えっ?毎日出るの?
飲み水は余裕があるうちにくみにいく。
「ちょっと前の話だけど、うちの国だと、ダンジョンに行けっていうのは死刑みたいなもんなんだ」
「ええ」
テルはユキの話を聞いて嫌な顔した。
水をくみにいく異世界からの訪問者テルの護衛として横を歩くのは小さな国の勇者ユキである。
「それを普通に受け入れちゃうのかよ」
「そういうのをね、断れないんだよね」
小国のジレンマ。
「でも何か、功績や称号に値するものを得ることができれば、許されて国で暮らせるんだよ」
「んな国捨てちまえよ」
「それはいい考えだが、他の生き方を残念ながら知らないし」
キュイ
小さな音だったが、それを聞き逃すことはなく。
「下がってて」
テルを静止させて、後ろに下がらせる。
(鳥?コウモリ?)
じっと目をこらすがテルにはそのぐらいの大きさの影しか見えない。
そしてそれは飛んでくる。
タン!
ユキはそれを叩き切る。
(一撃で叩ききるた、ザクッとかいう音じゃないんだもんな)
ヒュン!
剣をすぐに構え直し、切り返して一撃をいれる。
その風切り音だ。
その音を数えると敵の数は全部で五つのようで。
「クケケケ」
地面に落ちてもまだ生きてるようだが、トドメをさすことく。
「仲間を呼ばれるから、離れるよ」
「わかった」
こういうところでの危険への判断は、さすがに勇者といったところだ。
ダンジョンのこうした冒険者が住居を構えれることができる層に住んでいる魔物たちは、戦闘経験がないテルでも対処は出きるが、集団で生活してる習性を持ってるので、一匹でも倒したら、そこから離れること、それが大事なことになる。
「よく見えるな」
「噛みつこうとすると、口を開けてくるから、そこを切ってる」
動体視力がいいようだ。
「それにあいつらはわかりやすい、気配を隠すことはないもの」
「そういえばたまに地元の魔獣の方が強いとかいってたな」
魔獣、地上に生息する、獣より強くて狂暴。
魔物、ダンジョン内でしか見ることができない歪んだ命。
「地元のやつらは人を襲うやついるんだけど、人を襲うために気配を消すことを覚えているんだよね」
剣の鞘を使って、水路の脇にたまったわずかな砂地の上で、その魔獣の姿を描いた。
「それは熊だ!」
ガオー
「首の下に月の模様があるから、ゲッコウって呼ばれてる」
「ツキノワグマ!」
「地元はそういうのが毎日出る以外は住みやすいところだよ」
「えっ、毎日出るの?」
むしろ一日朝昼晩食事にきます。
「テル、水のみ場」
「あっ、そうだな」
テルが飲み水をくんでいる間に、ユキは辺りを見渡している。
「よーし、汲み終わった」
「じゃあ、行こう」
「水場ももっと近いといいんだがな」
「腕に自信があってもそれはおすすめしないよ」
ダンジョンにいる冒険者はもちろん、魔物も水を求めるからだ。
「前にそこを独占しようとした冒険者の話があるけど、夜間に魔物に襲われてしまったし」
キョロキョロ
ユキがいきなり辺りを気にし始めた。
「なんかやばい気がする」
「お前のそういうのは信じるよ」
そういって足を早めると、後ろの方から生臭い臭いがしてきた。
「あそこでもたもたしていたら危なかったんだな」
「そうみたいだね、さすがになんかおかしいなはわかるけど、そこを確認するまでいいことか、悪いことかまではわからないんだよ」
「でもわからないよりはいいって」
ユキとテルはキャンプ地まで帰ってきた。
「おかえりなさい」
派閥に負けた魔法使いアイラと寡黙すぎるビーストマスターのビュークが待っていた。
「水はきっちりと汲んできたぞ」
そう容器を高々とあげると。
「テルさんそれはなんです?」
そしてすぐにビュークの魔獣がクンクンと匂いをかぎにくる。
容器の底に何かがくっついてる。
「なんだ?宝石?」
「見せてください、あっ、これは装飾の一部ですね、紋章だと思いますが、私はあまり紋章には詳しくないんですよね」
こういう紋章は紋章図鑑で確認するのが一般的である。
「その赤い石だと、うちの国から産出されたもので、紋章にするならアイラの国のものだろうな」
「ビューク、あなたが喋ると、なんだかこちらの方が緊張してしまいますね」
四人は、紋章『連帯の赤』を手にいれた。