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緒方家的日常その1

緒方菫19歳。大学では人間行動学やってます。

 長男・緒方菫(すみれ)の朝は、目覚まし時計に吹き込まれた父親の不愉快な声から始まる。

 

「菫、起きなさい。おまえ……まだ彼女出来ないのか……」

 

 バン!!!

 乱暴に目覚まし音を止める。

「余計なお世話だ、くそ親父……」

 仕事で各国を飛び回る父親は、たまに帰ってきたかと思ったら、こっそり息子の時計に特製メッセージを吹き込んでいた。 

 毎朝父親の小言で起こされる長男は寝坊だけはしなかったが、胸糞の悪さで一日が始まるのにはどうも釈然としないのだった。

 

 

 

「あ、れ……?」

 眠い目をこすりながらダイニングに降りてきた菫は、片付けられていく食器を目にして狼狽(うろた)えた。

 

「み、(みどり)っ!俺の朝飯は?」

「何言ってんの、すーちゃん。夏休みは各自で用意するって言ったじゃない」

 パジャマ代わりのスポーツウェアに身を包んだ長女の翠が淡々と応えた。

 時計を見ればまだ八時過ぎなのだが、どうやら他の兄弟は平素の生活リズムを崩すことなく朝食を済ませてしまったらしい。

「味噌汁ならお鍋の中だから」

 妹の慰みの言葉も、今は鍋の中に湛えられた液体ばりに冷たい。

 

「それより(あかね)は?」

 幾分トーンダウンした声で尋ねる。

 五歳年下の溺愛する弟と摂る食事が菫の楽しみの一つだった。

 彼と同じ食卓に着けなかったことを悔やみつつ、昼食こそはと淡い期待を寄せる。

 

「図書館に行くって今用意してるけど」

「そうか……じゃ、俺も……」

 納得して(きびす)を返そうとした菫の襟首を翠が掴んだ。

「ぐぇっ!」

 なんとも情けない悲鳴が響く。

「なんで、すーちゃんが付いて行くのよ」

「可愛い茜を一人で外にやるなんて出来ないだろ!」

「……」

 翠が兄のブラコンっぷりに呆然としていると、

「そんなに暇してるならバイトでもすれば?」

 次女の蜜柑(みかん)がひょっこり顔を出した。

「おっ、みーちゃん、いいこと言うねぇ。そうしなよ、すーちゃん。ティッシュ配りとかさ、女ウケする顔なんだからバンバン稼げるよ」

 緒方家の姉妹は、この問題児をせめて昼間だけでも家から締め出せるチャンスとばかりに菫を推す。

 ところが、その提案は一般に理解し難い事由で一蹴された。

 

「それは無理だ。悪魔崇拝者には長時間の照射は耐えられない」

 

 実は、菫の一見優男風の容姿からは想像し難いが、彼は大学ではオカルト研究会に所属している。

 そして、そんな彼の部屋には黒魔術セットが鎮座していたりするのだ。 

 

「菫ちゃん、まだそんな悪趣味なことしてんの?!いい加減目醒ましなよ!私、家族から犯罪者出るの嫌だからね!」

「こらっ、蜜柑!おまえはまだこの神秘的な魅力というものが解ってないから……」

 とうとう、長男と次女の互いの威信を懸けたバトルが始まった。が、それはすぐに鎮静される。

 

「話の論点ずれてません?」

 割って入ったのは次男の茜だった。

 すでに出掛ける準備の整った様子で、兄へ視線を向ける。    

「僕は兄さんのバイトの件には賛成ですよ。顔だけは褒められたものですしね」

 どこから聞いていたのか、茜も菫がティッシュを配ることを勧めてきた。

 にっこりと微笑むそんな弟に兄は言葉を詰まらせる。

 後半にさらりとどぎつい台詞が吐かれたことにはもちろん気付いていない。

 

「うん!お兄ちゃん、おまえのために稼ぐからな!」

 

「……そこは“おまえら”に変換すべきだと思うけど」

 そんな妹の指摘を聞き流して、菫は電話を掛けるために自室目指して階段を駆け上がった。

 

 

 おそるべし、次男の鶴の一声。

初連載です。

紹介的内容なのでまだまだキャラを出しきれてませんが、徐々に動き出すでしょう。

そして出番を待ち構えている人はまだまだいます。そちらもお楽しみに。

これからも四兄弟をどうぞよろしくね。ぺこり。

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