柴又君篇
BLの一歩手前を目指してるので、苦手な方は辞めたほうがいいかもです。
ふぅ。俺様も、ようやく卒業単位が採れたぜい……。
長かった、嫌ほんとーに。だって、三年掛かってんだから。
「おーい、柴又。ようやく卒業だって?」
柴又っていうのは、俺様の名前だ。あっちから馬鹿みたいな声を出しながら、両手をブンブン振り回して近寄ってくるヤツは多賀野。
多賀野は、悔しいことに大学院まで進んでいる。
いつも単位試験の直前に限って、麻雀に誘うこの悪魔!
「今回ばかりは、お前の負けだな。多賀野。いくら邪魔しようったって、三年目にはもう試験の妨害対策してんだよ!」
多賀野は、俺の頭をグリグリ撫で回しながら(やめろ!!)、にこやかに微笑んでいる。
「やだなー、柴又ってば。被害妄想じゃない?」
「……っ!被害妄想だと!お前、被害妄想って言葉知ってて使ってんのか!?試験直前に限って麻雀に駆り出されるわ、違う会場に連れてかれるわ、俺の財布パクるは!財布には、学生証が入ってんの知っててしただろ!」
そうなのだ。多賀野のヤツは、試験直前になるやいなや、それまでは全く出向かないクセして後輩の院生の麻雀部屋に入り浸り、試験が終わるその日まで何だかんだで俺様を連れ回すんだ。
俺様は、逃げようとしたぞ!ただ、ちょっと身長が多賀野より低くて(俺様は172cmだ……)、体重も軽いがためになかなか力づくで逃げ出すことが出来ないんだ!
当日になったらなったで、連日の睡眠不足からくる意識朦朧な俺様を「こっちが試験会場だってー」と、嘘っぱちの教室に連れ込み「頑張るんだよ!応援してる」って言葉とともに置き去りにして走り去っていくし!(……俺様は、方向音痴だからな)
去年なんか、財布をパクられて学生証の再発行して貰ってる間に遅刻で立ち入り禁止にされたし。(あのクソ事務員め!なにが再発行用紙がないだ!!)
……そりゃあ、俺様も最初の年は偶然だって信じたさ。何だかんだで、ヤツは親友だからな。
でも、人間として間違ってるだろ!年間いくら払ってると思ってんだ!
俺様が、息を切らしていると、
「はい、お茶」
と、ナイスタイミングでペットボトルのお茶を渡された。
「ん」
ゴクゴクゴクゴク……。
「でも、妨害対策って具体的に何したのか知りたいなぁ」
ヤツは、院まで行ってるだけあって知りたがりやなんだ。
そこで、俺様はペットボトルを口から離して言ってやった。
「……ぷは。ようやく認める気になったか?」
「なにが?」
まだしらを切る気か?
「お前がして来た数々の妨害工作」
多賀野の目はまだ細っこいまんまだ。俺様はご立腹なんだからな。ここらで認めて、とっとと謝れ。
「んー、僕にはそんな意図は無かったんだけど。さっきの話を聞いてると、結果的にそうだったかもしれないね。ごめんね」
ヤツは、考えた後にちょっと悪かったなって顔をした。
そして、頭を下げて謝った。
まぁ、頭を下げて謝った以上は俺様も男だ。許してやろう。
「ん。許してやるよ」
この一言は、案外すんなり出てきた。やっぱり、多賀野とは親友だからな。
しかし、当の多賀野はこっちがビビるくらい瞬時に、今さっきまでの『ちょっと悪かったなの顔』をポイッと捨てて、また目を細っこくさせて聞いてきた。
「んで、どうゆう対策したの?」
さっきの顔は嘘か?
ってか、あくまでもそこに拘るんだな。
でもまぁ、もう卒業だって出来るし。……教えたところで支障は無いだろう。うん。来年は無いんだしな!
「まぁ、お前も謝ったからな」
ヤツの細っこい目の奥が笑って無い気がして、ちょっとビビるが。
「実は、教授に頼んどいたんだ。当日じゃなくて、一月前にして下さいって。そしたら、口答試問だよって言うからさ。ほら、一月前ぐらいにお前がちょっとバタバタしてた時期があっただろ?あの時、俺の試験日が重なっててさ。寮の部屋が一緒だからどうしようかとも思ってたんだけど、なんとか上手くいけて良かったよな。……そういや、あのゴタゴタって何だったんだ?」
俺様は、だんだんと多賀野の目だけじゃなくて雰囲気もヤバくなってくようで、話を変え、かつ俺様も気になる事を聞いてみた。
「あー、あれね。あれは、単に院の試験があっただけ。……っていうか、佐々木教授だったんだね。ふうん」
多賀野は、一応まだ目を細っこくさせてはいたが、いつもより一段低い声だった。
お、怒ってんのか?何でだ??
ハッ、そういえばコイツには変な噂があった。
多賀野は、身長190cmあってモデルみたいな体型をしてる。顔は、この頃流行りの女の子受けしそうな甘い感じだ。その上、なにがあっても笑顔を絶さない(なんか、アイドルみたいだな……)
まぁ、そんな多賀野はやっぱり女の子に人気で男にやっかみを受けやすかった。
確か……、去年辺りに多賀野にちょっかいを掛けたヤツがいて、俺様にまで余波がきたんで撃退した事があったんだ。
そしたらソイツには、それから小さな不幸が積み重なって失意の内に大学を去って行ったって話だったんだが、その小さな不幸は多賀野がもたらしたとかなんとか……(もしや、本当に悪魔と契約してるとかの訳ないよな……)
ハッ!ってことは、教授が危ない!?
「お、おい多賀野。まさかとは思うが、教授に何かするつもりじゃないよな?」
一応確認が大切です。
「何言ってるのかなー、柴又ってば。僕に何が出来るって言うのさ」
いやいやいや、お前ならなんとかしちゃいそうだぞ。っていうか、その笑顔をやめろ。
「……、そうだよな。何もしないよな?」
そうだ、子羊な俺様は信じたいことだけ信じるんだ。ってか、信じたいんだ!信じさせろ!!
「そうだよ。一介の院生にどうこう出来るはずないでしょ。……、もうお昼食べた?」
俺様は、子羊なんだー!!
「いや、今から。食いに行くか?」
「そうだね、今日は鰤大根があるって。柴又、好きだったよね」
大好きだ。
「ん。まあな」
なんだかんだ言いつつ、もう今年でこの学校を卒業かと思うと侘しいものだ。隣りで歩くコイツとも、離れるんだなーとか感慨に耽ってみたり。
あ゛ー!!俺様らしくない。
ともかく、そんなことは鰤大根を食ってからまた考えてみたらいいんだ。よし。食うぞ。
「柴又ー?」
いつの間にか、足が止まっていたらしく多賀野と距離があいていた。
「今行く」
俺様は一歩踏み出した。
『貴方の隣りに立つ人物は、どんな存在ですか?』
ヤツが、道端で雑誌の写真を撮られていた時に何故か俺様にまでインタビューしてきた時の質問だ。
その時の俺様の答えは、『知り合い』だったが(ヤツは悲壮な顔をしていた)今また同じ質問をされたら、こう言うだろう。
『敢えて言うなら、……やっぱ知り合い』
誰がそんなこっぱずかしい事が言えるもんか。どうしてもって言うなら、ヤツが隣りで寝てる時だけ部屋の隅っこでちっちゃく言ってやるんだ。
『親友』って。
……あ゛ー!痒いー!!
一回この作品を削除してしまって、ご迷惑をお掛けしました。連載にしたかったので、こうさせていただきました。これからも、宜しくお願いします。