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第一章-願望-

チチチ、とどこか遠くで聴こえる小鳥のさえずりでいつも眼が覚める。

細く開けておいた半蔀(はじとみ)から入る光が、顔に零れてきていて実に眩しい。


ベッタリと汗ばむ肌に滲みるすきま風が、地味に涼しい。

汗で張り付いた前髪をかきあげて、一瞬『ぬるり』とした感触に驚き、反射的に手を見る。

……が、そこにはいつもと変わらない色彩の手があるだけだ。間違っても、今しがた視たような赫になど染まっているわけがない。


「……夢……」


今日は久々に夢見が悪かった。声に出して、ようやくそれが夢だったと、そう理解する。


ずうっと昔に起きた悪夢。夢だと思いたかったくらいの、残酷な現実。

あれから自分を取り巻く環境が様変わりしたが、今更後悔したところで何が変わるわけでもない。


いつもだったなら目覚めのこの瞬間だけはまだ夢の香に囚われたまま、布団に寝転がっていたいと願う。が、今日ばかりは夢のせいもあり朝日がやけに有り難かった。


溜息とともに寝ている間にこってしまった身体を伸ばして、起き上がり首を鳴らす。

身体を丸めて寝るのが癖になってしまっているせいか、どうも最近身体が凝っている気がしてならない。


寝癖なんかではなく、元々あちらこちらへ自己主張しながら跳ねる髪をうなじで適当に結び、纏める。

だらりと腰まで伸びた髪はそろそろ切らなくては邪魔かと思うが、意外と愛着が湧きなかなか切れない。どうしたものか、とまだ働かない頭で考えるそぶりをしてみるも、やはり今日も切らないことに決定してしまった。


一つでも、面倒なことは減らしたほうが後の仕事もおそらくはかどる。勿論、根拠なんてないけれど。

それに、纏めてしまえばある程度邪魔にもならないし、急がなくてもかまわないだろう。


そんなこんなで、無限のループが続いてしまうのだということは、彼の頭に把握などされていない。いや、本人にとってはされる必要もない。


まあいいか、と欠伸をかみ殺し、目を片手で擦りながら建てつけの悪い半蔀を開け放つ。

すると、埃っぽかった部屋に朝の静謐な光と風が我先にと駆け込んで来た。

光の眩しさに自然と目が細まり、思わず手をかざして目元を影の帳で一時的に眩んだ視界が光に慣れるまで覆う。


視界が回復すれば、なんてことはない。一日の支度を始める里の平和な風景を一望できる。


季節はもうすぐ冬という事もあり、最後の狩りへ向けて男たちが己の武器を丁寧に磨いている様子もちらほら見受けられた。


そうか、そういえばもうそんな時期だったかと今更気付く反面、道理で風が冷えてきたわけだと納得する。

詳しい日にちなど数える術を持たないから、見える景色と肌で感じる気候のみが今の自分に分かる暦だ。


もう冬ならば、保存のきく食料をもっと貯めておかなくては、今年こそ越冬出来ないかもしれない。なんせ昨年は『少々』失敗し、もう少しで動けなくなる程に食料が足らなくなってしまったから。


あれは繰り返す失敗の中では久々に大きな失敗だった。苦笑しながら此処からでは少々遠目に見える、いつもと変わらない風景を眺めやる。だがこの青年……蓮はその『日常』が何よりも好きだった。


