使い魔の契約
「別に魂が消えかかっているのが悪い訳じゃないと思うけどなー」
命の川で魂が力尽きると存在そのものが消えてしまうらしい。
通常は何回も転生を繰り返し生命として完全に燃え尽きて小さな塊になり消えていくらしいが、私の場合は多少縮んではいたがまだ転生できそうな大きさの魂だったので思わず拾ってしまったのだという。
「でも次の使い魔は決闘用の予定でしたでしょ?」
「そのつもりだったけど川を見てたらなんとなく…」
「決闘?」
私って戦うために生まれてきちゃったの?
一瞬心配になったけれどヤドルにはそのつもりが無さそうだ。
「グレーテルはああ言ってるけど気にしないで。十分に回復したら放流してあげるから」
ヤドルは弱っている魂を拾っては自分好みの人形やぬいぐるみに宿し、頃合いをみてまた川に放流すのが趣味なのだと言う。
「呆れた話だわ」
通常使い魔はなるべく生命力があるものを使い、ある程度消耗したら放流する。
生命力自体は上限が決まっていて、戦闘力も鍛えれば必ず強くなるわけでは無いので育てる価値のある個体は本当に激レアで普通は使い捨てるらしい。
「慈善活動が好きなら修道院にでも入ればいいのよ」
「これは慈善では無い。趣味だ」
いい話のようにも聞こえるが気持ち悪い話にも聞こえる。
「修道院に入ったら好き勝手できないだろ。順位はギリギリを保てればいい」
星守にはランキングがあり、下位になると星守から外れるけれど、今回は順位戦が終わったばかりで、次の選抜までまだ100年あるので使い魔は急がないという。
「そうやって愛玩用ばかり増やすのだから」
他にも何か言いたそうなグレーテルだったがため息をつくと諦めて何も言わなくなった。
「予定は未定って言うしね。さて、マナは僕の使い魔になるかい?」
「…なります」
この流れだと使い魔にならなかったら私の存在自体が消え去ると考えられる。
あのまま目覚めなかったのなら問題はないが、一度起きてから断ったら死ぬ選択を選ぶなんてできない。
「それでは、契約のキスを」
一瞬唇にキスをされるかもと思ったけど、キスをされたのは額だった。
契約が終わると宝石にくっついていた手が外れた。
よっこいしょと少し勢いをつけて椅子から降りてみる。
椅子に座ってた時より目線が低くなった?
「よろしくね。マナ」
差し出された手を握ろうとして私がつかむことができたのは指1本だった。
小さい!?
テクテクとグレーテルの方にかけていき背の高さを比べればなんと彼女の腰より私の頭が下にある。
しかもぴこぴこと背を比べる手に慣れない何かが当たるのだ。
「何だろ?」
背を比べていた手で違和感の元を触る。
違和感の元をグレーテルも摘まんだ。
その時自分が認識した感覚は耳を捕まれたという感覚だった。
「これはお兄様の趣味で、この世界の普通では無いからね!」
グレーテルは耳を弄んだ後、ポーチから鏡を出してくれた。
「猫耳ー!」
私の耳は猫の耳になっていた。
耳だけではなく顔もおかしい。
目が大きいし鼻は小さいし…人の顔としては違和感がある。
思わず袖を捲ると肘が球体関節のように見えた。
つまり私は人形に生まれ変わってしまったのだ。
「別に人形は他の人だって作ってるし…」
「そんな美少女フィギュアみたいなのじゃないわよ」
「これはドールだ」
ヤドルがフィギュアとドールの違いを詳しく説明し始めた。
生まれ変わる前にもこういう人は見たことがある。
オタクだ。
しかもニート疑惑つきのオタクだ。
「えーっと…ご主人様?」
「ごめん。つい熱くなっちゃって…うん。今日から僕がキミのご主人様だよ」
名前は教えて貰ったがなんとなく線を引いて接したいタイプの人種なので心の呼び名もヤドルではなくご主人様でいいや。
「私は何をすればいいんですか?」
「当面は何もしなくていいよ」
「………?」
何ソレ意味ワカンナイ。