アカイキミ
あの日の私は いつになく輝いていて
お気に入りの靴を履き
新しい服を着て
出掛けた
君の所へ
世界が光で満ちていた
綺麗に澄んだ青い空
爽やかな風
道端には咲き誇るたんぽぽ
そして隣には君がいる
隣に君がいる幸せ
それは止まることなく
歩み続ける
想い 想われ
永久だと思い込んでいた
思いたかった
永久なんて 有り得ない
その時そこに在ったものもあの時在った人も
いつかは朽ちるんだ
暗く重く曇った空
風わ ない
道端には踏み潰されたたんぽぽ
隣には君がいる
なのに…
『どうして赤いの?』
『どうして冷たいの?』
『どうして動かないの?』
『どうして手を握ってくれないの?』
『どうしてキスをしてくれないの?』
『どうして私を見てくれないの?』
返事はない
嫌だ
嫌だよ
汚い
汚い 汚い 汚い 汚い
赤が目に焼き付く
冷たい手の感触が残る
天からの水が
赤を流す
風邪ひくよ?
私は動かない君の上に青い水玉の折り畳み傘を差す
私が君にもらった傘
『ずっと使ってるよ』
『君に使ってあげるのは初めてだね』
『この傘お気に入りなんだ』
『ねえ』
『聞いてる?』
声が震える
君の目が謝った気がした
『いいよ』
って笑おうと思ったけど
うまく声が出せない
景色が霞む
なのに赤だけは鮮明で
世界に光が見えない
見えるのは 闇の中の君だけ