるでカミューとの距離が無いかのように一足飛びで縮めると、次の瞬間にはカミューの背後をとり、右手だけで首筋に腕を回すと青年に矢を射られないように楯にした。
「!?」
「!?しまっ…!?」
「動くな!?」青年は咄嗟に矢を射ろうとしたが既に遅く、狼男はカミューを人質にすることに成功した。
「ぐっ!?
離せよ!?」
「うるせぇ小娘だぜ…イヤ、小僧か?クックックッ!
…オイ魔獣狩り(ハンター)、コイツを離して欲しかったら仲間に結界を解くように言え!?」
「チッ…!?」
カミューはなんとか狼男の拘束から逃れようともがくが、狼男の拘束が緩むことはなかった。
そんなカミューの様子を煩わしげに見ながら、狼男は青年に結界を解くように脅していた。
青年はなんとか狼男の隙を突こうと弓矢を構えているが、カミューが邪魔で狼男の急所を狙えず舌打ちをする。
「ぐっ!?(…やべぇ、もっと早く離れりゃ良かった!
なんとかしねぇと…!?)」
カミューはもがきながらなんとか脱出方法を考えていた。
するともがいていたカミューの左手にヌルッとした感触があり、狼男に気づかれないようにソッと自分の左手を見ると狼男の血が付いているのがわかった。
「(血!?コイツのか!?
…そうだ!)…フンッ!?」
「ガァッ!?」
「…!?今だ!こっちへ!?」
シュンッ!
カミューはその血を見てあることを思い出した。
狼男に刺さった矢は3本だった。
左目と左腕、そして左の脇腹だ。
左腕はそれ程深く刺さらなかったらしく、今は左目を押さえている。脇腹に刺さった矢は深く刺さった為、矢を折ってそのままだった。
カミューはその折れた矢が刺さった場所に左の肘鉄を喰らわしたのだ。
狼男はたまらずカミューを放り出した。
その様子を見ていた青年はカミューに自分の方へ来るように言いながら狼男に牽制の矢を放つ。
「ガァァッ!?
小僧、貴様~!?」
「!?…ぐぁっ!?」
「!?少年!?」
シュンッ!ドスッ!
「ギャンッ!?」
狼男はカミューを逃すまじと右腕を振るいカミューの背中を切り裂く。
青年はさせじと次の矢を放つが、僅かに狼男の攻撃の方が速かった。
カミューは矢に貫かれ身もだえしている狼男を警戒しながら、こちらにやってくる矢を射ったと思われる青年を見ると僅かに眉をしかめた。
青年は弓矢を構えながらこちらにやってくるが、その服装はまず現代の日本でするような格好ではなかった。
まず一番目立つのはフード付きのマントを羽織り、全身を隠していることだろう。
弓矢を構えている為マントの隙間から覗く下の服装も普通とは違う。
革の鎧というのだろうか。
上半身はそれを付けており、鎧の下にはチュニックと思われるものを着ている。
腰から下は黒いズボンと普通だが、そのズボンを留めているベルトに小さな袋を幾つか下げていた。そして背中に矢の入った矢筒らしきものを下げている姿は、まさに狩人といった感じだった。
そんなコスプレじみた格好の青年は、狼男から10m程離れた場所で止まりカミューに話しかけた。
「…無事か?」
「…あ、ああ…アバラをやっちまったがなんとかな」
カミューは話しかけられて初めてその青年の顔を見た。
歳はカミューと同じ位か一つ二つ上だろうか。狼男を鋭く睨みつけるその瞳は碧く、スッと通った鼻梁をし薄い唇を通るその声は男にしては若干高めだった。
フードの隙間からこぼれ出た髪は銀色で、この青年が日本人でないことだけはわかった。
「…なぁ…あんたが結界ってのを張ったのか?」
「…いや私ではなく、私の仲間が張ったのだが…スマナイ、君を巻き込んでしまった。」
カミューは先ほどこの青年が喋った言葉が日本語だった為、狼男と対峙していた時からの疑問をこの青年にしてみたが、青年の答えにまた僅かに眉をしかめた。
「グルルルッ!?
