ご主人様の使い魔たち
「まずは今住んでるメンツを紹介かな?」
私を抱えたままご主人様(たぶん変態)は廊下を歩く。
「そろそろ下ろしてもらえませんか?」
「まだ魂を入れたてだから、明日まであまり自分で動かない方がいいよ」
この状態を人に見られるのは恥ずかしいけど、そう言われるとガマンしようという気持ちになる。
わかりやすく球体関節人形と表現しているが、うっすらと薄皮のようなモノで身体が包まれていて、特に関節部分はカニやカブトムシに近い。
どちらかといえば近いだけど。
指先を動かせばなんとなく接着剤がまだ乾いていないような違和感を感じるのも確かだ。
百歩譲って私はしょうがないが、ご主人様(やっぱ何かキモい)が推定70cmくらいのヒラヒラのワンピース着用の猫耳美少女ドールを抱えている姿は現世なら軽く通報モノだと思う。
「いつもはもう少し馴れた頃に紹介するんだけど、明日から3日ほど家に帰れないからゴメンね」
本当は休みだったのに今朝急に別の仕事で出張が入ったそうだ。
「儀式の日程をずらせればよかったけど本当に状態がギリギリだったから」
とりあえず魂さえ移してしまえばもう大丈夫って言われたけどなんか明日生きてるのかも不安になってきた。
それにしてもこの家は広い。
赤絨毯が敷いてあって城って感じだ。
「ハンナ。ドアを開けてくれないか?」
階段を登ったり歩いたりしてやがてドアの前で止まった。
「はいはい。新入りちゃんですね」
ドアを開けたのはちょっと恰幅のよいメイド服の女性だった。
ただし頭部が猫だ。
リアルな猫ではなくファンシーなぬいぐるみの猫。
「ハンナを作った頃はまだマナみたいな人形を作る技術がなかったからねー」
「ここでメイドをしているハンナです。今ではヤドル様の一番古い使い魔となってしまいました」
「よ、よろしくお願いします」
よく見れば体も布製だった。
内部に骨が入っているので人間と同じように動けると後で聞いた。
「あっご主人様が帰ってきたー」
「おかえりなさーい」
ハンナに続いてぽてぽてとカラフルなぬいぐるみたちが集まってきた。
「この子たちも使い魔なんですか?」
「便宜上はね」
ご主人様が使い魔にする魂は病気や事故で亡くなった幼い子供の魂が多い。
拾ってはぬいぐるみに詰めて好き放題遊ばせてから開放させるのが趣味なのだという。
数日から長くても半年で子供たちは満足して再び川に戻るらしい。
「それじゃあハンナさんはなんで使い魔になったんですか?」
「私は8人の子供を残して死んでしまって、せめて成長を見守れればと思い使い魔になりました。昔の話で子供たちはもうみんな寿命で亡くなってますが、ここの生活が楽しくてメイドを続けてるんです」
「なるほど」
「子供は一番長生きした子が100歳まで生きたんですよ」
子供が100歳って事は100年くらいは使い魔をやってるってことか。
そうなるとヤドルも20歳前後に見えるけ100歳以上ってこと?
ヤドルに年齢を聞いていいものか迷う。
「ぼくはエド。キミはなんて名前なの?」
「私はララ。一緒に遊ぼうよ」
「ぼくは…」
迷ってる間にぬいぐるみの子供たちの自己紹介が始まった。
「私はマナ。今日はまだ遊べないの」
「えー。残念」
ぬいぐるみの子供たちはしばらく質問をしてきたりしていたが、すぐに飽きて遊びの続きに戻った。
広い部屋にはあちこちに遊具があって子供たちが遊んでいる。
全員ぬいぐるみなのでかなりファンシーな光景だが、癒されるというよりはちょっと不気味だ。
例えばトイプードルはぬいぐるみみたいな犬であるから可愛いのであって、二足歩行で歩いてしゃべったら怖い。
やってる事はいい事だと思うけど、確かにこれだと確かにご主人様が「ただぬいぐるみと遊んでいる」ように見えなくもない。
偽善と感じる人もいるかもしれない。
私自身もそんなに子供はすきじゃないけどやってる事は立派だと思うので、ご主人様の評価は「良い人」に変わった。