生まれ変わりました
疲れた。
もう動きたくない。
未開封の通販の段ボールが積まれたワンルームマンションで、私は帰宅して服も着替えずベッドで力尽きていた。
シャワーは明日朝にでも浴びればいい。
スマホで目覚まし程セットして眠りに落ちる。
晩ごはんは面倒で食べていない。
お腹も減らないのだ。
とりあえず朝エナジードリンクでも飲めばいいやとか、この季節なら布団を被らなくても大丈夫だろうとか思っている。
締め付けが気持ち悪くなってしんどく感じるのでブラはもうずっとスポブラだ。
最後の気力でパンストを脱ぎ捨てるとそこで意識が途切れた。
次の日目覚ましは鳴らなかった。
目が覚めるとまずスマホを探すが手を伸ばしても何もない。
ベッドから落としたのかも?
そういえば充電を忘れていた気がするけどまさか電池切れ?
電池が切れてるなら会社からの連絡も受け取れないよなー…正直もうどうでもいい…いや、ダメでしょ?
違う、これはまだ夢の中だ。
イスに座ってるっぽいし電車で寝過ごしたのかも?
ぼんやりした頭で目を覚ますとそこは知らない気色だった。
「なんであんな消えかけの光を選ぶわけ?バカじゃないの?」
最初に聞こえたのはヒステリックなちょっと高い声。
ベッドで寝ていたはずの私がいたのは立派な椅子の上だった。
肘置きの先端に埋め込まれた宝石を手のひらで包み込むようにした状態で座っているのだが何か体に違和感を感じる。
「だってもうあと一周も持たなさそうだったから、かわいそうだなーって…つい」
気弱そうで優しい声だ。
「だからお兄様は簡単に私にも負けるのです。順位を争うやる気が無いならさっさと修道院にでも入って下さりませんこと?」
結婚できる器量も無さそうですしと先程と同じヒステリックな声が言う。
「目覚めたかい?僕がキミのご主人様だよ」
くすんだ金の髪に瓶底眼鏡、髪は長く後ろに纏められていて…正直ダサい。
服もあまり手入れされておらず、隣にいる可愛い女の子ととても兄妹には見えない。
「はじめまして。僕はヤドル。こっちにいるのは従姉妹のグレーテルだよ」
「私はマナ。ここはどこ?」
とりあえず立ち上がろうと思ったが地面に足がつかない。
手も宝石から剥がれないので私は動けない状態のままヤドルに尋ねた。
「ここは星守の国にある使い魔の儀式小屋さ」
なんとなくファンタジーな国名が出てきた。
「お兄様のペースには本当にイライラする」
グレーテルが言うには、彼女らはこの国に住む星守で、ここは所謂あの世らしい。
死んだ人間の魂が命の川を流れ記憶の海に沈み星として空に放たれ、やがて新しい姿を見つけて次の場所へと旅立っていく。
星守はその魂を捕まえて自分の使い魔として働かせる事ができるのだ。
私はそんな使い魔に選ばれたと説明を受けた。
「しかも最低ランクの使い魔ですわ!」
ヤドルに比べてキラキラと宝石のように輝く金髪に澄んだ金色の瞳の整った容姿とお姫様らしいドレスを着たグレーテルにびしっと言われて結構傷付いた。
戦闘用の使い魔は星として放たれる寸前の物が良いらしい。
命の川を流れている魂はまだ記憶がたくさん残っているがギャンブル要素が強すぎるので、記憶が残っている使い魔を得る場合は川にたどり着く前にスカウトするそうだ。
つまり川で消えかけていた私には価値がないというワケである。