遠目といっても距離で言ってしまえば、集落よりもゆうに五町(約五百メートル)は離れているだろうというところだがそれをもう、気にしたりなどしない。


「今日も不変の日常の始まり……か。 幸せな、ことだ」


唇を薄くさみしさの混じる笑みの形に変え、しばし眩そうに外を眺める。しかしそう長く見続けずにまぶたを伏せて黙祷。


今日の一日も、里にとって幸せな一日であるようにと願いをこめて。


それが彼の朝のささやかな日課。たとえそれが里の者達からは眉をひそめられる行為であっても、かれこれ五百年以上はこれを願い続けている。


長命種であるが故に、成長の遅さは在るが彼等も他の生物に等しくやがて老いて、朽ちていく。

その中で言えば少年から青年に変わるまでずっと継続しているものだから、やらないと逆に落ち着かないのだ。


やがて眼を開けば再び軽く身体を伸ばし、寝床である(むしろ)を畳む。

これもそろそろ小さくなってきたから変え時かと再び悩むが、やはりまだ寝れるしと貧乏性が出て新調までなかなか踏み出せない。

そのうち、九十九神でもひょっこり顔を出して来そうだ。


そんな事を考えながら茣蓙(ござ)をかけてあるだけの簡素な戸をくぐれば、全身に陽の恩恵が降り注ぐ。


まだ陽射しだけは強いままだし、昼は十分すぎる温かさを感受できそうか。

と、ふと土と緑、朝露の臭いに混じり場にそぐわぬ鉄錆の香に気付く。元を探して視線を落としてみると、いつものように足元が紅く染まっていた。

否、染まるという表現は適切ではない。正確に言えば赫い血で、でかでかと玄関口に文字が描かれているのだ。


『化け物』


『修羅持ちは里の汚点』


『出ていけ』


『同族殺し』



「…………」



ちくん、と胸に見えない棘が刺さる。いや、ずっと刺さり続けていたモノが僅かにその歩を進めただけだ。


この棘は、どうあっても抜けそうにない。抜こうとすら、考えた事もない。


「……それでも。生きる事が……贖罪になるのなら」


俺は、生きなければならない。


でないと、生きる意味が失くなってしまうから。幼い頃に訳も分からないまま下された決定だとしても、『あの場』で死罪にならなかったのならば。


『生きろ』。


それが、罰だというのならば。


間近に見えて、行こうと思えば同じ場所に立つことも暮らすことも出来るが、決して入ることすら許されない。そんな故郷との唯一の繋がりを、失くしたくないから。


だから蓮という存在は、ただそれだけの為にこうした日々を送っている。


しかし、「同族殺し」とはよく言ったもの。

あの時、蓮本人に意識こそなかったものの、自我を取り戻してから把握した状況や、その後の状況を一度きり聞いた話では死人なんて1人たりとも出ていなかったはずなのに。情報源は長からの正式な遣いであったから、間違っているなんて思いたくもない。

それなのに、一体いつ自分は見に覚えのない罪を犯したことになっているのだろう。


(……いや、今更そんなことを考えても仕方のないことか)


噂に尾ひれ。


あれからもう随分と時間が経っているし、今どのようにしてあの時のことが語り継がれているのか知る由もなければ知りたいとも思わないし興味さえない。


例え身に覚えのない罪が己に降りかかっていようと今の蓮には覆す手段すら無いと言うのに、そんなことを気にしているだけ無駄なこと。

全てを受け入れる。そうして諦めた結果が今の自分なのだから本当に、今更なことだ。


雑念を振り払うように頭を振り、早速目の前のおどろおどろしい文章を消しにかかる。まあ、消すといっても水を撒いて周囲の土と均してやればそれで完了だ。実に簡単な作業だし、水を撒くおかげで埃が舞わないように出来るから一石二鳥とも言えなくもない。


家のすぐ裏手には、樹齢何百年を超えるであろう大樹が立ち並ぶ深い森が広がっている。そのおかげで、よほど真冬でない限りいつだって森の恩恵は受けることができる。


飲み水は勿論、手水のための水だって森を流れる数多ある川から汲んでくればいくらでも手に入る。

距離で言えば里の端にある井戸の方が近いけれど、蓮にとってギリギリ入れる場所にあるそれを以前一度だけ使用したところ、その後一週間ばかり里の住人が井戸に近寄ることすらしなくなってしまった。そんな経緯があるから、生半可には里の暮らしを脅かすことはしたくないし使いになんて行けない。


多少の不便はあれど、里の住民のためになるのならば、自分ひとりが我慢すればいいことなんて実に簡単だった。


「さて。冬が近くなってきたなら、隙間風がなるべく入ってこないように修繕しないといけないな……。先日の強風で屋根の一部も持って行かれてしまったし……」


小さく気合を入れ直して見遣るのは、今出てきたばかりの『家』。

此処に住めと言われた時には既に崩れかけていたそれに、知識もないまま修繕に修繕を重ねた継ぎ接ぎだらけの不格好な廃屋という名の『自宅』。

蓮にとっては雨風も最低限は防げるし、たった一人となった後に共に歳月を過ごしてきた大切な宝物。


毎日風化していくものだから手が込んで仕方がないけれど手を込めれば込めるほど自分の住みやすく、より快適な環境に変わっていくのだから、それが毎日の楽しみと言っても過言は無かった。


取り敢えず優先すべきは雨漏り防止のための屋根修繕かと、拾い集めてきて少々加工しただけの木材を抱えて、地を蹴る。

その、軽いいち動作のみで軽々と屋根の上に着地。


屋根の高さは勿論、ひょろりと伸びた蓮の高めの身長よりは上の位置にある。

只人であれば本来なら梯子を使う高さでも、蓮の一族は生来に並外れた身体能力を持つおかげで苦労はしない。


ルーツといえば、かつて地に降り来たる鷹の神が『ある使命』と共に人間へ血を別け与え血族を成したのが始まりだとも聞かされている。何分幼い記憶の中のものだし、兄が勉強している横でうつらうつらしながら聞いたものだから曖昧なものでしかないが。


まあ、そんなこんなで鷹という血が混じっている蓮達は、翼を背に持ち、高い身体能力、顔を横断しているような痣などを持つことが共通としてある。因みに翼は消しておくことも可能だからかなり便利だ。

