バカップルの睦言
「私のこと好き?」
ちゃんと私のこと見てる?
俺の彼女はときたま妙なことを言う。
不安気な顔で俺の膝の上に座る可愛い可愛い俺の彼女。
彼女の柔らかな尻の感触に内心にやつきながらも、真面目な顔で宣言する。
「好きだよ。めっちゃ好き。超好き、愛してる」
「……ほんとぅ?」
可愛い唇を尖らせて、彼女はまだ文句を言うけど、内心は満足しているんだなと思う。
俺と彼女が彼氏彼女の関係になったのは二ヶ月ぐらい前だ。
隣りのクラスの子で、明るくてお洒落で、可愛いなって思ってた。
まさか付き合うことになるなんて思わなかったから、彼女から告白されたときは本当に嬉しくて、家族にまで自慢した。
あの時の妹のビックリした顔は今も思い出すたびに笑える。
目の前でゲラゲラ笑ったら、物凄いぶ厚い広辞苑をぶん投げられたけど。
俺は相当舞い上がっていて、相当うざかったらしい。
でもそれはしょうがないなーって思うんだ。
だって初めての彼女がこんなに可愛いんだぜ?
女の子らしくてスタイルもいい。
クラスの男子にも自慢できる。
料理上手で毎日弁当を作ってくれる家庭的なところもポイントが高い。
……何よりも見かけによらずエロいとことか。
超可愛い。
だから俺はほぼ毎日彼女と帰る。
彼女を家に送って、ついでにお部屋にお邪魔する。
そのあとは、二人で色々愛を育んで……そのままお泊りなんてのも珍しくない。
彼女の親が共働きで、あまり家に帰って来ないから朝までラブラブすることができる。
恋人と迎える朝って最高だなーって妹に言ったらまた広辞苑が飛んできたけど。
だから、まぁ、とにかく俺は彼女にメロメロなの。
心も身体も。
毎日抱いても全然飽きないぐらい。
でもこんだけ愛しても、彼女はときたま妙なことを言う。
「……私のこと、本当に好き?」
ほら、また。
「……好きだよ」
「嘘。今ちょっと間が空いた」
……だってしょうがないじゃん。
寝起き一発目にそんなこと言わたら誰でも反応が遅れるって。
裸のまま絡みあって、そのまま朝を迎えるのも、ほとんど習慣になって来た。
腕の中にいる裸の彼女は、それはそれは可愛くて。
でも、せっかくの可愛い顔も強張っていたら、彼氏の俺としてはあまりいい気持ちがしない。
朝は低血圧だから、いくら彼女が大好きな俺でも多少はイライラする。
「……ねぇ、どうなの?私のこと、本当に好きなの?一番じゃないの?」
「好きだよ……じゃあ、俺も聞くけどさ、なんでいっつもそんなこと聞くんだよ。俺のこと信用できないの?」
珍しく、むしろ初めて見せる俺の苛立った顔に彼女は少し震えた。
泣き出すんじゃないかと一瞬不安になったけど、泣いたら泣いたでそのままヤれば誤魔化せるだろう……って結構酷いことを考えた。
好きな子ほど苛めたくなるのかな?
「……だって、だって…………」
「だって?何、続き言えって」
泣くかなと思っていた彼女は案外逞しく、怯えた顔のまま俺に言った。
「……不安になるの」
「……何が?」
俺超愛してるよ?
「でも、私より大事な子が……いるんでしょ?」
……女の子ってめんどくさいなーってその時は心底思った。
なんでそんな誤解をしちゃうのかなー
どうやら俺の彼女は俺の幼馴染みに嫉妬していたらしい。
馬鹿だなーって呆れたし、思わず笑った。
思わず笑ったら彼女は怒ったけど、無理やりキスしちゃえばコロっと流された。
……うん。
女の子はめんどくさいけど、やっぱり単純なのかもしれない。
「馬鹿だなーそんなんじゃないって」
「……嘘」
「嘘じゃないよ。俺とあいつはただの幼馴染み」
それ以下でもそれ以上でもない、って言うの?
とにかく彼女が嫉妬する必要はまったくない。
「……でも、大切なんでしょ?」
「うーん……そりゃあ、だって幼馴染みだし……」
そう。
大事な幼馴染み。
でも付き合いたいとか、キスをしたいとか、思ったことはない。
むしろ想像尽かない。
幼馴染みを女として見たことは一回もないし。
だってガキの頃からずっと一緒にいたんだぜ?
言ったらまた怒りそうだから彼女には言わないけど、小五まで一緒に風呂に入ってたぐらい仲が良かったというか、もう家族みたいなもん。
妹も俺よりも断然幼馴染みに懐いているし。
女同士だから本物の姉妹みたいに仲がいい。
「ほら!やっぱり!」
大切だって否定しなかったからか、彼女はまた怒り出した。
俺はもう何を言ってもしょうがないなーって思ってそのまま彼女の口を塞いで黙らせた。
どこを触れば感じるのかなんて、目を瞑ってでも分かる。
いつもの要領で、でもいつもよりちょっと強引にすれば、彼女の口からは文句の代わりに期待に満ちた甘い声が漏れる。
馬鹿だな。
どんなに大事な幼馴染みでも、女として見れないんだから。
心配することなんて、何一つない。
こうやって裸になって、お互いの恥ずかしいとこを見せ合って、触り合って、大好きだって言うのは彼女だけなのに。
本当に馬鹿。
ただの幼馴染み。
それ以下でもそれ以上でもない、ただの……
……いや、彼女には申し訳ないけど「ただ」ではないな。
あいつは俺の姉ちゃんみたいなもん。
家族よりもずっと長く一緒にいたかもしれない存在。
だから、「ただの幼馴染み」じゃなくてかなり大事な、大切な幼馴染みだ。
彼女の腕を掴んで引き寄せる。
唇を貪って、胸を触って、ついでに尻も鷲掴む。
相変わらず柔らかくて、すごく女の子らしい。
興奮して、ぼんやりして来た俺の頭は、何故か幼馴染みの裸を思い出していた。
思い出して、すぐに後悔した。
記憶の中の幼馴染みの裸は小五の、骨っぽい身体だった。
色気も何もなくて、尻も胸もないようなまな板みたいな身体。
小五だからしょうがないかもしれないけど、きっと今でもあんな感じなんだろうなーって……思う。
たぶん。
だって今は一緒に風呂に入れないし、風呂どころか高校に入ってからは話す機会も全然ない。
俺に彼女が出来て、遠慮しているのかもしれない。
あいつは気遣い屋だから。
……今度、また屋上に誘おうかな。
きっとこういうとこが彼女を怒らしちゃうんだろうな、って分かってるけど。
しょうがないんだよなー……
だってあいつは大事な幼馴染みだ。