き、貴様魔獣狩り(ハンター)か!?」
狼男は漸く自分に刺さった矢を抜くと、左目を押さえながら残った右目で青年を睨みつける。
「…そうだ。狼男が此方側に反転したとギルドから連絡があったが…少し遅かったようだな。
…何人喰った?」
「クックックッ…。
まだたったの3人だぜ!
それで貴様等魔獣狩り(ハンター)が来るとは…だが…!」
「(…ハンター?…此方側?…反転?…何を話してるんだ、コイツら?
…何が何だかわからんが、ヤな予感がするからもう少し離れた方が良さそうだな)…!?」
青年と狼男はカミューにはわからない会話をしていたが、カミューはふいに嫌な予感を感じた。
その為カミューは狼男を刺激しないようにゆっくり後退りしていたが、狼男はそのカミューの挙動を見逃さなかった。
青年との会話をしていた狼男はまるでカミューとの距離が無いかのように一足飛びで縮めると、次の瞬間にはカミューの背後をとり、右手だけで首筋に腕を回すと青年に矢を射られないように楯にした。
「!?」
「!?しまっ…!?」
「動くな!?」青年は咄嗟に矢を射ろうとしたが既に遅く、狼男はカミューを人質にすることに成功した。
「ぐっ!?
離せよ!?」
「うるせぇ小娘だぜ…イヤ、小僧か?クックックッ!
…オイ魔獣狩り(ハンター)、コイツを離して欲しかったら仲間に結界を解くように言え!?」
「チッ…!?」
カミューはなんとか狼男の拘束から逃れようともがくが、狼男の拘束が緩むことはなかった。
そんなカミューの様子を煩わしげに見ながら、狼男は青年に結界を解くように脅していた。
青年はなんとか狼男の隙を突こうと弓矢を構えているが、カミューが邪魔で狼男の急所を狙えず舌打ちをする。
「ぐっ!?(…やべぇ、もっと早く離れりゃ良かった!
なんとかしねぇと…!?)」
カミューはもがきながらなんとか脱出方法を考えていた。
するともがいていたカミューの左手にヌルッとした感触があり、狼男に気づかれないようにソッと自分の左手を見ると狼男の血が付いているのがわかった。
「(血!?コイツのか!?
…そうだ!)…フンッ!?」
「ガァッ!?」
「…!?今だ!こっちへ!?」
シュンッ!
カミューはその血を見てあることを思い出した。
狼男に刺さった矢は3本だった。
左目と左腕、そして左の脇腹だ。
左腕はそれ程深く刺さらなかったらしく、今は左目を押さえている。脇腹に刺さった矢は深く刺さった為、矢を折ってそのままだった。
カミューはその折れた矢が刺さった場所に左の肘鉄を喰らわしたのだ。
狼男はたまらずカミューを放り出した。
その様子を見ていた青年はカミューに自分の方へ来るように言いながら狼男に牽制の矢を放つ。
「ガァァッ!?
小僧、貴様~!?」
「!?…ぐぁっ!?」
「!?少年!?」
シュンッ!ドスッ!
「ギャンッ!?」
狼男はカミューを逃すまじと右腕を振るいカミューの背中を切り裂く。
青年はさせじと次の矢を放つが、僅かに狼男の攻撃の方が速かった。
「ぐわっ!?」
なんとか狼男の拘束から逃れたカミューだったが、狼男に背中を斬りつけられ吹き飛ばされた。
ズキッ!
立ち上がろうとして背中に激痛が走り、また倒れてしまう。
カミューが背中に手をあてるとヌルッとした感触が伝わり、かなり出血しているのがわかった。
「ウグゥッ!?」
「少年!?そのまま動くな!?」
狼男に攻撃していた青年は、カミューの追った傷がかなり深いのがわかり、カミューに安静にするように言いながら、狼男に攻撃を続けていた。
「クックックッ…どうするよ、魔獣狩り(ハンター)!?
オレに攻撃している内に、その小僧は死ぬぞ!?」
狼男は青年の攻撃をある時はかわし、またある時は両の腕の爪で飛んできた矢を撃ち落としながら、青年を挑発する。
「ぐぅっ!?(痛っつう…!?
や、やべぇ、ミスった!?)」
カミューは自分のせいで青年が攻撃するのに躊躇っているのが倒れながら解り、焦って動こうとするがそれは背中の激痛がさせてはくれなかった。
「クックックッ…!