地面に立っているより高くなった視界。

地面で見上げるより、ほんの少しだけ近くなった蒼穹。


高く高く突き抜けるような蒼を見上げ、肌を撫でていく清風を全身で受ける。

と、見上げていた視界の端に里から高く飛び立っていく数人の姿がかすめた。


……朝の、森の見回りの時間だ。


遥か、悠か高く青に溶け込むその姿。

強く羽ばたくその音が聞こえてきそうなほどの力強い姿は、毎日見ていても飽きはしない。


次期当主と唱われている人物をはじめ、すでに補佐として動いているその弟二人が、それぞれに定められた方角へと、里の驚異の有無の確認や広大な森で迷ってしまった人物の保護に向かうのだ。


一度まっすぐにそのまま空へ飛び込んでしまうのではないかというほどに高く駆け上がった三人は、互いに目配せをし合って解散。

森には凶悪な魔物も多々いるというのに、何処にどんな不測の事態が潜んでいるかとも分からないというのに、その表情に曇りなど一切ない。


共に笑顔で、心底信頼し合った絆でもって兄弟を見送り、そして自らも翔けだす。


眩しくて、眩しくて仕方の無い……憧れの姿が、そこにあった。


しかし、ひとつだけ疑問に思うところがある。

見回りには里長も加わって計4人で行うのが普段見ている姿だ。3人の兄弟は別の方向へ向かい、長が蓮の頭上を翔けていく姿が常である筈なのに、今日はその長の姿が飛び上がった当初から見えていない。


なんの特別な区切りも無かった筈なのに、どうしたことだろうか。よもや、体調でも崩してしまったのか。それでも長が居ないこの方角の埋め合わせの人員が居ないという事もおかしい。


恐らく、これは蓮の勝手な憶測でしかないが、長がこの蓮の居る廃屋の上空を通っていくのは、蓮が生きていることや、きちんとこの場に留まっているかという事を確認するためのものではないのか。

そして、里に『修羅』が帰ろうと考えていないのかと、毎日監視しているためではないのかとも、考えたことがあるのだ。


たかが見回りとて、されど見回り。

ある意味重要とも言える場が虫食いのままではいけないのではないのか。


それとも、ついに蓮という存在の監視価値すらなくなったのか。


「……だめだな。どうにも考えが悲観的になる」


日常であったことが、日常にならなくなることが、一番怖い。

例え小さな変化でも、普遍を望むことは決して叶いはしない。


それでも、できるならばせめて。

何事も穏やかにと願うことは、罪にはならないだろうか。


ため息と共に小さくかぶりを振る。


鬱々と考え始めれば、際限がなく思考は堂々廻りを続けるだろう。

答えを得ることができない身としては、正答を知ることができない疑問ならば早めに思考を切り上げるのが得策だ。だって疲れるから。


視線を改めて里から空へとやればその大きさに自分の悩み事の小ささが実感……できる気があまりしないでもないが、取り敢えず小さいものだと無理矢理に納得させて、手元の作業にいい加減取り掛かる。


きちんとした工具があれば、あっという間に小さな穴を塞ぐ作業なんて終わるだろう。しかし、そう簡単なことではないのが難点だ。

金槌もなければ鋸もない。釘もなければ、鑢も何もかもがないのだから。


あるとすれば、森の中を探索中に見つけた遺骨に遺されていた大きめの小刀(本名で言うなればサバイバルナイフという物だが、生憎蓮はその名前を知らない)と、其処ら辺の蔦を編んで作った紐くらいか。

因みに、遺留品を借りる際はきちんと遺体を土の中に埋葬し、供養させていただいた後に深々と頭を下げて借りてきた。

きっと、これで後々に呪いやら祟やらというものは起きないだろう。……そう、信じたい。


それはまあ置いておいて、この断然足りていない、本来の用途に合っていない道具でどうやって大工をやるのかと聞かれれば実に簡単なことだ。


小刀でそこらへんで拾ってきた木を削り、穴の大きさに合わせてはめ込む。余分に上にはみ出してしまう部分を確認しながらできるだけ少し大きいくらいの大きさになるように完成させ、削りすぎてしまった部分や、木では塞げないごく小さな部分は編んだ蔦をはめることで隙間を回避。

大きな穴に至っては細い枝や芦を刈ってきたものを編み上げ簾のようにし、その上に長い葉や草を集めた草束を敷き詰めていく。


こうすることで、少しばかりは雨風を防ぐことができる立派な家になる。

本当ならば草束を藁束に出来れば水漏れをより良く防ぐことができるのだろうが、藁が手に入らない以上欲は言えない。


こうして毎回少しずつ歪になっていってしまうのはやはり、ご愛嬌というものだろう。

そして、そんなこの家が蓮は好きだ。だからこそひと仕事終われば、達成感もひとしおだ。


「……よし、こんなものか」


あらかた目に付いた、また何度か家の中に入って風の流れを確認しながら見つけた隙間やガタが来ていた部分は直し終えた。


気づけばもう日は中天をすぎるまで移動していたから、思ったよりも時間を使ってしまったかもしれない。途中、作業の片手間に干し肉と果物をかじった記憶は朧げにあるから、頭では理解していなくても体だけは正確に時間を刻んでいたらしい。


まあ、だから昼食は食べなくてもいいわけで、しかしここまで集中していたし、その集中も切れてしまったことだから小休憩でも取ろうか。


そう考えて、戸口へ向かおうとしたがふと珍しい風景が目に入り足が止まる。


真っ直ぐ此方へ向かって歩いてくる、二つの人影。

蓮……修羅の元へ来るには条件があり、里長がその理由を許可したものや何かしらの重要な報せでない限りは、この場へ堂々と人が訪れることはない。


取り敢えず今珍しいのは頻度という問題ではなく、人影の主こそが問題だった。


ビクビクと一歩一歩なんだか危うげに歩いている小太りの男性と、その隣で実に楽しそうに嬉しそうに、しかし近づく度に此方が圧倒される雰囲気を持った妙齢の男性。


小太りの男性は何度かこれまでも来たことがあるから、商家の主人ということは言われずとも分かる。やたらと嬉しそうな男性は、蓮が此処に住むようになってからは初めて訪れて来るだろう。


でも、だからこそ驚くし緊張して、普通の会話する音量で声の届く範囲に来て立ち止まった彼等に、どう反応していいか分からない。



「……久しいな。息災だったか、蓮」


「……!」


柔らかな微笑と共にかけられた言葉は、確かに自分の名を言っていたから蓮宛だったのだろう。でも、ひたすらにこの状況に着いてこれていない蓮は声を出すことを忘れてしまったかのように、小さく首を縦に振ることしかできなかった。


そんな蓮が可笑しかったのかなんなのか。蓮と目線のさして変わらない彼は優しく目を細めて微笑みを深くし、一つ納得したように頷く。


「こ、こら貴様! 長に聞かれているというのになんだその返事の仕方は! だからこんな化物は……!」


しかし、納得いかなかったのが怯えて背に隠れていた為姿の見えなかった男だ。

キンキンと高い声を震わせ、此方を怒鳴ってくるその対応こそがいつも蓮が慣れ親しんだもの。


しかし、やはりというか。改めて無意識に背筋が伸びる。


蓮の目の前で微笑んでいる人物。


彼は、この里の長。時には『英雄』とも呼ばれる武人、鷹牙 華月その人だった。


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時は遡って、見回りに行く準備を華月がしていた頃。


「昨日はなんか、こっちに変な気配持った奴がいたと思ったんだけどさ。迷い人かと思って探してみたんだけど結局見つからなかったんだよな」


「おや、兄さんもですか? 私も不思議な、しかも最初こそはフラフラと歩き回っている気配を感じて探しに行ったのですが、あったのは獣の死体だけで。死体にも、これといった妙な傷などはありませんでしたし、崖の下だったので落ちたのだろうとしか思わなかったのですが……」