オレを倒してる間にその小僧はどんどん死に近づいていくぞぉ~!!
オレを攻撃していて良いのか~?」
「…くっ!?
(…チィッ!どうする、このままだと少年はヤツの言うとおり出血多量で…!?)」
狼男の挑発に青年は攻撃をしながら、内心舌打ちをしどうするか考えていた。
その間にもカミューの傷から出血は続いており、カミューの顔色もだんだん悪くなっているのがわかった。
「ギャッハッハッハッハッ…!
さぁ、いい加減オレを攻撃するのを止めてとっとと結界を解け!?」
「…!?
(…結界?…そうだ!?)」
シュンッ、ドカカカカカッ!カッ!!
「…!?」
青年はあることを思い出し直ぐに実行する。
背中に背負った矢筒から6本の矢を取り出し、狼男ではなくその周囲に等間隔で放つ。
6本目の矢が地に刺さると狼男を中心に魔法陣が光を放ちながら展開された。
「グルッ!?
う、動けん!?貴様ッ、何をした!?」
光が収まると狼男は魔法陣から伸びた光の鎖に捕らわれ、身動きが出来ないことに気付いた。
「…ふぅっ…それはこの空間を覆っている結界より弱いが、それでも貴様の動きを止めるくらいは出来る!
そこで暫くジッとしていろ!?」
「簡易結界か!?
だがこんなモノでオレの動きを止められると思うなよ!?」
青年は狼男の動きを止めると弓をしまいながら懐から蓋の付いた小さな筒のようなモノを取り出した。
「…」
青年は筒を額に当てなにやら呟くと、その筒の蓋を開ける。すると筒から光が飛び出し青年がやってきた方向に飛んでいった。青年はその光を最後まで見ることはせず、カミューの下に駆け寄り背中の傷を見るためにカミューの制服を脱がしながら問いかける。
「少年!?生きてるか!?」
「…っつう!?…か、勝手に…殺す…な…!?」
「フフッ、そんな憎まれ口を叩ければ、まだ大丈夫だな。
…少し染みるが、我慢しろ。」
「…え?…ぐぁっ!?」
憎まれ口を叩くカミューだったが、その顔色は青を通り越して白に近かった。
青年はそんなカミューにホッとしながら、ベルトにつけた小袋から小さなビンに入った軟膏をカミューの傷口に塗っていく。
カミューは背中の激痛が軟膏を塗られたことにより、更に痛くなったので思わず叫んでしまった。
青年はそんなカミューに軟膏を塗りながら、狼男の様子を見ていた。
狼男はなんとか簡易結界から脱出しようともがいていた。そのせいで簡易結界の基点ともいうべき6本の矢が少しずつ抜け出しているのがわかった。
「グルルルッ!
魔獣狩り(ハンター)よ!?あと少しで簡易結界は破れるぞぉ!?
この結界が解けたらまずは貴様から喰ってやる!!」
狼男はあと少しで簡易結界が解けそうなのが感覚的にわかり、青年に今まで結界に閉じ込められた鬱憤を晴らすために更にもがきだした。
「…チッ!?」
青年はカミューの傷口にあらかた軟膏を塗り終えると、カミューの着ていた制服のシャツを切り裂き包帯替わりにしてカミューに巻いていく。
パキンッ!!
そんな時に何かが割れる音が辺りに響き渡った。
「グルルルッ!
ギャッハッハッハッハッ!!解けたぜぇ~!?
魔獣狩り(ハンター)~!?
よくもやってくれたなぁ~!?
」
「何っ、早すぎるっ!?
…ぐぁっ!?」
青年は音が鳴った方、つまり狼男の方を見ると狼男の周囲の矢が全て抜けているのがわかり、カミューの手当てを中断して弓を構えようとしたが、それは結界を解いた狼男の突進により出来なかった。
カミューと青年は吹き飛ばされて離れてしまう。
「ぐぁっ!?」
「グッ、し、少年!?」
「弓を捨てろ!?」
吹き飛ばされた青年は直ぐに起き上がると、カミューの心配をしながら弓矢を構えた。
だが、一歩遅くカミューを再び人質にした狼男が武装解除を命じた。
<続く>
お読み下さり、有り難う御座います。
m(_ _)m