「なに、大兄だいにい小兄ちぃにいも鈍った? やだね、これだから若年寄りは」


「なんだ。父より早く老いるのか? それじゃあまだまだお前たちに里最強の称号は譲れんなあ」


いつもと変わらない、雰囲気。

いつもと変わらない、息子たちとの会話。

いつもと変わらない、身体をほぐしながら交わす小さな警戒信号。


この里は深い深い森に囲まれ、自然豊かな森には多くの魔物や野生の凶暴な動物たちが生息する。それ故に外界からは魔窟の森と呼ばれ、里では大切な鎮守の森と呼ばれている。


魔物を倒そうと何人ものヒトが挑み、しかし途中で夢潰えることもしばしば。

時には里まで訪れることもあるが、背に翼を持つ民族など人間からは他と変わらぬ化物に見えるであろう。だから、攻撃を仕掛ける。


何の奇縁か、強運があるのか。

以前この森を抜け、里を見つけ、帰った人間が居たらしい。


その人間からは、森と共存している里人は森を統べる一族に見えたのかもしれない。


それからある日、武装した兵の大群を森に仕掛けられた。

しかし、彼らは森に入って数日で魔物たちに半数に数を減らされ、その上で鷹の里長との講話を行い、残兵だけは一人も減ることなく帰っていったという記録もある。


講話の条件は、この里にこれ以上関与しないこと。

森を荒らさないこと。


これを条件に帰っていった彼らだが、しかしそんな約束は守られたことなど決してない。

何度も刺客が放たれ、何度も森が彼らを阻み、里へ来て害をなすものは長が必ず撃退している。


それ故に、どんな些細なことでも注意が必要である。

恨まれている、畏れられている自覚があるから、森も、人も守る必要があるから見回りは欠かせない。

人間だけじゃない。

魔物や動物たちも、恐怖の対象である。

共存してはいるが、常に侵すか侵されないかの琴線を守っているに過ぎないのだから。


結局は生きるか死ぬか。

弱肉強食の世界の中に己達の暮らす場所を切り開き維持するためには、警戒は怠ってはいけないのである。


「……なあ、親父。今日もアイツの様子、教えてくれよ?」


一足先に準備が出来た長男坊、水城みずきが遠慮がちに聞いてくる。


「またあの子を狙おうとかいう馬鹿がいたら、シメに行きますから」


物騒なことをサラリと言いつつ黒い笑顔を浮かべるのは、次男の菖蒲あやめ


「まぁた二人はそんなアイツのことばっか。だから心配のしすぎで年寄りになってくんだってば。あ、もうすぐ冬になるから去年みたくならない支度をしてるか、見てきてね」


「「お前が言えることか、あかね」」


兄二人に呆れたような言葉を投げながら、結局同じことを言うのは三男の茜。


どの子も、三人揃っていい子に育ってくれたと思う。強く、優しい者に育てと教育をしてきたから当然だとも思うけれど、こうもしっかり理想通りに成長するなど誰が予想出来ただろう。


性格の差はあれど、こう立派に育ってくれたのならば父としては文句の一つもない。胸を張って自慢の息子だと自慢できよう。


「はははっ、言われずともあの子の安否を確かめるが役目は怠らぬさ。里の者たちには監視、と言っているものの……本来の目的は真逆とあったら、バレた時が恐ろしいな」


「それでも、何があったところで説き伏せて今度こそ取り戻す気満々なのは誰だか?」


自らの得物を背に負いながら思わず苦笑とも取れる笑顔をこぼせば、しかし長男からは呆れ顔とため息を貰ってしまった。


それでも、ここまで真っ直ぐに来てくれた事にも理由はあるわけで。

彼らにも残っている、大きな傷跡。


守れなかった悔しさと、見守るしかない悲しさと。

華月はその場には居なかったが、直接現場を見てしまっていた彼等には更に無力感とそこから来る自分への憤ろしさも、恐らくは含まれているのではないだろうか。


消えることの無い傷は彼らをある意味追い詰め、そして同じ目標へ向かって進む事への決意を生んだ。


『みんな幸せだった時間を取り戻す』こと。


外されてしまった歯車がなくても動くことは出来る時間に、残酷さと無情さを感じる月日は実に長く、思い返してみれば矢の如く過ぎてしまっていた。

変わっていない現実と、なかなか進まない問題解決への道は厳しくも、険しいからこそ彼等の志を纏めるには十分だったろう。


「さて、もうじきに時間になる。外に……」


「あなた、商家のわたりさんがいらっしゃってるわ。見回りの前だけれどってなんだか、どうしても急ぎの用事みたい」


嬉しさ少々、切なさ少々といった笑顔を浮かべかけ、しかし気を入れなおしてかけかけた言葉はひょこりと顔を出した妻によって遮られてしまう。

それにより気を悪くすることは無かったが、こんな朝早くの来訪者ということに驚いた。それも、毎日定期で行っているこの見回りの直前の時間に。


この時間と分かっていても来るということは、余程に大切な用事なのだろう。商家だけあり、見回りの後にするには彼の仕事とも被ってしまうだろうし、わざわざ来てもらっていたのに後で再度時間を割いてもらうのも申し訳ない。


「珍しいな。まあ至仕方無い、お前たち先に屋根で少し待っていてくれ」


悩むこと数秒。向こうも此方も互いに時間が勿体無い故にやや渋々判断し、しかし話の後に直ぐ出られるよう携帯した武器は置かずに歩きだす。


「あんまり遅くなるようでしたら、声をかけてください」


「時間分かってて来るあたり、あの人やっぱり嫌いだなぁ。声煩いし、何よりアイツの悪口ばっか言うし」


「こら、茜。それ思ってても言うなよ」


折角準備万端で今にも出る、という時に出鼻をくじかれると、どうにも締まらない。横目で子供たちが指定の場所に向かうのを確認し、締まりかけた空気が緩むのを感じながら妻について戸口へ向かう。


「ああ、長! 見回りの前だというのに申し訳ありません、少々取り急ぎの用事がありまして……!」


此方が廊下の陰から出てくるのが見えたのだろう。慌てていることもあってか、いつもの早口がいつも以上に早口になっている。

慣れているから聞き取るのは容易いが、勢いのままに声の高さも上がっているおかげでいつも以上に聞きづらい。


しかし、そんなことを思っていても仕方ない。宥めようとすればするほど時間がおして興奮してしまう可能性も考えられるだけに此方はできるだけ穏やかに、相手が落ち着けるように静かに返すのみだ。


「どうした、そんなに慌てて。そんなに大事な用があったのか?」


「何と申せば良いのでしょうか。『外』から届くはずの商品が定例の外商の際に届いておらず、今日最寄りの町に届くと伝書が届きまして。しかし、次回の外商はひと月後。それでは冬支度にも支障が出てしまう物品でして。

頼みたくもないですが、『あれ』を使いに出したいのです。その、それであの場へ行く許可を頂きに……」


「ふむ」


手もみし、丸く横に大きくなった体を屈め、さらに丸くなりながら話す様子は見ていて時折団子のようだと考えてしまう。馬鹿にしているわけではないが、この常に動いて然りの、森で暮らす鷹という種族でここまで丸くなれるのは、逆に称賛したいくらいだ。


かといって咎められるわけでもなく、運動が強要されている訳でもないので、彼のように家に篭って商品の管理や流通の手続き、金銭の支出入について朝から晩まで行わなければならないと致し方のないことなのか。


なんて、関係のないことを考えてしまうのは、真面目に彼の話を聞いていると、いつ自分にボロが出てしまうかわからないからだ。


彼が執拗に名前を呼びたがらない相手。本当は頼みたくもないし、かかわり合いになりたくない、ということを全身を持って示しているその存在こそが華月にとっては今も尚、大切な存在であるからだ。


しかし耳半分ではあるが聞く亙の話は見回りの時間の前に来てまで話さなければいけない内容、という程火急のものには感じられない。それなのに何故この時間を選んだのだろうか。


「その申請は、今でなくても良くはないか?」


「そ、それは、ですね」


素直に、率直に尋ねてみれば「ひぇ」と何とも情けない声とともに返事の切れが悪くなる。目も泳ぎ、どこか何かに脅えているような節も見当たる。


まさかとは思うが、と考えていれば小さく小さくぼそぼそと、だがどこか暗い空気を含ませた声が下から聞こえてきた。


「……あの、あの『化け物』の場所に行くには、覚悟が必要なんです。アイツは腹に何を抱えているか分かったもんじゃあ無い。穏やかな振りをして、いつ何時またあっし達に爪を向けるか……」


昏い、昏い目をしてどこか中空を見つめ、語り始めた口は止まらない。


一度開いてしまった蛇口の栓を閉めるのは難しく、いつの間にか顔の前まで持って来ていた手が震えだし、かと思えば驚くほどの勢いで華月の胸元に縋るように飛びつき、ぎらぎらと恐ろしく光る眼を見開き、華月の返事も反応も待たずに彼は語る。


「あっしは知っているんですよ、『あれ』がよくこの里を眺めていることを。じぃっと見つめて、見つめて、嗤っているとも睨んでいるとも取れるように目を細めて顔を背けている事を。


ああ、恐ろしい。きっとこの里を滅ぼすことを夢見て、その悦に浸ってやがるンだ。その手で、どう自分をあんな場所に追いやったあっし達をいたぶって、嬲って、醜く殺そうかと考えているに違いねぇ……!


あんな奴、あの時に殺しておけば良かったんだ。それか、あそこに流刑にされて幼く何もわからないままのたれ死んででいれば良かった。あんな、内に修羅を持つ奴なんて目の届かないどこか遠くへ、ふん縛って海にでもなんでも捨ててくれば……!!」


「亙」


黙って聞いていれば、何処まで発展するかわからない怨嗟の声。

名前だけ呼ぶにとどめなければ、それ以上を話そうとなれば此方が我慢できずに殴っていたかも知れない、暴言・妄言の数々。


「その口を、閉じろ」


それでも、あまりに聞くに堪えぬ発言に隣……今は亙の気迫におされて自分の背に隠れている妻は恐らくその内に燃え上がった怒りや言葉を必死に呑み込んでいるところだろう。

故に、鋭く名を呼んだ瞬間に息をのみ言葉を止めた胸元に縋ってくる男の腕を強く掴み、押し返す様に突き放す。


此処に息子たちが居なくて助かった。あの子たちが居たら、確実に我慢できなくなって掴みかかっていただろう。


知らず知らずの内に腕をつかむ力が強くなることも厭わず、己を落ち着かせるために小さく深呼吸。ため息のような息を吐き出せば、驚いて若干の恐怖でも目を白黒させている亙を見据え、静かに口を開く。


「あの時の決定は、私だけが下したものではない。里全体で話し合い、お前も納得したうえで下されたものだったであろう。それに、この里から出た修羅を外に放つことでどんな禍に至るか予測もできぬ、ということから目の届く範囲に監視するためにと、あの場に幽閉にしたことも忘れてはいまい。

あれのことをどう思おうが勝手だが、……今更決定に不満を言うか?」


「いっ、いえっ、滅相もない……!!」


華月の穏やかだが否とは言わせぬ雰囲気に圧され、混じってしまう殺気にも気付いたのかじりじりと後ずさりながら首がもげんばかりに横に振る亙。

真っ青に染まった顔面は、先ほどの狂気さえ見える怒りと恐れに塗りたくられた汚い感情を隠し実に滑稽に見える。


己が優位に立てる立場の者にはどこまでも不遜に、しかし己の頭があがらぬものにはとことん媚を売る。それも処世術の一種だろうが、それは華月にとってあまり好ましいものではなかった。


つん、と袖を引かれ妻に怯えさせ過ぎだと無言の注意を受け、ため息とともに言いたい様々な感情を押し殺す。ため息にすらビクリと怯える相手に視線を戻し、そこでふと、妙案を思い付く。


「まあ、お前が申請してくるのはいつも短くても前日であったか。ならば覚悟を決める時間が常より短いのは認めよう。で、ところでだが……一つ、提案がある」


にんまり、という様に表わしたらいいか。その時の華月の顔は、妻・花梨の話によればいたずらを思いついたような、とても嬉々とした表情だったという。


「要は一人であれに会いに行くのが怖いのだろう? 私はあの方角の担当でありあれの監視者だ。……故に、私も共に行こう!」


怒っていたかと思えば、突然そんな表情をする変わり身の早さに驚いたのか、言われた内容に驚いたのか。おそらくは両方ではあろうが、文字通り鳩が豆鉄砲を喰らった表情をしていた相手の口と、袖を掴んだままだった妻の口から驚愕の叫びがあがったのは、その直後であった。


-------------------------


結局、待機していた息子達にも狡いだの職権乱用だだのと文句を言われ、妻には盛大に拗ねられ、亙はあまりの出来事に考えを放棄していたし。


最終的に彼の覚悟が決まるのを待っていたら、昼過ぎになってしまったのは言うまでもない。いくらこの里の最強の守りが共に来ると言っても、また別の覚悟が居るだとかなんとか。


(別に取って喰いやしないことは、今まで何回も行っているので、おれ以上に知ってる筈なんだろうがなぁ)


逆に、今まで許可しか出すことが出来ず、会える理由もなく、更に無闇に会うことも近寄ることをも禁じられていた身としては羨ましい限りなのだが。


そこは、見解の違いとしか言い様が無いのかもしれない。


華月は蓮のことなど恐れる以前に友好関係を取り戻したい立場である身に対し、亙は畏れ怯え嫌悪の対象としてしか見ていない。

視点が違えば、感じるものが違ってくる。それを知っていて尚、やはり複雑には感じてしまうのだ。


だって、ほら。


「……久しいな。息災だったか、蓮」


「……!」


此方に気付いたときから、彼の動きは固まっていた。信じられないようなものを見る目で此方を凝視し、硬直している姿に思わず頬が緩む。


そしてただ声をかけただけで、緊張しているのか返事をしようとして口は開けど声が伴わず、それでも必死に小さな頷きを繰り返してくれるのは見ているだけで微笑ましい。

そして、なんだかとても……とても、懐かしかった。


別れた時に、まだ背の高い華月の腰ばかりだった身長は、今では然程変わらぬ目線になっているから、よくも無事に此処まで大きくなってくれたものだと感慨にふけってしまう。

しかし、欲を言うならば、少々痩せすぎか。ひょろりと伸びた身長に対し、服の上からでも分かるくらいに身体の細さが分かってしまうから、なんとも忍びない気分にもなる。


ああ、なんだか旨いものを腹一杯食べさせてやりたい。


そんな、嬉しいような切ないような気持ちに満たされ、さてどんな話を続けようと考えていた刹那、背後から不意に悪意に満ちた声が響き、いっぺんに余韻が掻き消されてしまった。


そうだ、そういえば居たんだった。

思わず渋くなりかける表情に渇を入れ変わらないよう努力しつつ、今はただ亙の守護に来たのだったと目的を思い出す。

歯痒い事だが、下手なことを言っても後が困るし、大人しく一歩引いて彼等が話しやすいよう垣根を無くしてやった。


途端に「ひっ!?」と何故か身を竦ませている辺り、彼は蓮という人物を何処まで恐れているのか分りやすい。


さぞ、蓮も心労が大きい事だろう。

ため息を堪えて下げていた目線を上げるが、しかしその視線は相手とは交わらず、ふわりと長い髪が揺れ垂れ下がるのを見ただけだった。


「……申し訳ありません。まさか、里長様が此処にいらっしゃるとは露程も思っていなかった故、この身下践の身為れば、どの様な対応をして良いのか計りかねました。ご無礼を、お許しください」


深々と、一礼。

いや、礼だけではない。目の前の彼はその場に跪いて、さらに長い髪が地に着くことも厭わず、その頭を深く垂れていた。


「……!?」


「そうだ、お前なぞ言葉をかけていただけるだけ余るものがあるってぇのに、まして同じ目線で、あっしに関しては見下ろすとはどう言うことだ! 身の程を弁えろと何度言ったら分かるんだ、この屑めが!」


脅威である蓮が従順な態度を、しかも片膝を地面に付き、己の首を見せる姿勢を取ったので勢いが出せるようになったのか。亙は此方の衝撃に気付かぬままにまくし立てる。


お前の場合は大抵の男子に見下ろされそうな身長だろうと、突っ込む余裕も生まれないくらいに驚き、そこまでが一連の動作か何かのように蓮の頭が殴られるのを見ていた。


しかしそれに憤慨する様子もなく、かえって落ち込むでもなく、穏やかに「申し訳ありません」と繰り返す蓮にも、重ねて驚くしかない。


「全くお前ときたらいつもふてぶてしく、生きていて恥ずかしくないのか! 一族の血を引いてはいるから体裁面で殺さなかっただけで、自害しろと暗に言っ――」


「亙。それは違う。断じて、違う。


……嘘を誠と偽るな」


なんだこれは。

なんなんだ、これは。


止めなければいつまで続くかわからない言葉に、相手の声に割り込む形で口を挟む。


とてもではないが、聴いていられない。こんなことが、普通に行われていたなんて気付きもしなかった。

知る由もなかった。


……知ろうとして、いなかった。


その事が、自分がどれだけ視野が狭かったのかと、己が憤ろしくてたまらない。


声をかけた事で此方の存在を思い出したのか、亙は一瞬息を飲みびくりと肩を揺らす。

そう簡単に忘れてもらっては困るが、何分普段は共にここに来る事など無い存在。それに、亙の警戒すべき対象に意識が持っていかれていたと考えると、安全である華月は簡単に視界の外にやられてしまうのだろうか。


信頼されていたとしても、こんなものを見せられるのであれば、それは何も嬉しくはない。誰が喜び好んで自己からすれば好意を向ける対象への誹謗中傷、暴力を見たいと思うものか。


一旦は身を固くし、思い出したように此方を振り返っていた亙だったが、ひとつ気まずさを振り払うかごとく咳払いをして蓮に振り返る。言葉の暴力こそはおさまりはしたが、その視線だけはどこまでいっても蓮への敵意、嫌悪を隠す様子は微塵も感じられない。


そして華月が口を開いた際に一瞬だけ。ほんの僅かに肩を揺らした蓮は口を開くことも、顔を上げることもしようとすることはなかった。

悪意の視線はその項にひしひしと感じているだろうに、それから逃れるためか、はたまた堪える為なのか。どちらにせよ、彼は今までの長い経験の中で「そう」していることが最良なのだと学んでいるとしたら、なんて、なんて辛く苦しい中で育たねばならなかったのかと、そうさせてしまった自分の不甲斐なさにも腹が立ってくる。


「……まあ、貴様は長の厚意にまずは感謝をするこったな。あっしがここに来た訳は言うまでもねえし、分かり切ったことだから言うのは省く。これでわかんねぇなどと抜かしたらその頭はポンコツでしかねぇだろうよ」


気を取り直したのか、やっと口を開いても、それでも実際の暴力にできない分含まれる棘はあからさまに多い。しかし、華月がいることを思い出した途端に意識して言葉を選んでいる節が見え隠れしている分、まだましなほうなのかも知れないのは、薄々わかった。


しかし、此方としても下手に蓮を庇い過ぎても今まで被ってきた里長としての仮面の意味がなくなってしまうことがあるため、もう下手に口出しをできる立場ではない。

どんなに心の奥底で訴えたい思いがあっても、叫びたい衝動に駆られていても、己へのものなのか、周囲へのものなのかもわからぬほどに燃え上がった憤怒に身を焦がされていても、今はただ、耐えるしかないのだ。


(そうしなければ、おれがここで先走り下手をこいた瞬間。そのときに蓮は今度こそ、悪意ある連中から消されてしまうやもしれぬ。それだけは。それだけは、絶対に未然に防がねばならぬのだ)


ああ、口惜しい。

袖の下できつく握りしめた拳。僅かばかり伸びていた爪が皮膚に食い込む感覚と、僅かな痛みに気を紛らわせ、己のどこへともやれぬ感情を押し殺す。


今は、亙にまた存在を忘れられてもいい。いくら此方が辛くとも、気配を消し遠くで見ているだけ、見守っているだけでは分からなかった里人と彼の本当の関係を目をそらさずに見つめなければならない。


これは、今後の対策のために自分が直視しなくてはならない壁の一つなのだ。課題の一つなのだ。


これを乗り越えるには、双方を納得させた上での結論を叩き出さなくては意味が無い。だから、里人の考えも当たり前だが、合える回数の圧倒的に少ない彼の考えもまたきちんと小さな動作一つ一つから見極めなければならない。


(ああ、蓮よ)


今はまだ、お前の味方になりきれぬこの自分を、どうか許してほしい。


(一刻も早く、お前を此方側に連れ戻したいよ)




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